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華星に捧ぐ  作者: 潜水艦7号
15/70

反逆

地球と火星の周回速度差は時速に換算して2万kmにもなる。


そのため、ゲートをくぐって火星に到達するには『その分の速度差』を宇宙船の加速で補ってやる必要があった。


基本的には対消滅エンジンの力で超加速するのだが、それでも『あっという間』というワケにはいかない。加速は徐々に行わないと船体と人間が持たないのだ。


正直なところ、クラウドは退屈していた。

やっと、月での『何もしない』生活が終わったかと思ったら、またしても『長時間、椅子に座りっぱなし』という状態なのだ。それがもう、20時間にもなる。


「よぉ、楽しんでるかい?」

時折、キャプテンのオーシャンが皮肉交じりに話しかけてくる。


「ええ・・まぁ・・・ハハ・・」


クラウドとしても愛想笑いで返すのがやっと、というものだ。重力が無いので長時間座っていてもお尻が痛くならないのが幸いではあるが。


「キャプテン、後方に『ゲート』を確認、急速接近中!」

操縦士からの報告にクラウドは安堵する。やっと・・来たか、と。


「来たか・・・よぉし、速度シンクロを急げ!」


キャプテンの合図に、船内に活気と緊張が走る。


「来ます・・・相対速度差、120・・・100・・・80・・・70・・・60・・」


操縦士がエンジン出力を調整しながら、後方から周回してくるゲートとの速度差を調整する。


「・・・10・・・・5・・・1・・OK、シンクロしました。対消滅エンジン、停止します」

今、ゲートは本船の『真下』に静止している。


「スラスター起動、座標を調整します」

船体がゆっくりと、ゲートの正面に向かって位置を変えていく。


「・・・調整完了しました。センターロックです」


クラウドにとって初めて見る『惑星間用ゲート』。当然と言えば当然だが、それはとてつもなく巨大な『門』だった。


「よっしゃ、突入!火星側に出るぞ」

キャプテンの合図ともに、ゆっくりと船体がゲートをくぐり始める。


船体がゲートをくぐり終えるのに5分ほどは掛かったろうか。

「ゲート通過完了。火星側に出ました!」


操縦士の声でクラウドが前を向く。

そこに見えたのは意外なほど生命感を漂わせる、巨大な惑星の姿だった。


「凄い・・・」

クラウドは思わず息を飲む。


昔、火星は『赤い星』と言うのが常識だった。

赤茶けた大地の反射光が、その色を地球にまで届けていたのだ。


しかし今、クラウドの眼前に見える『火星』は、そのイメージを全く払拭するものであった。大気を漂う雲海、緑の大地、深い水色の海・・・仮に『地球だよ』と言われても信じてしまうほどの威風を、火星は讃えていた。


「人類は・・・ここまで来ているのか・・・」

呆然となって、クラウドは火星を眺めていた。


あまりに火星へ気をとられていた為だろうか。

クラウドはアクアマリンが自身のシートのロックを解除し、『そっと』立ち上がった事に気付けなかった。


「・・・・・」


アクアマリンは何も言わないまま、そっと右手のグローブを外すと、キャビン後方にあった透明なケースに手をやり、自動的に音もなく開いたケースの中から大型のハンドガンのようなものを持ち出した。


ゴトッ・・・


その時になって初めて、小さな物音がクラウドの耳に聞こえた。

何事か?と思って、クラウドが意識をキャビン内に戻した時、アクアマリンが構えるハンドガンの銃口はキャプテンの背後に突きつけられてた。


(あっ・・・!)

声を出して注意を喚起する間も無かった。


アクアマリンは何の躊躇もなく、ハンドガンの引き金を引いた。

バシュ!と短い音がする。


続いて、気配に気づいて振り向こうとする操縦士の背中に目掛け、アクアマリンが『第二射』を放つ。


バシュ!

またしても短い音が響く。


「うぐっ・・・!」

操縦士が胸を抑えて、その場に崩れ落ちる。見ると、キャプテンはすでに意識なく座席に沈み込んでいた。


「・・・・」


アクアマリンは、そのまま何も言わずにハンドガンを宙に投げ捨てると、キャプテンシートの横にあった大きなレバーを、ガタン!と横倒しにした。


キュィィィィ・・・・ン・・・ン・・・


船内の計器パネルや、照明が一斉にダウンする。同時に、キャビン内を非常照明の橙色の灯が照らし出した。


「ふう・・・」

ここに来て、ようやくアクアマリンは息をついた。そして何事も無かったかのように、防護スーツを脱ぎ捨て始めた。


「な・・・いっ、一体、何をっ!」

クラウドは、あまりの事に頭がついて来なかった。


「アクアマリンさんっ!何をしてるんですかっ!」


大声を上げるクラウドを尻目に、アクアマリンはまだ何かを色々と操作している。


「・・・何をしているかって?主電源をね、切ったのさ。ウスイが如何に優秀なAIと云えど、電源を切られれば『ただの箱』だからね」


たった今、2人もの人間をハンドガンの餌食にしたというのにアクアマリンは淡々としていた。


「で、電源とかでなくって!あの・・・キャプテンが!」

クラウドはパニックになっている。


「うん、死んでもらったよ?・・・二人共ね。その銃は中性子銃と言って、艦内で緊急事態が発生したときの暴動鎮圧用なんだ。

・・・そいつの利点は機械類を壊すことなく生物だけを殺傷出来ることなんだ。普通の銃を・・・これはこっちか・・普通の銃を艦内で乱射したら大変なことになるからね・・・よし、これで良いハズだ・・・」


アクアマリンがクラウドの方に向き直る。

「心配しなくても大丈夫、その銃で君を撃ったりはしないから。・・・その防護スーツは中性子銃の威力を妨げてしまうんでね」


「ぐっ・・・!」

クラウドは渾身の力を込めてシートの固定から脱出を試みるが、身体はビクともしなかった。


「無理だよ?()のシートは、私のとは違って自分でロックを解除出来ないからね。まぁ・・・申し訳ないが、此処で最期の時を迎えてくれ。何、どうせ少々早いか遅いかの違いで、皆で死ぬんだから。一緒のことだ」


そう語るアクアマリンの冷たい表情は、背中に寒気を感じさせるほどだ。


「・・・何を・・・しようとしてるんだ・・・?」

クラウドが声を絞り出す。


「何を?・・・あの、後ろに見える『ゲート』を破壊するのさ。この艦と共にね」


その起こりうるであろう影響の大きさに反比例して、アクアマリンの口ぶりは『当然だろ?』と言わんばかりだった。





この物語は3部構成でプロットを作っています。

やっと・・・その第一部の山場に来ました。

前置きが長かったとは思っていますが、後々のストーリーに繋げるためには欠かせないところが多くて・・・

基本的に、複数の場面で登場する(予定の)キャラクターにはバース・ネームを設定しています。

逆に、名前を与えていないキャラは『その場限り』のつもりです。

まぁ・・・あくまで『つもり』なので、どうなるか分かりませんが・・・

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