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華星に捧ぐ  作者: 潜水艦7号
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脅威

「シバさん!久しぶりです!」

火星に降り立ってすぐ、クラウドはシバの元に駆け寄った。


「おうっ!何か、少し見ねぇ間に『背が伸びた』か?」

ガシっと、シバの右手がクラウドの頭を上から掴む。


「ははは・・・流石にそれは。で・・・・」

クラウドは早速、本題に入る。


「状況はどうなんですか」


「サイアクな状況になりつつあるな。今のところは」

忌々しい、と言った具合にシバが吐き捨てる。


「ほぼ一斉に、ほとんどの恐竜たちが基地(ここ)を目掛けて北上している。時間とともに横に長く展開しているという情報もサテライトから入ってるし、もしかすると基地全体を『取り囲む』作戦なのかもな」


「・・・どう見ても自然じゃないですよね」


「ああ。『何か』あるんだろうな。クソったれめ。ただ『それ』が何かが分からん。基地の合同調査チームが血眼になって調査しているが・・・恐竜本体と接触しない限り、断定的な話は何も出来んようだな」


もしも『万が一』が発生すれば、基地は一瞬にして全てを失うことになるだろう。3重の電牧も、何処まで耐えられるか定かではあるまい。


「それで・・・こっちには何日頃に?」


「第一陣は2日後だと、アカツキは予測している。その後、3日後には第二陣が来る。コイツは『本隊』だ・・・これが押し寄せて来たら・・・まあ、諦めるしかないな」


仮に第一陣を凌いだとしても第二陣を防ぐ手立ては無い、という事だ。都合5日間で、全てを解決するしか無いのだ。


「そうですか・・・・とりあえず、僕に出来ることはありますか?」


「ああ。防災対応班は施設班と共同して電牧の監視に当って貰っている。・・・早いヤツはもう現地で待機しているしな。何しろ全ての恐竜がセンサーに映るワケじゃぁねえ。小型のヤツだとジャングルの中では、ほぼ補足できん。先遣隊に撹乱されると厄介なんでな。とりあえずは警戒と・・・何かあったら即・応撃だ。撃ち殺して構わん」


「・・・分かりました。すぐに、配置に着きます」


「頼んだぞ。お前はベルと複座機(タンデム)を使え。見張りは交代でしろ。ポイントはB26地区だ。近くにはシーガルのVF-Xも居るから何かあったら無理せずに頼れよ?」


よほど忙しいのだろう。シバはそう言い残して、そそくさと去って行った。




そうして、クラウドは休む間もなくベルと一緒にタンデムの機重に乗り込むと、キャリアに乗って指定先のB26地区へと向かった。


「やぁ、クラウド君。1年振りだね、元気だったかい?」

キャリアの運転席にはガゼルが乗っていた。


「はい!お陰様で。しかし・・・突然でしたね」


「うん・・・何がどうなっているのか、現時点では何も分からないけど・・・とりあえず今は警戒するしか手が無いから・・・」


「おいっ!左を見ろっ!」

突然、ベルが大声を上げた。


慌てて左手を見ると、電牧の外に・・・居たのだ。明らかに『小型の肉食恐竜』だった。急いでガゼルがキャリアを停車させる。


「あれは・・・ディオニクス種だ・・・」

ガゼルが絞り出すように言う。


ディオニクスは種ティラノサウルス種辺りと比べれば遥かに小型だが、その分スピードと小回りが利く厄介な相手なのだ。それに『的』が小さい分、射撃も難しくなる。


どうやら、ディオニクス種は1頭だけのようだ。相手もまた、こちらの様子を伺っているようだ。


ディオニクスは基本的に集団行動だ。『1頭だけ』という事はあるまい。となれば先遣隊が様子を見に来ているとみて間違いあるまい。事態は、シバが予想した『サイアクの状態』に近づきつつあると言えた。


こちらが自分を警戒していると理解したのか、ディオニクス種はすぐにジャングルへと戻って行った。


「シバさんっ?こちらクラウド!今、ディオニクス種を発見っ!やはり・・・」

クラウドの無線が終わる前に、次の無線が割り込んできた。


「アタシだぁっ!」

すぐにシーガルだと分かる大声だった。


「今、電牧の外にディオニクス種がいやがる!2頭だっ。野郎が・・・こっちを伺ってやがる・・・」

やはり、ディオニクスは単独行動では無かったのだ。


「聞こえるか?クラウド、シーガル!何としても電牧に接近させるな!ヤツら、統率が取れすぎてやがる。もしかすると仲間の誰かを『犠牲』にしてでも、電牧突破を図る可能性がある」


電牧の威力は確かに凄い。だが、一旦何かが引っかかって短絡(ショート)すれば、その回路は自動的に遮断されてしまう。他の回路を保護するためだ。そのため、次から次へとアタックされれば、これを突破することは物理的に充分可能と言える。


「仲間を犠牲にしてでも・・・か。んな事があるんかよ」

ベルは少々疑い気味のようだ。


「いくら仲間のためなのか、操られているのか知らんが・・・自分から自殺するとも思えんがな」


「いえ、まったく有り得ないとは言えません」

ガゼルの声が無線から入る。


「地球でも地下で暮らすネズミの一種では、天敵の蛇が巣穴に侵入すると『生贄』になる係が決まっていて、『そいつ』だけを残して巣穴を塞ぐんです。そうやって種族全体の生存を図るんです・・・」


「ひでぇ話だな、そりゃ。置いてきぼりにされるんか」


「それが・・・『自己犠牲』のようですね。地球に居た時、研究してましたから」


そう言えばガゼルは生物の研究をしていたと言ってたな、とクラウドは思い出した。

「ネズミの研究を、ですか?」


「ああ。ハダカデバネズミと言う種なんだけど。ガンに対する耐性の強さと無酸素でも即死しないという強い生命力があるんだ。だから『宇宙向き』という事でね・・・」


自分たちはどうなんだろう、とクラウドは思う。


地球人類のために、自分たちはネズミのようにその身を捧げているのだろうか。それとも『蛇』を撃退出来るのか。

遥か遠くの空に、複数の翼竜が飛ぶ姿が見える。


『その時』は確かに迫っていた。






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