所以
「『シーガルのオモチャ』とは?」
アルタイルが訝しがる。
「アイツにしか『使えない』んだよ。俺も試したが・・・マトモには動けん。ウチのクルー達にもヤラせてみたが、とてもじゃないが立ち上がる事すら困難なシロモノだぜ」
シバはブスっとした表情だ。
「ん?どういう事だ?性能に問題があるのか?」
「いや。機体に問題はねぇ・・・問題は人間さんの方だ」
「?」
アルタイルが怪訝な顔をする。
「・・私が、代わりに説明しましょう」
アルタイルの疑問に、ドラムが答える。
「VF-X実証機は医療用の義肢に使われる『ナーヴィタル・フィードバック・システム』を採用しています。
元々、駆動源である人工筋肉そのものが医療用の技術ですからね。相性が良いんです。これは人間の筋肉を動かす神経の電気信号をセンサーで受信して、それを増幅することで人工筋肉に伝える仕組みです。
また、VF-Xには面積式の接触センサーが着いていて『何か』に機体が接触すれば、その信号をパイロットの感覚神経に逆送り出来るんです。これによって、パイロットはVF-Xの機体を自分の身体と同じ感覚で操縦出来る・・・ハズだったのですが」
「・・・原理は聞いている。だが『上手くいかない』というのは?」
アルタイルが重ねて尋ねる。
「ええ。例えば、一流のベースボール・プレイヤーは体重が1kg増減しただけでも身体の感覚が変わって『ヒットが打てなくなる』事があるそうです。
・・・まぁ、そこまで極端では無いにしろ我々の人間の『筋肉を動かす』という動作は、生まれてから今までの『筋肉へ与えた電気信号と、それによる動作の結果』という膨大な記憶データを参照していますから。それが突然『身長3倍』になって、まともに『自分の身体』を動かせるのかというと・・・」
ドラムは苦々しく答える。
「うー・・・ん、難しいのか」
やや残念そうに、アルタイルが溜息をつく。
「はい。時間を掛ければ『ある程度は』出来るようになるんですが、今度は機体から降りた時に反動がでて『生身の身体が動かせない』という副作用が出るんです。問題としては、こっちの方がむしろ深刻ですね」
「思ったようにはいかんか・・・だが、『シーガルだけは使える』と?」
「ああ・・・アイツは全く問題ねぇ・・自分の身体と同じように使いやがる。思うにアレだな。ヘンに頭で物事を考えるヤツはダメって事だな。むしろ、頭を空っぽにして『全てを受け入れる』とした方が良いってこったぜ、クソ野郎め」
シバは忌々しい、といった口調だ。
「そうか・・でもまぁ、実験データは多いに越したことは無いさ。何か気に入らないことでもあるのか、シバ君」
シバは相変わらず、ブスっとしている。
「アイツにはな・・・コスト意識が無ぇんだよ・・実証機の開発にいくら掛かってんのか全く分かってねぇから、テストで無茶しやがる。貴重な実証機が何時オシャカになるかとヒヤヒヤしながら見てんだよ、こっちは」
「ははは、そうか。でもまあ、それ位でないとポテンシャルは測定出来んさ。それに、どの道『その時』が来たらシバ君がVF-Xに乗るワケにも行くまい?」
ドラムが諭すようにシバに問いかける。
「あ?俺が乗ったらダメってかよ?」
「ああそうだ。いい加減『喧嘩屋』は卒業したまえ。聞いたぞ?この前も施設班のゴリラ班長とヤリあったらしいな」
自分が陰で『喧嘩屋』とあだ名されているのは、シバ自身も知っていた。
「アレは土建屋がだな・・・」
鬱陶しそうにシバがふくれっ面をする。
「喧嘩の理由なんざ、どうでも良い。それよりももっと大局に立ち給え。シーガル達を信頼して、戦局を高いところか見ながら、各クルーに指示を出す役割をするんだ。自分が先頭に立って戦うのではなく。君は班長なんだぞ?」
「・・・・」
プイっとシバが横を向く。
「ま・・・誰が乗るにしろ今の内にVF-Xを戦力化出来れば、それがイチバンだよ」
アルタイルが話を戻した。
「そうだな・・・後は燃費の問題がどうにかなりゃぁ、アレも実戦投入が可能かもな・・・今、機重班の連中が改造を検討してる。根本的な特性は火星ではどうにもならんが、運用で何とか出来ることはウチでも試してみるさ」
気を取り直したようにそう言うと、シバは席を立った。
「・・・なるほど、神経連動って難しいんですね・・・ところで、ガゼルさん。ひとつ聞いても良いですか」
クラウドがVF-Xを見上げながら尋ねる。
「モーター式の機重はバッテリー駆動だし、油圧式はメタンエンジンでしょうけど・・・こいつは何を燃料にするんです?」
「ああ、背面を見てごらん。こいつはねアレが燃料タンクなんだ」
ガゼルがVF-Xの背中にある半透明のタンクを指差した。
「・・・何です?アレ」
「アレはね、簡単に言えば『糖』の一種なんだ。化学合成されてはいるけど、原液はドロっとしててハチミツに似てるよ。舐めると『激甘』だけどさ」
「糖・・・ですか?」
クラウドが聞き返す。
「うん。人工筋肉は爆発的な有機反応で筋繊維を伸縮させる仕組みだから、そのためには液糖がもっとも効率が良いんだ。けど、液糖はどうしても動粘度が高いから消費にタンクからの供給が追いつかなくてね。
仕方ないから筋繊維自体に、ある程度の『貯糖』をさせておくんだけど・・・激しい動きをすると数分で使い切ってしまって、再び貯糖が完了する迄の数分間は動けなくなる。
それに、背中の燃料タンクもあれだけ積んで15分が限界だしね。・・・予備のタンクは作りかけてるけど、課題は燃費かなぁ」
そう言って、ガゼルが首を捻りながら腕を組む。
「ははははっ!ダイジョウブだって!」
シーガルが、またしてもガゼルの背中をバン!と叩く。
「痛いですって!」
ガゼルが悲鳴を上げる。
「気にすんな!要は、燃料が尽きる前に恐竜をツブせば良いんだろ?簡単、簡単!ヨユーだって」
姉が『他人には動かせない』というVF-Xに順応できるのは、こういう性格のお陰であろう。
人には誰にでも取り柄というものがあるのだと、クラウドは妙に納得した。




