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華星に捧ぐ  作者: 潜水艦7号
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黒喪

「な、何だってっ!」

思わず、クラウドが大声を上げる。


「ゲートを破壊って・・・そ・・・そんな事をしたら!」


そこから先、クラウドは二の句が継げなかった。言葉にも出来ない事が起きるのは、容易に想像できる。


火星に至るゲートは『これひとつ』しかない。もしもこのゲートが使い物にならなくなれば、火星は完全に孤立することになる。


ゲートを復旧するには地球で新たにゲートをイチから作り直し、それを地球外周に持ち出してから周回している他の4つのゲートとペアリングした上で、火星まで宇宙船を使って曳航するしか方法がない。


どの位時間が掛かる?2年?3年?その間、火星と地球の行き来は途絶するのだ。


火星は単体での運営を目指してはいるが、現段階では『それ』にも限界がある。

大気や水も未だ補充を続けているハズだし、食料品や燃料その他生活物資全般について、地球からの補給に頼っているのが実情だ。これが途絶した場合、早いか遅いかの差で、何れクルー達の命運は行き詰まってしまうだろう。


仮にゲートを諦めて地球から『救助』に行くとしても、500名からのクルーを回収して片道6ヶ月の長旅だ。

その間の食料や生活を考えると、安易に『船だけ出せば良い』というものでもない。その準備等々を考えれば・・・やはり、ゲートの復旧と変わらないほどの時間が掛かるに違いない。


その間に『もしも』の事が起これば。

火星は大勢のクルーの生命と共に、850年を掛けて培った『全て』を失うことになりかねない。


「何で・・・そんな事を・・・」

自分の顔から血の気が引いて行くのを、クラウドは自覚していた。


「いや、悪いけど」

アクアマリンが手で遮る。


「君と議論している時間はないんだ。ボヤボヤしているとゲートと艦が離れて過ぎてしまうからね。その前に対消滅エンジンの安全装置を解除して・・・今度は再始動させる。

すると電子ビームが暴走を起こして大量の陽電子が放出され・・・ドカン!という段取りさ・・・」


最早、アクアマリンはクラウドの方を向こうともしなかった。


「・・・ウソ偽りなく言えば。君と過ごしたここ何日かは、とても楽しかったよ。それは本当だ。それじゃ、私はこれで失礼するよ・・・『God bless you』」


「待てっ!・・・おいっ!」

クラウドの呼びかけに応えることもなく、アクアマリンはキャビンのハッチを開けて去って行った。



「くそっ!何が・・・いったい、何だって言うんだ!」

その頃、機関室でチェアとストールは苛立っていた。


「どうなっている・・・?」

非常灯の薄明かりの下、チェアが操作の復旧を試みていた。


「く・・・っ!ダメだ・・・何処にも電圧が無ぇ・・・全電源喪失(ブラックアウト)だ!こんな事、初めてだぜ。何があったって言うんだ・・・!」

バンッ!とチェアが操作パネルを叩く。


「何かあったとすれば・・・」

ストールが天井を見上げる。


「GCB(電源ガス遮断器)が何かの原因で『ハネ』やがったな・・・高圧回路が短絡(ショート)でもしたか・・・?何れにしろ、復旧となればキャビンに戻るしか無いが・・・」


恨めしそうな顔をして、チェアがドアを見つめる。

「ああ。ブラックアウトとなれば、ドアは内側から機械的にロックされるからな・・・内側からは開かねぇぜ・・・」


ストールも歯ぎしりをしている。

二人共、先程から何度かドアの開放を試みていてはいたが、頑丈なロックはビクともしなかった。


その理由は、電子ビームに電力を供給している原子炉(リアクター)にある。

原子炉は全電源を喪失した場合、自動的に制御棒が注入される仕組みだ。しかしそれでも燃料ペレットによる発熱が100%抑えられるわけではない。冷却液の循環が出来なければ、何れ何処かでメルトダウンを引き起こす。


その場合、リアクターそのものが吹き飛んで放射性物質が爆発的に拡散する危険が生じるのだ。そのため、クルーが不用意に被爆しないよう、全電源喪失時にはドアは勝手に開かないようになっていた。


「こうなると・・・頼りになるのはキャビンの連中だが・・・ヤツらにGCBの復帰が分かるかな?」

チェアが苛つく。


「難しい・・・だろろうな。何しろ操縦士のライセンス試験に高圧単相結線図(スケルトン)の読み方は出ないからな・・・高圧電源回路の異常となると、オレらみたいな航空機関士のライセンス持ちでもねぇと無理だろう」


「クソッ!仕方ねぇ・・・どうせ、異常は火星本部やサテライトの連中にも伝わってるだろうし。外からの救援を待つしかねぇな・・・・」

チェアは、大きく溜息をついた。


「そうだな。ま、仮にメルトダウンするとしても10時間以上は掛かるだろうし。救援なら4~5時間もあれば来るだろうからよ」

ストールも諦め顔で応えた。


そのドアの向こう側で。


アクアマリンがエンジンルーム目掛けて音もなく通り過ぎて行ったのを、二人は知る由もなかった。





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