第33話:美食結社総攻撃
特訓から1週間後。
平和な日々が戻ったかに見えたが――それは嵐の前の静けさだった。
「ケント!大変だ!」
トムさんが血相を変えて店に飛び込んできた。
「どうしたんですか!?」
「村の入り口に、怪しい集団が現れた!」
「怪しい集団……?」
外に出ると――
村の入り口に、10人ほどの黒服の男女が立っていた。
その先頭には――
「お前が、ケントか」
40代くらいの男性。
威圧感のある風貌。
「私は、料理十傑の第三位、ディミトリだ」
「第三位……!」
第七位のクラウディアでさえ、あれほど強かったのに。
「美食結社の命令で、お前を連れに来た」
「連れに……?」
「ああ。お前の『調理の祝福』は、美食結社に必要だ」
ディミトリは不敵に笑った。
「大人しく来れば、危害は加えない」
「断ったら?」
「……力ずくで連れて行く」
ディミトリの後ろから、黒服の男たちが前に出た。
全員、戦闘態勢。
「まずいな……」
その時――
「ケント君、下がって」
レオンさんが前に出た。
「レオンさん!」
「彼らの相手は、私がする」
「ほう……ロゼッタ王国の宮廷料理人、レオン・ヴァレンティーノか」
ディミトリが認めた。
「だが、お前一人で我々全員を止められると思うか?」
「一人じゃない」
別の声がした。
振り向くと――レイナさんが立っていた。
「Bランク冒険者、レイナだ」
「それに――」
さらに別の声。
ドラグが現れた。
「竜国近衛隊長、ドラグ。リナエル姫の命で、ケントを守る」
「我々もいる」
村長さんと、村の冒険者たちも集まってきた。
「この村は、ケントを見捨てない」
トムさんが叫んだ。
「ケント!俺たちも戦う!」
「みんな……」
胸が熱くなった。
「ふん……感動的だな」
ディミトリは鼻で笑った。
「だが、無駄だ」
ディミトリが指を鳴らすと――
黒服の男たちが、一斉に動き出した。
「来るぞ!」
レイナさんが剣を抜く。
ドラグも戦闘態勢。
村人たちも、武器を構えた。
戦いが始まろうとした、その時――
「待て」
新たな声が響いた。
空から、一人の男性が降りてきた。
白い髪、金色の瞳。
圧倒的な存在感。
「ディミトリ、お前の独断専行は許されていない」
「首領……!」
ディミトリが驚愕の表情を浮かべた。
「美食結社の首領、ゴールドだ」
男性――ゴールドが俺を見た。
「ケント、君に会えて光栄だ」
「あなたが……首領……」
「ああ。君の『調理の祝福』、素晴らしいスキルだ」
ゴールドは優雅に微笑んだ。
「私は、君を傷つけたくない」
「だから、提案がある」
「提案……?」
「料理対決をしよう。私と、君で」
「君が勝てば、美食結社は二度と君を狙わない」
「私が勝てば――」
ゴールドの目が、鋭くなった。
「君は、美食結社に加入する」
「……」
「どうだ?受けるか?」
俺は少し考えた。
戦っても、勝てる保証はない。
むしろ、村人たちが危険に晒される。
「分かりました。受けます」
「ケント!」
リナが叫んだ。
「大丈夫。俺は負けない」
俺はリナに笑いかけた。
「よろしい」
ゴールドは満足そうに頷いた。
「では、明日。この村の広場で」
「テーマは『自由』。制限時間は3時間」
「審査員は――」
ゴールドは周囲を見回した。
「ここにいる全員だ」
「分かりました」
「では、明日を楽しみにしている」
そう言い残して、ゴールドとディミトリたちは去っていった。
その夜。
俺は一人、厨房にいた。
「明日か……」
美食結社の首領。
おそらく、今まで戦った誰よりも強い。
「何を作ろう……」
その時――
扉が開いた。
リナ、ユウ、レオンさん、レイナさん、ドラグ、村長さん――
みんなが入ってきた。
「ケント、一人で悩むな」
レオンさんが言った。
「俺たちがいる」
レイナさんも言った。
「私たち、みんなケントの味方だよ」
リナが涙目で言った。
「だから、一緒に考えよう」
ユウも頷いた。
「ありがとう……みんな」
「ケント、お主の料理の強みは何じゃ?」
村長さんが聞いてきた。
「強み……」
「ああ。技術か?見た目か?」
「いえ……」
俺は答えた。
「心です」
「心……」
「はい。食べる人のことを想って作る。それが、俺の料理です」
「ならば」
レオンさんが言った。
「明日も、その心を忘れるな」
「はい」
「誰のために、料理を作る?」
「……」
俺は、みんなを見回した。
リナ、ユウ、レオンさん、村人たち――
「みんなのために、作ります」
「よし」
レオンさんは微笑んだ。
「それが答えだ」
その夜、俺はようやく決めた。
明日作る料理――
それは、今まで出会った全ての人への感謝を込めた料理。
ーー第34話に続く




