ゆめのなか
美樹は風呂上り、啓助が撮ってくれた写真をパソコンに送りモニターに映し出して眺めていた。
香と向かい合い手を握って笑っている。
啓助と舞も自然な笑顔で。
雰囲気の良い写真やなそう思った。
「写真か……」
ふと思い出し、別の写真をモニターに映した。
香と美樹が防波堤の上で伸びをしている写真。
二人のシルエットから光のシャワーが広がっている。
取材に来ていた記者が不意に撮った写真。
その時は写真を欲しいかと聞かれ断っていたが、後になってやっぱり欲しくなって名刺を頼りに連絡した。
そして、快くデータを快く送ってくれたものだ。
二つの写真の共通点はなんやろ?
チェアの上で胡坐をかいてモニターをじーっと見つめて、閃いたアイデアをペイントソフトに思いつくままに描いた。
「へへ、香をビックリさせよう、舞さんにも見せたいし」
啓助が撮影した写真を見てから久しぶりに絵を描きたくなった。
その気持ちに拍車を掛けたのは、舞が自分の絵を見て夕凪島に来ようと思ってくれた事。
それが素直に嬉しかった。
人を動かしたという事実が自信になった気がしている。
インスタグラムにアップしているイラストは数はそんなに多くない。
描いた絵をアルバム代わりに保存している。
そして、他の人がどう感じてくれるのかが知りたかったからだ。
手前味噌だが幸いそれなりに評価はいいと思う。
舞が見たイラストの原画は香にプレゼントして今も部屋に飾ってくれている。
ウキウキでペンが進む。
しばらく集中して描き続け下書きが一段落した時、スマホが鳴った。
『ライター 福山さん』と表示されている。
なんやろ?
「もしもし」
「こんばんは、お久しぶりです。夜分に突然の電話ごめんなさい」
大人って感じの落ち着いた低い声だ。
「こんばんは、いえ大丈夫です」
「先日の神舞のニュースを見て、写真を撮ったお二人だと思いまして連絡させてもらいました」
「はあ」
取材?
やったら嫌やな。
「今、伝統工芸の取材をしてるんですが、お二人が着けていた髪留めって、どこで買われたのか教えて頂ければと思いましてね」
うちらやないんやね。
少しホッとして美樹は答え出した。
「ああ、あれは祭の、ていうても神舞の一週間前のお祭なんですけど、その時の出店で買いました」
「なるほど、と言う事はそのお店の方は地元の方なのでしょうか?」
「いや、香川ではない言うてたと思います」
「そうですか。見事な作りなので作者の方に取材をお願いしようと考えていたのですが」
「お役に立てなくてごめんなさい」
「いやいや気にしないでください。でも、お揃いの髪留めって素敵ですね」
「はい、うち……私もそう思います。でもその時、私のは借り物だったんですけど」
「そうなんですか?」
「知り合いの方が貸してくれたんです」
「ああ、なるほど……そうだ、その知り合いの方の連絡先って教えて頂くことはできますか?」
「あぁ、ごめんなさい、連絡先は分からないんです」
いくらなんでもさすがにそれは、教えられんやろ。
「そうですか。残念ですが、仕方ないですね」
「ごめんなさい」
すごくがっかりしているようだったので謝った。
「いえいえ、気にしないで下さい。夜遅くありがとうございました」
スマホをテーブルの上に置いて。
ため息が出る。
んー、なんかもぞもぞする。
肩をグルグル回して。
首をグルグル回して。
気を取り直してモニターの下書きを見る。
夜空に満月、星々、巫女装束の女性が扇を持って踊りながら笑っている。
月の光線が二人の外側に広がる。
足元は凪の海、奥に山々、蝶や鳥、花や木も入れた。
「よし」
ざっくりと色を入れてみる。
自分が想像しているイメージより少し暗い気がした。
「んー、なんやろなあ」
そうか……
固定観念を爆発やな……
美樹はペンを取り、下書きから書き直し始めた。
香はベッドに横になり、スマホに啓助から貰った写真を映し出していた。
四人がその一瞬を楽しんでいるような感じがして幸せそうな感じがして、それを美しい景色が包み込んでいる。
見た瞬間に欲しいって思った。
美樹と笑い合う自分の顔を見てこんな風に笑っているんだ。
素の自分の表情に驚いてもいた。
美樹は相変わらず綺麗やし、啓助と舞のお互いを見る優しい視線も何かいい。
寝返りをして横を向く。
「お兄ちゃんにお姉ちゃんか……」
啓助と舞を見ていると男の兄弟も悪くないなって思ってしまう。
「また、会えるといいな……」
舞さんは美樹の絵を見たのがきっかけで、この島を訪れたと言っていた。
しかも、それは偶然ではなく必然って。
舞さんたちと出会ったのも必然。
私が巫女の血筋で能力を持っているのも。
ふと、髪の毛が引っ張られているような気がして枕を見ると……蝶が止まっていた。
「え?」
香は飛び起き、部屋中を見回した。
「何? 何?」
蝶々はひらひらと羽ばたきベッドのヘッドボードに止まった。
そしてまた飛び立ち今度は香の頭の上に止まった……
「こんな時間に」
香はベッドから出ると部屋の電気を消し窓を開けた。
「ほら外に帰ろ」
蝶はひらひらと部屋の中を舞うと、窓の外に出て行った。
「迷い込んじゃだめやん」
蝶が飛んで行った空に呟いた。
雲に隠れていた月が顔を出し、月明かりが辺りを照らした。
頭の中に祖母が教えてくれた童歌が浮かんだ。
口ずさみながら窓を閉める。
ベッドに入り、もう一度写真を見た。
「お兄ちゃん……」
一人しかいないのに顔が赤くなるのが分かった。
スマホをベッドサイドに置いて、目を閉じ眠りについた。
――香は夢を見ている。
ここは……
舞さんを助けに行ったあの浜だ、正面には大岩と鳥居がある。
その前に小さな女の子が二人、手を繋いで立っている。
「神様……」
その姿を見た香は無意識に口走っていた。
「こんにちは」
香が二人に歩み寄り挨拶すると、急に険しい顔になり香に背を向けると鳥居の方へ走り出した。
そして鳥居を潜り奥にある木々の間の坂道を駆け上って行った。
「?」
なんだろう?
香は二人の少女の後を追って坂道を上った。
木々のトンネルを抜けると、小さい広場のような空間に出た。
正面には石で作られた小さな祠が二つあって、その前に白い衣を着た少女が立ってこちらを真っ直ぐ見つめている。
おかっぱ頭の可愛らしい女の子だ。
香は少女の傍に近寄り声を掛けた。
「あなたは?」
「フフフ、私はあなた」
少女は前を見据えたまま答えると顔を上げた。
「え?」
どういう事?
香は意味が分からなく、聞き返そうとしたが少女が先に口を開いた。
「そんなことより、力を取り戻したのに何をしているの?」
少女は首を左右に振りながら喋っている。
その言葉にますます香は混乱した。
「力? どういうこと?」
「あなたの使命、あれ? 分からないの?」
少女は驚いたように目を丸くしていた。
香が黙って頷くと、
「そうなんだって」
少女はこっちを向いたまま誰かに話し掛けたようだった。
その声に祠の後ろから赤い衣を着た少女が出てきて、小走りに近寄ってくると白い衣の少女と手を繋いだ。
顔立ちは白い衣の少女とそっくりだったが、髪は長く腰辺りまで伸びていた。
「そうなんか、あんた何も知らんのか」
赤い衣の少女はため息交じりに話すと、少女達は互いの顔を見合わせてニッコリ微笑む。
そして、そのままの姿勢で語り始めた。
「あんたの使命は二つ」
「あなたの使命は二つあるの」
白い衣の少女は続けて、
「ひとーつ、もう一人の巫女を見つけること」
「ふたーつ、この島の結界を解くこと」
少女達は話し終えると、こちらを見上げて笑っている。
もう一人の巫女に結界?
さっぱりチンプンカンプンな香は素直に聞き返した。
「どういうこと?」
「ん?」
赤い衣の少女は不思議そうに首を傾げている。
「もう一人の巫女、ようは私を探すんや、それがひとつやな」
「あなたを?」
赤い衣の少女はコクりと頷いた、
「あとは、この島に張られた結界を解けばええんや」
「結界って何なんですか?」
「結界は結界やんな」
赤い衣の少女は白い衣の少女の方を向く、そして白い衣の少女が話し出した。
「この島の秘密ね、それを解くの」
「秘密……」
「そうね、助けてくれる人がいるわ」
「助けてくれる人?」
「そう、ただ秘密の結界だから、むやみやたらに、みんなに教えてはいけないのよ」
「……」
「それと、うちを探すのも忘れんでな」
香は意味が分からないものの、少女達が伝えようとしている要点を頭の中で整理すると、二人に確認をした。
「ええと、あなたを探す。それと結界を解く……それからむやみやたらに口外しないということですね」
「そうね」
「そうや」
「でもどうやって探すんですか?」
二人の少女は顔を見合わせて、首を傾げている。
「星の瞬きに導かれ二匹の龍が道を示さん」
「あんたの誕生日が期限や」
「期限?」
「そう、あなた達は導き導かれる」
二人の少女は手を振りながら笑っていた――
香は目を覚ました。
外はまだ暗く、スマホで時間を確認すると3時だった。
夢やったんやな……
でも、あの少女達は誰やろ?
神様って呼んでいたけど……
それに私の力が戻ったってどういう事なん?
それから、結界。
もう一人の巫女。
香は再び横になり目を閉じた。
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