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それほどチートではなかった勇者の異世界転生譚  作者: 西玉
獣人の娘と深き闇

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65 半漁人に言われたくはない

 俺は、海賊船の船乗りから疎まれ、魔将軍ホライ・ゾンから敬遠されるようになった。

 何がいけないのか。俺が一人で船団を従えてしまったために、出番がなくなった海賊たちに疎まれ、派手な殺し合いを見たがっていたホライ・ゾンに敬遠されたのだ。

 俺のことが気に入らなければ殺せばいいとは思うが、海賊たちに俺は殺せない。俺の方が強い。ホライ・ゾンも俺を殺さない。俺のことが気に入らなくても、実績を残しているのだ。


 いつの間にか、俺はララと話していることが多くなった。他に話し相手がいなかった。

 ドディアはどこにいったのか。

 あれだけ俺の側から離れなかったドディアが、気がつくと立場上俺の副官である獣人の男と一緒にいるのを見かけた。


 やはり、獣人は獣人同士がいいのだろうか。

 俺は寂しかったが、ドディアをかけて獣人と争う気にもなれなかった。争えば勝つのはわかっていたが、ドディアの幸せを考えるなら、このほうがいいのだと俺は納得した。俺のところに戻ってくれと頼む勇気もなかった。断られた時のことを考えると、足がすくんだ。


 船に乗って何日が経過したのか、俺にもわからなくなった頃、俺は再びホライ・ゾンに呼び出された。この間に2度ほど戦闘があったが、俺がいない間に大変盛り上がったらしい。


「お呼びにより参上しました」


 船長室で俺が言うと、ホライ・ゾンは相変わらずつまらなそうに、指の先端まで黒い手を動かして、窓の外を指差した。


「小さな島がある」

「……はい。そのようですね」

「我輩に反旗を翻した海の民の本拠地がある。見つけ出して、従わせろ。もしくは、皆殺しにしろ」

「はい」


 俺に拒否はできない。ホライ・ゾンの血が俺にその選択肢を与えない。俺はしっかりと頷いた。


「いいな。今度は手勢を連れていけ。必ずだ」

「はい」


 俺に拒否はできない。俺が穏便に収めてしまうことが気に入らないホライ・ゾンは、俺が皆殺しにするのを期待しているのは間違いない。

 なのにそう命じないというのは、魔将軍として、魔王の利益になる方法を優先しているのだろう。俺に血を飲ませたのと同じように、魔王に逆らえないようになっているのかもしれない。


 いずれにしても、俺は手勢を連れて島を攻めることになった。

 海賊船では浅瀬に乗り上げてしまうので、沖に停泊して、小舟を下ろすことにした。

 ホライ・ゾンは『手勢を』と言ったので、俺はできるだけ小規模に抑えることにした。小舟一艘に収まる程度の人数に限定する。


 比較的、船員たちは体格がよかった。半魚人たちは特にたくましい。

 7人が乗ると、小舟が沈み始めた。

 半魚人たちは海を泳いでいけばいいのではないかとも思ったが、できるだけ人数を絞りたかった俺は、全員を小舟に乗せ、五人の手勢とともに島を目指した。


 小舟に乗り、海原を舐めるように見ると、その島に砂浜らしきものはなかった。周囲を岩に囲まれており、上陸することすら難しい。

 ホライ・ゾンは、反逆する海の民がいると言った。俺は、海の民を勘違いしていたのだと気づく。

 漁で生計を立てる海の男を想像していたが、俺の目の前に、まさに海の民がいる。

 きっと、この島で反逆しているのは、半魚人たちなのだろう。






 上陸する場所を探して船を周遊させようとした時、俺の想像が正しかったことがわかった。

 突然、俺と五人の海賊が乗る船が転覆したのだ。

 波は穏やかで、風もない。なんの兆候もなく、突然船がひっくり返った。

 海に投げ出された俺たちに、水の中を泳ぐ、魚と人間の中間種とも言える影が近づいてくるのがわかった。


 水の中では動くのは難しい。水の抵抗がある。目も痛い。

 俺が海面に出ようとすると、突然足を掴まれた。

 痛む目を開けて振り返ると、鱗のある人間が俺の足首を掴み、魚の骨をくくりつけた長い棒、銛と思われるもので俺を刺そうとしていた。

「ザン」

 声こそ出なかったが、簡易な銛と同時に、その半魚人の体に深い傷ができる。 血は青いらしい。


 一撃で死んではいないと思うが、その半魚人は、俺の足首を離して海流にさらわれた。

 海中では、俺がよく使う「ボヤ」や「タイカ」といった火の魔法は効果が低いだろう。俺はザンを連発し、群がってくる半魚人たちを遠ざけると、海面に顔を出した。

 波が荒い。顔を出したものの、波をかぶった。


 周囲には誰もいない。ひっくり返されたボートが浮いている他は、目の前の岩壁に覆われた島と、荒れ始めた波があるだけだ。

 俺はなんとか呼吸を整え、再び海の中に潜った。

 目が痛むが、瞑ったままではいられない。なんとか目を開けて、海中を進む。

 泳ぎは得意ではなかったが、泳げないわけではない。現在は体が違うが、カロン少年の体に不都合はなく、海中をそれなりに進む。


 一緒に船に乗っていた船員はどうしたのだろう。上陸してからの戦いになると考えて、半魚人だけでなく人間も加えていた。それほど息が続くはずがない。

 俺はばたばたと潜っていると、岩肌に洞窟があるのが気づいた。半魚人たちの住処だろうか。岩肌、ということは、島の下にあたるのだ。

 俺は再び海面に戻り、息を整えた。


 島にへばりつき、波をやり過ごすと、再び海中に挑んだ。

 洞穴の場所まで、壁伝いに行けばいいので潜るのは楽だ。

 俺が穴に近づくと、中から凄まじい勢いで半魚人たちが飛び出してきた。

 俺は「ザン」を連発し、一人に一回のザンを浴びせ、怯んだところをさらに潜る。目指した横穴が、半魚人の巣であることは間違いがなさそうだ。


 洞穴を潜ると、痛いのを我慢して目を開けても、真っ暗で何も見えなかった。

 俺は、スキル、ガマンと、補助魔法フラッシュを使用する。

 海底洞窟であることがすぐにわかる。ガマンしているので、目も開けていられる。

 呼吸もしなくていい。ガマンしているからだ。スキル効果が切れるまでに空気のある場所に移動しないと、途端に溺死することになるが。

 俺はすぐに移動した。

 横穴が続き、上に向かっている場所がある。その場所が地上に続いていることを祈り、俺は進んだ。






 戻らなければ死んでしまうかもしれないと思うほど進んだ時、俺は海面から空気のある場所に飛び出した。

 空気だ。ガマンしていただけの俺は、空気を求めて喘いだ。

 顔が海中から突き出て、周囲は再び闇に包まれていた。

 洞穴が縦穴となり、横穴となったあたりに、空気がたまっていたのだ。


 俺は洞窟から上がった。横穴はじめじめしていたが、通常の洞窟と変わらなかった。

 体力より何より、空気がないことが辛かった。俺は洞窟に横になり、体中に空気が行き渡る感覚を楽しんだ。

 このまま魔力が回復するまで寝ていようかとも思ったが、服を乾かさなければ風邪を引いてしまう。MPの残量を確認すると、半分ほどに減っていた。


 必死だったので気づかなかったが、レベルが勇者18に上がっている。

 レベルが上がった。俺は、ザンを使って相手を遠ざけただけのつもりだったが、殺してしまった半魚人もいたのだろうか。いや、戦闘訓練でも、ある程度の経験値は溜まるのだ。殺しているとは限らない。

 俺は体を起こし、岩場にボヤを使用し、暖を取った。

 海面から、何かが突き出ているのがわかった。俺は、特に警戒もしないで眺めていた。


 ここが、すでに半魚人のたちの住処で、ホライ・ゾンが配下にするか皆殺しにするか、選択を迫るために俺は送り込まれ、つまり敵地であるという感覚は、俺に欠けていた。

 海面に突き出たものから、突然何かが飛んできた。俺は手で払ったが、手に小さな傷ができた。


 俺の全身に鳥肌がたち、その傷から、猛毒が入ったのだと感じた。

「ジュン」

 俺は自らに解毒の魔法を施したが、これがおそらく、敵の攻撃だろうと推測し、洞窟に横になった。


 毒を使ったのは、俺がまともに戦っても倒せない相手だと考えたからだろう。俺は、半魚人を全滅させたいわけではない。ホライ・ゾンからもそんなことは言われていない。

 接触を持ちたいのだ。

 海賊船の半数は半魚人なので、半魚人に対する偏見はない。

 だが、敵視され、攻撃され続ける間は交渉などできない。そう思い、俺は油断を誘うために仰向けに横になった。






 俺が倒れてしばらくすると、海面に浮かんでいた者たちが地面に登ってきた。水面から出ていたのは、半魚人の頭部だったようだ。地上に上がり、俺の上に水滴が落ちる。


「殺したか?」

「死んでいると思う。動かないからな。だが、人間の体は知らない。生きているかどうか、どうすれば確かめられる?」

「顔の上で、糞でもしてみろ」


「気絶しているだけなら?」

「毒を食らったんだ。あの毒で生きているはずがないと思うが……糞を食らわせて、とどめをさすべきだ」


 どうやら、俺の顔の上で糞をするのは決定事項のようだ。

 俺は、顔の上に柔らかい感触がしたことに気づいた。そこまで我慢する必要はない。

 尻を出した以上、生殖器も丸出しだろう。俺は、突然顔を上げてやった。尻と生殖器に頭突きをする勢いだ。


 狙いは成功だったらしく、地面に転がって苦しんでいる半魚人がいた。他にもう二人、武器を構えた鱗のある体が見える。

 暗い。フラッシュの魔法で光を灯す。時間は短いが、相手の目を潰し、全体を把握するのにはいい魔法だ。

 俺が魔法を使うと、悲鳴が上がった。地面の上でもんどり打っている一人を除いて海に戻ろうしていたので、俺は二人の足をとって転倒させた。


 顔から地面にぶつかったところをみると、それほど運動神経はよくないのか、体を覆う鱗は、防御など普段考えないほどに、強く頑丈なのかもしれない。


「い、生きているぞ」

「誰も、死んでいるとは言っていない」

「ば、化け物」

「半漁人に言われたくはない」


 会話が成り立っているようだが、実際は叫び声に俺が勝手に答えているだけだ。なんとか海中に逃げようとしていたが、散々俺が退路をなくしていやがらせを続けていると、ついに二人は観念して、洞窟の壁に寄りかかって座った。最初の一人は、股間を打たれた段階で逃亡の意思はなくしていたようだ。


「さて、ようやく話ができそうだな」

「話? なんのためだ? どうして殺さない? あれだけの同胞を殺されて、交渉の余地などがあると思うのか?」


 俺の一言に、半魚人たちが反論した。縛ってはいない。長いこと奴隷だった俺は、人を拘束することに抵抗があった。奴隷としての惨めな記憶が、俺を縛っていた。魔法のおかげでだいぶ楽はしたが、現代っ子の俺には耐え難い苦痛だったのは間違いないのだ。


「同胞を殺した? 攻撃してきたのはそちらからだろう。船を転覆させられ、海に引きずりこまれた。反撃するのは当然だ。俺も、死にたくはないからな」

「海賊船から小舟が出てくれば、俺たちを殺しにきたと思うのが当然だ。これまでにも、何度もこういうことはあった。小舟だけで島に登れるはずがない。半魚人の数が少ないからおかしいとは思ったが、お前、人間ではないな?」


「途中までは理解できるが、最後の一言は傷つくぞ。俺は人間だ。どうして、そんなことを言う」

「人間だったら、あの毒で生きていられるはずがない」

「毒消しの魔法を知らないのか?」

「知っているが、長い詠唱が必要だ。そんなことはしていなかったはずだ」

「魔法にも、色々ある」


 詳しく聞かれても、俺にはそれ以上説明はできない。システム開発者に聞けと言いたくなるが、開発者に聞かれも、困ることは間違いない。


「それに、人間はこんなところまで潜って来られない」

「ガマンした」

「我慢でどうにかなるものか。化けものめ」


 実に失礼な物言いだが、俺は自分がどれぐらい潜ったのか、実際にはわからない。スキル、ガマンは優秀だが、ここまで優秀だとは思わなかった。


「俺はどうにかなったんだ。俺が人間かどうかを確認するために、長々と話していてもしかたがない。それに、俺はそんなにお前たちの同胞を殺していないはずだぞ。俺の仲間がやったのか?」

「お前の仲間? 全部、海賊船に戻ったぞ。波に飲まれていなければな。ここに残ったのは、お前だけだ。お前が殺した。我らが同胞を、次々に殺害した」


「……殺した? 待てよ。俺は、ただ魔法で退けようと……」

「その魔法を当てられた奴は、全員死んだ。海に飲まれ、死体は海に連れ去られる。それは名誉な死だ。だが、お前のことは許さない」


 俺は肩を落とした。ザンの威力では、一撃で死なないと認識していたのだ。だから、一人について一度しか放たなかった。海だから効果が違うのか、あるいは、ホライ・ゾンの血で魔法の威力が上がった結果なのだ。


「……俺は、魔将ホライ・ゾンの使いだ。ホライ・ゾンの支配を受け入れるか、皆殺しにする。いずれかを選ばせる。そう、言われている」

「奴の支配など受けられない。戦えば全滅する。ならば、全滅するまで戦う」

「……そうか」


 相手によっては、死を選択するだろうとわかっていた。俺は、あまりにも強さを見せつけすぎたのだろう。抗っても殺されるなら最後まで戦おうとする、気概を植え付けてしまったのかもしれない。

 ホライ・ゾンの思惑通りなのだろう。


「お前たちの集落に連れて行け。お前たちの長と話したい」

「前みたいな危険な奴、連れて行けるはずがない」

「そうだな……では、俺を縛れ。抵抗できないように縛り上げろ」


「……正気か? 縛るふりをして、殺すかもしれないぞ」

「それでもいい。俺を許せないと思うのなら、そうすればいい。だが、俺はお前たちの長と話したい。できれば、死なせたくはないんだ」

「……信用できない。俺たちのやり方で拘束させてもらう」

「それでいい」


 俺は拘束を受け入れた。奴隷生活で慣れているので、抵抗はない。そう思っていた。だが、半魚人の拘束は、意外と厳しかった。

 俺は、海面から現れた巨大なタコに絡みつかれ、本当に身動きができなくなった。


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