↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
それほどチートではなかった勇者の異世界転生譚  作者: 西玉
獣人の娘と深き闇

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

55/195

55 カロンって、自分がいる国の名前も知らないの?

 ただの妖術師として死刑判決を受けた俺だったが、闘技場での活躍が認められ、すっかり危険な犯罪者としてみなされたらしい現在の俺の捕獲には、冒険者が動員されていた。動員したというより、手配書を組合に回したようだ。


 俺の手配書を持ってうろうろしていた冒険者のドギーを背後からどやしつけ、街の外に連れ出すように脅迫した。

 俺に逆らうつもりはなかったらしく、ドギーは俺を街の出口まで連れて行ってくれた。荷馬車の荷台に乗せて運んだのだ。

 外に出る城壁の門では検閲が行われていた。ドギーが手前で馬車を止める。誰かに話しかけられたのだとわかった。


「カロン、こっちの馬車に移りな。ドディアも……あれっ、エルフ? まあいいや。こっちに移りな」


 懐かしい声だ。闘技場で、観客席から俺を応援してくれたのもわかっている。俺は、思わず声の主の手を取って、握りしめた。


「そういうのは、いいから」


 俺は手を叩かれ、ドディアにかみつかれた。

 ドギーの荷馬車から出て、エスメルが操る荷馬車に移動する。同じ荷馬車じゃないかとは思ったが、エスメルの荷馬車の上には、大量の藁が積んであった。中に隠れれば見つかることはない、ということだろう。


 俺はドギーに礼を言うと、急いでエスメルが操る荷馬車に潜り込んだ。ドディアとロマリーニが続く。

 エスメルの声が聞こえた。会話の相手は俺ではない。

 検閲をしている兵士と話しているのだろう。俺は、藁の隙間からエスメルと兵士のやりとりをうかがった。


 エスメルが兵士に金を渡したのがわかった。兵士はしばらく荷馬車を見つめていたが、すぐに外に行くように指示していた。

 賄賂だ。いつの世も、役人は賄賂に弱いのだ。

 俺は、ドギーの荷馬車から移ってよかったと思った。ドギーには賄賂を支払うような余力はないだろうからだ。

 馬車がそのまま進む。


「もう、顔を出していいよ」


 エスメルが明るく言った時には、王都の城壁ははるか後方に小さく見えるだけだった。

 脱出に成功したのだ。

 俺は、荷馬車の藁の上に這い出した。エルフは自分で出てくるだろう。ドディアを引き上げた。


「エスメル、助かった」

「大したことじゃない。あんたには、稼がせてもらったからね。それに、私の財産を預けてある。死んでもらうわけにはいかないのさ」


 整った顔立ちの大人の女である。ドディアはまだ気兼ねがあるらしく、俺の影に隠れていた。エルフも藁の下からもぞもぞと出てくる。

 御者台には、エスメルの妹で魔法使いのメルもいた。


「助かりましたよ。予定と違いましてね。カロンさんが、なかなか逃げるのを決めてくれなくて……今回は、さすがにダメかと思いましたけどね」


 エルフが饒舌なのは珍しい。必要があればいくらでも話すが、要らないことは話さない。そういう男だと思っていた。


「私たちも見ていたよ。あの竜兵相手によく戦ったと褒めてやりたいけど、カロンでも勝てない相手がまだいるんだと、正直驚いたね。私らはカロンに賭けていた。オッズを見たら5倍だったから、まあ竜兵が勝つと思った連中が多かったんだけどね」

「悪い。損をさせた」


「あんたが謝ることじゃない。手を抜いていないのは、見ていてもはっきりとわかった。あんたにも、あれ以上のことはできなかったんだろう?」

「ああ。全力だった。ドディアが来てくれたから、もう少し頑張れた。だから、ジルバは俺を殺さなかったんだろう。あれがなければ、俺は死んでいた」


 本心だ。ドディアを殺させないために、俺は力を振り絞った。もしドディアがいなければ、俺の心はもっと前に折られていた。

 隣でドディアが首をかしげる。意味がわからなかったらしい。俺はドディアの頭を撫でた。俺に体重を預けてくる。褒められたのだと思ったのかもしれない。感謝はしているが、別に褒めてわけではないが。


「ドディア、戻ったんだね。びっくりした」

「前回の闘技会で、騎士たちが人質にしたんだ。俺が奪い返したから、戦利品として持っていていいものらしい」


「ふぅん。前回は見なかったからね。毎回見物に行くわけでもないから……まあ、ドディアと仲直りしているようで安心したよ。あたしたちは、そろそろ冒険者から足を洗うつもりだ。頼りになる前衛が持っていかれると、さすがに魔物を狩ることもできないからね」


 メルが振り向いて、ドディアに干し肉を与えた。ドディアは手で受け取らずに直接口でくわえる。まるでペットだ。もともと、そういう扱いなのだろう。


「それは、悪かったな」

「謝らなくていいさ。十分稼いだ。メルはもう少し続けるかもしけないけどね。魔法使いは引く手数多さ」

「へぇ。凄いんだな」

「凄いのよ。私は」


 メルが俺に話しかけるのは珍しい。ただ、ダンジョンの探検が終わった後、俺に乗って来た中に、メルもいたのも事実である。


「じゃあ……ドディアは、俺がもらって行っていいのか?」

「当然だ。その子に家族はいない。あたしらが世話をしていたけど……カロンが大切にしてくれるなら、助かるよ。それに、誰についていきたいか聞けば、答えはわかっているからね」

「カロン」


 ドディアがはっきりと言った。


「ああ。言われなくてもわかっているよ。それより、カロンはどうする? 近くの宿場街までは送ってやる。この国からは出るんだろ? もっと強くなりたいとか、まだ言っているのかい?」


 街道は曲がりくねって見えたが、実際に移動するのに困るほど曲がってはいない。見通しがいいため、遠くまで見えるだけだ。一面が荒涼とした平野で、遠くに建物らしきものが見えている。


「……強くなるのは、闘技場で生き残るためだった。もう……その意味はないな。でも……今のままでは困る。そうなんだろ?」


 俺はエルフのロマリーニに尋ねた。エルフ族は魔王の存在を察知し、魔王に対抗できる強者を味方につけるために、世界の各地にエルフ族を派遣しているらしい。ロマリーニもその一人で、目をつけられたのが俺だ。だが、俺は竜兵に勝てなかった。竜兵自身の話が本当であれば、竜兵たちすら、魔王には届かないというのに。


「ええ。今のままでは勝てません。もっと強くなってもらわないと。カロンさんは、強くなれると思いますよ」

「誰に勝つんだい? まさか、あの竜兵が言っていた魔王って奴かい? どこかにいるんだろうけど、別にカロンじゃなくてもいいだろう」


「そうですね。カロンさんが倒さなくても、誰かが倒すかもしれません。ですが、誰も倒せず、魔王が支配する魔物の世界が訪れるかもしれません。その時に後悔しても手遅れです」

「まあ、いまのカロンでも、あたしらの常識からすれば化け物みたいな強さだからね。もっと強くなれるってのなら、なりたいってのは分からなくもない。で、どうするんだい? ダンジョンに潜るってのも、悪くないけどね。ただし、ダンジョンは他所の国にもあるだろうし、あまりのんびりしていると、手配書が出回って、国から出るのが難しくなる」

「ハメリアを出て、行けるのは北の大森林にあるエルフ族の故郷か、海路で船を使うかね」


 メルが羊皮紙を広げた。地図だ。この世界の地図かと思ったが、この国を中心に、周辺が大雑把に記されているだけだ。


「ハメリアって、なんだい?」


 俺が首を伸ばすと、メルが驚いた顔をした。


「カロンって、自分がいる国の名前も知らないの?」

「どうやら、そのようですね」

「知っている」


 ドディアも笑う。どうやら、ドディアも知っていたらしい。

 俺は、ハメリアの国の王の血を引く、奴隷兼剣闘士、及び死刑囚、というのが、最近までの身分だったのだ。ついさっき、逃亡者という肩書きが付与された。


「海路か。逃げ場がないな」

「でも、海に出てしまえば、どうにかなるということもありますよ」

「北は? ロマリーニの故郷じゃないのか?」


「時期尚早ですね。エルフ族は、魔王に最も厳重な監視を受けています。そこにエルフが人間を連れ込んだとなれば、確実に魔王の刺客が送り込まれてきますよ。竜兵に勝てないカロンさんに、魔王の刺客と戦えるとは思えません」

「じゃあ、当面の目標は、妥当竜兵か?」

「もう少し、現実的な目標を持ちましょうか」


 エルフの目から見ても、俺と竜兵の力の差は、どうやら絶望的らしい。

 結局俺たちは、港町に行くことにした。

 そこまで10日以上かかるらしく、エスメルに甘えるわけにもいかない。

 俺は、街道沿いの宿場町でエスメルと別れることにした。

 別れ際に、預かっていたヤモリドラゴンの卵を返そうとした。


「あたしらは、もう金に困っているわけじゃない。持っていていいよ。あたしが持っていても、孵化されたから扱いが面倒だ。だから……10個でいい。あとは、好きにしな。もし、またこの国に戻って来られるようなら、その時に金貨で返しておくれ。その時には、きっと外国の貴族になって帰って来ているだろう?」

「そう、うまく行くといいな」


 俺は笑いながら、卵を10個取り出して、エスメルに渡した。


「一体、どこから出しているんでしょうねぇ」


 ロマリーニが首をかしげる。


「こういうことができる奴に会ったら、そいつもきっと、俺と同じように強くなれるはずだ」

「ふむ。ならば、それを目印に仲間を増やすように努力しますか」


 エルフが勝手に納得している間、メルが俺に抱きついた。どうしたことかと思っていると、離れ側に腹に拳を打ち込まれた。相変わらず、好かれているのか嫌われているのかわからない。

 エスメルとメルを見送り、俺とドディア、ロマリーニの3人旅が始まった。






 幸いにも、宿場町には俺の手配書は回っていなかったので、宿でその晩は休むことにした。俺の金は冒険者組合に預けたままになってしまったが、取りに戻ることもできない。

 アイテムボックスに、いくらか残っていた。いつもらったのか忘れたが、金を使う機会がなかったので、もらってから放り込み、ずっとそのままだったのだろう。


 ロマリーニも有り金をかき集めて持って来ていたが、俺はドディアと自分の宿代は自分で支出した。

 俺とドディアは現在まで清い関係だったので、二人用の部屋で3人で寝ることにした。ドディアはどうせ俺をベッド代わりにするのだから、3人用の部屋にする意味がないのだ。

 宿で簡単な食事にもありついて、夜、再び俺たちは今後のことについて相談した。


「港町まで、馬車だったら10日ということは、歩いて……どれぐらいだろう」

「カロンさんとドディアだけなら、やはり10日かもしれませんが、私もいますからね。まあ、15日、でしょうね」


 エルフは旅装を解き、荷物をベッドに並べていた。突然旅に出ることになった、という感じではない。もともと、俺と一緒に王都を捨てるつもりだったのかもしれない。俺に荷物はない。ドディアも同じだが、アイテムボックスに全てが入っている俺と着の身着のままのドディアは違う。俺は、ドディアの本物のたくましさを見せつけられているような気がした。


「手配書が回るほうが早いよな?」

「そうとは限りませんよ。カロンさんは妖術師として死刑判決を受けたままだという以外には、ただ逃亡奴隷だというだけです。際立って危険性が高いわけでは……ないとは、言い切れませんか。うん。そうですね」


「どっちなんだ?」

「最悪を想定して行動するのであれば、港町で逮捕される可能性が高い、と思います」

「……困ったな」

「そうですね。もう少し、港町に近づいてから考えましょう」


 結論が出ることもなく、俺はその日を終えた。当然のようにドディアが俺の上で眠ったが、もはや何もいうことはなかった。






 翌日、俺は宿の主人から履物を買った。裸足だったのだ。ドディアも同じである。

 どこかで、まとまった金を稼ぐ手段を考えなければいけない。

 だが、金を稼いでいると、やはり時間がかかって、国から出られなくなる。

 なんとも、上手くいかないものだ。


 靴は壊れかけていたが、俺のアイテム判定がそう表示しただけで、ちゃんとしたサンダルだった。

 布も買って、脱げないように足に縛る。ドディアは窮屈そうにしていたが、これから10日以上歩き続けるのだと考えれば、裸足というわけにはいかない。

 服も買いたかったが、懐具合の関係で我慢した。

 道中で魔物を狩って、多少でも資金の足しにできたら、考えよう。


 俺の服はぼろぼろの布切れそのもので、ドディアの服がそれより立派だということはない。どう見ても、逃亡中の奴隷にしか見えないのだ。

 多分、近くに憲兵がいたら、通報されている。そんな格好だ。

 俺たちは徒歩で街道を歩き出す。

 港町までまっすぐ……というわけにも、いかなかった。

 俺たちは、街道沿いの宿場町から一日を踏破し、街道から外れた村に宿を求めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。