表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/87

惨めな感じ

 キャンプは、トルコ・シリア国境付近の山あいにあった。

 レヴィーンが見下ろした感じでは、山というよりなだらかな丘と言った感じだ。高さがある木がないのでそんな感じに見える。ゴロゴロした山や、枯れた色の茂みが荒れ果てた感じを強くしている。


 丘には、硬質発砲スチロール(スタイロフォーム)のドームみたいなテントが密集していた。スタッフのテントは与圧されているけれど、患者のテントには負圧がかかっている。

 与圧はウィルスの侵入を防ぐため、負圧はウィルスの漏出を防ぐためだった。『ハタイ脳炎』の感染ルートはまだ、はっきりと解明されていなかった。


 丘の上にあるのは周囲がよく見渡せるようにだった。患者は難民キャンプの自警団に狙われているから、見通しがいい方がUNの兵士も守りやすい。

 駐車場は、テントが集まる丘から少し下った場所にあった。


 見下ろすと駐車場の手前には、平板状の石がたくさん立っている。膝くらいまでの高さの簡素なその石は、亡くなった患者たちのお墓だ。今のキャンプの状況では、これがしてあげられる精一杯だった。

 ほんとのことを言うと、防疫キャンプは治療設備じゃなくて、隔離設備だ。どうしてかというと、発病して回復した人は、まだ一人もいないから。

 だから、シモーヌ医師は苛立っている。イツキを殴ったのは八つ当たりだけど。心を痛めているのは本当だ。

 医者は、病気の人を看取るためではなく、病気を治療するために存在するのだ。

 

 遺体は、汚染ごみを処理するのと同じ炉で、ガス焼却される。目的は容積の縮小と、ウィルスの不活性化だ。

 火力が強いので大きな骨しか残っていなくて、サラサラの灰は、援助物資の小麦粉みたいだった。

 それをプラスチックの廃容器につめて、小さな墓の下に納める。


 全部、レヴィーンが自分自身の目で見た光景だ。


 最初、難民キャンプの大人たちは、レヴィーンが防疫キャンプで働くのを止めた。

 病気の母親をおいて、いったいどういうつもりだ、とも言われたし、そんな危険な場所でキャンプにウィルスを持ち帰ったらどうする、とも言われた。


 でも、レヴィーンが母親の為に持ち帰る給料の額を知ると、もう誰も、なにも言わなくなった。

 いまは、母の親せきや友人は、母からいろいろな名目でお金をせびっていることを知っているけれど、べつになんとも思いはしなかった。

 母が孤独にならないように働いたのだから、べつにそれでいのだ。


 お金を稼ぐ方法は他にもあったけれど、レヴィーンは防疫キャンプで働くのが好きだった。人の役に立っている実感があるし、支給される食べ物はおいしい。それに他の仕事とは違って、働いていて惨めな感じがなかった。

 それに、イツキと出会うこともできた。


 レヴィーンは転ばないように石をよけながら、慎重に丘を下っていった。山道は尖った岩だらけなので、転んで防護服が破れたら隔離と徹底洗浄だ。そんな面倒は避けたい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ