世界は理不尽に出来ている
カイトこと岡田湊斗の注意は、外部画像に重ね合わせて表示された、侵入者のアイコンに向けられていた。
防疫キャンプ周辺に敷設したセンサは、赤外線と振動の両方を拾って、目標の位置とベクトルを知らせるようになっている。センサの正体は、安全のために火薬を取り除いた対人地雷だ。
問題は自警団の人数に比べて、カイトたち守備チームの絶対数が足りないことだ。米軍戦闘機動車両の半数は運悪く修理中だった。修理送りにしたのはカイトたち自身だけれど。
まあ、出来る限りのことをするさ、とカイトは考える。
もし、テントを焼かれても、すべてがカイトたちの責任というわけではない。ハルシオンの防疫キャンプ警備は、あくまで善意の行動だ。責任の半分は世論の無関心にある。もし文句があるのなら、安全な自宅のソファから立ち上がって、自分たちも血を流せばいいのだ。
「ついてないよねこいつら。ただでさえ故郷を追われてテント暮らし、明日の食事は、時々途絶える支援物資待ち、家族は殺され、自分も命からがらでたどり着いた難民キャンプだっていうのに、今度は疫病で仲間に殺されそうになってるって……どうなの?」
トラッシュはため息をつくような声で言った。
『だからわたしたちが守る。世界は理不尽に出来ているけれど、理不尽のままでいいってことにはならない』
キオミの声は感情がやや薄い感じで冷たく聞こえるけれど、付き合いが長いので 、こういった悲劇を誰より真剣に考えていることは知っている。カイトに言わせればなにかの勘違いだが、馬鹿にするつもりはない。
中には、世界の平和を願う奇特な人間もいなければ、この世界は見渡す限りの荒れ野原になってしまう。
「守って助けられればいいけどな。どちらにしても『ハタイ脳炎』の致死率は高いし。病人を守って難民を殺害とか、世論がなんて言うかな」
『カイト。わたしたちは誰も殺さない』
「殺さずに止められるかよ、キオミ。それは都合が良すぎるぜ。ま、殺さないように努力はするけどな」
用意された武装は、空気に触れたら硬化するゼリーの粘着固定弾と、発射すると十字に開くゴム弾のスタンガンだ。致死率が格段に低いということで採用されたけれど、どちらも射程には問題がある。それにボディアーマーを貫通することはできない。
たぶん、暴徒を確実に止めることができるのはスタンガンじゃなくて恐怖だ。
非殺傷兵器で十分な恐怖を与えることはできない。
「……最初から人道団体向きの任務じゃないんだよ」




