反省
「あーあ・・・何で俺達が『こんな仕事』をしなくちゃぁならないかねぇ・・・」
火星地上本部の指令室で、通信班のクルーが大きく伸びをする。
「おい、アカツキ。お前、全部『見てた』だろ?だったら『事故報告書』くらい、そっちで書いてくれれば良いじゃないか。何で人間様が書かないといけないんだ?」
『グリーンファミリーによる基地襲撃と、その撃退について』その報告書を、通信班のクルーがまとめているのだ。
"私では報告書は書けません"
アカツキは冷たく突き放す。
「何でだよ!」
"私は飽くまで人工頭脳ですから。『その時間に何があったのか』とか『各装備がどのような状態だったのか』といった事実関係を列挙する事は出来ますが、それらの情報に意味づけをする事が出来ません"
「意味づけ・・・って何だよ?」
"言い訳、とも言います。『その対応が最善であったのか』などの『意味付け』は人間の主観によるものです。それらの判断は人間がするしかありません。私達には価値観の判断は出来ないので"
「くそっ・・・!」
クルーは悪態をついた。
なるほど、確かにドラム部隊長からは『俺達に瑕疵は無かったと主張できるように書いておけ』と言われている。
仮に無理でもアカツキに書かせれば、人工頭脳らしく『公平』に書くだろうから、後になって『準備不足がどーの』とか、いらぬ説教を食らうのが見えていた。
「だったら、せめてさ。こう・・・タイピングだけでも、どうにかならんの?」
なおも、クルーは面倒臭げに言う。
「ほら、ブレイン・スキャンとかあるじゃんか。思考を読み取るヤツ。アレを使えばせめてタイピングだけでも省略出来るんじゃねーの?」
"それも実用的ではありません。過去に試した経緯があるようですが、人間の思考そのものが不安定すぎてダメだったようです"
「不安定?」
"文の途中で『あ、間違えた』とか『アイツ今頃、何してるかなぁ』などの不規則な文言がそのまま入力されてしまい・・・"
「なるほどね・・・分かったよ。やるよ、やれば良いんだろ?はいはい、やりますよって」
クルーは諦めたように作業へ戻った。
「・・・あの、こんにちわ」
クラウドが医務室に顔を出す。
「おう!あー・・・クラウド君じゃったかの」
医師のクーロンがやって来た。
「ええ。あの、チャイムさんの御見舞に来ました」
「そうか、そうか。それは律儀なこっちゃ。こっちじゃよ。来なさい」
クーロンが手招きする。
「失礼します」
ベッドが並ぶエリアにクラウドが足を踏み入れる。
「チャイムさん、お加減はどうです?」
「よぉ・・・見舞いか?わざわざ・・・すまんな。いや、助けてもらって有難うな・・・はは、かなりヤバかったみてーだしよ。ま、どうにか生きてるぜ?」
何しろティラノサウルス種の鋭い牙がいくつも腹を貫通していたのだ。死なずに済んだのは奇跡と言ってよかった。
「いえ・・・その件はシバさんから、後で怒られましたし」
「あ?どうしてよ」
「『無警戒過ぎる』って。何事も最悪を想定して備えるのが『防災』対応班の仕事だって」
シーガルもクラウドにも『恐竜はすでに南下して居なくなっている』という『思い込み』があった。それが警戒が緩んだ理由だ。
最初から全力で警戒していればグリーンの突入を許すことも無かったとも言えた。
「・・・反省はしてます。申し訳ありませんでした。結局、あの件でチャイムさんには大怪我を追わせてしまいました」
「ははは・・・そうか、そうか。何でぇ『謝りに来た』ってのか?いや、そいつは不要だよ。オレを含めて施設班に文句のあるヤツぁいねーよ。まぁ何だ。不測の事態ってなあ、何処にだってあるモンよ」
チャイムの腹に空いた『穴』はただ事では無い。
少なくとも内蔵はかなりの損傷を負った。聞いた話では食事が取れるまで回復できる可能性は低いとも。だが、それでもチャイムに防災対応班を責めるつもりは無かった。
「オレら施設班が作業をしてるとさ、何かの手違いで仲間に怪我をさせちまう事があるんだよ。まぁ・・工事現場にはよくある事さ。そういうのはお互い様でね。
逆によ、オレらのヘマでアンタら防災対応班が生命を張る事だってあるじゃんか。『お互い様』だよ。だから、んな事ぁ気にすんな。オタクの班長だって、そう思ってるハズだぜ」
「そうでしょうか・・・・」
励まされると何か余計に申し訳ない気がしてならない、とクラウドは感じていた。
「ああそうさ。『あの人』の仕事はカタいからな。ホントに班としての責任を感じてんなら『それ』を『お前、謝っとけ』って部下任せなんかにゃぁ絶対しねぇ。必ず自分から頭ぁ下げに来る・・・そういうお人よ。だから周りから信頼されてんだ」
「・・・すいません、有難うございました」
クラウドは大きく頭を下げて礼をしてから、クーロンに「よろしくお願いします」と挨拶をし、医務室を後にした。
チャイムは、クラウドが居なくなったのを確認してから、物陰に向かって声を掛ける。
「おう、もういいぞ。クラウド君は戻ってった」
「くそが・・・・」
ブツブツと文句を言いながら、物陰からシバが出てきた。
「・・・あ?誰が部下のフォローをしろって言ったよ?余計な真似しやがって・・・恥ずかしくて出てこれなくなっちまったじゃねーか!」
シバは、クラウドが医務室に入った直後にやって来ていたのだ。クラウドは背中を向いていたので気づかなかったが、チャイムから見ればそれは正面なので良く見えていたのだった。
「ははは・・・良いじゃねーか。良い部下を持って、アンタぁ幸せだよ。大事にしろよな。能力はともかく、ああいう一本気な性格のヤツはモノになるぜ」
「ふん・・・!他人の心配なんざぁしてるより、テメーの傷を心配しとけ」
プイッとシバが横を向く。
「いや・・・心配かけたな。無様にもグリーンを見て足がブルって動けなかったせいだよ、これは。
ま・・・何にしろ、結果的にグリーンが駆除されて、それで丸く収まったんじゃね?それで良いよ、それで。オレぁ何にも文句ぁ無ぇ」
そこへ、クーロンがやってきた。話を切り上げさせるべきと踏んだのだろう。
「さ・・・もう、ええじゃろ。患者も、あんまり負担かけるとな・・」
「ああ・・・すまねーが、チャイムの事は宜しく頼んだぜ」
シバはそう言い残して、医務室を後にした。
この物語に限りませんが。
「キャラが勝手に話を改変し始める」という経験をする事があります。
設定した個性が、作者の考えたセリフや行動を否定するんですね。「オレはそんな事、言わねーよ」とか「私なら、こうするね」とか。
当初、今回の話でクラウド君をチャイムの御見舞に行かせたのは、後日談を兼ねて最終章に繋がる小さな布石を打っておくためでした。
ところが、クラウドが突然「すいませんでした」と謝り始めたんです。え?予定に無いんですが。
さらに「シバさんに怒られました」と。
うー・・・ん、何だ?暫く考えてから分かりました。
グリーンが基地に突入出来たのはクラウドとシーガルがボサッとしてて隙があったからです。そこに瑕疵が無かったとは言えないでしょう。それがつまり「申し訳ない」と。
まさか、作者がキャラに教えられるとは・・・不思議なもんです。




