表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者的タランテラ  作者: 一六波 奏
1章 召喚
1/62

 赤と黒の華奢な装飾。きらびやかな調度品。床と壁を作るのは、一級品の大理石。

 豪奢なもので飾り付けられたそこは、しかし、おどろおどろしい空気を孕んでいた。

 血をまいたような石を踏みしめ、影は進む。城の中で一番飾り立てられた扉を叩いた。

「入れ」

 口調は軽々しくも、重圧を伴う声がする。促されるがまま影は中へ進んだ。

 玉座に座るは城の主だ。そして魔族の頂点におわす方。並々ならぬ魔力が対面しているだけで圧迫感を催す。

 膝をつき、こうべを垂れる。だが、構わん、楽にしろ、との寛大な言葉に顔を上げた。

 青白い肌は美しく、2本の捻れた角は猛々しい。そして赤く艶やかな虹彩。黒の中で色づくそれが、かのお方の魔力の強大さを物語る。

「陛下、ついにヒト族が勇者召喚を行いました」

 ほう、と一言、低く唸るように放ち、王はうつむく。カタカタと震える肩。絞り出されるのは、喉奥で押し殺した笑い声。

「そうか、ようやく来たか、この時が!」

 喜色がにじんだ笑声が、この広間に響く。ここまで感情の高ぶりを見せるとは珍しい。

 しかし勇者の召喚は、王が幾年も待ち望み続けた福音だ。開幕を告げる、鐘の音。ただ待ち続けるしかない苦しさを思えば、開放的になるのも仕方あるまい。

「いかがいたしましょう」

「俺が行く」

 玉座から立ち上がり、王が一歩踏み出す。それに懸念を抱いた影が、口を濁した。

「しかし……陛下直々にお見えになるのは危険かと」

「なに、心配は無用だ」

 くつくつと、喉の奥で笑い声を立てる。影の脇を通り抜け、悠々と歩を進める。

 扉を開く、重々しく引きつった音。影が慌てて立ち上がり、後を追った。

「――あいつに俺は殺せまい」

 ささやきだけを残し、広間の扉が閉ざされた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ