思惑
地上基地までの一本道を、グリーン達は尚も疾走している。
が、しかし。その速度は決して『全速力』というワケでは無かった。
グリーンも、基地までの距離は把握しているのだ。何れにしろすぐに到着するという事はない。ここで全速力を出して基地に着いたとしても、そこでバテてしまえば何も意味も無くなってしまう。だから、体力の温存を図りながらの巡航という選択だ。
グリーンは、時折チラッチラッと後方から追走してくるクラウド達の車両を確認していた。『今はまだ距離がある』グリーンはそう考えていた。
「ガゼル!聞いてるか?」
シバから無線が飛ぶ。
「いいか良く聞け。アカツキも指摘していたが、グリーンの野郎は決して全速力で走っちゃぁいねぇ。体力温存に出てやがる。
クソ野郎め!ここでお前らが『追いつきすぎる』のは絶対にダメだ。その場合、ヤツは基地よりもお前らへの攻撃を優先する可能性が大だ!」
現状、グリーン達の一斉攻撃を受ければクラウド達に勝ち目はない。余計な挑発は危険なのだ。
シバからの無線指示は続く。
「グリーンがお前達を『今』襲わないのは、相当に距離が開いているからだ。此処でグリーンがお前達にターゲットを移したとしても、お前らに逃げられる公算が高い。
その場合、ヤツらはムダに体力を使うことになるんだ。それと『今』はまだ、お前たちが最優先の脅威ではないと踏んでいる『嫌い』がある。今はとにかく距離を保ちつつ、基地まで追走しろ!」
「分かった!気をつけるよ!」
ガゼルはトラックとグリーンの間隔を示すレーダー距離計に眼をやる。その数値は、さっきよりも10mほど接近していることを示していた。
「く・・・っ!グリーンのヤツ・・微妙な事をしてる・・・」
トラックの速度を一定に保つ事は簡単だ。しかし、グリーンは自身の速度を上げたり・落としたりを微妙に繰り返しながら、追走との距離を測っているのだ。
『出来ることなら』という程度ではあるが、グリーンとしては手こずりそうな『あの巨人』を他の相手が居ない間に叩いておきたいと考えていた。
なので、走る速度を『分からないくらいに』落とすことでガゼル達に気づかれずに『射程距離』に収められないか・・・と狙っているのだ。
それを考えると徒に距離を詰める事は出来ない。
だが、ガセル達の方としても、あまり距離が離れ過ぎると本部に到着したときに援護が遅れるリスクがある。ギリギリの間合いでの攻防が続いていた。
「おーい、急げっ!1号クレーン、2号クレーンともにゴーヘイだっ!」
整備庫では、130tへのパイルドライバー換装が急ピッチで行われていた。
機重班と施設班のクルー達が、大慌てで取り付け作業をしている。何しろ、戦闘機と建設機械との合体という無茶振りだ。それも、事前検討もなければ図面もない。何もかもがブッツケ本番である。
あらちこちらで溶接の火花がバヂバチと音を立てながら、激しく輝いている。
「油圧配管、ベンダー加工が遅れてるぞ!おっと、配管は『行き』だけで構わん!戻り配管は作らなくていい!どうせ1回だけなんだ!」
機重班長の指示する大声が格納庫中に響く。
「窒素は!?窒素はどうした?アキュムレータへの充填を急げ!最大充填させて、最低限の『抜け』だけは確認するぞ!圧力センサーはどうした?モニターは操縦席で使うから、今のうちに配線を伸ばしておけ!」
ドラムは司令室の窓から、固唾を呑んで『グリーンの来る方向』を見ていた。
「・・・・来たな・・・」
向こうに、疾走してくる土埃とティラノサウルス種6頭の群れが確認出来る。
「おのれ・・・『創造主』に逆らう事の意味を叩き込んでくれるわ・・・」
ドラムが無線のマイクを手に取る。
「来たぞ!総員、戦闘配置につけっ!・・・シバ、戦闘機重は何機出せる?」
建設用と違い、戦闘用の機重は常にローテーションで整備をしているから『全機』がすぐに実戦に出られるワケではないのだ。
「15機・・・いや、1機はクラウドが乗っているから14機だな・・・動けるのは全機、外で待機させてる。後は、シーガルのVF-Xだ」
すぐにシバから返答が返ってくる。
「そうか・・・搭乗メンバーは人選するのか?」
「いや、通常ローテのメンバーが搭乗している。こういうのも『順番』だ。行きたくて行けないヤツも居るだろうし、その逆も居るかも知れんが、イチイチ意向を聞いてるヒマぁねぇぜ」
防災対応班は総員42名体制で運用されている。事故や事件は何時有るか分からないので、ローテーションによって入れ替わりで備えるためだ。
「・・・分かった」
ドラムは短く返した。
相手が相手だ。全員が無傷で帰還出来る保証は何処にもない。ゲームと違ってしくじれば死に繋がるのだ。
5年前の事故で、それは誰もが身に沁みていた。だが、臆して此処で引き下がれば基地全体の命運に関わる。『防災対応』とはそういう部署なのだ。
「来ましたっ!グリーン、構内に突入っ!防災対応班と交戦に入ります!」
司令室に絶叫が轟いた。




