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100 ビリーの奴が、勝手に女王に求愛した

 俺は8人のエルフを縛り上げ、7人の死体を積み上げた。

 爆心地に近いエルフは全滅し、肉片しか残っていなかった者もいる。

 だから、死体が7人だとは断定できない。死体として残らず、消し飛んだエルフもいるのかもしれない。

 縛られたエルフの中には、ロマリーニもいる。ロマリーニは、これまでに何度も俺の素行について非難してきた。裏切っていたとしても驚きはしない。もっとも、ロマリーニだけは俺が縛ったのではなく、もともと縛られていた。


 エルフたちをまだ無事な大樹に縛り付け、俺はエルフの女に「オウキュウテアテ」を施した。エルフは、男女関係なく武器を取るらしい。男の率が高かったが、なんとなく気分で女を起こした。

 エルフの女といえば、美しいというイメージを抱いていた。実際は、ひょろりと細長く、縦に引き伸ばした印象がある。目が細く、耳が長く上に伸びているので、狐顔だ。


「……うっ……ここは……あっ!」


 目覚めたエルフの前に、俺は鉄の剣の切っ先を向けた。


「どんな事情があったのか知らないが、俺を殺そうとしたんだ。まだ生きているだけでありがたいと思ってもらいたい」

「……あんたが……カロン?」

「そうだ。ロマリーニから聞いているのか?」

「ええ……人間とは思えない強さで……確実に力をつけている。今のうちに殺さなければ、将来は手がつけられない存在になる」


「……おかしいな。俺は、魔王に対抗する手段として、エルフの国を救ってほしいとロマリーニに言われたんだが。その言い方だと、まるで俺が悪者みたいだ」

「……エルフは、魔王につくことに決めたわ」

「なるほど……この世界も、一枚板ではないということか。複雑な人間関係について、異世界で悩みたくはないな……どうして、魔王に組する?」

「それが、正しいことだからよ」

「いずれ、人間の国が滅ぼされても?」


「すべての国が滅びはしない。魔王につく国には、恩恵を与えられるでしょう。逆らえば滅ぼされる。それは、相手が魔王であろうと、人間同士であろうと、同じことでしょう」

「魔王につけば、人間でも受け入れられるか……では、俺が敵だと判断した理由は?」

「魔将軍ホライ・ゾンを殺したでしょう。今更、魔王に敵対する意思がないなんて、通じるはずがない。そのカロンを受け入れれば、エルフの国に翻意ありと判断される。私たちは、カロンを殺すか捉えるかするしか、選択肢がなかったのよ」

「……そういうことか」

「……私たちの仲間、どれたけ殺したの?」

「俺が使用した魔法は一つだけだ……この人数差では、他に手段がなかった。俺が把握している限り、7人が死んだ。残りは、あんたと一緒に縛られている」

「……そう」


 女エルフの顔が青ざめる。


「では……エルフの森の周囲に、魔獣を配置していたのは、エルフの森に力を削ぐためではなく、エルフの森を守るためか?」

「……それは違うわ。魔将軍火鬼のビリーの一の配下、魔獣使いのアデルは性格がいい加減で、配置した魔獣の引越しが面倒だからと言って、放置していただけよ。あれらを駆除してくれたらしいことは感謝しているわ……でも、アテルが知ったら怒るわよ。多分、命を狙いに来る。5日後には戻るはず。その時までに、あんたを死体にしなければならない」

「恩人だと感謝されながら、死体になれか……ずいぶんな申し出だ。オウキュウテアテ」


 女から聞きたいことは聞き出した。俺は、たまたま隣に縛り付けてあったロマリーニにスキルを使用した。

 スキル「オウキュウテアテ」は瀕死の場合に使用してきたが、気絶している相手に使うと、不思議と目覚める。実はさっき発見したのだ。気を失っているだけなので、少しだけ回復してやることで、寝起きが良くなるということだろうか。


「……ああ。カロンさん、無事でしたか」


 ロマリーニは、ほとんど何が起きたのか理解していないらしく、とぼけた挨拶をしてきた。


「いまのところは無事だな。無事でないのはエルフたちだ」

「……えっ? 私たちに何があったんです?」

「いま、ロマリーニに起きているのと、同じことだ」


 俺が言うと、エルフのロマリーニは首を巡らせようとして、顔をゆがめた。首を痛めているのだろうか。だが、それでも状況はわかったようだ。


「ああ……思い出しました。私は……仲間たちに拘束されて……カロンさんを殺そうと……なるほど、私も一緒に……ということですか?」

「エルフたちを皆殺しか? そうしないで済めばいいと思っているよ。俺は、この世界の人間から見れば、甘いのだろうな」

「……そうでしょうね」


 ロマリーニは笑った。嫌な笑いではない。俺のことを知り、俺が無抵抗のエルフたちを殺せないと知って、安堵したのでもない。ただ、おかしかったのだろう。


「エルフたちは、魔将軍火鬼のビリーに屈服したらしいな。一の配下、魔獣使いのアデルが5日後に戻ってくるそうだ。その時、配置していた魔獣たちが全滅しているのを知り、原因である俺を殺しにくる。俺の命は、どうやらそれが最後らしい」

「……最後にするつもりはないのでしょう?」

「もちろんだ。だが、俺はアデルという奴を知らない」

「アデルは、どこに行ったのですか?」

「俺は知らない」


 俺が言うと、先に起こしてあったエルフの女が口を挟んだ。


「火鬼のビリーに捧げる女を探しに、外に出ているはずよ。5日後、ビリーはエルフの女王と結婚する。だから、それまでに戻るわ」

「……エルフ族は魔王の軍門に降り、女王が将軍に捧げられる……ということか?」


 俺が尋ねると、エルフの女は首を振った。


「一族同意ではないわ。ビリーの奴が、勝手に女王に求愛したのよ。女王は何度も断ったけど、ビリーは妻にならないのなら森を滅ぼすと脅した。最初は、そんなことはなかったのだけど……次第に森の周りに魔獣が増えて、森の中に魔物が増えた。このままでは森が死に絶えてしまうと……女王はビリーの求愛を受け入れることにしたわ。私たちは、女王が不憫で……女王を助けるために、世界中にエルフ族を放ったの」

「……ロマリーニ……いまの話、知っていたか?」


 あえて尋ねたのは、俺が聞いていたエルフの事情と、だいぶ食い違っていたからだ。


「……ええ。半分ぐらいは……」

「魔王を倒せる勇者を探しているんじゃなかったのか? 全面的に、エルフの女王のためじゃないか」

「ちょ、ちょっと、待ってください。スイフリー、その話は、本当なのですか?」

「ええ。全て本当よ。派遣するエルフたちには、世界を救う勇者を探すように言ってある。その方が、聞いた人が調子にのると思って……本来の目的は、女王とビリーを結婚させないためだけど、ビリーは魔王の従える七魔将の1人よ。その希望を砕くのは、ビリーを打倒するしかない。魔将軍を打倒するのだから、結局は魔王打倒の足がかりとなるわ。ちょっとだけ真実を隠していただけで、嘘は言っていないわよ」

「なるほど、納得しました」

「俺は納得いかないぞ。勝手にまとめるな」


 俺の言葉は無視して、ロマリーニは続けた。


「では、アデルは何をしに? 魔王からビリーへの、お祝いの品を届けにでしょうか?」

「……違うわ。アデルは、火鬼のビリーが好きなのよ。だから、ビリーとエルフの女王の結婚を妨げるために、女王よりも美しい女を探しに行ったわ。愚かな女ね……エルフの女王より美しい女なんて、世界中に探してもいるはずがないのに」

「……アデルがビリーのことを好きって……ずいぶん、魔将軍たちについて詳しいな」

「ビリー率いる魔王軍に対して、抵抗しても敵うはずがない。そんなことはすぐにわかったわ。だから、エルフ族は魔王にすでに忠誠を誓っている。ただ……ビリーとエルフの女王の結婚は許せないのよ。だって……女王がお可哀想だもの……」


 俺が聞き捨てにできない情報が耳に入った。


「ロマリーニ……エルフ族は魔王に忠誠を誓っているそうだ」

「……初めて聞きました」

「うん。そうだろうな。もし知っていたら、記憶がなくなるまで殴るところだ」


 ひょっとして、このままエルフ族を皆殺しにした方がいいだろうか。俺はそんなことを考えながら、縛り上げたエルフたちを解放した。

 結局、俺が命を狙われた理由は、迷惑をしているがアデルが配置した魔獣を全滅された以上、首謀者を突き出す必要がある。ということらしい。

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