索敵想定対人戦闘
樹は、エアロック上のカウンターを凝視していた。
カウントは残り九十八秒を表示していた。エアロック解放後の洗浄換気サイクルはトータルで三百秒を必要とする。レヴィーンが駐車場に向かってから、もう、三分以上たった計算だ。
あと一分半で、エアロックが開く、そうしたら防護服を着て、外へ向かう。エアロックは一度に五人が準備できる仕様なので、自立銃座と一緒でも問題はない。
なにもないとは思うけど、念の為、『コディ』は連れていく。
駐車場までは、開けた下り坂だ。途中に犠牲となった患者の簡単な墓がある。墓は遮蔽物として利用できるので、そこを通るときは、少し、注意が必要だ。
くそ、なんで、こんなに胸騒ぎがするんだよ。
たかが洗浄に、いつまでかかるんだ!
もし、レヴィーンになにかあったら、自分は傷つくだろうか? 任務に支障はあるだろうか?
樹は自分に問いかけてみた。
傷つくかと言われれば、たぶん平気じゃない。こんなに他人から好意を寄せられたのは、生まれて初めての出来事だし。
でも、任務に支障があるかと言えば、ノーだ。
どちらにしても樹は、目的を与えてもらえなければ、生きてはいけない人間だから。
樹は、缶コーヒーを部屋の隅にあるゴミ箱に投げた。樹から死角になっていたけれど、壁にぶつけて、真ん中に放り込んだ。
もう、いい。樹の直感は準備しろと言っている。なにもなければ、笑い話にすればいいだけのことだ。
頭がおかしいと言われるかも知れないけれど、後悔するよりはマシだった。
樹は、通路の隅で待機状態の蜘蛛型ロボットに声をかけた。
「火器管制起動、 索敵想定対人戦闘、 武装選択対人小火器――」
はた目には、樹がなにかの呪文を唱えているように見えたかもしれない。
『コディ』と樹は脳の深いレベルでリンクしているので、音声言語はべつに必要ないのだけれど、チェックシーエンスはなるべく、音声か外部機器を使用するマニュアルになっている。入力の多様性でエラーを検出する仕組みだ。
近眼でよく見えない視野については、『コディ』の画像センサを使用することにした。
視覚野には、自分の姿が映った。まるで『コディ』のボディが本体で、自分の体を外部から操作しているような錯覚を覚える。
認識した自分の姿は、ぼさぼさの髪で、やせ細っていて、目つきが悪くて、まるで野良犬みたいだった。
「動作確認」
『機能異常なし』
自立銃座は、少年の合成音で答えた。
エアロックのカウンターがゼロになった。センサに手をかざすとドアが開いて、樹は『コディ』と一緒に空気のカーテンをくぐった。




