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華星に捧ぐ  作者: 潜水艦7号
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勝負

「なぁ、クラウド君よ」


防災対応班のクルーは、施設班のクルー達ともに『シバが破壊した』壁の修理を行っていた。ただ、グリーンという圧倒的な脅威が去った今、それほどの緊張感があるわけでは無いが・・・


「何ですか?」

近くにいたクルーの問いかけに、クラウドが振り向く。


「君のネーチャンも・・・そりゃ相当なモンだけどさ。実際どうなの?君と二人で手合わせしたら、どっちが勝つワケ?やっぱり、ネーチャンの方なのか?」


「いやまぁ・・・確かに、昔は本当に手も足も出ませんでしたけど」


クラウドが苦笑いをする。実際、『手や足』が出ていたのはシーガルの方だ。


「僕と姉は姉弟ですけど、それぞれ違う流派なんです。・・・同じ五縄流ですけど。分派なんです」


「へー?」

質問したクルーが不思議そうな顔をする。


「五縄流柔術って言うのは、文字とおり『五つの縄を以って一つの束と成す』流派なので・・・シバさんの宗家とは別に5つの流派があるんです。

ですけど、昨今は人間の絶対数が減ってますから。流派を維持出来ない、という理由で僕達は二手に分かれて修行していたんですよ」


「ふーん。確かに、地球は人口減少が悩みのタネだけどなぁ・・・そんな処まで及んでんのか。で?最初の質問だけどさ。『今』はどうなの?」


クラウドの顔が微妙に引きつる。誤魔化しに失敗したというか。


「どうでしょう?最近はまったく手合わせしてませんから。ただ、姉の流派は打撃専門ですし、僕の流派は『締め』とか関節技メインなので。

ですから勝負をするとしたら『姉の初撃』を、僕が止められると否かに掛かっていると思います。止められれば、そのまま僕が『締め』か関節に移行して勝つでしょうし、そのままK.Oされれば僕の負けです」


「うーん、そーかー・・見てみたいような、怖いような・・だなぁ・・」

うんうんと納得したように、クルーが作業に戻る。


そこへ、シバがクラウドの処にやって来た。

「おい、クラウド・・・こっちに来い」


「え・・はい、何でした?」

クラウドが脚立を降りて、シバの元に行く。


「おう!お前、ちょっと修行に行ってこいや。資源調達本部だ」

それは、唐突な異動辞令だった。


「え!どうしたんです?」

突然のことに、クラウドが驚きを隠せない。


「別に。どうもしねーよ。火星は今から『約1年間』冬になる。知ってるな?」

シバはさも当たり前のように言う。


「ええ・・まぁ」


「すると、恐竜どもも居なくなるからよ。俺らも仕事が減るんだ。この時期は火災とか落石とかそういった対応がメインになるからな。ま、ハッキリ言ゃぁ『ヒマ』なんだ。すると困る事が起きてくるんだよ。『冬』だしな。分かるか?」


「・・・・・?」

しばし考えてから、おずおずとクラウドが返答する。


「食料・・・ですか?」


「よく分かったな。正解だよ」


補給に頼る分も少なくないとはいえ、火星は基本的に『自給自足』を目指している。

そのため、クルー達の食料も火星で栽培した作物とか、小型の食肉用恐竜とかがメインになる。ちなみに魚類はまだ、漁が出来るほどに増えては居なかった。


そのため、作物が取れない冬はどうしても食料が不足してしまう。そこで不要不急のクルーたちはこの時期、いったん火星を離れて別の任務に着くか、休暇を取るのが慣例になっていた。


「まあアレだ。色々とバダバタしてたし、ちっと早いが休暇扱いでも文句言うヤツぁ居ねぇたぁ思うが・・・折角だ。気晴らしってモンでもねーが、少し宇宙を眺めてきな。勉強になるぜ」


なるほど。自分としてはこのまま火星に留まって色々と勉強するのも悪くないとも思うけど、シバがそう言うのであれば。クラウドは「分かりました。そうします」と返事した。


「そうか。んじゃ、後の細かい事ぁアカツキに聞け。一旦、月の前線基地行きになるから、出航は1週間後の便だ。それまでに支度しときな」


「月か・・・懐かしいな」

こっちに来てまだ幾らも経っていないが、クラウドには随分前の気がしてならなかった。


シバがそれだけ言って、帰ろうとした時だった。


背後から大声でシバを呼び止めるがする。

「コラァッ!帰んじゃねーよ!仕事してけぇっ!」


場の空気が一瞬にして凍りつく。

シバの足が止まる。


「誰だ・・・今のは・・・?」


誰かを問う必要は無かった。『鬼班長』シバにそんな口が叩けるのは、基地広しと言えども一人しかいない。


「誰だぁ?決まってんだろっ!アタシだよっ!ア・タ・シィっ!」

悩ましく括れたウェストに腰袋を下げ、手袋に『シノ』をもったまま足場から降りてきたのはシーガルだった。


「てめぇ、こら!誰ぁれのせーで!こんな大穴を修理をしなくちゃぁならねーと思ってんだ!『犯人』はテメーだろうが!悪いと思ってんなら、ちっとは手伝ってけぇ!」


辺りのクルー達はオロオロするばかりだ。とてもじゃないが『この二人』の喧嘩に割って入れば、怪我をするのはこっちの方だ。何しろ『腕』が違い過ぎる。


「くそが・・・誰のせいだぁ?ああ?テメーが、シクってシャッターから外れたのが悪りぃんだろーが!黙ってキリキリ働けや!」


「フザケンナ!アタシはチャンとヤってんだよ!だからテメーも手伝ってけって言ってんだろーが!」


口喧嘩は益々ヒートアップする。一触即発の状態だ。

そこへ。


「まあまあ、その辺にしときましょうよ、ね?」

クラウドが割って入る。


『怪我をする前に止めよう』という事だ。いくらシーガルが強いとは言え、本気のシバを相手にすれば勝ち目は無いのが目に見えている。何しろシバは『宗家』の師範代だ。懐の深さが違う。


「あっ?邪魔すんじゃねー・・・・」

クラウドを払い除けようとするシーガルの手が止まった。


シバに掴みかかろうとするシーガルの手首を、クラウドが握り込んでいたのだ。


「・・・ちっ!」

シーガルが引く。


その様子を、周りのクルー達が眼を丸くして見ていた。

「・・・おい、見たかアレ」


「見たよ・・・引いたぞ?『あの』シーガルさんが。『あの体勢からでは勝ち目が無い』って事だよな・・・すげ・・」


クラウドが言っていた「掴めば勝てる」も、あながち嘘ではないな・・・と周囲は納得した。


フンっ!と鼻を鳴らしてシバが(きびす)を返す。。

「『上司』に歯向かった件はクラウドに免じて不問にしてやる。ありがたく思いな!」


「くそったれめ・・・そうだ!おい、待て」

シーガルが何かに気づいたようにシバを呼び止める。


「何だ。まだ何か言いてぇのか?」

シバが睨む。


「おうよっ!喧嘩がダメってんならよぉ!ジャンケン勝負でどうだっ!」


「ぐ・・・っ!」

『ジャンケン』と聞いて、シバの顔に明らかな焦りが出る。


「アタシが勝ったら潔く『手伝う』、負けたら『逃げていい』だ!どーだ、これなら文句ねーだろ!」


「ぬぬ・・・っ」

シバが歯ぎしりをする。


クラウドはクラウドで『ジャンケンならお好きにどうぞ』と横を向いている。


シバとしては、ここで『出来るかボケ』と逃げてもいいが、これだけ公衆の面前で『ジャンケンから逃げた』となると、後々の士気に関わる。しかし、かと言って『ああ良いだろう』と受けて立てない理由があった。


そう。シバは、昔からジャンケンに弱いのだ。


そして、シーガルは『それ』を熟知している。だからこそのジャンケン勝負を提案して来たのだ。

シーガルがニヤニヤしている。シーガルの狙いは周人の前でシバをジャンケンで負かし作業を手伝わせつつ、ついでに『恥をかかせてやろう』というものだ。


「クソ野郎が・・・」

しばし間を置いてから、シバがため息をついた。


「分かったよっ・・・手伝えばいいんだろ?手伝えば!」


勝ち目の薄い勝負をして恥をかくより、素直に手伝った方がマシという苦渋の決断だ。


「ちっ・・・!書類仕事が残ってんのに・・・また徹夜だぜ・・・くそが!」


「ギャハハハハ!最初からそーして素直になりゃぁ、いいんだよぉ!」

シーガルの勝ち誇った笑い声が、整備庫に響き渡った。




火星の自転軸が傾いている以上、当然そこには四季が生じます。

太陽の入射角が上下し、日照時間が増減するからです。地球と同じですね。

となると植物の生育には不向きな冬期には、植物食恐竜は『冬眠』するか『南下』するしか無いと思うんです。本編で冬眠ではなく南下という方法を選んだのは、大型恐竜になれば基礎代謝だけでも大変なエネルギーが必要になるだろうという推測からです。


さて、その間、火星地上本部はヒマになります。

まるで何処ぞの料理番組よろしく『そして1年が過ぎました』としても良いのですが、折角なので火星以外の話を少ししようかと。そのために主人公のクラウド君には異動して頂くことに。

暫くは科学とか技術的なテーマをメインに話を進め、火星に春が来たら戻っていただきましょう。


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