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華星に捧ぐ  作者: 潜水艦7号
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始祖

「新世界・・・だと?いったい、何を言ってるんだ・・・」


ドーベルは我が耳を疑った。この老人達は何を言っているんだろうか?とても正気の沙汰には思えなかったのだ。


「ふふふ・・・『新世界』だよ、文字通りのね。君は『トラピストf』という惑星を知っているかい?地球から水瓶座の方向へ40光年先にあるんだがね・・・」


後方に座っている老人が語りかける。


「よ・・・40光年先だと?おいおい・・・冗談はよせよ・・・『こんな小舟』で、そんな先まで行けるとでも思ってんのか?そんなの、追加料金貰ったってお断りだぜ!」


ドーベルの啖呵(たんか)に、「面白い男だな」と老人達が嗤う。


「だからこその『ゲート』なのさ」

ヘルツと呼ばれた老人が振り返る。


「良いことを教えてやろうか?次元短絡路(ゲート)には、素晴らしい力が眠っていたんだよ!それを、このヘルツ様が発見したのさ・・・。

いいか、よく聞け。ゲートは本来、『ペアリングした物同士』でしか使用出来ん。だが、ゲートを2つ直列に並べると・・・だ。ある一定の条件が揃った時、『その向こう側』に何光年も先の空間が繋がるのだよ!これは歴史的な大発見なのさ」


「・・・ゲートが、並ぶぞ!・・・見ろっ!」

オームと名乗る老人が前方を指差した。


2つの巨大なゲートが、ゆっくりと座標を重ねようとしている。その向こう側に・・・


「おおっ!アレは・・・あの光はまさしく、トラピスト・ワンだ!トラピストfの主星だぞ!」

老人達が一斉に立ち上がる。


「おお・・・素晴らしいっ!まさに『新世界』だぞっ!」


「まっ・・・まさか、あんたら『あそこ』に行こうってんじゃねぇ・・・よな?」

ドーベルは身体の震えが止まらなかった。


「行くさ。当然じゃろ?その為の『ゲートb号機』なんだぞ?何しろb号機を上げる『口実』を作るのも大変じゃったんだからな・・・」

オームが、感慨深げに言う。


「全くじゃて。あの『ザッカー』とか言う若造が邪魔さえしなければ、もっと早く計画が進んだものを・・・まぁ良い。こうして無事に最終段階を迎えたんじゃからな」


どうなってるんだ・・・?ドーベルは頭がついて来ず、混乱していた。


「あんたら・・・何しに行くんだよ?『そんな星』に。未知の惑星なんだろ?その、何とかfって星は・・・頭がオカシイんじゃねぇのかよっ!」


「お前は何を言ってるんだ?」

ヘルツがドーベルをギロッっと睨みつける。


「『頭がオカシイ』だと?・・・お前、それでも宇宙開発フェニックスのクルーなのか?『新世界の開拓』こそがっ!もっとも輝かしい業績だろうがっ!」


思わぬ大声に、ドーベルも思わずたじろぐ。


「・・・火星はな・・・もうワシらとっては『終わった星』よ。大気も水も整い、植物も動物も自生しておる・・・すっかり安定して、何も新しいものが無い。言い換えれば『何の魅力も無い星』なんじゃよ・・・それはもう『新世界』とは呼べんのじゃ!」


「あ・・・あんたら、いったい何者なんだ・・・?」

いや、正確に言えばドーベルは薄々感づいていたのだ。


『サステナビリティ委員会』

『宇宙開発に対する絶対的権力』

『正体不明』

『サイボーグの身体』


これらが示すものは何か、が。

「まさか・・・あんたら・・・あんたは・・・」


老人達を指し示す指先は、明らかに震えていた。


「察したか?その通り。・・・ワシらは『オリジン12』なのさ!」


ドーベルは気が狂いそうだった。

時間が、歴史が、一気に遡った気分だった。


「じょ・・・冗談キツいぜ・・・今は2900年代だぞ・・・650年前の人間だって言うのかよ・・・ウソだろ・・・」


「残念ながら、パイロット君。これはウソでも冗談でもないのだよ。我々の頃はDNA操作技術も未熟でね・・・ついは『やりすぎた』んだろうな・・・我々は『極端に老化しない』身体になってしまったんだよ。だから、地球に戻ることも出来たのさ・・・。

我々の功績があったからこそ、宇宙開発の『今』があるんだ。そのため、誰も我々には逆らえない。それが『オリジン12』なのさ!」


もはや、ドーベルは立ち上がる力も失っていた。


「だがな・・・火星が『落ち着いた』今、その功績は徐々に色褪せつつあると言ってよい・・・昔の、我々が血反吐を吐くような苦労をした経験を何も知らない若造どもがっ!公然とワシらを批判し、反旗を翻しつつあるっ!こんな事は決して許されんのじゃ!」


ドン!とオームが椅子を叩いた。

「この現状を打破し、再び我々が栄光を取り戻す方法はただひとつっ!それが『新世界』なんじゃよ!」


こ・・・このまま、なのか?このままオレは、この頭のイカれた老人どもと『新世界』とやらに拉致されるのか?

ドーベルは泣きそうになっていた。


「今の火星でチンタラやってる連中は『苦労』を知らん・・・我々がかつて味わったような『苦労』をな・・・彼らは今の環境を『当たり前』だと思っとる!そんな事だから、我々に対する敬意が足らんのだ

・・・だから、我々は彼らに『七難八苦』を与える事にしたんじゃ。恐竜(グリーン)や、ガキを焚き付けてな・・・だが、アルタイル如き若造がワシらに『疑い』を持ち始めおった!生意気にっ!」


そういう事か・・・ドーベルはアルタイルの突然な『解任』を驚いていたのだ。アルタイルに責任はない。むしろ、事故の対処に力を尽くしていたほどだ。

だが『彼ら』にとっては、己の立場を危うくする存在として映ったのだろう。


「そこで・・・だ。ワシらはこの『新世界計画』の仕上げとして、『花火』を上げようと・・・考えたのよ。『ワシらが作った』火星を、馬鹿な若造共から取り上げるためになぁ!」

オームが指差す先には、明々と光るプシケが迫っていた。


「まさか・・・『アレを火星に落とそう』ってんじゃねーよな・・・馬鹿な・・・狂ってるっ!あんたら、狂ってるぞっ!」


悲鳴に似た叫びを上げるドーベルを無視し、輸送艦は直列したゲートを潜りかけていた。


「・・・ほざけ。もはや、お前らのようなガキの手に負える段階ではないわ!」

ふと、ドーベルはクラウドの事を思い出していた。


なあ・・・クラウド・・・お前なら、この事態にどう対処するよ?ザッカーの時に、お前はそれでも諦める事をしなかったよな・・・あの時・・・


「っ・・・・!」

ドーベルの頭に『最後の方法』が浮かんだ。


『それ』しかねぇ・・・それしかよ・・・!








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