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記録係の異世界転生クロニクル  作者: 阿門 甲斐吽


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【第11話】削除された痕跡


 王都(おうと)にあるライオネルの実家(じっか)(はな)れにあるレイたちの臨時(りんじ)拠点(きょてん)


 数週間(すうしゅうかん)まえのある(あめ)()、びしょ()れになって(あらわ)れたのは、生家(せいか)(のこ)してきたはずの愛犬(あいけん)ルクスだった。


 「ルクス……!?……なのか......。びしょ濡れじゃないか」


 レイが(こえ)をかけるとびしょ()れの尻尾(しっぽ)(おお)きく()(ひさ)しぶりに再会(さいかい)した主人(しゅじん)にあまえた。


 「その(いぬ)どうしたんだ!?」


 ライオネル(たち)(おもて)()てくる。


 「実家(じっか)においてきた(おれ)愛犬(あいけん)なんだけど()いかけて()てしまったんだ......」


 (すこ)(こま)ったような表情(ひょうじょう)のレイに()づいたエレナが 「仕方(しかた)ないわね」と(わら)い、()んなにお(おねが)いしてくれた。


 エレナがびしょ()れになった(しろ)毛並(けな)みをタオルで()いてやり、ガルドが巨大(きょだい)犬小屋(いぬごや)(つく)り、ライオネルが(にく)()(あた)え、フィリスが毛並(けな)みを(ととの)え、ミラが魔力(まりょく)()もったおもちゃを(あた)えた。

 

 ルクスはあっという()にパーティーのアイドルになり、いつしか(かれ)らは「六人(ろくにん)一匹(いっぴき)」と()ばれていた。


 (あさ)はルクスがレイの(かお)()めて()こし、ライオネルの訓練(くんれん)()()い、エレナが(いの)(かたわ)らで(しず)かに(すわ)っていた。

 |ルクスと()ごした(さわ)がしくも(あたた)かい時間(じかん)は、(まぎ)れもなく(かれ)らの「日常(にちじょう)記録(きろく)(ログ)」だった。

 

 ◇

 

 ――(あさ)

 いつも(どお)りのはずだった。

 

 「おはよう、レイ。(ゆう)べはよく(ねむ)れた?」

 

 エレナの(こえ)(まど)から()()陽光(ようこう)仲間(なかま)たちの気配(けはい)

 (なに)()わらない。……はずだった。

 

 「……あれ。ルクスは? まだ()てるのか?」

 

 レイは()ぼけ(まなこ)(あた)りを見渡(みわた)す。いつもなら(かお)()(まわ)してくる感触(かんしょく)がない。

 

 「ライオネル、あいつ、また訓練(くんれん)邪魔(じゃま)しに()ってたか?」

 

 朝食(ちょうしょく)のテーブルに(すわ)るライオネルは、不思議(ふしぎ)そうに(まゆ)()せた。

 

 「……(だれ)のことだ? レイ、(へん)(ゆめ)でも()たのか?」

 

 「(なに)()ってんだよ。ルクスだよ。ガルド、(そと)小屋(こや)か?」

 

 巨大(きょだい)なパンを(くち)(はこ)んでいたガルドが()()める。

 

 「小屋(こや)? レイ、(にわ)にあるのは薪置(まきお)()だけだぞ。(いぬ)など()っていないだろう」

 

 その一言(ひとこと)で――世界(せかい)()まった。

 

 「……は?」

 

 レイの思考(しこう)(かた)まる。

 

 「冗談(じょうだん)だろ……? フィリス、お(まえ)昨日(きのう)あいつに(あたら)しいリボンをつけてやったじゃないか」

 

 「リボン……?」

 

 フィリスがパンを(くわ)えたまま、困惑(こんわく)したように(くび)をかしげる。

 

 「レイ、(こわ)いよ。そんな名前(なまえ)()いたことないし……(わたし)、リボンなんて()ってないよ?」

 

 (……(うそ)だろ)

 

 心臓(しんぞう)(いや)(おと)()てる。レイはゆっくりと視線(しせん)()とした。

 自分(じぶん)足元(あしもと)。いつもならそこにいて、尻尾(しっぽ)(ゆか)(たた)(おと)()こえるはずの――“あいつ”がいない。

 

 「……おい」

 

 (こえ)(ふる)える。

 

 「ミラ、お(まえ)なら(おぼ)えてるだろ? あいつに魔力(まりょく)のおもちゃを(つく)ってやった……」

 

 ミラは(しず)かに(くび)()った。

 

 「残念(ざんねん)だけど、レイ。あなたの妄想(もうそう)か、あるいは(なに)かの魔術的(まじゅつてき)混乱(こんらん)じゃないかしら。(わたし)たちのパーティーは、最初(さいしょ)からこの六人(ろくにん)よ」

 

 (だれ)も、(おぼ)えていない。

 

 「……レイ?」

 

 エレナだけが不安(ふあん)そうに(のぞ)()む。だが――。

 

 「ごめん……(わたし)も、その名前(なまえ)……()からないわ。(わたし)たちの……大切(たいせつ)仲間(なかま)なの?」

 

 ドクン、と鼓動(こどう)()ねる。

 

 (……()えてる)

 

 (あたま)(なか)に、昨夜(さくや)のあの(おとこ)(こえ)(よみがえ)る。

 ――『(ぼく)は、“削除(さくじょ)する(がわ)(デリーター)”』。

 

 「……っ!!」

 

 レイは朝食(ちょうしょく)(ほう)()し、宿舎(しゅくしゃ)()()した。

 

 ◇

 

 (はし)る。(いき)()がる。(かま)わず(はし)る。王都(おうと)喧騒(けんそう)が、(いま)はひどく不気味(ぶきみ)(かん)じる。

 生家(せいか)(まえ)にたどり()き、乱暴(らんぼう)(とびら)()ける。

 

 「(かあ)さん!! ルクスは!? ルクスはどこ!」

 

 ()()いた(はは)は、いつも(どお)りだった。

 

 「あらレイ、(きゅう)にどうしたの。……ルクス? (だれ)、それ?」

 

 世界(せかい)が、(きし)(おと)()てた。

 

 (……やられた。本当(ほんとう)に……やられたんだ)

 

 部屋(へや)()()み、必死(ひっし)(さが)す。

 ルクスが使(つか)っていた餌皿(えさざら)お気()()りの毛布(もうふ)首輪(くびわ)


 ――何一(なにひと)つない。

 

 最初(さいしょ)から“存在(そんざい)しなかった”かのように。ルクスの(にお)いさえ、そこにはなかった。

 

 「……そんな……」

 

 (ひざ)から(くず)()ちる。

 ログが()えたんじゃない。存在(そんざい)そのものが――世界(せかい)のタイムラインから「削除(さくじょ)」されたのだ。

 

 「レイ……」

 

 (うし)ろからエレナの(こえ)(いき)()らして()ってきたらしい。

 

 「()()いて……(なに)があったの? ここ、あなたの生家(せいか)よね? どうしてそんなに(あわ)てて……」

 

 「……ルクスが。(おれ)の……(おれ)たちの……大事(だいじ)家族(かぞく)が……」

 

 (ふる)える()でウィンドウを(ひら)く。

 

 【 ログ一覧(いちらん)


()瞬間(しゅんかん)転送(てんそう)


・エレナの致命傷(ちめいしょう)回避(かいひ)


記録外存在(きろくがいそんざい)との戦闘(せんとう)


・???((くろ)記録(きろく)

 

 (……っ!?)

 

 ――『ルクスの救済(きゅうさい)(スキル初発動(しょはつどう))』

 

 その項目(こうもく)が、()えていた。

 

 『対象(たいしょう)関連(かんれん)する主要(しゅよう)ログの消失(しょうしつ)確認(かくにん)外部干渉(がいぶかんしょう)による【強制削除(きょうせいさくじょ)】。直人様(なおとさま)記憶内(きおくない)にのみ、残存(ざんぞん)データが確認(かくにん)されます』

 

 ARIA(アリア)報告(ほうこく)()()ちをかける。

 これは戦闘(せんとう)じゃない。編集合戦(へんしゅうがっせん)ですらない。もっと一方的(いっぽうてき)で、残虐(ざんぎゃく)な――「削除(さくじょ)」。

 

 「レイ」

 

 エレナが、()きそうな(かお)でレイを()()ぐに()る。

 

 「(なに)か……おかしいよね。あなたが()いている理由(りゆう)も、(わたし)(あやま)った理由(りゆう)も、(わたし)には()からない。でも……」

 

 彼女(かのじょ)自分(じぶん)(むね)に、ぎゅっと()()てた。

 

 「“(なに)か……すごく、すごく大事(だいじ)なものが、()くなった()がするの”」

 

 (……完全(かんぜん)には、()えてない?)

 

 記録(きろく)()された。存在(そんざい)()された。

 でも――(かれ)(とも)()きた、その“感覚(かんかく)”だけが、(のこ)っている。

 

 レイは、ゆっくりと()()がった。

 (なみだ)(ぬぐ)い、(こぶし)(つよ)(にぎ)る。その()は――これまでで一番(いちばん)(するど)(ひかり)宿(やど)していた。

 

 「……エレナ。(おれ)、やること()まった」

 

 「()されたものを……()(もど)すには。あいつを……昨日(きのう)(よる)(おとこ)(たお)さないと、無理(むり)だ」

 

 あいつは、存在(そんざい)ごと“削除(さくじょ)”できる。

 (たい)して、(いま)(おれ)は、記録(きろく)し、再生(さいせい)するだけ。(まも)るだけの編集(へんしゅう)じゃ、あいつには()てない。

 

 「だからこそ、()価値(かち)がある」

 

 (そら)見上(みあ)げる。不完全(ふかんぜん)な、ルクスのいない世界(せかい)

 

 「絶対(ぜったい)に……()(もど)す」

 

 物語(ものがたり)はここから――“記録(きろく)(レコーダー) vs 削除(さくじょ)(デリーター)”の本格戦争(ほんかくせんそう)突入(とつにゅう)する。



(だい)12()(つづ)く)


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