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50 ただ普通の女の子

2章はこれにて終了です。

次回から3章に入ります!

 私の幹に寄りかかり、安らかな表情を浮かべてその命を終えたセリア。

 その場には今まで感じたことが無いほどの悲壮感、そしてなんとも言えない清々しさ、とでも言うべきものが残っている。

 人が死んだのに清々しい、なんてどうかしてると自分でも思う。

 それでも、やはりセリアのその表情を見てしまうと泣き叫ぶような気分にはなれなかった。


 「やはり、間に合いませんでしたか」


 そこで目の前にユフェリスが現れる。

 どこか悲し気で、慈しむ様にセリアの顔に手を添える。


 「一度見に来たのですが……この子には、とても酷い仕打ちをしてしまいました」

 

 そう悔やむように言うユフェリス。

 酷い仕打ち。それはきっと加護の事だろう。

 

 だが、それでも私は思う。

 加護があろうと無かろうと、セリアはセリアなのだ、と。


 「確かに、酷い。こんな、女の子に全部背負わせるのは、やっぱり酷いよ」

 「返す言葉もございません」

 「でも、それでもセリアは必死に足掻いて、苦しんで、そうやって生きてた。自分の信じるものの為に……だから、セリアの死は惜しいけど、それでもセリアは満足だと思うよ」


 結局、セリアはそういう性だったのだ。

 誰かのために、それがセリアの中での最重要事項。

 だからこそ、今までは余計に辛く、それでいて誰より勇者だったのだろう。


 「私がセリアの何を知ってるんだって、そう思われるかもしれない。私自身、何偉そうに言ってんだ?って思う。けど、それでもこれだけは分かる。セリアは、多分、誰よりも普通の女の子だったんだよ」

 「……」


 誰よりも、何者よりも強く、そして誰かの為に動いてしまうセリア。

 確かにその様子は勇者に相応しいもので、きっと見た人みんなが憧れるような勇者の鑑だったのだろう。

 だからこそ言える。セリアは普通の女の子だったのだ。

 普通の、どこにでもいる正義感の強い女の子。

 美味しいものが大好きで、笑顔が似合う女の子。

 誰より強くて、誰より脆い。それでも人の事を放っておけない、そんな優しい女の子。


 勇者なんて大仰に持ち上げられてるけど、多分それが一番勇者に大切な事なんだと思う。

 人の気持ちが分かる。人の痛みが分かる。

 喜びが分かる。悲しみが分かる。幸せを夢見る。幸せを願う。

 そんな些細な普通の女の子だったからこそ、セリアは勇者をやってこられたのだろう。


 多分、私が勇者だったら400年も続かない。

 誰かの為になんて動けない。だって、自分が一番大切だから。

 人の気持ち?上辺だけで分かった気になって、とか言って結局分かろうともしない。だって面倒だから。

 幸せ?それは欲しい。でも、別に他人の幸も不幸もどうでもいい。私が幸せになってればそれでいい。


 とか、そんな感じできっと私はすぐに勇者なんてやめてしまう。

 持ち上げられても、称えられても、いい気持ちは一時だけ。すぐに全部面倒になって放り出す。

 私はセリアと違って人間社会に毒されているからね!

 

 でも、だからこそ分かる。

 彼女は素は普通の女の子で、だからこそ勇者だったのだ、と。

 普通の女の子だったから、誰かの為にも戦えた。 


 「そんなセリアが、最後にこうやって優しい顔で終われてるんだからさ、私たちもしんみりするのはもうやめよう。セリアがいたら、たぶん、こんなの私は望んでない!って怒ってるよ」

 「……ふっ、そうですね。あの子なら、言いますね」


 そうだ。セリアは暗いのなんて大嫌いだった。

 みんなが沈んでいるのは見ていたくないだろう。

 自分が死んで私たちがずっとしんみりしてたら成仏できるものも出来なくなっちゃうだろう。


 「だからさ、ひとしきり悔んだら、もうそれで終わりにしよう。ユフェリスも思うことはあるだろうし、そりゃあ私だって出来るならセリアと会いたい。でも、それは出来ないから。せめて安らかに眠らせてあげよう。もう、何も心配はいらないんだってさ」

 「そう、ですね。私もルア様を見習うことにします」 

 「うむ。いい心がけだよユフェリス君」

 「ありがたきお言葉です」

 

 なんか少し偉ぶってみたけど、これはこれで恥ずかしい。

 

 でも、これでもうこの件は一先ず終わりにしよう。

 最後に盛大に送り出して、それでセリアとはお別れだ。

 

 まあ、それでも遺体は私の傍に埋めてもらおう。

 その方がセリアも喜んで……くれるかな?いや、大丈夫だ。大丈夫。しっかり喜んでくれる。

 

 だって、私たち友達だもんね!?






 ――――――


 さて、それからテティとレリス、そして他の精霊たちも私の元に集う。

 まだ何人か足りないが、それは今もエルフたちの対応に追われているらしい。


 盛大に、とは思ったが、それも出来そうにないのでささやかに送り出すことにしたのだった。

 

 そして、全てに決着がついてからおよそ一週間後、ついにその日がやってきたのであった。


 森の奥深く、そこに聳えるは以前よりもさらに大きくなった私の姿。

 それはまるで前世のアニメに出てきそうな聖なる木そのもので、ついついこれが自分だということを忘れてしまう。


 本当に色々あった。色々あり過ぎた日々だった。

 

 思えば転生してから私は問題に巻き込まれすぎているような気がする。

 最初の転生時点でのあの残念感。

 テティと出会って、少し世界の事を知って、冒険者を撃退したりもした。

 森の呪いを消すために、転生早々もう一度死ぬなんて言う馬鹿げた選択までした。そんでもってまたスキルリセット状態から再スタート。

 再スタートしたは良いものの、目が覚めてみれば100年後。色々困惑しながら死ぬよりキツイんじゃ?なんて思いをしながらスキルを獲得する日々。

 

 そして、出会ったセリアという名の少女。

 すぐに打ち解けて、いつか一緒に旅をしてみたい、なんて考えた私のこの世界での二人目の友達。もはや親友と言っても良い。

 セリアは多くは語らなかったし、私も多くは分からない。

 それでも、あの日々は普通に本物だった。

 フェルナンドからの侵攻に、セリアの迎撃。そんでもって私の戦闘(?)

 

 本当に色々あった。

 100年経ってはいるらしいが、体感時間というか、実質的な活動期間はまだようやく半年くらいだろう。

 正直荷は重い。やりたくないと言えばやりたくない。

 いなくなった神様の変わり?そんなもの、できる事なら誰かに押し付けてしまいたい。


 でも、セリアは最後まで投げ出さないで戦っていた。 

 セリアからの頼まれごともある。

 ここで投げ出したら、頼まれごとどころじゃないだろう。


 正直言って人違いも甚だしい。というか木違いなんですけど。

 とはいえ、一度引き受けたのだからもう投げ出すことなんて出来ない。

 

 だから、私も覚悟を決めよう。

 緊張で今も心なしか震えているような気もするが、私は私の目の前に集まった精霊たち、そして先のエルフたちに向かって話始める。


 「えーっと、今回の件で、神樹を名乗らせてもらうことになったどうもルアです」


 前世の頃の癖はまだ抜けそうにない。

 誰に対しても一歩下がって遜ったような態度はそう簡単に治せるものでもないだろう。


 目の前にいる精霊やエルフたちは口々に私の名前を囁き始める。


 「その、既に私の名を知ってる人も、今初めて聞いた人もいるかもしれない。神樹なんて聞いて、凄く緊張したり委縮したりしてる人もいるかもしれないけど、私はそこまで大層な存在じゃないから、話半分で聞いてくれていい」

 

 ユフェリスが直々に神樹様だと振れ回ったらしいのできっとエルフたちは今も内心穏やかではないだろう。ユフェリスも少し可哀想な事をするものだ。


 だが、私だってこんな神樹とやらの責任を押し付けられた以上、このままって訳にもいかない。

 今まで通りじゃいけない。だからこそ、私は確かな意思を以て宣言する。


 「この森は、長い事エインさんの言いつけで外界との交流を絶ってきた。でも、今回のような一件が起きた以上、私は外に対して目を向けないのは危険だと思う」


 今回はセリアが国から幻霊である子狼を持ち出したのが事の発端だったらしいが、それでもセリアさんと子狼を連れ戻すだけなら軍は要らなかった。

 つまり、少なくともフェルナンド側としては森の資源を狙っていたのだろ。

 そして、恐らくだが精霊の存在を知っていた。

 

 それが本当かは分からないし、外の事を全くと言っていいほど知らないので確かなことは言えない。

 それでも、あのフェルナンドは確実に森に危害を加えるつもりだった。


 「きっと、近いうちにこの前のフェルナンド王国のような人間の国が侵攻して来てもおかしくない」


 侵攻はフェルナンドのあの様子からしてないだろうとは思う。 

 一応あの国は大国だったらしいし、他国もそんな大国の軍が為す術もなく逃げ帰ったとなれば対応を見直そうとするはずだ。

 少なくとも侵攻なんて馬鹿な真似はしてこないはず、だと思いたい。


 「みんなが、少なくともユフェリスたちは私が神樹を名乗ることを許してくれた。正直私には大きすぎる役だけど、それでも引き受けた以上は私はこの森が今以上に住みやすく、より良くなるようにしていきたい」


  しかし、何事もまずは情報が必要だし、情報が足りないというのならどこかから取り入れていくしかない。

 そして、それがエインさんとやらの言いつけによって出来ないというのであれば、私はその言いつけとやらを破棄するだけだ。


 「まあ、より良く、住みやすくって言っても、具体的な事は何一つ決まってないんだけど」

 「失礼ながら、ルア様に一つよろしいでしょうか?」


 そう言ってその場に跪いていたエルフの一人が声を上げる。

 何か不満があるのだろうか?それもそうか、突然出てきていきなり「私、神樹です!」なんて言われたって「はぁ?何言ってんのコイツ?」となるのが普通である。


 「うん。なんでも言って」

 「では恐れながら。私たちエルフは、先の人間たちの侵攻で多くの被害を受けました。しかし、幸いなことに死者は一人も出ることはございませんでした。本来なら相互に不可侵であった精霊様も我々を助けてくださいました」

 「それは、そうらしいね?」

 「はい。そして、その精霊様の主こそあなた様なのだと精霊様方からお教えいただきました。先ほど、具体的な事は決まっていないと仰いましたね?」

 「そ、それは、まあ」


 認めるのは良いが、やっぱり具体案は提示しろってところだろうか?

 とは言っても、私木だしなー。森の事もあんまりよくは分からないし、さてどうしたものか?


 「であるならば、どうか私たちエルフもあなた様の配下に加わりたく思います」

 「……はい!?」

 「この命は先の戦いで終わる筈でした。しかし、私はあなた様、そしてあの勇者様に助けられたのです。この場に入る者も皆同じ。誰もがあなた様のおかげでその命を繋ぐことが出来たのです。一度救われた命、であればそれを今度はあなた様、いえ神樹様の為に使って頂ければと思います」

 「わ、私の為に!?」

 「もちろん、神樹様のおっしゃった通りこの森の為に私たちも共に尽力いたします。ですのでどうかお考え頂きたく思い発言させていただいた次第です」


 エルフのその男はそう言うとまた体勢を戻したその場に膝を付く。

 さて、エルフにまで配下に加えろと言われてしまったわけだ。


 正直これ以上大所帯になっても私はどうしようもない。

 配下って言ったて別に何か特別な事をするわけではない。

 ただ、それでもこの森の精霊たちが動けないでいたから私が責任を負って人間たちと戦ったのだ。

 その結果ユフェリスたちは実際私の下につくのだろう。私がユフェリスたちの新たな主となることで彼らに対する正当な命令権が発生し、結果として外界との接触も出来るようになる。


 だが、別にエルフまでもが配下に加わる必要などないのだ。

 助けはした。あのまま見過ごしたらしばらく森に血生臭い風が吹きつけて来ただろうからだ。


 「私の配下になっても特に何かしてあげられるわけじゃないよ?」

 「ははっ、それはまたご冗談を。あなた様が森を、私たちを守ってくださったのです。神樹様がいる。ただそれだけで私たちにとっては希望なのですよ」


 ユフェリスが横でそんなことを言い出した。

 

 「いや、それって別にエルフには関係なくない?神樹とかさ?」

 「何を言いますか!私たちエルフにとって神樹様とはまさしく神に等しき存在。信仰の対象なのです!遥か昔にこの地からその木が消えても私たちはその信仰の元に今まで森の傍に村を築いていたのです。精霊様にとっての神樹様と同じように、いえ、それ以上に私たちにとっても神樹様とは尊き存在なのです!」


 な、なんか少し怖くなってきた。信仰とか言われても……

 まあ、でも確かにそれだけ言うのなら特に断る理由もない。どうせなら良い関係を築ければと思っていたところだし、形だけでも配下になるのは良いだろう。


 「そこまで言うなら分かった」

 「あ、ありがたき幸せにございます!我ら風の妖精族(エルフ)は今よりあなた様に忠誠を奉げます」

 「いや、そんな大層なものは……い、いらないかなー?」

 

 そんなこんなで色々と時間は過ぎていく。

 精霊たちだけでなく、エルフまでも配下に加えてなんだか少し最強になった気分の私だった。


 「ま、そんな配下が強くても私が動けなければ意味はないんだけどねー」

 「ねえルア。セリアは最後どうだった?」


 みんなが私の前から去った後、その場にのこったテティと話をする。

 それはもちろんセリアの話。最後の話。


 「セリアはね、やっぱり……」

 「やっぱり?」

 

 そこでセリアの最後の笑顔を思い出す。

 顔なんて無いけど、それでも心の中で私は笑う。


 「やっぱり、可愛い普通の女の子だったよ!」

これ書かないと評価は要らないと思われるらしいので。

面白い、続きが気になる、などなど色々思われた方はページ下の☆☆☆☆☆を★★★★★にして貰えるとありがたいです。

皆さんのその評価が執筆意欲に繋がりますのでどうかよろしくお願いします!

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