「あとがき(結びの言葉)」
この本を読み終えた方の心に、瀬戸内海の朝凪のような穏やかな余韻が残ることを願って。
あとがき
最後まで本書をお読みいただき、本当にありがとうございました。
私たちが生きる現代社会は、常に「早く、正しく、完璧に」あることを求めてきます。周りの要領の良い友人たちと自分を比べて焦ったり、職場の責任に押しつぶされそうになったり、誰かの作った空気を壊さないように作り笑いを浮かべたり……。そうして心をすり減らし、自分が進むべき航路を見失ってしまう夜は、誰にでもあるものです。
そんな時、ほんの少しだけ立ち止まって、広島の豊かな自然に目を向けてみてください。
山あいの町から静かに湧き立つ雲、何百年もの間、旅人の願いをすくい取ってきた宮島のお砂、削られ傷つくことで美しい渓谷となった帝釈峡の岩肌、そして、ただ次の良い満ち潮をじっと待つ御手洗の海。
本書に登場した十五のあやかし達は、決して恐ろしい存在ではありません。彼らは、広島の美しい風土が長い歴史の中で育んできた、人間の「一生懸命に生きたい」という心の熱や祈りの結晶です。だからこそ、彼らの言葉はどれも、私たちの凍りついた心の奥底をじんわりと温め、呪縛を解きほぐしてくれる優しさに満ちています。
「形が決まっていないからこそ、何にでもなれる(雲坊)」
「傷がついた場所から、あなただけの新しい緑が芽吹く(おんさん)」
「潮が止まっているときは、無理に漕がずに潮を待てばいい(おちょろ丸)」
もしもまた、あなたの心に冷たい雨雲が立ち込め、霧の中で足元が見えなくなってしまった時は、いつでもこの『広島あやかし処方箋』のページを開いてみてください。彼らはいつでも、あののどかな山奥や、潮の香る港町で、あなたが自分だけの優しい歩幅で一歩を踏み出すのを、じっと待っています。
あなたのこれからの人生の旅路が、瀬戸内の朝日のように晴れやかで、温かいものになりますように。
心からの感謝を込めて。




