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「あの……何で、俺達までスマホ買い替えないといけないんですか?」
「おい、何度説明すりゃいいんだよ?うんざりだ。その質問は2度とするな」
「ですけど……」
「黙れッ‼お前、いい齢して、俺の言う事が聞けねえのかッ⁉」
「あ……あの……」
「いいか、俺はお前の上司みて〜なモンだぞッ‼マトモな会社なら上司に逆らうなんて許されねえだろッ‼一般企業でもコンビニのバイトでも工事現場でも上司には絶対服従。それが社会人ってもんだろッ‼お前、アラサーのくせに学生気分がまだ抜けてねえのかッ‼」
俺達のスマホは何者か……おそらくは水原を洗脳したフェミ団体によって盗聴されていたようだ。
どうやら、スマホにスパイウェアが仕込まれていたようだ。
ああ……俺の漫画の主人公チームのハッカー担当みたいな事が出来る奴は実際に居るかもと思ってたが……まさか、その矛先が俺に向けられるなんて……冗談じゃない。
そこで、諂曲さんに紹介してもらった日本橋の裏通りに有るショップでスマホを買い替える事になった。
とは言っても……どうやらフェミ団体の内通者だったらしいアシスタントは別だ。
他のアシスタントには、あいつは用事が有って今日は来れないと説明しているが……実際は諂曲さんによって尋問されている。
「あ……あの……先生、ここ電車の中……」
「あっ?」
「他のお客さんが……」
おっと、他の客が、阿呆な事を喚き散らしてる馬鹿アシスタントをマズい奴を見るよ〜な目で見てやがる。
仕方ねえ、これ位で勘弁してやるか。
「あの……スマホ買い替えるのはいいんですが……えっと……お金は先生が……」
「はぁッ⁉何言ってる?お前、フザケるのも大概に……」
さっき馬鹿な事をヌかしてたアシスタント(そう言や何て名前だったっけ?アシの入れ替わりが頻繁なんで覚え切れねえ)が、更に愚劣な質問をしてきたんで、思わず怒鳴り付けそうになり……。
「せ……先生、ですから、ここ、電車の中……」
別のアシスタントにそう言われて我に返る。
周囲を見渡す。
他の乗客達は……@#$%でも見るような目で、俺達を見てる……。
その中でも一番、怯えてそうなのは女子高生2人連れ。
なんと言うか……。
かわいい。
かわいい。
こんな……かわいい娘達を怯えさせるなって真似をしちまった以上……。
俺は席から立ち上がると……。
ところが、その時、杖を手にした婆ァが、俺の顔と、席を交互に見て……。
「何、見てんだ、婆ァっ?譲る気ねえぞ、ボケッ‼お前らの年金で国家予算が食い潰されてるせいで、俺達が迷惑してんだよっ‼死ね死ね死ね……」
「先生、ここ、電車の中……」
ああ、そうだった。
俺に論破された婆ァは完全に固まっている。
「すいませんね……」
俺は、怯え切っている女子高生2人に近付くと、そう言った。
こっちが謝ってるのに……化物でも見るような目だ……。
でも、仕方ない。
「いや、俺の連れ達、ちょっと情緒不安定気味で……いや、ホントは外に出しちゃいけないよ〜な連中なんですけど、ど〜しても用事が有って……仕方ないんで許して下さい」
女子高生2人は顔を見合せ……。
「はっ‼はいッ‼」
「わっ‼わかりましたッ‼」
「あたし達っ‼何もッ‼気にしてませんからッ‼」
「はいっ‼気にしてませんッ‼」
よかった……判ってくれたようだ。