対峙
「全電源喪失だと?!そんな事がありうるのか!」
アルタイル本部長が司令室で声を張り上げる。
「アカツキ、現状はどうなっている?」
"輸送艦はゲートを出た直後に全ての通信が途絶しました。ゲートのセンサーで確認したところ、艦内に電気反応が消えている事が判明。ブラックアウトに至った可能性が高いと考えられます"
アカツキの回答はさきほどに聞いた速報と変わっていない。新たな情報が何も入っていないのだ。
「電源が落ちたとなると、ウスイとも連絡は取れません。やはり、こちらからアクションをとるしか無いかと」
副部隊長のデスクがアルタイルに進言する。
「それはいいとして・・・しかし、何が原因なんだ?まさか『テロ』ということは無いよな・・・?」
アルタイルが呟く。
「それは考え難いですね」
デスクがそれを否定した。
「艦長以下、船員4名はキャリアも長いですし。乗り込んでいる残りの2名は、今日から火星に赴任する予定だったアクアマリンとクラウドです」
「なるほど」
アルタイルが相槌を打つ。
「サダの司祭に、シーガルの弟か。確かに、これ以上確かな身元は無いな。と、なると・・・事故か・・・まぁ良い、仕方ない。こちらから救援を出そう」
「了解です。今、輸送班のシャトルを地上に向かわせました。技術科の人間を何人か選抜するよう、科長に依頼してあります。それを乗せたら、直接に輸送艦に向かいます」
「技術科か・・・ガゼルか?」
「いえ。ガゼルは航空機関士のライセンスがありませんので」
アルタイルの問いかけに、デスクが冷静に応える。
「そうか、なら良い。ところで、一応それでも『万が一』という事もある。艦内の火災とかだと対応も要るしな。防災対応班の人間に基本装備をさせて同乗させるよう、有事対応科にも依頼を出しておいてくれ。・・・アカツキ、どれくらいで輸送艦に着ける?」
"最短で加速して3時間25分で最接近する計算です"
「仕方ないな。それまで、こちらで状況を見守る他無いワケだ」
やれやれと、アルタイルが背中を向けた。
その頃。
全電源を喪失した輸送艦のエンジンルームはシー・・・ンと静まり返っていた。
その中にあって、アクアマリンは整備マニュアルを片手に安全装置の短絡に奔走していた。
基本的に宇宙空間に浮かぶ輸送艦の中に重力の作用はない。そのため、艦内は空中を漂うようにして移動することになるが、エンジンルームの整備歩廊だけは話が別だ。
足を使った『ふんばり』が効かないとネジひとつ緩めるにも苦労するからだ。そのため、此処の歩廊には特殊な永久磁石を使用することで、足が歩廊に吸い付きやすくなっていた。
「・・・くそ・・・意外と図面がアテにならないな・・・図面と実物が違う・・さては同型初号艦の資料をそのままコピーしたな・・・改善点が改版されていない・・・いや、『これ』か!」
若干の焦りを感じていたアクアマリンが、やっとお目当ての部品を見つける。
「どうも『これ』だな・・・よし・・」
配線を外す工具を取ろうとした瞬間だった。
「動くなぁぁぁぁっ!」
アクアマリンがエンジンルームに入ってきた時に使ったハッチから、大声が響いた。
何事か、と驚いたアクアマリンが振り向いく。
彼の視線の先に居たのは、クラウドだった。
何時の間にかクラウドは防護スーツを脱ぎ捨て、両手で構える中性子銃の銃口をアクアマリンへ向けていた。
「君か・・・驚いたよ。防護スーツのロックはどうしたんだい?・・・どんな手品を使ったか知らないが・・・」
手からマニュアルを捨て、アクアマリンが向き直る。
「動くなと言っている!そこを動くな!動けば・・・容赦なく、撃つ・・・!」
中性子銃を持つクラウドの両手に力がこもる。
「『撃つ』だって?・・・フン、君に『撃てる』のか?私を。君は人を『殺せる』のかい?」
アクアマリンが、せせら笑うように言う。
「・・・撃つと言ったら、撃つ!アナタだって、キャプテンを撃ったじゃないかっ!」
クラウドの絶叫が、静寂のエンジンルームに響く。
「ああ、そうだよ?確かに撃った。その代わり、だ。私はこの艦とともに最期を迎えるつもりなんだ。自分だけ助かろうなんて思っちゃぁいない。
いいかい?人殺しをすると言うのなら、自分の生命も捨てる覚悟が必要なんだ。私が言いたいのはね、君に『その覚悟』があるのか?という事なんだ」
カツ・・ン、カツ・・・・ン・・・
アクアマリンの靴が歩廊の床を蹴る音がする。彼はゆっくりと、クラウドの方へ歩き始めている。
「動くな・・・と言っている・・・!」
二人の距離が、徐々に縮んでくる。
「君に、その銃が扱えるのかい?その『構え方』だと、銃の取扱研修を受けた事は無さそうだな。そんな事で私を止められるとでも?・・・まぁ、良いよ。撃ちたければ撃つが良い。私は君を殺すつもりなんだ。その君に殺されるなら文句は無いさ」
アクアマリンの表情には『どうせ撃てまい』という余裕すら見てとれた。
「・・・・っ!」
銃を構えているのはクラウドの方だが、追い詰められているのもまた、クラウドの側であると言えた。




