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華星に捧ぐ  作者: 潜水艦7号
22/70

実証

「何やってんのよぉぉぉっ!!」


二人乗用(タンデム)小型機重の狭いコクピットに、後部座席からシーガルの怒鳴り声が響く。


ガシュー・・・・

機重はシーガルの掛けた急ブレーキで停止した。


「な・・・突然怒鳴るなよ!耳が痛いじゃないか、姉さん!」

急停止でキャノピーに頭をぶつけそうになりながら、クラウドはどうにか踏みとどまった。


「はぁ?チャンと前を見ろって言ってんの!この、ボケっ!」

ガン!とシーガルが後ろから前部座席を蹴飛ばす。


「・・っ!痛いって・・・」


「前っ!」

クラウドが振り返ろうとするのを、シーガルが制する。


その勢いに負けてクラウドが前を向き直ると、二人が乗る機重の前をデカい鉄骨の塊が、ゆっくりと横切って行った。


「すげ・・・何だ、あれ・・・」


呆然と鉄骨を見送るクラウドに、再度シーガルから雷が落ちる。


「何、脇見してんのよっ!カンカンって音はクレーンが東から西に通過する時の音だから構内の四つ角は『一時停止』って教えたでしょ?!もう忘れたのっ?事故るわよ、アンタ!」


「・・・分かってるよ・・」

クラウドがむくれる。


何しろ、火星(ここ)に来てまだ2日めだ。

機重の操縦も今日が本格的に始めた初日だし、如何に基地内倉庫の移動だけとは言え、前後左右に機重を動かすのでさえ四苦八苦なのだ。とても周囲に気を配る余裕はない。


「ほらっ!分かったらさっさと行く!此処はねぇ、アンタみたいなド素人は居ないの!アタシが直々に特訓してやるから足手まといにならないように、早く『使い物』になんなさい!分かったわねっ!」


「はいはい、行きますよ。えぇっと、左右ヨシっ・・と」

クラウドは少々辟易していた。


やっとの事で火星に着いたと思ったが、基地から外に出して貰えないので火星の大地や恐竜を見る機会が無いのだ。

折角だから観光とまでは行かないが、せめて施設見学ぐらい、させて貰ってもバチは当たらないと思うが。何しろ『大活躍』したんだし・・・



その頃。

シバはアルタイル本部長、ドラム地上部隊長と共に地上本部の司令室に居た。


「・・・『英雄』殿は元気かな?シバ君」


アルタイルは窓際から火星地表の景色を見ていた。ここは高さ50mある塔の最上階にあたる。眺めとしては悪くない部類だろう。


「クラウドなら心配は無用ですよ?見かけほどヤワじゃないんでね」

当然、と言んばかりにシバが答える。


「流石は君やシーガルと同じ『五縄流』の人間、といったところかな?地上部隊としては頼もしい新人だよ、ハハハ」

ドラムは嬉しそうに笑った。


「ところで・・・例の件はその後、どうなってるんです?」

シバがアルタイルの背中に問いかける。


人間、『背中を向ける』とは『今は話しかけられても困る』という無意識のサインでもある。つまり『俺にあまり聞くなよ?』という事だ。ドラムは何となく『その空気』を読み取ってはいるが、シバは全く意に介さないようだ。


「『ザッカー』か・・・『完全黙秘』だそうだ。一言も喋らんらしい。伝え聞くところによればな・・・」


アクアマリンことザッカー・エンデーバーグは、緊急に地球へ送還された。その後、査問委員会で取り調べを受けているのだが、捜査は決して進んでいるとは言えなかった。


問題を難しくしている原因は『物証に乏しい』ことにある。


何しろ全ては全電源喪失下での出来事だから、監視カメラもマイクも機能していない。

頼りに成るのはクラウドとドーベルの証言のみだ。唯一の物証とも言えるハズの『エンジンルームの細工』も、エンジンを再起動さるためにチェアが修理してしまっている。『他人の手が加わった』となれば、証拠能力に欠けるのだ。


「ちっ・・・!」

シバが舌打ちをする。


「クソ野郎め・・・。いっそ、薬でも使って吐かせた方が簡単じゃねーのか?」


「『情報』を得るだけなら、そういう手もあろうがな。しかし残念だが『非正常時の精神状態における証言に証拠能力はありません』と弁護側から言われるのがオチだ」

アルタイルはまだ窓の外を見ている。


「だったら、ブチのめすとかして・・・」


「滅多な事を言うもんじゃないぞ、シバ班長」

ドラムがシバをたしなめる。


「それこそ弁護側が『自白の強要』で黙ってないし、何より『サダ』がな。今でこそ状況が状況だから教会も黙ってるが、ザッカーに『虐待の疑いあり』とでもなったら『身柄を引き渡せ』とまで言いかねん。何しろ立場としては『司祭』だからな」


「まったく・・・イラつくぜ。野郎は『殺人犯』だぞ?どうしてフェニックスはそこまで重犯罪者に甘めぇんだ?

そんなに『人権』が大事って言うんなら、殺されたオーシャンはどうなるんだ?ヤツは人権どころか人命を奪われてんだぞ!被害者の人命の方が軽いってか?おかしいだろうがよ!」


シバはどうにも収まりが付かない様子だった。


「まぁ・・・そう言うな。捜査は慎重を期することになるが、何れにしろ『無罪』という事は無いだろうし」

ドラムは何とかシバを落ち着かせようとする。


「・・・『気が済む』とか、そういう話じゃねーよ。俺が気にしてんのは『背後関係』だ。野郎は単独犯じゃぁねぇ。ヘタすりゃぁ『サダ』が組織的に・・・」


「言うなっ!」

ドラムが強く遮った。


「・・・皆、内心は『それ』を思っているハズだ。だが、ヘタにそれを言い出すと宗教弾圧になりかねん。無関係な信徒まで迫害するワケにはいかんのだ」


「・・・ふん!」

プいっ、とシバが横を向く。


「実際・・・サダの信徒は何処に居るのか細かい事は判然とせんしな・・・サテライトにも数人がいるらしいが、聞き取り調査するワケにもいかん。内緒話は地上に限るというものだ。」


そう言って、アルタイルが溜息をついた。


サダの宗教は自然発生的に出来たもので、何処にトップというか方針があるのか等、実の所その実態は良く分かっていないのだ。


「・・・まぁ良い。そういう『ドロドロした話』はこちらで引き受けるよ。君たち地上部隊には『もうひとつの頭痛のタネ』を処理してもらわんとな」


「グリーンの事は地上部隊にお任せ下さい。今後のためにも色々と方法論は考えておりますから」


「そうか・・・期待しているよ」

ドラムの返答聞いて、アルタイルがシバの方を向いた。


「ところで・・・アレはどうなってる?前回、参謀本部の装備研究班から送られて来た『実証機』とやらは?」


「アレか・・・シーガルが『おもちゃ』にして遊んでるよ」

今度はシバが溜息をつく番だった。




「チョイ待ちっ!ストッッッップ!」

またしてもシーガルが後部座席から急ブレーキを踏み込む。


「わっ!たったったっ!だから!危ないって、姉さんっ!」

またしても、クラウドはキャノピーに頭をぶつけそうになる。


「いーの、細かい事を気にしない!それよりホラ、そこを右に曲がって!ふたつめのハッチに入んなって。『いーモノ』を見せてやっからさぁ・・・シシシシ!」


さっきまでのイライラは何処へやら。イヤらしく笑いながら、シーガルが右手のハッチを指差す。

言われるままに、クラウドは機重を操ってハッチをくぐり『実証室』と書かれた部屋に入る。


「・・・え?何、これ・・・」

目の前に真っ赤な機械が屹立している。高さは5~6mほどだろうか。


「・・・新型の機重?いや・・・にしては形に違和感があるな。まるで・・・」

クラウドが眉をひそめる。


「キャノピーを開けるぞ!」

シーガルの操作で機重のキャノピーが、グイー・・・・ンとモーター音を立てて開いていく。


機重は元々、建設機械類に高い汎用性を持たせるためにマニピュレータと呼ばれる『腕』やレッグと呼ばれる『脚』を取り付けたものだ。そのため『建設機械感』とでも言うような、ある種の共通感があるものだ。


しかし、クラウドの目の前にある『それ』は、まったくそういう感じはなく、むしろギリシャ彫刻にでもなりそうな筋骨隆々?とした『人型(ひとがた)』をしていた。


「なっ?、なっ?、スゲーだろ!これがアタシの専用機、バイオメティック・ファイター実証機『VF-X』なんだよぉぉぉ!」


実証室に、シーガルの絶叫がこだました。


webサイト上で作品発表をした場合、「過去にUPした作品を後から訂正できる」というメリットがあります。

火星編を書いている中で、タイトルが2字熟語になるケースが増えたので「だったら、全部をそのように揃えてしまえ」ということで、過去のサブタイトルを全て書き換えました。

また、以前に書いたものとの細かな矛盾(予定してなかった部署名称があったとか)を訂正しました。あと、あまりにも文章が稚拙で分かりにくいところなど。

最初は「もっと大幅に書き換えることになるかな」と思ってましたが、意外とそうでも無かったです。

まぁ・・・ある意味、これが自分の限界なんでしょう。

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