焦燥
クラウド達がチャイムの救護に奔走しているのを横目に、シーガルはグリーンと対峙していた。
VF-Xとグリーンは互いに間合いをとって、攻撃のタイミングを図っている。
格闘技の世界ではその極意についてよく、『後の先をとる』と言われるが・・・これは即ち『相手よりも後に動いて、先にこちらの攻撃を届かせる』という意味である。
相手の動きを読むことで、こちらの攻撃を有利に進めるための戦法だが、しかしそれも高度なテクニックがあってこその話だ。
後に動いて『先』を取られれば話にならない。ただ、どちらにしろ勝負は瞬間で決まるのは間違いなかった。
グルルルル・・・・
グリーンは頭を大きく下げて、低い唸り声を上げながらF-Xを警戒している。
「さぁ・・・来いよ・・・!」
ジリっ・・・ジリっ・・・とVF-Xが距離を詰める。
グリーンが姿勢を低くしているのは、先程にVF-Xをなぎ倒した『タックル』を決めるためだ。
地球換算で推定約8トンとされる巨体での全力タックルを喰らえば、如何にVF-Xと云えど、ひとたまりもない。『それ』は実証済みだ。
シーガルが『それ』を避けるには相手が飛び出す瞬間を察知し、左右どちらに身を躱す必要がある。人間とは違い、極端に太い『首』にカウンターパンチが効く道理は無いからだ。
シーガルはジリ・・・・ジリ・・・と間合いを計っていた。
如何なグリーンと云えど、あまり長距離からではタックルの威力が削がれてしまうし、躱されるリスクがある。かと言って近すぎても加速不足で効果が薄れる。何処かに『ベストな間合い』があるハズなのだ。その『僅か手前』を、シーガルは探っていた。
確実に、グリーンのプレッシャーは上がって来ている。『その時』は近い。シーガルは、グリーンのプレッシャーが『急変化』する瞬間を捉えようとしていた。
果たして、すぐにその瞬間はやってきた。
グリーンが突如、テンションを『下げた』のだ。
先程までと異なり唸り声を止め、じっと前を見据えている。
此処だ。
シーガルが距離を詰めるのを止める。
『此処』が『僅か手前』なのだ。シーガルはそう確信する。残りの距離はグリーンに『先をとらせて詰めさせる』のだ。そしてその瞬間こそが、こちらのタイミングになる。
それは、意外なほどに早くやってきた。
グリーンには『不利』があったからだ。
あまり此処でVF-Xを相手に時間を掛けると、残りのファミリーが他の防災対応班に倒される危険が出て来るのだ。
そうなる前に、グリーンとしては『目の前の巨人』を叩いておきたいという『焦り』があった。それが、彼に早目のダッシュを決意させたのだ。
監視カメラで戦況を見ている分には、それは一瞬の出来事にしか見えなかっただろう。しかし、極限にまで集中を高かめているシーガルには、グリーンの『飛び出し』はまるでスローモーションのように見えた。
来た・・・!
シーガルは思い切り身体を捻り、突撃してくるグリーンの牙を躱す。
そして、次の瞬間。
VF-Xの機体がグリーンの顎下に素早く潜り込む。と、同時に
ズゥゥゥゥン!
鈍い音が辺りの空気を震わせる。シーガル渾身のアッパーカットがグリーンの下顎を穿ったのだ。
「お・・・りゃぁぁぁぁぁっ!」
シーガルが操縦席で雄叫びを上げる。
火星は重力の関係で、単なる打撃では効果が薄い。しかし、地面を利用したアッパーカットなら、重力は関係なくなる。全力がグリーンの下顎に伝わるハズだという作戦なのだ。
ガ・・・フッッッッ!
さしものグリーンも『その一撃』に思わず体勢を失い、その場に転げた。しかし、それでもすぐに起き上がると距離をとり直し、再び突進の構えに戻した。
グルルルル・・・・ッ!
グリーンの眼に先程の様な冷静さは無くなっており、その口端からは鮮血が流れ出ていた。
怒りと、痛みが、グリーンのアドレナリンを全開にしているのがハッキリと伝わってくる。
「へっ・・・!ざまぁ見やがれ・・・!『さっき』のお返しだぜ?これで・・イーブンだな・・・」
シーガルは少し気分が晴れた気がした。何しろ、格闘でダウンを貰ったのは五縄の道場以外では皆無だったからだ。とてもじゃないが『そのまま』にはしておけなかった。
ふと、冷えた頭でシーガルが計器類に目をやる。何か違和感を感じたのだ。
「マジかよ・・・ここに来て『燃料』か・・・・」
『FUEL』と表示されたゲージは、燃料タンクが『ほぼゼロ』である事を示していた。
その頃、地上本部でも司令室にアカツキからアラーム・メッセージが出ていた。
"VF-X、燃料タンクの残存がありません"
「馬鹿な!15分は戦えるんじゃないのかっ!」
怒鳴り声を上げるドラムに対して、アカツキが冷静に分析する。
"15分、は飽くまで最大稼働時間です。じっとしていても人工筋肉に力が入っていれば、それだけで燃料を消費します"
「くそ・・・やはり実証レベルか・・・。あと、どれだけ戦えるんだ、VF-Xは?」
"良くて、あと一撃です"
「一撃・・・・」
ドラムの両掌には汗が滲んでいた。
130tのパイルドライバー換装には、もう数分だけ時間が必要だ。このままでは、それが間に合わなくなってしまう。
「こりゃ参ったね・・・タンクはカラッポかよ・・後は・・・人工筋肉に残ってる分だけか・・・・良くて、残弾一撃ってとこだね・・・」
シーガルも現状は理解していた。
そして、戦況が極めて悪いことも。




