転生希望
ジャックは 強制睡眠に入ったギンツーを再生待機室に送り込んだ。
ここは 弱ったダンジョン生物がダンジョンの土に帰る場所である。
しかし 高度に神経系の発達したダンジョン生物は その記憶やその機能を次世代に引き継ぐために、コア情報を新しいコアに転写したり、
あるいは コアが丈夫なうちに弱りかけの肉体から取り出して 新しい肉体をまとわせるという再生処理にかけることがある。
それゆえ 再生待機室と呼ばれている。
(「土に帰る場所」と呼ぶよりは 耳あたりが良いとマスターがおっしゃったので)←ジャックによる解説
ここは ジャックとマスターだけが知る秘密の場所でもある。
◇
再生待機室にはいって何日か過ぎた。
目覚めたギンツーは、すぐに自分が再生待機室に居ることに気付いた。
「なあ 再生処理するなら、今度は愛玩動物に生まれ変わりたい」
ギンツーは傍らにいたジャックに頼んだ。
「そりゃまた どうして?」
「マスターの癒しになりたいんだ。
マスターが 人間との出会いに恵まれないのなら
せめて ぼくが ペット的な枠組みで マスターの慰め役になりたい」ギンツー
「一応 マスターにお伺いをたてることになるが
その場合 お前の自意識をどうする?」
「そこは 君たちの判断に任せる。
ただ ジャッキーとしての仕事はもう嫌だな」ギンツー
「今まで 自分の再生に注文を付けたやつはいない
君は どこまでも 先端をいく子だねぇ」
ジャックは 再びギンツーを眠らせた。
◇
再生室は 実は コアルームの近くにある。同じ階層ではないが。
ギンツーのコアデータを見ながら みーちゃんは ジャックからの話を考えた。
(たしかに ダンサンは ダン菅の人間であり、
彼が ダン菅職員である限り、マスターである私とは 互いの立場上 越えられない一線というのはあるわね、いわゆる利益相反ってことで。
しかも 彼は彼なりに仕事に関する考えがはっきりとしている。
一方の私は、無条件で私を支持してくれる人、甘やかしてくれる人がいたらいいのにという思いを抱えたまま、気を強く持てと自分で自分に言い聞かせて頑張っている。 そこを解れと彼に言っても ・・
彼が彼である限り そうおいそれとは 私の望むようにならないし
私としたら 自分の思いを口にすることそのものが苦しみだから
見込みのない人に 己の気持ちを伝え続けることは 自分の手首を切るのと同じこと
だから 本質的に 相互理解から始まる暖かい関係にまで至らぬ可能性のほうが高い
ゆえに 心の慰めを得るなら 人間以外を求めるしかないかぁ・・)
そういうミーちゃんの心の中の声は ダイレクトに ギンツーの心につながっていた。
「思った以上にというか 私の無意識の心が形になったのか、ギンツーは 銀ちゃんグループの中でも 特別に感受性の強い優しい性格の子として生まれてしまったわね」みーちゃんは ぼそっとジャックに言った。
「確かに このコアでは 銀2の仕事の役目は無理ですね」ジャック
「彼の心にそって転生させてあげて。
私の願いは ダンジョンにとっても 私にとっても 悪しき存在とならないこと
そして願わくば 転生後の彼が幸せだと思う生涯をおくれること、です」みーちゃん
「つまり マスターの希望は 男性系を望むということですね」ジャック
「人型以外で」
「あわよくば 結婚とかのラインはなし?」
ギンツーが小さな声でささやきかけた。
「そんな上級編 無理無理。自分からペット枠って言ったのは そのあたりわかっているからでしょ」みーちゃん
「ふふ マスターの 人間的倫理観では、自分が産み出した人工生命との恋愛はNGなんですね」ギンツー
「そりゃそうよ。
転生経験ゼロの第一世代の子は 全員 私のこどもまたはそのお仲間よ。
しかも 自意識つきの生命体の数は少ないし。
自意識を持った生命体の転生1号に あなたはこれからなるのだから」みーちゃん
「私は すでに 何度か再生されてますよ」ジャック
「確かに あなたも 何度も体を取り換えるうちに進化したけど
ジャッキーの場合は 体より先に魂の再生希望されたわけだから
もはや それは転生と呼んでもよいのではないでしょうか?」みーちゃん
というわけで いまだ元気なギンツーの体には 新しいコアを入れて銀2として再生し、最初のギンツーの魂は 新たな形態に転生した。




