オイタにはお仕置き
アリシアは、爪の裏側がかゆいような苛立ちで、爆発寸前だった。
教育もない、未開の部族でもあれば、彼らには何もわからないんだから、と許せたかもしれない。
でも、この連中――難民キャンプ自警団をなのるチンピラたち――は、キャンプで育ったとはしても、先進国の援助でちゃんと教育を受け、文明人として生活するべき人間だ。
「スリルが欲しいのなら、戦場へ行って自分の命をかければいいのに」
アリシアのつぶやきに、カイトが応答した。
「自分は命をかけているみたいな口ぶりだな、アリー」
カイトの皮肉が、アリシアの胸をちょっとだけ引っかいた。
「あんただって、体は快適な椅子の上でしょ。べつにスリルが欲しくて【ピクシー】を着てるわけじゃないし。なに? ケンカ売ってんの?」
「リスクを払わずに、スリルを求めるのは卑怯か?」
「ああ、なぁんだ、そういうこと。気に障ったの? 謝るわ。 卑怯者よばわりしてごめんなさい」
『二人とも、任務に集中して』
キオミのが割り込んで、言った。
「……了解」
あ、ハモっちゃった。
岩の影から現れた男たちは、三人だった。
その男たちは、援護のつもりだろう、カラシニコフをアリシアの【ピクシー】に点射した。アリシアの感覚野には、着弾の衝撃と、装甲に跳ねる銃弾の火花と音が伝えられている。でもいくら貧弱な装甲とはいっても、戦闘車両である【ピクシー】の装甲に、小銃でダメージを与えるのは無理だ。
『アリー、もう、二人』
「わかってる。むかつくわ、こいつら」
その派手なパフォーマンスは、他の二人が背後へ抜けるための伏線だ。
アリシアは攻撃には構わず、駆け抜けようとした二人を、粘着弾で地面に縫いとめた。酸素と反応して硬化するゲルが、即座に化学反応を始めて行動の自由を奪う、アリシアは一瞥をくれて、ちゃんと呼吸ができる状態かどうかだけを確認した。
男たちはゲルを引き剥がそうとしてジタバタしていた。
もとの三人に向き直ると、男たちは小銃を捨てて、両手を上げた。男たちは顔の半分を布で隠していたけれど、目元でニヤニヤしているのがわかった。
ハルシオンは交戦の意思がないものを攻撃できない。それを知っているのだ。
トルコ政府は、難民の揉め事で、自国の法的な慣習を引っ掻き回されたくないと思っている。人を殺してでもいない限り、引き渡しても、おざなりな取り調べ、短期間の拘留、何十日かの懲罰的労働で難民キャンプに帰される。そんなのバカンスとそれほど変わらない。
アリシアは、兵装を粘着弾からゴムスタン弾に切り替え、ニヤニヤする顔の真ん中にお見舞いしてやった。
折れた歯が飛び散るのが見えた。いい気味だ。
『アリー……』
キオミの咎める声が届く。
「殺してないわよ。オイタにはお仕置き……普通じゃない?」
五人ほどが駆けてゆくのを、視界の片隅にとらえた。アリシアは無人機の【ファハン】を飛翔させた。
【ファハン】は自動車用タイヤほどの大きさをした、ダクテッドファン形式の、無人飛行端末だ。半自立操縦で動かし、死角にいる目標の様子を観察したり、時には搭載した不可視レーザーで座標を取得したり、間接照準したりできる。
アリシアは、【ファハン】のカメラで、上空から男たちの様子を監視した。
「トラッシュ、そっちへ行ったわよ」
静かなので寝ているのかと思ってたけれど、トラッシュはちゃんと応答した。
「確認した。なあ、アリー。これつまらないよな」
「そうね、つまらないわ。ほんと、いろんな意味で」




