表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
記録係の異世界転生クロニクル  作者: 阿門 甲斐吽


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
42/42

【最終話】記録の地平


 (おも)い。


 まぶたが、(なまり)のように(おも)い。

 

 耳元(みみもと)()(つづ)けているのは、()()れた電子音(でんしおん)だった。


 空調(くうちょう)(ひく)(うな)りと、サーバーラックの排気音(はいきおん)


 そして、使(つか)(ふる)したキーボードの打鍵音(だけんおん)


「……っ、はあ……!」


 神宮寺直人(じんぐうじなおと)は、デスクに()()していた(からだ)(はじ)かれように()こした。

 

 視界(しかい)(はい)ってきたのは、虹色(にじいろ)(ひかり)でも(かがみ)回廊(かいろう)でもない。


 三枚(さんまい)大型(おおがた)モニターが整然(せいぜん)(なら)ぶ、いつもの編集室(へんしゅうしつ)風景(ふうけい)だった。


「……(ゆめ)、か……?」


 (くち)(なか)が、ひどく乾燥(かんそう)している。


 直人(なおと)(ふる)える()で、()みかけの()めたコーヒーを(くち)にした。

 

 モニターには、自分(じぶん)担当(たんとう)しているファンタジー小説(しょうせつ)のコミカライズ(よう)プロモーション映像(えいぞう)(うつ)()されている。


 タイムラインには無数(むすう)のカットが(なら)び、エフェクトのレンダリングを()つバーがゆっくりと(すす)んでいた。


「なんだ……ただの、寝落(ねお)ちかよ……」


 直人(なおと)(ちから)なく(わら)い、(かお)(おお)った。

 

 だが、()のひらにはまだ、エレナの(ほお)(ぬく)もりが、ガルドの不器用(ぶきよう)(たて)振動(しんどう)が、そしてARIA(アリア)()んだ警告音(けいこくおん)が、あまりにも鮮明(せんめい)()()いている。


「あんなに(なが)い、物語(ものがたり)だったはずなのに……」


 直人(なおと)溜息(ためいき)をつき、()げるようにマウスを(にぎ)った。


 ()()りはもう()(まえ)だ。


 (ゆめ)内容(ないよう)(ひた)っている時間(じかん)などない。

 

 (かれ)手慣(てな)れた動作(どうさ)最終(さいしゅう)カットの調整(ちょうせい)(おこな)い、()()しボタンを()した。


 プロとしての意地(いじ)で、(かれ)はその「物語(ものがたり)」を完璧(かんぺき)(かたち)へと仕上(しあ)げていく。


「よし……。これで、(かん)パケだ」


 エンコード終了(しゅうりょう)通知(つうち)(とど)く。

 

 だが、その瞬間(しゅんかん)だった。

 

 メインモニターの中央(ちゅうおう)に、意図(いと)しないシステムウィンドウがポップアップした。


  [ 記録(きろく)しますか? ]

 

  > YES(イエス) / NO(ノー)


 直人(なおと)心臓(しんぞう)が、()()がった。


「……っ!?」


 それは、(ゆめ)(なか)何度(なんど)()にした、あの(のろ)いのような、あるいは(すく)いのようなダイアログボックスだった。

 

 現実(げんじつ)に、こんなウィンドウが()るはずがない。


 だが、ウィンドウの(おく)()(くら)画面(がめん)(なか)に、一瞬(いっしゅん)だけ「彼女(かのじょ)」の姿(すがた)()えた()がした。


「……エレナ……」


 直人(なおと)脳裏(のうり)に、あのラストシーンが(よみがえ)る。

 

 自由(じゆう)(つか)()った仲間(なかま)たち。


 そして、自分(じぶん)をこの世界(せかい)()(もど)し、一人(ひとり)虚無(きょむ)へと()えていった「レイ」の意志(いし)

 

 もし、これがただの(ゆめ)でないのなら。


 もし、このボタンの(さき)に、本当(ほんとう)彼女(かのじょ)たちがいるのなら。


 直人(なおと)は、(まよ)わなかった。


「……(おれ)結末(けつまつ)は、(おれ)(えら)ぶ」


 (ふる)える指先(ゆびさき)で、(かれ)は[ YES(イエス) ]をクリックした。

 

 その瞬間(しゅんかん)


 編集室(へんしゅうしつ)のすべての(あか)りが()え、モニターから(あふ)()した(まばゆ)い「ノイズ」が、直人(なおと)意識(いしき)()()んでいった。

 

 ――視界(しかい)が、白濁(はくだく)した情報(じょうほう)濁流(だくりゅう)()()まれる。


 ――警告音(けいこくおん)が、()()まない。


「レイ!! しっかりして!!」


 (とお)くで、エレナの(こえ)がする。


 必死(ひっし)(おれ)()()ぶその(こえ)さえも、やがて途切(とぎ)れた。


(やばい……これ……)


 思考(しこう)が、途切(とぎ)れる。


 意識(いしき)が――(しず)む。


 そして――静寂(せいじゃく)

 

 そこは、(なに)もない場所(ばしょ)だった。


 (おと)も、(ひかり)も、感覚(かんかく)もない。


 ただ漆黒(しっこく)よりも(ふか)い「()」が(ひろ)がっている。


 ただ――


(なに)か」が、ある。


 それは、言葉(ことば)では(あらわ)せない圧倒的(あっとうてき)密度(みつど)のなにか。


 (かたち)もない。


 だが、(たし)かに「意識(いしき)」だけが存在(そんざい)している。


 (おれ)という存在(そんざい)断片(だんぺん)が、霧散(むさん)せずに(かろ)うじて(つな)()められている。


(ここは……どこだ……?)


 ()いかけても、返答(へんとう)はない。


 だが(つぎ)瞬間(しゅんかん)――


()られた」


 心臓(しんぞう)直接(ちょくせつ)(つか)まれたような、強烈(きょうれつ)不快感(ふかいかん)


 ぞくり、と背筋(せすじ)(こお)る。


(なんだ……(いま)の……!?)


 理解(りかい)できない。


 だが、本能(ほんのう)()げている。


「この視線(しせん)は……あの(とき)(おれ)!?」

 

 その瞬間(しゅんかん)――意識(いしき)が、融合(ゆうごう)していく。


「――――ッ!!」


 (おれ)(おお)きく(いき)()き、身体(からだ)()()こした。


「はぁっ……はぁっ……!!」


 (はげ)しく()()み、(はい)空気(くうき)(なが)()む。


 生々(なまなま)しい(いた)みが全身(ぜんしん)()()け、自分(じぶん)がまだ()きていることを実感(じっかん)させた。


「よかった……レイ……!」


 エレナが、すぐそばで(なみだ)()かべている。


「ヒール……()()って……」


 その()は、まだ(ふる)えていた。

 

 ライオネルが(ひく)()う。


「……(あぶ)なかったぞ」


 ガルドも(うなず)く。


「あと(すこ)(おく)れていたら、(たす)からなかった」


 レイは(こた)えられない。


 ただ、呼吸(こきゅう)(ととの)えることしかできない。


(……(いま)のは……なんだ……)


 あの「場所(ばしょ)」。


 あの「視線(しせん)」。

 

 (つぎ)瞬間(しゅんかん)


 レイの視界(しかい)に――「ノイズ」が(はし)った。


(……っ!?)


 景色(けしき)が、わずかに(ゆが)む。


魔物(まもの)(うご)きが――「二重(にじゅう)()えた」。


(……ズレてる……?)


 ほんの一瞬(いっしゅん)


 魔物(まもの)(うご)きが、「(おく)れて」(かさ)なる。


 まるで――


一度(いちど)……()(はな)されて……」


「あとから……(かさ)なったみたいな……」


 心臓(しんぞう)が、(おお)きく()る。


(さっきの……あれと……(つな)がってる……?)

 

 確信(かくしん)した。

 

 これは、二度目(にどめ)物語(ものがたり)ではない。


 (おれ)が、俺自身(おれじしん)で「上書(うわが)き」し、(もど)ってきた(つづ)きの物語(ものがたり)なんだ。

 

 レイは(ふる)える()で、(こし)()した「オーバーライト・ペン」を(たし)かめるように(にぎ)りしめた。

 

 耳元(みみもと)で、かつて()いたことのある、(なつ)かしい電子音(でんしおん)がかすかに(ひび)く。


『 ――再接続(リコネクト)完了(かんりょう)。メインエディター、おかえりなさい 』


 レイは、()きそうな(かお)(わら)うエレナを、今度(こんど)力強(ちからづよ)()きしめた。


「……ああ。……今度(こんど)こそ、間違(まちが)えない」


 記録(きろく)は、まだ(はじ)まったばかりだ。

 

 


(かん)

 





【あとがき】


 最後(さいご)までお()()いいただき、本当(ほんとう)にありがとうございました。

 

物語(ものがたり)編集(へんしゅう)する」という(ちから)()ったレイと、(かれ)(ささ)えた仲間(なかま)たちの(たび)はいかがでしたでしょうか。

 

 ()()えられた運命(うんめい)削除(さくじょ)された記憶(きおく)、そして最後(さいご)(かれ)(えら)んだ「YES(イエス)」の選択(せんたく)

 

 この物語(ものがたり)が、()んでくださった皆様(みなさま)(こころ)(なか)に、()えない「ログ」として(すこ)しでも(のこ)ることができれば、作者(さくしゃ)としてこれ以上(いじょう)(よろこ)びはありません。

 

 神宮寺直人(じんぐうじなおと)とエレナの、そして自由(じゆう)()()れた仲間(なかま)たちの「(つづ)き」の物語(ものがたり)は、ここから(さき)読者(どくしゃ)皆様(みなさま)想像(そうぞう)という()のキャンバスで、自由(じゆう)上書(うわが)きしていただければ(さいわ)いです。




 

 明日、4月5日(日)からは、新しい作品の連載をスタートします。

新しい作品も是非お読みください。

これからも、どうぞ宜しくお願い致します。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ