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20 間話 詐欺の末路

 ベランジェールは森の中を走りながら、やはりサムが持ってくる話はロクでもないものばかりだと後悔していた。


 何がくず石を運ぶだけの仕事なのか。くず石の下には、魔獣が興奮して追いかけてくる粉が詰まっていた。あんなものを運べだなんて、死ねと言われているようなものだ。


 しかも仕事を持ってきたサムは、魔獣が追いかけてくると一人だけ逃げた。街道に粉を撒き散らせば、助かるかもしれないよと言い捨てて。サムはどこで手に入れたのか、遠くへ瞬時に移動できる魔術道具まで用意していた。


 ――あいつ、最初から私たちを見殺しにするつもりだったのね。


 馬車は街道の途中で大破してしまった。運よく投げ出されたベランジェールと団長は無事だったが、大男は巻き込まれて動けなくなった。


 あの怪我では助からないだろう。生きていたとしても、追ってくる魔獣に喰われる。ベランジェールは団長と一緒に森へ逃げこんだ。見捨てないでくれと懇願されたが、一緒に心中する義理などない。


「ねえっ! やっぱりサムなんて信じないほうが良かったのよ! どうしてあんな奴を仲間にしたわけ!?」

「うるせぇな! 今その話が必要か!?」


 お互いに罵り合い、安全地帯を目指す。


 この森を抜ければ、ボルタ・ロゼとかいう領地だ。とにかくオルドーニ領を脱出して、適当な町で魔獣に襲われそうになった被害者を演じる。ボルタ・ロゼの騎士たちはやたらと血気盛んだから、ベランジェールがか弱く泣いてみせれば、同情して騙されてくれるだろう。 


 ――こんなところで終わるわけにはいかないのよ。


 前を走る団長の背中を睨み、ベランジェールは恨みをつのらせていた。


 騎士の同情を引いたら、団長のことは詐欺師だと吹きこんでやる。ベランジェールを騙して、娼館に売ろうとしていたと言ってやろうか。二度と顔を見なくて済むように、王都で手配されていることも喋ってしまおう。


 暗い想像にふけっていたベランジェールは、近くで聞こえた魔獣の咆哮に足がすくんだ。


「今の……」

「近いな」


 左側から聞こえる。

 団長と目が合った。

 ニヤリと笑いかけられた。嫌な予感がする。


 先に動いたのは団長だった。ベランジェールをためらうことなく蹴り倒し、魔獣の咆哮とは逆へ向かう。


「何すんのよ!」

「悪いな。俺はまだ死にたくねえんだよ」


 団長はさっさと森の中を走っていく。彼が助かるための餌にされた。急いで立ち上がったベランジェールは、蹴られた腹をおさえた。


 痛みを堪えて後を追いかけようとしたベランジェールの耳に、人間の叫び声が聞こえてきた。

 この森にはベランジェールと団長しかいないはずだ。

 聞こえてきたのは、団長が逃げていった方向から。


 何かが折れる音がして、ベランジェールは耳を塞いだ。

 再び魔獣の咆哮が響く。

 大きな獣の息遣いと、下草を踏み締めてこちらへ来る音がする。


 ベランジェールは走る気力をなくし、その場に座りこんだ。

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