徹底洗浄
歩きながら丘の稜線を眺めていたレヴィーンは、空と大地との境目に、なにか動くものを見つけた。キャンプ暮らしの長いレヴィーンは、いつも地平線を眺めているので、すごく視力がいい。
うごめく影は、人間のようだった。目を凝らすと人影は、手に小銃を持っていた。肩にかけた弾帯のような物が見えた。
レヴィーンの胸が、早鐘を打った。緊張で気分が悪くなる。
あれは自警団の兵士だ。キャンプを襲おうとしているのだ。
最初に考えたのは、患者ではなく、キャンプに置き去りにしたイツキのことだった。ぼうっとしていて頼りない。もし蜘蛛の作動に問題があったら、たぶん、簡単につかまっちゃう。
「知らせなきゃ」
レヴィーンはメガネを諦めて、キャンプに駆け出そうとした。
足首につかまれた感覚があって、レヴィーンは道路に転倒した。
最初はお墓から死者が蘇ったのかと思ってぞっとした。お墓の下から伸びた手が、レヴィーンの足をつかんだと感じたのだ。
そんなわけない、と思い直したのだけれど、まだ、なにが起こったのかはわからなかった。乱暴に岩陰にひきずりこまれて、顔を殴られた時、だいたい、状況の予測がついてきた。
筋肉の塊が、レヴィーンの胸に馬乗りになった。防護服の頭部カバーが乱暴に剥ぎ取られ、レヴィーンの素顔が露出した。汗臭い匂いが、鼻についた。
ああ……徹底洗浄だ――レヴィーンは、心でため息をついた。
――なんてことしてくれるのよ、こいつら。
男たちは、布を巻きつけて顔の半分を隠していた。
四人いて、どの男も小銃を持ち、腰にナイフを差していた。
抵抗するのは、危険だと思った。
「女だぜ」
「患者じゃねぇな」
「キャンプのスタッフか?」
「まだ、子供だ」
「……どうかな」
馬乗りになった男は、レビーンの手首を押えたまま、おなかの方へ体を移し、レビーンの乳房をつかんだ。痛みにレビーンは体を固くした。
「感染の心配はねぇな……」
どこか、ぎらついた声が言った。




