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15 辺境の騎士たち3

 明るい林の中で馬に乗っていると、このままどこかへ逃亡してしまおうかという気分になってくる。しがらみがないところで生活できたら楽だろうなとイレーニアは考え、そんな都合がいい場所なんてないと即座に却下した。


 下がりそうな気分を変えるために別のことを考えようとすると、ロベルトが薬草園づくりを手伝ってくれたことを思い出した。嫌がらずに力仕事を引き受けてくれるので、つい色々とお願いしまった。頼り甲斐がある旦那様でよかったわと軽く捉えていたのだが、よく考えれば辺境伯にやらせる仕事ではない。


「何かいいことでもありましたか?」


 護衛として遠乗りについてきていたレアンドロが、からかうように笑っている。


「どうしてそう思うの?」

「時々、顔がにやけていたので」


 イレーニアは軽く手綱を引いて馬を止めた。


「そんな顔、してた?」

「してました。昨日はロベルト様と庭でいちゃついていたみたいですし、そのせいかなと」

「いちゃついてません」

「新婚夫婦なんですから、否定しなくてもいいのでは?」

「そうだけど、そうじゃないのよ」

「例の夫婦になる気はない宣言ですか。そんなもの、破棄してしまってもいいと思いますけどね」


 レアンドロは自慢の愛馬の首を撫でた。


「今日は結婚生活について意見を聞くために連れてきたわけじゃないのよ」

「はいはい、では各地の様子について報告しましょうか」


 レアンドロには領内にある砦や町を巡って、仲間が集めた情報を回収してもらっている。証拠を残さないように全て口頭で伝えているので、二人きりになる必要があった。


 屋敷では他の使用人も近くにいる。誰かの耳に入ってしまうことがないよう、盗み聞きされにくい屋外へ出てきた。馬に乗って散歩してくるとでも言えば、イレーニアについてくるのは顔見知りの護衛だけだ。


 レアンドロから備蓄されている武器の具体的な数を聞きつつ、頭の中でダリオが持っていた表と比較してみた。最後まで聞き終えたイレーニアは、嫌な予想が当たっていたと確信した。


「合わないわね。ロベルト様への報告と」

「やはり足りませんか」


 砦などに保管されている武器のうち、一割が消えている。もしくは老朽化して交換しているはずなのに、実際には古いままだ。ロベルトが視察に訪れたとしても、割合が少ないので気がつきにくい。


「僕らが防衛に加わったことで、全体の戦力は増強されています。でもイレーニア様との結婚がなければ……」

「辺境は弱体化したまま。外からの攻撃に耐えられなかったわけね」

「隣の領から増援を呼ぶ時間を作る程度でしょうか。殺る気に満ち溢れたボルタ・ロゼ家の騎士たちが戦地に到着する頃には、全滅しているかもしれませんが」


 イレーニアは馬を転向させ、屋敷へ向かって歩かせた。


「辺境にいる誰かが弱体化させようとしている? もしくは戦力を隠している? 報告を受け取ったロベルト様は、それを元に国王への報告にするから……」

「ここからは余談ですが、オルドーニ領の騎士団はだいたい三つの派閥に分かれています。一つがデルネーリ隊長派。長く騎士団にいた強みと言いますか、影響力が最も大きいです。各地の砦に最低でも数人は彼の言うことを聞く部下がいますね」

「彼は慕われているの?」

「オルドーニ隊長につくといい思いができるから、ですかね。人格者で慕われているのは副隊長です。あの人はロベルト様と一緒に辺境に来ました」


 王直属の騎士団出身者で、元々は彼が辺境の騎士団長になる予定だったのではないかとレアンドロは言った。


「二つ目の派閥はこの副隊長派ですが、多分これはロベルト様派と言ってもいいかもしれません。ほら、ロベルト様ってかなり領民を優遇してくれるでしょう? 食い扶持を求めて騎士団に入った、農家の次男とか三男あたりに信奉者が多いんです。ロベルト様が領地を改革していなければ餓え死にしてましたなんて、よく聞きますからね」


「三つ目の派閥は、どちらにも属していない少数派?」

「そうです。説得次第ではどちらにもつく、とも言えます」

「あなたたちのうち、どれくらいの数を派閥に潜りこませたの?」

「三分の一ぐらいですかね。ボルタ・ロゼ領に近いところが、一番多いです。国境付近は隊長派、ロベルト様派、僕ら出向組に分かれて警備しているから、あまり盛んに交流する雰囲気ではありません。反対に人数が少ないところのほうが、潜入しやすいんです。あちらから取り込もうと接触してきますから」

「……そう」


 そうやって入手できたのは、武器や物資の不自然な流れだ。イレーニアはまだ結論を出すのはやめておいた。


 屋敷に戻ってきたイレーニアは、馬をレアンドロに任せて自室に入った。乗馬服を着替えようとエルマを呼ぶと、手紙が届いていると聞かされた。


「リオネラ様からです」

「姉様から?」


 真っ白な封筒には、リオネラの性格を反映したかのような几帳面な字で宛名が書いてある。


 着替えを済ませて、エルマにしばらく一人にしてくれと頼んだ。

 ざわつき始めた心で封を切り、簡潔に書かれた文章を読む。


 ――辺境伯が武器を密かに集めている。謀反の恐れあり。詳細を望む。


 近日中にリオネラの仲間が接触してくるだろう。


 イレーニアはもう一度、馬に乗ろうかと思った。記憶を失ったことにして、真っ白な状態で別人になりたい。


「陰謀とか謀反とか、私の関係ないところで勝手にやってほしいわ」


 机の鍵がついた引き出しを開け、イレーニアはぞんざいに手紙を投げ入れた。

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他にも異世界ファンタジーとか書いてます。暇つぶしにどうぞ。



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