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華星に捧ぐ  作者: 潜水艦7号
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戦略

「おりゃっ・・・・と!」

シーガルが機重から飛び降りる。


「ちょっ・・・!シーガルさん、危ないですって!ちゃんと昇降ステップを使ってくださいって」

機体整備の担当者が、シーガルを諌める。


二人が乗っていた機重は『1.5t(トン)機』と呼ばれるもので、機重として最も軽いタイプだ。

だが、それでもコクピットから地上までは2m近い。基地内は磁力による擬似重力が作用しているから、重力の感覚は地球上にほぼ近いと言える。


「いーの、いーの。それよりさぁ、『アタシの』VF-Xちゃんは元気にしてるぅ?」

シーガルは全く、意に介さない様子だ。


「・・・もう、これだから・・・勘弁してくださいよ。此処で事故でも起こされた日にゃぁ、私らが責任とらされるんですよ?・・・おい、ガゼル。前座席に居たの、クラウド君だろ?彼も降りるだろうから、ステップを準備・・・・」


言いかけて、担当者がふと横を見た。


「え?・・・何でしょうか?」

クラウドは、すでに何時の間にかシーガルの横に居た。


・・・なるほど、『そういう事』か。

彼は何となく納得した。

全く気配を悟られることなく、当たり前のように音も立てずに2mの高さから降りている。なるほど、その運動能力は確かなようだ。


実の所、クラウドを初見した時は皆一様に『拍子抜け』を覚えたものだった。

何しろ『鬼班長』シバの甥っ子であり、『暴れ馬』シーガルの弟だ。更に、輸送船ではテロリストを一撃でK.Oして火星の危機を救ったという武勇伝付きでの登場と来たものだ。


『さぞかし、強面が来るのだろう』と身構えていたら『あ・・・どうも、クラウドと言います』と挨拶する華奢な子供?がやってきたものだから、『え、マジ?アレなの?!・・・もしかして輸送船での話も盛ってんじゃねーのか?』と皆、疑っていたのだ。


「おう、カゼル。良いところに居たじゃねーか!アタシに代わってコイツにVF-Xの『何がスゴいのか』を解説してやってくれぃ!」

シーガルがガゼルの背中をバン!と叩いた。


「痛っ!・・・痛ったいなぁ、もう・・」


「どうも、すいません。いつも迷惑を掛けているようで・・・」

ふくれっ面をするガゼルに、クラウドが取りなす。


「いやいや、いいですよ。はは・・慣れてますから。クラウド君ですよね?ボクはガゼルと言います。シーガルさんの頼みですから・・・少し、機重の動力について話をしますよ」


気を取り直してガゼルがVF-Xの方へ歩き出した。


「今、クラウド君達が乗ってきた『1.5t機』のような中・小型機重は電気モーターで駆動するタイプがほとんどです。それに対して『50t機』のような大型は大抵、油圧で駆動させるんです。

油圧は力が出るけど、スピードがありません。モーターは逆で、スピードはあるけどパワーに欠けるからですね。・・・でもこの実証機だけは全く違うんですよ・・・」


ガゼルがVF-Xを見上げる眼には、技術に対する尊敬の念すら見て取れるようだった。


「・・・あの、何か『筋肉っぽい』機体ですよね?ははは・・・」


「ええ、何しろ本物の『人工筋肉』ですから」

クラウドの問いに、ガゼルがニッコリと笑う。


「え・・・?人工筋肉・・・ですか?」


「本来は医療用だった人工筋肉を、巨大化させて機重の動力として使えるようにしたんです。これなら、パワーとスピードを両立できますからね。中・大型の恐竜に対抗するには火器より『これ』で白兵戦をした方が有効ですから」


それを聞いて、クラウドが妙な顔をする。

「え?どうしてです?普通に機関銃とか迫撃砲の方が有利な気がしますけど?」


「うーん、5年前に『それ』で大苦戦してるからねぇ・・・」

ガゼルが頭を掻く。


火星(ここ)は重力が少ないだろ?だから威力のある・・・つまり、反動の強い火器を使うと反作用によって後方に跳ね飛ばされてしまうんだ。だから大口径の火器は不向きなんだよ。その上、恐竜達(かれら)の皮膚は異様に頑丈でね・・・ライフルくらいじゃ、ビクともしないんだ」


5年前に農場がグリーン達の襲撃を受けた時も防災対応班が戦闘用機重で応戦したが、機関銃の直撃くらいではビクともしない上に、スピードに圧倒されて大損害を出している。


「ティラノサウルス種の最大咬合力は『約6t』と判明しているけど、それだけ『咬合力』がなければ、彼らの『主食』であるトリケラトプス種の皮膚が貫けないんだ。まぁ・・・皮膚と牙との軍拡競争だね」


うっかりすると忘れそうだが、此処は地球ではなく火星なのだ。そして、基地を一歩外に出れば、そこは恐竜達が支配する『かつて人類が経験した事のないレベルでの野生の世界』である。


この先、人類が居住可能な系外惑星を探して移住するにしても、そうした『脅威』との戦いは避けられそうにはない。そういう意味では『対・恐竜』は、ある種の訓練(トレーニング)と言えなくもなかった。


「例えば虎やライオンは『爪』を武器として使うけど、彼ら肉食恐竜の『爪』は退化している。

何故だと思う?重力が弱いから『踏ん張り』が利かないんで、威力が出ないからなんだよ。けど『噛みつき』なら重力は無関係だからさ。彼らのアゴが発達したのは必然の戦略なんだよ」


「へぇ・・・」

クラウドが感心する。


「ガゼルさんは整備担当なのに、恐竜も詳しいんですね?」


「ははは・・・!いやまぁ。ボクは元々、恐竜の研究がしたくてフェニックスに来たからね。今はまぁ・・・機械イジリの担当だけど」

ガゼルは恥ずかしそうに頭を掻く。


「とにかく、そんなワケで恐竜相手には火器よりも『肉弾戦』の方が有効じゃないのか?という仮説から生まれた発想なんだ。それに、木々の間へ上手に身を隠されると銃器戦は不利だしね。・・・相手も最近は『学習』しているから、戦い難いって、シバさんも言ってたよ」


「・・・でも・・・」

クラウドが疑問を呈する。


「『勝てる』の?肉弾戦で」


「いや。『勝つ』必要はないんだ。『こいつは手強い相手だ』と思わせれば、それで良いんだよ。

彼らはバーチャルゲームの敵キャラみたいに死ぬまで挑んできたりはしない。『自分の方が不利』と分かったら、大怪我しないうちに退散するのが生物界というものなんだ」


『人型のロボットは戦闘において実用性がない』と言われています。

確かにその通りで、現実世界では人型をしているメリットは薄いと言えます。まぁ・・・ロマンはあると思いますが。あえて言うとしたら、ジャングルのような悪路を人間に代わって踏破するというシチュエーションでなら、汎用性の点からメリットがあるかも知れません。

さて、汎用も含めてロボットがあまり人型をしていない理由のひとつに『動作が複雑すぎる』というものがあります。何しろ人間には大小700以上の筋肉がありますからね。これを全てモーターで置き換えていたら大変な事になりますし、制御も煩雑になりすぎてしまいます。

そのため、多くの場合でロボットは『限定された作業』に特化することで、駆動を単純化させているんですね。コストも安くなりますし。

将来的に完全人間型のロボットが出来たとしても非常に高額になるでしょうし、多分『それ』は予算を問われにくい用途でしょうね。



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