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短編集:私がダンジョンマスターになったわけ  作者: 木苺
(11)新しい関係に向けて:それぞれの思い
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ダンサンへのお願い・ケサランパサラン

ある日 みーちゃんは ダンサンに切り出した。

執務室での仕事の終了時間、それは形式的に17時となっていたのだが、その17時きっかりに。


「少しお願いしたいことがあるのですが 聞いていただけますでしょうか?」


「はい」

ダンサンは 内心の不安を押し隠して できるだけ穏やかに見えるように心がけて返事した。


なにしろ 彼としては 前回 ミーちゃんに諫言(かんげん)してものすごい反発を食らったショックがそのまま残っていたので。


「では この続きは 食堂に行って話しましょう。

 食事は話がおわってからということで とりあえず お茶を飲みながら」みーちゃん


「いいですよ」



食堂に行き、この世界では「和茶」と呼ばれている緑茶の中でも高級とされている玉露を入れて ダンサンに勧めるみーちゃん。


右手で持った茶わんの底に、そっと左手の指先を添えるとようにして、二口飲むミーちゃんを、ダンサンはまじまじと見た。


「それは 何かのおまじないですか?」ダンサン


「ただの作法です。母から教えられた」みーちゃん


「そうですか」


ダンサンも 見よう見まねで二口飲んで器を置いた。


「さて それでは 本題に入ります」

居住いずまいをただすミーちゃんとダンサン。


「簡潔に申しますと、

 前回 あなたからの忠告を受けた際に取り乱してしまい申し分けありませんでした。

 その後 つらつらと考えた結果、次の2点について あなたにお願いを打診したいと思った次第です」

いつもより ゆっくりとした口調で はっきりと話すみーちゃん。


「はい」ダンサン


「1点目

 現在 あなたは このダンジョン内で生活しておられますが

 生活拠点を このダンジョン外においてほしいということ。


 2点目

 そのうえで 今後とも あなたからの忠告・ご指導を受けたいということです」


「なぜですか」

心の中から湧き上がる不快感を表に出さぬように懸命に抑えながら 静かに問い返すダンサン


「理由はですね、その1

 5年ほど あなたとともにこのダンジョン内で過ごしたことにより

 私の中で あなたを身内のように思う気持ちが育ち、

 それが あなたに対する甘えや期待に満ちた思い込みになりつつあることに気付いたからです。

 その結果、先日は あなたからの注意を冷静に受け取ることができなかった。


 だから 少し距離を置きたい。


 その2

 私はまだ未熟です。


 特に 経営者としてやっていくだけの強さがない。


 が、しかし 私は野心的な人間です。

 自分の力をとことん発揮したいという思い、これは、子供のころから変わらぬ私の思いです。


 私が力を発揮することを阻む外的要因を この年になってやっと取り除くことができました。

 やっと 存分に 自分のやりたいことをやれる立場を得ました。


だのに 経験不足からくる脇の甘さ、虐げられたころに身に着いてしまった対人パターンで あっけなく足をすくわれて退場なんて 絶対に嫌です!


 だからこそ、ダン菅担当者であるあなたからの助言は大切にしたい。


その3

ダン菅とダンジョンマスターとの関係は、ダンジョン立ち上げから最初の10年とその後とでは変わるということは、最初に ダンジョンの種を受け取ったときの説明から何となく理解しています。


しかし ダン菅担当者の役割については、シツジーからは その場限りのテキトーな説明しか聞いていませんし、それって どんどん後から「違ってた・騙されてた」って話ばっかりで・・


というわけで 改めて ダン菅担当者ってなんぞや? と考えたいですし

そのための情報を求めます。


さらに ダン菅からダンマスへのサポート期間10年終了後、ダン菅担当の役割も終わるのか、あなたはその時 どのような決断をするのかも知りたい。」



「規約上は 10年のサポート期間が終われば その時点で ダン菅とダンジョンマスターとの間で 新たな契約が結ばれることになるのですが

 現在までに、10年のサポート終了時に、ダンジョンマスターをやめた方が3人、そのうちの1人は私の担当だったダンマスで、ほかの二人は 私が就職する前にすでに契機満了ダンマスを引退された方々です。


その他のダンマスたちは皆 10年を待たずに引退もしくは廃業されていますので

10年満期終了時の ダンマスとダン菅との再契約の先例も契約のひな型もありません。」ダンサン


「そうですか」みーちゃん


「ところで ダンサンは 今何歳ですか?」


「あー45歳です」ダンサン


「あなたと初めて出会った40歳の時にすでに専務になっておられましたから、

 ずいぶん若くして出世階段を駆け上ったのですね。

 あなたが優秀であることは存じておりましたが」みーちゃん


「そうでもないですよ。

 私はステップ採用で、15歳で ダン菅職員になりましたから

 勤続年数からすれば もっと早く社長に就任していてもよかったと思っています」ダンサン


「私が15のころは 親の不正行為のあおりを食って 最底辺層で事務員をやりながら、何とか進学の機会をつかもうと、教育局へ いかに私の声を届かせるかと無い知恵絞って特攻をかましていましたね」ミーちゃんは笑いながら言った。


「だから 能力に見合った教育を受けて育ったエリートさんの子供時代の経験とか

 常識とかが さっぱりわからないんです。


 15で特別試験を受けて大学院最終過程に編入されても、

周りからはライバル視されるだけでまともに相手してもらえませんでした。


こちらも 生きるために必要な職場を獲得するための技術と資格を早く身に着けるとともに、生活費を稼ぐことを最優先せざるを得ない状況でしたしね。


それに10代20代の子供たちって、己とは異質な存在への理解力がまだ育ってないので

「自分にとっての常識」を知らない人間を見下すことはあっても、何かを教える気はまったくなく

私は 結局 あなたが言うところの「自分の立場・階級に見合った常識」というものが欠如したまま それについて学ぶ機会を奪われたままこの年になっているので 苦労が絶えません」


「職員の個人情報は開示されてませんので、私は あなたの生い立ちについて何も知りませんでした」ダンサン


「なので 今 ご説明いたしました。

 以上のことを踏まえて、友人として また超一流企業の専務となり社長のいすをも狙っていた人間としての経験から、新米経営者へのご指導・ご鞭撻を願えますか?


 それとも そんな職務外の面倒ごとなどパスします?


 私としては 断られても仕方のないこと、むしろ厚かましいお願いを口にして申し訳ありません、忘れて下さいとしか言えない立場でありますが。」


「少し考えさせてください。


 その できれば ダン菅担当である私に開示してもよいと思われる情報については

 開示許可を ダン菅のほうへ送っていただけるとありがたいのですが」ダンサン


「あー わかりました。

 ダン菅担当に知られてもよい個人情報以上の内容を すでにお話ししちゃったと思うのですけどねぇ」みーちゃん


「すみません。


 ここは 居心地いごこちが良いので、住居をもとの大陸に戻すのは気が進まないのですが

 あなたのおっしゃることはわかるので、

少し 元の大陸に保全しているもともとの自分の家に戻って もう少し考えてきます。


 どうやら 私も少々頭を冷やしたほうが良いようです」


ダンサンは 静かに頭を下げて食堂をあとにし、手早く身の回りの物をもってダンジョンを後にした。


 食堂を出る前に、使った器を片付けようとしたのだが、そのままでよいからとミーちゃんが声をかけると そのことにも軽く一礼して。



ダンサンが出て行ったあと、ミーちゃんは ニャーゴに抱き着いてシクシク泣いた。


ニャーゴは ぶっとい腕でミーちゃんを抱きしめ 静かにヨシヨシした。


「とりあえず ダンサンは 身の回りのものしかもっていかなかったよ」ニャーゴ


「つまりは すべて保留ってことね。


 だから 期待はしないでおく


 どんな逆オファーがあっても 冷静に対処できるように」みーちゃん


(一度くらい 感情のままに取りすがって慰められるという経験をしてみたかったなぁ。

 幼い時にそういう経験をして自分の存在に自信をもった子は、おのずと次の階段へと足を進めて

 「感情のままに取りすがった時に、自分の予想外の反応もしくは自分に不利益な逆オファーがあれば、即座に自分の立場を主張して 自分の立ち位置を確保しつつ 相手からプラスアルファの何かを引き出していくこと」に進むことができるから、強いのよ。


 それこそ自分の限界に気付いたときにも、気軽に泣いて騒いでもいても、すぐに立ち直って前に進むし、

そこまで優秀じゃないやつも、泣いてる割には自分に都合よく立ち回る逞しさというか、要領を身に着けていたり ずるさをもってるものなぁ。


 私なんか 人前で弱音を吐くことそのものへの恐怖心が抜きがたく

 まれに気を許した人の前で弱音を吐いても、「その程度のこと」とか「お前らしくない」って言葉しかもらえなくて 生き続けることが嫌になるほど落ち込むか


 たまに ものの弾みで あるいは思い切って本音を言っても、結局 拒否られたり 漬け込まれたり 距離をおかれてしまい、私は めちゃくちゃ傷ついてたまま歯を食いしばるだけ。

 だって そんなとこに泣いたら立ち続けることができなくなるほど深く深く傷つくから。


 なにしろ がんばってさらに一言自分の立場を言おうとすると 「私の中から強い雰囲気で出ていて怖い」と相手から攻撃されたし、


ならばと 表面上の穏やかさを保って 会話を続けるすべを身に着けたのに、「ことばがきつい」の「あなたがそんなことを言うなんて」「思いがけない話にびっくりした」と言われて終わるから・・ もう絶望しかないわ。


 だからこそ 常に 冷静に冷静にと自分で自分をコントロールしつつ、慎重に前に進むことしかできやしない。


 つらい時は耐えながら進み、進めないほど弱っているときは、そこで踏ん張って痛みに耐える

そんな経験ばっかりしているから、順調な時に前に進むことが怖くなるのもしばしば

 今一歩踏み出して 新たな困難に出会ったときに、また孤軍奮闘する苦しみに私は耐えられるのか?一人で苦しむことを恐れずに前に進めるのか?と己に問いかけることにより恐怖に見舞われる。

 将来出会うかもしれない苦痛を思って。


 この苦労 経験のない者にはわかるまい。


 というか 知らないで育つことができたら それに越したことはないのだけど


 己の理解できない事柄で苦労している人間を、馬鹿にしたり 好奇心の的にしたり

 理解できないからという理由で排斥したり

 自分の観点だけで自分の目についたところだけをとりあげて、「鉄人」「優秀」と祭り上げたあげたり、嫉妬したり、期待を裏切られたなんて言わないでほしいわ。


けっきょく 私が何を言っても言わなくても、話しかけられたことに反応してもしなくても

「受け入れられることはない」私の状況だけは全く変わらないんだよなぁ、これまでずーっと。)


そんなミーちゃんを抱きしめ、抱上げベッドに運び込んだニャーゴのコアである元ギンツーは ジャックに念話でこっそりとSOSを送った。

「マスターに 『無条件に甘える』かわいい系の何かを送ってくれ

 僕は 慰め役に収まったから」 

 


秘密通信を受けたジャックは 思わず頭を抱えた。


頭を抱えても 何の知恵も浮かばないので、金1(キンワン)とエレンに相談した。


「マスターのお守って 僕たちダンジョン生物の仕事だったっけ?」ジャック


「マスターあってのダンジョンですからねぇ」エレン


「一応 ダンジョン内の生態系の維持と管理は僕の仕事だから、その中にはマスターも入る?のかな?」金1は首をかしげた。



というわけで ジャック・エレン・金1の3人でお出かけすることにした。

 (にゃ~ごは ミーちゃんの付き添い中だから同行できない。)


 緊急時のプロトコルに従って、

みーちゃんが 緊急用控室として用意してあった秘密の部屋の前に3人そろって出かけて行って、「開けてください」のお願いをして、中に入ることができた。


すると 目の前には ちんまりとしたおやしろがあったので

3人そろって 手をあわせてお願いした。

「どうか マスターの癒しとなる存在をお与えください」と


すると なんだかよくわからない毛玉が落ちてきた。

「ケサランパサラン」という声といっしょに。


そこで 3人はそろってお社に向かってお礼を言ってお辞儀をした。


ジャックがケサランパサランをすくい上げ、エレンの両掌に載せた。


 金1はクジャク型精霊なので、あいにく ケサランパサランに触る(てのひら)を持ち合わせていない。

 なので、首を伸ばして、エレンの掌のケサランパサランを覗き込んだ。


それから 4人でそろって、秘密の部屋をあとにして、マスターの部屋に向かった。



マスターは ニャーゴに見守られながら ベットで就寝中。


ニャーゴとジャック達は素早く目と目で話し合い(というか4人の特殊能力で瞬時に意思交換ができるのだ)ケサランパサランを ミーちゃんの枕もとに置いた。


「ぼくは このまま 引き続き ここで見守りに徹するよ」

ニャーゴは、白虎形態で眠るミーちゃんに寄り添うように座っていたベッドからそっと降りて

座り心地の良い一人用のいすを ベットの傍らに置き、

そこに深々と腰かけた。


「そうやってると 白虎というより白熊みたいだな」ジャック


「仕方ないだろ、第2形態がそれだったんだから」ニャーゴ


精霊たちは、人間との共同生活を円滑に行うため

普段は できるだけ 仲間内でも音声会話を使うように心がけている。

 特に 業務上対人場面の多い精霊たちは。


(さすが 感応力の高いギンツー。

 転生するときに マスターのお心に沿った形態変化術まで身に着けていたとは)ジャック


(白虎↔白熊 流れるようにスッとその形態を変えるのね)エレン


(器用だな)金1


ケサランパサランは無言で、みーちゃんの肩~ほほのあたりで丸くなってくっついている。


ジャック達4人は念話をかわした。

  こちらは 人間に聞かせたくない内容なので 念話を使用。


精霊が人間に接するためには コミュニケーションにおいても これくらいの使い分けができるようでないと困るのである。


やがて ジャック・エレン・金1の3人は そっと部屋を出て行った。

みーちゃんが安らかな眠りに包まれて夜を過ごし、気持ちの良い朝の目覚めが訪れるように願いながら。

 

(おまけ)


・最近 食器の持ち方・扱いがなっていない人が、その年齢を問わず TVでも飲食店の従業員でも増えすぎて、見苦しくさを通り越して不潔なふるまいまでもが目立ちすぎるので、参考までに↓


煎茶道(小笠原流) の動画 

 https://www.youtube.com/watch?v=v9DhqjPQDHc


・この動画を見て、茶を入れるまでの茶器の扱い方が、中国っぽいなと思ったので

 念のために、煎茶道の説明を検索してみました。


https://www.ogasawararyuu.or.jp/wa/0005.html


ああ、やっぱり江戸時代中期以降のの文人墨客から始まっているのですね、煎茶道


・参考までに 着物を着た時の歩き方、立ったり座ったりの基本動作のお手本として

 裏千家の《茶道点前集》風炉・薄茶点前の動画も紹介します。

https://www.youtube.com/watch?v=HEeAlmN9-BU


私も 幼いころ お正月の晴れ着の準備として、みあげ(成長期の子供に合わせて、着物の丈を肩や腰で調節すること、だいたい七五三祝いの着物は、小2くらいまで着用できるように長めにあつらえてありました)の調整のために 年末に着物を試着するときに、この 歩き方とか立ったり座ったりの練習をさせられたものです。


  七五三祝いの着物 自分でする肩上げ・腰揚げ

   https://oiwai-kimono.com/753/753_kataage-koshiage.html


子供は体が柔らかいから 案外 すんなりとでき、晴れ着を着せてもらえるうれしさから

所作の練習も苦になりませんでした。

(むしろ 歳をとってから たまに着物を着るときに苦労してます><)


お雛様の前後は、お道具の運び方(腕使い)の練習としまい方(手入れ)を学ぶ時でもありました。

幼い時から 家庭の行事として所作を習うのは良い思い出になると思います。


見栄を張るのではなく、質素倹約しつつ 立ち居振る舞いを伝えていく努力、それが家庭の行事の意味ではないでしょうか?

 何も五段飾りでなくても、お雛様とお内裏様の一組から初めて、後々 雛道具としてお膳の一つも買い足して懐石料理の基本の形式の漆器の扱いを学ぶというのもありだと思います。


 雛道具などの名称と写真

  https://k-doll.co.jp/seck/hina/name/ (人形店のサイトですが わかりやすい)


・そして 教えてくれる親が居なくても、今は ネットで(平成のころは大型書店の季節の新刊本コーナーで)気兼ねなく こうした情報が入手できるので 便利だなと思います。


 (昔は 親ガチャ運が悪いと こういう 日常的家庭教育の範疇の情報がなかなか入手できなかった。今は それが タダで簡単に手に入る! いつまでこの状況が続くかわかりませんが 今あるものを大切に上手に使っていきたいと思います)

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