隠匿
クラウドはサンダーを呼び寄せて、さきほどレインボウが居た辺りに来た。
「『心当たり』って・・何があるって言うんだよ・・?」
サンダーはまだ、腹にダメージが残っている様子だ。
「・・・さっき『見た』よね?変な光を・・・!アレは何かが太陽光を反射しているんだ・・・けど、目視で見えるほどに近づいてるっていうのに、何のアナウンスも無い。変だと思わないか?」
「いや・・・輸送艦とかじゃないのか?」
「違うよ・・・輸送艦にしてはシルエットがボケていたんだ・・・ホントなら、もっとハッキリと形が見えていいハズなんだ!」
頼む、予想が外れててくれ・・・。
クラウドには、ある恐ろしい『予想』があったのだ。
エンケラドスに行った時、ザッカーは『会えて嬉しいとは言わないが』と言った。それはそうだろう。クラウドが邪魔をしなければ、そんな辺鄙なところに『島流し』されるハメにもならずに済んだのだから。
だが・・・だったら何故『ワザワザ声を掛けた』のだ?
それも『あそこは、ああだから良くない』とか、こじ付けに近い愚痴話をだ。彼は何を伝えたかったのだろうか?クラウドは『それ』をずっと考えていたのだ。
彼は、最後に「プシケでなくて良かった」と言った。
もしかすると、『それ』を言わんがために・・・
プシケは火星の外を回る小惑星帯にある、直径500kmほどの『鉄製小惑星』だ。その鉱物的資源価値はまさしく『天文学的』と言われ、開発が進められていた。
最近ではそれを火星近くまで牽引して利用する方法も模索していると聞いたが・・・
『謎の光』が、もしもプシケなのだとしたら・・・だ。何かの陰謀があって、その存在を『隠す』理由があるならば『それ』はひとつしかないだろう。
クラウドは、顔から血の気が引くのを覚えた。
話は、クラウドがレインボウと対峙する少し前に遡る。
ドーベルが操艦する輸送艦は、程なく火星行きのゲートを潜り終わろうとしていた処だった。
「あーあ・・・気が重いなぁ・・・」
ドーベルがコクピットで、ため息をつく。
その音声は、機関室にいたチェアにも届いていた。ザッカーの教訓を活かすために、コクピットと機関室の音声は常時、繋がるようになっているのだ。
「おいおい、聞こえてるぞ?ドーベル。というかよ、お前は今回が『初・艦長』なんだぞ?もっと喜んでいいんじゃねぇのかよ?」
チェアの励ましに、ドーベルがふっ・・・と笑う。
「いや・・・それはまぁ・・・そうだけどな。『そこ』じゃなくてよ・・・『積荷』がな、気に入らねーって言うかさ」
火星は建築ラッシュという事もあり、鉱山もフル稼働している。当然、人手不足は顕著で火星からは『人手が欲しい』と要請が出ている。つまり・・・『受刑者』だ。今回も11名がリストされ、『積荷』として乗艦している。
ドーベルは、この構図が好きになれなかった。
火星が潤うために、本来は行かなくても良いはずの受刑者すら、駆り出されている。『人権とは何だろう』と考えた時に、何か複雑な気持ちにならざるを得ないのだ。
「よし・・・ゲートを潜り終えたな・・さて、サテライトに進路を・・おや?何だアレは?」
ドーベルは左方向に明るく光る『天体』を見つけた。
「ウスイ、あれは何だ?」
輸送艦のAIに、確認をとる。すると、意外な回答が返ってきた。
"何がでしょうか?ドーベル艦長。こちらでは、何も異変は観測されていませんが?"
確かに、電子モニターで見る分には『何も映っていない』だが、目視で見る限り、明らかに『それ』はあるのだ。
「変だな・・・」
ドーベルは意を決して、自身の双眼鏡を取り出した。そう、暇な時に『余暇として』使っているものだ。それを手にして、ドーベルはじっと『その方向』を見る。
「アレは・・・小惑星・・・? いや、それにしては輝きが妙だが・・・もしかしてアレは・・・プシケか!」
ドーベルも以前、プシケに行った事がある。鉄鉱石のサンプルを持ち帰るためだ。
双眼鏡の先に見えるその姿は、その時に見た光景によく似ているのだ。
「確か・・・プシケを『牽引する』という話は出ていたと思うが『今日』とは聞いてないぞ?航路安全の問題もあるから、聞かされないという事は無いと思うんだが・・・」
相変わらず、電子モニターには何の表示も出ていない。
「もしや・・・天体監視システムが侵入されているとか・・・無いよな?」
ドーベルの脳裏に、ザッカーの事件が蘇る。あの時も侵入が疑われたのだ。
「・・・もしそうなら・・・これはヤバいぞ・・・!」
ドーベルは無線通信機のマイクを握った。
いや・・・待てよ?
一瞬、ドーベルが思い留まる。
サテライトからも、警告は来ていないのだ。
「もしも・・・もしもサテライトに『サダ』の工作員が居たとして、だ・・・それは何処に居る?・・・チクショウめ・・・『居る』としたら、間違いなく通信班だよな・・・」
クラウドは以前、通信班に配属されたレインボウについて『サダでは?』と疑っていた。
だとすれば、正規の通信手段では『握り潰される』危険がある。もっと疑うならば『それ』が目的であるかも知れないのだ。
「どうする・・・?どうすれば良い?」
数秒、思案したあとにドーベルはマイクを握った。
「・・・聞こえるか、アカツキ?クラウド君に『パーソナル通信』を入れたい・・・」
"ハロー、ドーベル。了解しました。今、確認をとります"
『パーソナル通信』なら、サテライトの通信班を排除出来るはずだ、と踏んだのだ。
だが・・・
「・・・ドーベルさん・・・こんばんわ、クラウドです」
通信機のスピーカから、『クラウドの声』が聞こえる。しかし、その声は『不自然に』途切れ途切れだった。
しまった・・・やられたぜ・・・!ここまで『手』が回ってやがったか・・・。
ドーベルが唇を噛みしめる。
噂、というか都市伝説レベルでは聞いていたが実物を聞くのは初めてだろう。だが、ドーベルには『それ』が何なのかすぐに理解出来た。
これは『合成音声』だ・・・!
アカツキや他のブレインが、都合の悪い通信を察知して音声を『書き換える』という噂は以前からあった事だ。だが、本当にそれをするとは・・・
この分では、何を言っても向こうに音声が届くことはあるまい。
「くっ・・・どうすりゃ・・・良いんだ・・・」
マイクを握る手に力が篭もる。
その時だった。
「ふん・・・『どうする』って?別に、どうもせんで良いだろう?『君』には関係の無い話だからな」
ドーベルの背後から、聞いた事の無い声がする。
「だっ・・・誰だっ!」
慌てて振り向いたドーベルの視線の先に居たのは、数人の『老人』だった。




