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つないでゆくもの  作者: ぽんこつ


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もう一人  7月19日水曜日 6日目

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)


7月19日水曜日 6日目

香は夜中に起きはしたものの、普段より朝の目覚めが良かった。

昨夜の夢はしっかり覚えていて、スマホのメモ帳に箇条書きに打ち込んだ。

〈二人(双子?)の少女の夢〉

・もう一人の巫女を探す

 赤い着物の少女は自分を探せと言っていた。

・島の結界を解く

・私の誕生日までに行う

これが私の使命?

・助けてくれる人がいるらしい

全てにおいて秘密である。

謎の言葉『星の瞬きに導かれ二匹の龍が道を示さん』

そして香は朝食の時、母に昨夜見た夢の話した。

「夢の中に双子の女の子が出てきて、もう一人の巫女を探せって」

母は一瞬驚いたような顔をしていた。

「白い着物を来た女の子がこう言ったん、私はあなたよ、あなたは私って、そして赤い着物を来た女の子が自分を探してって」

「そう……もう一人の巫女を……」

遠い目をして母は呟いた。

「それとね、この島の結界を探して秘密を解くんやって、私の誕生日までに」

誕生日は22日。

あと3日しかない。

「そう……」

母には珍しく動揺しているようだ。

何か知っているのかな?

「そして結界を解いたら、星の瞬きに導かれ二匹の龍が道を示さん……て」

「龍がなんやて?」

母は不思議そうな顔して問い掛けてきた。

「星の瞬きに導かれ二匹の龍が道を示さん……」

「結界の秘密を探れって、どういうことなん?」

「分からない。でも鮮明に覚えてるんよ、それが私の使命なんやて」

「使命……」

眉間にしわを寄せ首を捻る母。

「それから、結界を探して秘密を解く事は、やたらに人に話してはいけないんやって。どうしようかな、ご住職に聞いてみようかな?」

「あぁ、それが良いかもね。丁度、今日は、お経の日だからご住職に聞いておくわ」

母は我が意を得たと言わんばかりに大きく頷いた。

「ありがとう、母さん」

母の言う、お経の日。

毎月20日前後に母は西龍寺に行きご住職と、お教をあげている。

父の月命日とは日が違うのだけど、物心ついた頃には松薙家の習慣というより母の習慣となっていた気がする。




玄関の扉が開いて香はつま先を地面に打ち付けながら微笑んだ。

「おはようさん」

「……おはよう」

美樹が立ち上がると香は髪を揺らしながら、その腕を取った。

空は雲に覆われていてぼんやりとした陽射しが注いでいた。

美樹は歩き出すと、挨拶の返事がどこか上の空だった香に話しかけた。

「香、髪切りに行かん?」

「そうやね」

香は即答して急に笑いだした。

「どしたん?」

「いや、あれやん、その話してたら真一郎のお兄さんが、そこの角から飛び出して来て、ビックリして、その話途中で終わってたやん」

「そうや、そうやった。ほんまあん時はビックリしたわ」

香はチラッとこっちを見ると意味ありげな視線を送り聞いてきた、

「何か良いことあったん?」

「え? なんで?」

「うん? 声が明るいから」

「そう? かな?」

バレてると分かっていてもとぼけてやり過ごす。

まだイラストの事は話せん。

香のビックリした顔が見たいからな。

「そしたら、いつ行くん?」

香はそれ以上の追及はせずに、髪を耳にかけながら眉を上げた。

「フフン、今日行こう」

「え? でも、予約取ってないやん」

「へへ、美樹さまがしっかり二人分、今日の14時に予約入れときました」

人差し指を立て得意気に香を見た。

香は両手を胸の前に合わせ目を見開く。

「天才やん、そしたら行こう」

「当たり前……ん、何やったけっけ……」

バイト先の店長が言う真似をしようと思って、当たり前の後のフレーズを度忘れした。

横から吹く風に乗って顔の前に流れる長い髪を払った。

香が僅かにうつむいた。

やっぱり……

また夢見たんやろか?

「香、何かあるん?」

「アハハ、バレバレやんなぁ」

香は舌をペロッと出して苦笑いをすると、小さな声で話し出した。


香が話した夢の中の双子の女の子の話は興味を惹かれた。

そして、その子達が残したメッセージ『星の瞬きに導かれ二匹の龍が道を示さん』が少し不気味に感じた。

結界を解くこと、もう一人の巫女を探す事は香の秘密のように口外してはいけない。

「それが、香の使命か……」

黙って頷いている香に、美樹は後ろを付いてくる真一郎が頭に浮かんだ。

「真一郎に聞いてみたら? 何か詳しそうだし歴史とか」

「なるほどね」

美樹が振り返ると香も歩きながら、変わらずに後ろを歩いている真一郎を見ていた。

そんな香の横顔は物憂げに見える。

「何か凄いなぁ」

「ん?」

「使命やなんて、神様やったんちゃう?その女の子達、うちも会うてみないなぁ」

美樹は少しおどけて話した。

「そんなら美樹、今度、私の夢に出てきてよ」

「そやなこっそりお邪魔しよ、そしてお告げをするん。香、考え過ぎは良くないぞよ、笑う門には……あれ? 何やったっけ?」

「ハハハ、誰よその言い方」

香は口を手で押さえ笑っている。

それを見て美樹は続きを思い出した。

「そうや、笑う門のには福来るぞよ」

「ハハハ」

香は腕を掴んできて、身を屈めて笑っている。

「もう、その言い方、ハハ、ハハ、もう美樹」

「これは、毎日香の夢にお邪魔しなあかんな」

「もう、絶対来てよ」

「うちも、その結界と巫女さん探し手伝うから」

美樹は髪を払うと、後ろ手に組んで歩いた。

そして香に顔を寄せて耳元に囁いた。

「もう一人の巫女を探せって事は、どこかに香と同じような力を持ってる人がいるってことやろ?」

「たぶんね……」

香は小声で答えると空を見上げている。

美樹は双子の女の子の話を聞いて自分がそうだったらと漠然と思った。

けど、うちにはそんな力ないし。

少し残念で笑ってしまった。

「美樹、どしたん?」

「ん? いや、もう一人の巫女さんてどんな人なんやろって思ってん」

「美樹やったらええのにな」

「うち? はーん、でも香みたいな能力ないやん……どこにおるんか分からんけど、やるだけやってみよう」

「そうやね、ありがとう美樹」

美樹は雲が多い空を見上げた。

髪が風に引っ張られる。

香の誕生日まで後3日か……

「雨降らんとええなぁ」

灰色の雲が僅かに残った青色を塗りつぶしていた。




風が何度も吹き抜けていく。

その度に本堂の入口の扉がカタカタと小刻みに震えている。

龍応が朝の勤めの読経を上げて本堂から出ると、楠の枝が湿気を帯びた風に踊らされていた。

雲の流れも速く、霧のカーテンで四国はぼんやりとしか見えない。

「雨か……」

まだ降ってはいないが時間の問題だろう。

東の彼方は、どんよりと覆う雲間に青い空が僅かに点在している。

少し荒れそうな予感がした。

それから母屋で事務作業をしていると、玄関のブザーが鳴った。

いつも通り約束の時間きっかりに香の母親の幸はやって来た。

天気のせいか幸の表情に陰りが見える。

幸を母屋の奥座敷へ通すと、龍応は腰を下ろし、床の間の前の小さな机の上に観音様の木像と位牌を置いた。

幸は龍応の背後に正座をしている。

「では、始めますか」

「お願いします」

幸は数珠を手に合わせてお辞儀をした。

龍応は位牌に向けて一礼すると教を唱えた。

幸も一緒に声を出し唱えている。

声も幾分揺れているようだった。


読経が終わると、幸は線香をあげて手を合わせている。

「ありがとうございます」

幸は龍応に向かい頭を下げると話し出した。

その内容は昨夜、香の夢に双子の女の子が現れて、香の誕生日までにもう一人の巫女を探すこと。

そして結界を探しその秘密を解くことをその双子から言われたというものだった。

「ほう、もう一人の巫女を探せ、結界を解けと」

龍応はさすがに驚いて目を見開いた。

内容にもさることながら、幸の元気のなさの原因も分かったような気がした。

「はい」

「分かりました、少し調べておきましょう」

「お願いします」

幸は深々と手をついて頭を下げた。

「ご自身を責めてはいけませんよ」

その言葉に幸はハッと顔をあげると、すがるような目をしてこちらを見つめていた。

「あなたに責任はありませんでしょう、あなたは毎月ここで祈りを捧げているのですから」

幸は目に涙を溜めて、そのまま頭を下げて少しの間泣いていた。

かれこれ18年、あなたは、ちゃんと香さんもこの子も同じように愛していたじゃないですか。

きっと香さんが夢で見た双子の少女が言う、もう一人の巫女を探せという所で、自責してしまったのだろう。

確かに、この位牌の子が生きていれば香さんとは双子であった訳なのだから。

しかし、これは神託が香さんに下ったと考えて良いのだろう。

龍応は結界を探し解く事に一抹の不安が無いわけではない。

事ここに至っては是非に及ばず。

ならば、忙しくなりそうだ。


龍応は一呼吸整えて思案した。

もう一人の巫女を探すことが肝要だな。

頭の中には一人の女性が思い浮かんだ。

やはり、きちんと話をしてみよう。

幸は落ち着いたのか涙をハンカチで拭うと、笑みを湛えて頭を下げた。

「ありがとうございました」

その表情は少しだけ晴れやかに見えた。

龍応は幸を山門まで見送り母屋へと向かう。

風の向きが変わりさらに湿気を含んだ生暖かい風が通り過ぎていく。

ポツッポツと雨が葉に当たり音を立てている。

母屋に戻る頃には屋根や地面に打ちつける雨足が強くなった。

奥座敷の位牌の前に座り心の中で囁きかけた。

本来であれば、あなたがもう一人の巫女であった筈。

この世に声をあげること無く旅立ったあなたが……

幸は生まれたばかりの香を前に泣きながら謝っていた。

「ごめんね、香……ごめんね……あなたの……」

夫の浩二が幸を抱き締め介抱していた。

龍応はその光景を覚えている。

「あなたの魂はどこに」

龍応は位牌に手を合わせると、それを手に持ち座敷を出た。

そして思った。

双神の話は本当かもしれない。

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