正体
「はははっ!『完璧なヒューマノイドが出来る』って?あんた、面白すぎるわ。やっぱり被害妄想じゃないの?それとも遅れてきた中二病患者なの?」
馬鹿にした口調のレインボゥに、それでもクラウドの表情は険しいままだ。
「・・・アカツキが言ったんだ。『ヒューマノイドはコストが合わない』って。でも『技術的に不可能』とは言わなかった。アカツキは知られては困る情報を決して語らないけど『それ』が返って相手に情報を与える事がある・・・つまり逆に言えば『コストを度外視』すれば、充分に可能だという事なんだ!」
ふん、とレインボゥが鼻で笑う。
「何か、確証でもあるって言うの?」
「あるさ・・・僕は火星でVF-X実証機を見たんだ。人工筋肉・・・アレは凄い技術だよ。その時、現代の技術を持ってすれば人間の筋肉の動きを完璧にトレース出来るんだ、と実感したんだ。それに・・・あれは元々医療用の技術だから、人間サイズにするのには問題無いハズなんだ」
レインボゥの、クラウドを見下すような視線に変化は無い。
「ふふん!確かにそれで『身体』は出来るかもね?けど、『制御』はどうするの?人間には骨格筋だけで400とかの筋肉があるのよ?それらを同時並行で細かくスムーズに制御する方法があるとでも言いたいの?」
「・・・ある。『人間の脳をコピー』すればいいんだ。・・・ロボットの計算では難しくても『人間』なら『普通』にしていることだからね。人間の脳は3段階に出来ていて、その一番底辺に当たる『小脳』で手足の動きをコントロールしている。
そこで、とある人間の脳を丸のまま『ブレイン・スキャン』して、その行動原理とシナプスの繋がりをデータ化するんだ。それを、そのままデータとして与えれば機械学習に必要な時間を大幅に短縮して、スムーズな動作が可能なハズなんだ。それがつまり、『ナーヴィタル・フィードバック・システム』なんだよ」
「『とある人間』ね・・・思い当たるフシでも?」
じりっ・・・とレインボウが間合いを詰めてくる。或いは会話に集中させて、間合いを気取らせない作戦なのか。
「思いたるフシ?・・・あるよ、残念ながらね。僕は地球を出る時にメディカル・チェックでDNAスキャンを掛けられたんだ。恐らく『その人』も同じだと思う。その時に脳のデータを採られたんだ。・・・・そして、人格ごとコピーした『あなた』が誕生した、と」
「ふふ・・・面白い仮説だわ。けど、何の証拠も無い話ね?」
多分『勝負』になれば、一瞬で決着が着くだろう。だが、今回は五分五分よりも『分が悪い』とクラウドは踏んでいた。
「証拠?いや、証拠はあるよ。『VF-X実証機』だ。思えば、アレはおかしな話なんだ。シバさんが言ってた・・・『アレには莫大な開発コストが掛かってる』って。
いくら実証機とは言え、リスクが大きすぎて何の確証もないままにそんな莫大なコストを投じて作れるハズが無いんだ。つまり、『アレ』が問題なく使えるという何らかの確証があったからこそ『製造の承認』が降りているんだよ、そして!」
一旦、クラウドが息を継いだ。
「・・・不思議な事が、もうひとつあった。そう、『誰も使いこなせない』ハズの実証機を、姉さんだけが『最初から完璧に使いこなせた』んだ。何故だ?!・・・ここから言える事はただひとつ、あの『実証機』に入っていたデータは『姉さんのデータ』だったんだ!本人のデータを本人が使うんだ、使いこなせて当然なんだよ!」
「なるほど・・・あなた、厄介な人ね。火星に来なかったら探偵が出来たかも知れないわ。でも、それとアタシがどう関係するの?」
二人の間合いは、更に極限に迫っている。
「いくらデータがあるとは言え、それをいきなり『形』には出来ない・・・。大型のプロジェクトの場合、まずは模型やミニチュアを作って実証実験をするのが常だとアカツキも言ってたからね。だから、まずはVF-Xを建造する前に何処かで『小型版』を作ってテストしているハズなんだ。それが・・・」
「ふーん・・・それがつまり『アタシ』って事?」
「・・・僕の眼は誤魔化せないよ?『そう』思ってから、機会があるごとに『あなた』の筋肉の動きを見ていたんだ。前から何か『イヤな感じ』はあったんだけど・・・見れば見るほど、あなたの動きは『姉さん』そのものなんだ。そして、さっきの『蹴り』で確信したんだ・・・」
「あらあら、笑っちゃうわね。『似てる』ってだけの当てずっぽうじゃないの」
「いや・・・『証拠』はあるよ?証拠はね」
ジリジリと間合いを詰めていた足が止まっている。もう、何時『来て』もおかしく無かった。
「・・フェニックスは個人情報の保護にうるさいだろ?それこそ『シバさんはジャンケンに弱い』なんて言う他愛の無い事ですら、同期以外には知れ渡っていないほどだ。けど『あなた』は新人研修の時、僕に言ったよね?『親戚か兄弟が居るでしょう』って。・・・アレは誰から聞いたんだい?」
『レインボウ』の口元がニヤリ、と嫌らしい笑みをたたえる。
「『聞いて』ないよね?アレは『姉さん』の記憶を持ち出したんだ。『姉さん』は知ってて当然だから。・・・けど、それはずっと僕の中で引っかかってた事なんだよ」
そう思って見るせいなのか、段々とレインボウの顔がシーガルに見えてくるような気すらしてくる。
「そう・・・なら、この勝負、アンタに勝ち目は無いねぇ?だって『アタシ』は生身じゃないんだもの。アンタが得意な『締め』も『極め』も通じないわ。
言っとくけど、アンタの『技』は全部知ってるわよ?『姉さん』から全て引き継いだからね・・・アンタに勝ち目なんか無いんだから」
次の瞬間。
『レインボウ』の鋭い蹴りがクラウド目掛けて繰り出された。
「うっ!」
クラウドの反応が一瞬遅れる。
だが、その『蹴り足』はクラウドの鼻先を掠めただけで、見事に空を切った。
「・・・っ!」
違和感を感じて、慌ててレインボウが足元を見る。
「へっ・・・・喋りすぎ・・・だぜ・・・」
地面に倒れ込んていたサンダーの右手が、がっちりとレインボウの軸足を握り込んでいた。いつの間にか、サンダーは身じろぎが出来るほどに回復していたのだ。
「なっ・・・!」
急いで体勢を立て直そうとするも、その『隙』をクラウドが見逃すハズは無かった。素早く背後に回り込まれると、レインボウはうつ伏せに引き倒されてしまった。
「しまっ・・た・・・だが、アタシに『締め』は・・・あああっ!や、やめろぉ!」
レインボウが大声を上げる。
「全く・・・抜け目のねぇ野郎だぜ・・・」
サンダーが呼吸を庇いながらも苦笑いをする。
クラウドは自分のポケットから作業用ナイフを出し、レインボウの膝裏に突き刺したのだ。
「『あなた』が機械だって言うのなら・・・機械なりの対応があるんだ!」
膝裏の中から大量の配線やチューブが見えている。やはり、人工の身体なのだ。
「おい、止め・・・!」
構う事なく、クラウドはその配線類を引っ掴むと、そのまま外へと引き出してブチブチと片っ端から切断を始めた。これで、もう片足は不能に陥ったと言って良かった。
「よし、もう片方!」
続けざまにもう片方の『足』も破壊する。これでレインボウは完全に立てなくなってしまった。
「くっ・・・しまった・・・!」
床に倒れてバタバタしているレインボウを尻目に、サンダーがよろよろと立ち上がる。
「・・・すまねぇな、オレが回復するまで『時間稼ぎ』して貰ってよ・・・」
「大丈夫?・・・『殺してしまう』とヘッドセットから生体反応が消えて皆んなにバレるから『それ』はしないと思ってたけど・・・かなり、キツそうだっから」
クラウドがサンダーに肩を貸す。
「へっ・・・キツいな。まだ苦しいよ・・」
「『レインボウ』が姉さんをコピーしているとしたら、その『弱点』は技術ではなく『集中すると周りが見えなくなる』事だからね。会話に集中させて、サンダーの存在から意識を外させる狙いだったんだけど・・・もう少し、引っ張った方が良かったかな?」
気遣うクラウドに、サンダーがニヤっと笑ってみせた。
「いや、充分だ」
そして、一気に立ち上がって大声で叫んだ。
「くおりゃぁぁぁ!さっきの仕返しだぁぁぁ!」
言うが早いか、筋力にモノを言わせた強烈な蹴りで『レインボウ』の身体を蹴り飛ばした。
『レインボウ』の筐体はあっと言うに間に壁側に激突したあと、そのまま動作をしなくなった。恐らく、動作に必要なユニットが破損したのだろう。力を失ったその姿は、どう見てもロボットのガラクタでしかなかった。
「・・・急ごう、サンダー。レインボウが『何をしようとしていたのか』僕には心当たりがあるんだ」




