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49 命は終わり、少女は旅路に幕を下ろす。

毎度誤字報告ありがとうございます。本当にありがたいです。

今回はかなり長めです。

 ん、んー……ん?なんか眩しい、光?あぁ、これは陽の光か。

 そういえば今回はなんだかぐっすり眠れた気がする。まあ、睡眠なんて必要ないんだけど、それでもやっぱり寝るのは体にいい。


 進化して結構興奮してたけど、それにしてもこのチート展開遅くない?

 普通はもう少し早く、それこそ最初から備わってたり、そうでなくともこの世界に来た後の初戦闘とかで覚醒、みたいな感じで手に入れたかった。

 これじゃあ普通の成長ものとあまり変わらなくない?それどころか成長速い系主人公だったら今頃物凄いチート能力に覚醒したりしてるよ?それこそかの有名な大罪、美徳系スキルとかさ。

 

 いや、別に今回の進化が不満てわけじゃない。

 不満どころかむしろ喜びで踊り出しそうなくらいなのだが、それにしたって私の進化は遅すぎる。

 今時成長ものですら初期スキルはチートでした展開だってのに、私ときたら木の蔦や根を少し操れるだけ。触手みたいにうねうね動かすことも出来なければ攻撃だって単調な直角振り下ろしくらいしか出来ない。しかも速度が遅いので攻撃とは言えない。

 

 しかも、皆さんご存じの通り、私まだ木なんですよね。一応、聖大樹なんて種族名になったけど木なんですわ。まごうことなき直立不動にして永劫不変。いや、直立永劫不変動の木なんです!

 直立永劫不変動……ヤバッ、なにこれ地味にカッコいい!?

 いや、ただ動けもせず変わることもなくただそこで突っ立ってるだけっていう、考えてみれば凄い可哀想な状況なんだけどね?

 

 本来、成長ものの主人公は全員人だ。

 行っても魔族とか、動物という枠組みから外れるものは無い。

 

 そりゃそうですわ。誰が好き好んで植物成長記なんて嬉々として見るんだって話なんですよ?小学生の夏休みか!!


 これは本当に重大な問題だ。進化するたびに毎回考えてしまうが、それでもこの文句は尽きない。

 木になりたいって言ったことから始まって、また私は転生ではなく木になることを選んでここにいる。それ自体は別に良いのだ。文句は言うし、色々と不平不満はこれからも湯水のように垂らしていく。

 

 でもさー、この世界は私に少し厳しすぎると思うんですよー?

 仮にも私転生者なわけじゃん?少しくらい他より圧倒的に優れている物が欲しい訳ですよ?

 確かに、今回はようやく念願だったチートスキル(たぶん?)を貰えたわけだ。

 だがしかし、私が真に求めている物は他にあるんだよ。


 考えてもみて欲しいのだが、木になってから人間時代の五感全てを奪われて暗闇の中にいるとしたら何を望むだろう?

 チート能力?

 地位?権力?

 財力?容姿?


 そんな物よりほかにもっと欲しいものがある筈だ。

 チート能力はまあ良いとしても、地位、権力、財力、容姿なんて木になってしまえば必要ないどころか邪魔なだけだ。

 

 容姿?はぁー!?イケメンな木ってか?馬鹿か!?気持ち悪いっつーの!!

 そんな人面木になるんだったら人面犬にでもなった方がまだマシだわ。

 

 じゃあ何が必要か?そんなの決まっている。

 進化してそのうち精霊になれるのなら、その成長スピードが何よりも大切なのだ。

 

 想像して欲しい。私の枝の上でテティが果物とかを美味しそうに頬張る様子を……

 いくらチートなスキルを手に入れて、強い配下が出来たところで、結局私が木であることに変わりはない訳ですよ!!


 だったら、そんなものいらないからさっさと成長させて欲しいんですわ。

 前回の進化から、考えてみるとおよそ100年経っている。

 まあ、100年間私はずっと眠っていたわけだから実質数年どころか一年も経った気はしないけど、それだって本当はおかしいのだ。


 早い個体であれば100年あれば精霊の前段階である樹霊に進化できるのだ。

 少なくとも私がこうして目覚めた時には動けるようになってもおかしくなかったのだ。

 だというのに、未だに私は進化をしてもウッドフォームなのは変わらない。


 ま、とはいえここでいくら文句を言ったところで何もならないのは事実。

 そんな事より、そろそろ起きて状況把握に努める方が現実的だろう。

 こんな愚痴を並べたところで何も変わらないのは分かり切っているだろ私。

 前世でも、こうして上司の愚痴を言っていたものだ。それに文句も言わず飲みに付き合ってくれた後輩の……なんだったけ?まあ、名前なんていいよね!私の記憶にはしっかりとその顔が記録されているんだから!

 

 さ、ユフェリスは上手い事やってくれてるかな?

 まあ、結構仕事出来そうだったし、実際ああいうタイプは出来るのだということは私が知っている。

 伊達に仕事が出来過ぎて先輩連中から少し嫌われていた私ではない。出来るんですよ?仕事。バリバリなキャリアウーマンですわ!

 ま、仕事ができるのもいい事ばかりではない。私はその分自己主張とかそこまでするタイプじゃなかったし、押し付けられたらやるしかないのだ。仕事の上下関係ってほんと怖いよね?


 まあ、そんなものは転生したのだから関係は無い。

 せめて、もうあの人間たちは帰ってくれてると良いんだけど……






 ――――――

 

 《意識の覚醒を確認。スキル『万能者』で『魔力感知』を発動します》


 そんな文字と一緒にいつもの景色が頭に浮かんで来る。

 まるで目で見ているように綺麗で、それどころか目で見ているよりも見える範囲が広い。


 あー、良く寝た。さて、それじゃあまずはスキルの確認でも、

 そんな風に考えて私は『万能者』のスキルについて説明を見ようとして、


 「あ!」

 

 誰かの声が聞こえた。

 これはテティではない。そしてセリアでもない。

 

 「ルア様、もしかしてお目覚めに!?」

 「え、あ、はい?おはようございます」

 「おはようございます。本来ならお目覚めしたことを他の者たちにも喧伝しなければいけないのですが、今少し緊急事態なのです!」


 そう言って何やら慌てるその精霊は、大精霊の一柱であるレリスだった。

 それにしてもその慌てようは凄いもので、今にも倒れそうな程青ざめた顔をしている。


 「何かあったの?ちなみに、私どれくらい寝てたか分かる?」

 「ルア様はまだ一日程度しか眠っておられません。それで、その問題が一つありまして」

 「なんの問題?私に解決できることなら手伝うけど?」

 「それが、つい先ほど、ユフェリス様がセリアの加護の返還の儀を執り行ったのですが」


 へー、ってつまりセリアが勇者じゃなくなったってこと?

 そんな大切な事、私が見ている時にやってほしかった。いや、少し興味があったとかそう言う訳じゃない。あくまで森の代表として見守る責任があるかなーなんて?


 「あれ?でも、それが何か問題で?」

 「それが、返還の儀を済ませた後、セリアの姿が見えなくなってしまって」


 姿が見えないのがそんなにも駄目な事なのだろうか?

 加護を還すと何か少し副作用がある的な?まあ、確かにそんな力を還すのなら少しは安静にでもしておかなければいけない、みたいな事だろうか?

 仕方が無い。私もスキルを使って少し探すとしましょうか。

 

 「分かった。見かけたら教えるよ。少し休ませないとだしね」

 「ありがとうございます。では私は西の方を!」


 すぐにそのまま西に飛んでいくレリス。

 そこまで慌てる事なのだろうか?確かにセリアは凄く頑張っていたし肉体的疲労だけじゃなくて精神的疲労も多そうではあるが、それでも伊達に400年も勇者をやってきたわけではないだろう。


 ま、ボチボチ探していきますか。唸れ、私の新たなスキル、『万能者』!!セリアの居場所を示したまえ!!

 そうやって『万能者』にそんな無茶ぶりをしようとしたとき、いつもと変わらぬ様子で彼女は現れるのだった。


 「あ、もしかしてルア起きた?おはよう」

 「え?セリア?おはよう……って、そうじゃなくてレリスが探してたよ?」

 「ええ。返還の儀が終わった後、少し寝てなさいって言われてたんだけど、やっぱり我慢できなくて。ここに来ればもしかしたらルアとまた話せるかなって思って」

 「なんだー、私と話したいだけ?それだったら別に今じゃなくても寝てればいいのに。私は木だから動けないし、いつでもここにいるから逃げたりしないよ?」


 そんな風にいつもの調子で話す私。

 対するセリアの表情は少し疲れが浮かんでいる。

 私の真下まで来るとそこに腰かける。


 「やっぱり、ここは良いね。空気が綺麗。景色も、周りも、何もかもが人間たちの国とは違う。誰もが綺麗で、とても素敵な場所」

 「やだなー、どしたの急に?」

 「ううん。ただ、本当に綺麗な場所だと思ってさ」


 その声音も、瞳も、少し力が無い。

 疲れているからだろうか?

 やっぱり寝ていた方が良かったのでは?

 そんな考えは、次のセリアの一言で吹っ飛ぶことになる。


 「魔王の呪いは魂の呪い」

 「え?」

 「加護によって人の身ながら生き永らえた私も、魂を半分も呪いに侵されれば、これ以上はどうしようもない」

 「急にどうしたの?何言ってるの?」 

 「私が受けた呪いは、魂を、蝕む物だった。それは少しずつ、私を蝕んで、そしていつしか加護にまでその呪いは侵蝕し始めた」


 悔しそうに、なのに諦めたようにそう話始めるセリア。

 私はその言葉に何も言えず、ただ茫然としていることしか出来なかった。


 「私は加護のおかげで何とか呪いも抑えられてた。それでも、こればっかりはどうにもならなかったの。呪いに気づいたのは魔王を討って数年経った時だった。その時は、先生と同じように加護だけでも次の後継者にでも渡してしまおう。って、そんな事を考えてた。でも、結局そんな酷い事、私は出来なかった」

 

 やがて気持ちが決壊し、セリアの両目からはとめどなく涙が溢れる。


 「人のために、国のために、次の後継者に力を渡すべきだって、そう考えたけど。でも、やっぱりそんな悲しい事出来ない。私は、もう誰にもこんな思いはして欲しくない!」

 「せ、りあ……」


 そこで何かを言おうとして、何も言えない自分にもどかしさを感じる。

 何か気の利いた言葉でもかけて上げられれば、そんな事を考えても話を聞いていたらとても私が何かを言えるようなことではなかった。

 

 「ずっと、ずっとどうすればいいのか分からなくて、それでも約束は、ルインとの約束だけは違えるわけにはいかなくて……でも、どうしようも無かった。どうすることも出来なかった。私じゃ、呪いは解けなくて、いつしか加護にまで呪いが」


 約束、それがフェルナンド王国に仕えてた理由なのだろう。

 国を守り、人類を守り、未来を守る。そんな重役を勇者というにはあまりに小さいその両肩に崩れてしまいそうな程乗っけていたのだ。

 どれほどの重圧だったのだろうか?どれほどそれがセリアを追いつめていたのだろうか?

 そこに魔王の呪いによって対処不可能な事態になってしまった。

 八方塞がりだ。そんな状況でまともな思考なんて出来る筈が無かった。

 もし私がセリアだったら、きっと全部何もかも投げ出して、どうしようもなくみっともなく途方に暮れていただろう。

 使命?約束?そんな物を守って生きるなんて、私は御免だって、そう思ってしまうから。


 「でも、私の魂は侵食されても、加護だけはされちゃいけないと思った。これは人にとっての希望だから。これがあるなら、勇者は何度でも現れるから。でも、私はそんな直接誰かに押し付けるのは嫌だった。こんなものを、苦痛でしかない物を分かっていて誰かに押し付けるなんて、私にはとてもできなかった。だから、最後に、この森に還しに来たの」

 「還しに?」 

 「加護は元々ユフェリス様がずっと前に人間に渡した物だった。私はそれを継承した時にここに来て知ってたの。だから、ここで加護を還せれば、と思って。少しの侵蝕なら平気だと思ったから。それに、私に次の勇者を選ぶことなんて出来ないもの」


 そう少し微笑を浮かべるセリア。

 こんな悲しそうで、それでいて力強い表情は見たことが無い。

 私には何千年経とうと真似できるようなものじゃない。


 「いろんな物を見てきた。いろんな人と出会って、いろんな相手と戦って、それで少し人の為にも戦ってきた。約束をした。握手を交わして、天望を語り合って、いつかを夢見て今まで生きてきた。辛かった。苦しかった。悲しかった。人間の醜さも知った。どれほど愚かなのかも私は学んだ。助けても意味が無いんじゃないかって、そんな風に思うこともあった。でも、それでもやっぱり、私はそれを見捨てられなくて、結局こうなっちゃった」

 「……後悔は、ない?」

 「いっぱい、多分、誰よりも後悔だらけだと思う。数えきれないほどの命を奪った。本当に悔いても悔いても悔やみきれない。でも、そんな後悔だらけで、罪深い人生だったけど、それでも意味はあったって、そう思いたい。私の後悔も、罪も、それは全て意味があったって思えて死ねるんなら、それが私にとって最後の救い。それだけで、後悔にも目を瞑れる」

 

 だんだんとセリアの息がゆっくりになっていく。

 ゆっくり、静かに、着実にその命が終わりに近づいているのが分かる。

 最後、そう、最後なのだ。今までセリアの行動が少し不思議だった。

 加護を還しても、普通の人間として生きていけるのだと思っていた。

 でも、それはどうやら間違っていたようだ。


 「それに、最後は、こうやって友達の横で死ねるんだから、これ以上の事は無いよ。ずっと一人だった私に、気さくに声をかけてきて、最初は驚いたけど、でも、昨日は私の為に怒ってくれてたのも知ってる。テティと、ルアと、一緒に話したこの時間は、やっぱりとても楽しいものだった。一人の私に、ただ死にに来ただけだった私に、ルアが、テティが思い出をくれた。何にも無かった。今までほとんど何にもなくて、失ってばかりで、それで灰色だったはずの私に、色をくれた。笑顔をくれた。私の、大切な友達」

 「……う、ん。友達。そう、私たちは友達」

 「ずっと一人で、死ぬ時も一人だと思ってたのに、本当長生きってしてみるもんだね」

 「そう、なんだ。私はまだそこまで生きてないから分からないや……」

 

 何か熱いものがじんわりと体中に巡る。

 目なんて無いのに、涙が溢れてきそうな感覚に襲われる。

 そして、セリアは体に力が入らなくなったのか、木の幹に体を預ける。


 「……ねえ、ルア、最後に、お願いしてもいい?」

 「……分かった。なんでも、いいよ」


 セリアはそう言うと少し苦しそうに一呼吸置く。

 魂の呪いだ。それを抑える加護もない。今もその魂は急速に蝕まれているのだろう。


 「あり、がとう。あの国が、あの子、が、心残りで……」

 

 国、それはフェルナンドの事だろう。

 

 「その子は、名前は?」

 「アナ、アナスタシア。アルベールは、酷い事をしてしまった。私は、あの子を、傷つけてしまった。だから、アナは、アナだけは……」

 「分かった。分かったから。全部伝わった。セリアの想いは、私が全部受け取ったから」

 「あ……と、ぅ」


 小さな、今にも消え入るような声で、最後にそう呟いたセリア。

  

 「私が、きっと、そのアナスタシアって子のことも、フェルナンドの事もどうにかする。きっと。だから、もう良いんだよ。安心して、良いんだよ、セリア」


 そう。もう良いのだ。十分、これ以上ないほど、セリアは頑張った。

 誰にも出来ないようなことを成し遂げたのだ。

 勇者として、セリアは400年もの間、苦悩しながらも、ずっと誰かのために生きていたのだ。

 だから、だからせめて、


 「だから、最後は、せめて……安らかに」

 

 もう、セリアに息は無い。

 私の下で安らかに息を引き取った。


 一緒に過ごした時間は、多分そんなに多くない。

 これで友達なのか?そう思われるかもしれない。

 でも、私はそれでも、どんなに時間が短かったとしても、セリアは私にとってかけがえのない友達だったと断言できる。

 なんでもない話をした。テティと一緒に嬉しそうに果物を食べる、そんな光景を見ていただけだった。

 それでも、セリアが今まで私の前で見せていた笑顔は本物だったと思う。

 私が、前世で失った親友。彼女も、セリアの様にいつも笑っていた。


 前世では、そんな親友を私は失った。私のせいで失くしてしまった。後悔してもしたりない。

 それでも、今回は違う。

 

 こんな展開、望んでいたわけではなかった。 

 こんな風に別れるとも思っていなかった。

 胸の中は悲しみで一杯だし、今にも泣いてしまいそうでもある。


 それでも、後悔はない。

 だって、セリアの最後の表情が、こんなにも幸せそうなのだから。

 私がここで後悔するのは違うだろう。泣いて悔やむのも筋違いだ。

 

 ようやく、セリアは自分の終わりと向き合えたのだ。

 笑顔で、ようやく全てを終わらせることが出来たのだ。


 なら、私もそれを笑顔で送り出すべきだろう。

 とても悲しい、もっと一緒にいろんなものを見て、話したいこともたくさんあった。

 でも、それでもこんな清々しいくらい綺麗な顔をされてしまったら、沈んでなんていられない。


 「それに、セリアと、ちゃんと向き合って別れられた。あの時とは違う。しっかり、送り出せた。だから……ありがとうセリア」


 セリアのおかげで、また一つ、私は過去に決着を付けられた気がする。

 あの日できなかったことを――後悔を、今回は絶対にしないために。


 「さようなら、セリア……またね」


 それは暖かな陽気の朝。

 大きな木の木漏れ日が、彼女の頬を優しく照らしている。

 

 それはかつて世界を守った勇者。

 それはかつて魔王から人々を救った勇者。

 それは約束の為に己を顧みずに戦い続けた勇者。


 そして、英雄で……それでいて、なんてことない、ただの心優しい一人の少女。

 少女は神樹の下で安らかに、その長い旅路に幕を下ろすのだった。


 




 ――――――


 「ここは……そうだ、私は、」


 「ごめんなさい、ルイン。やっぱり私、約束、ちゃんと守れなかった」


 約束。それは400年前に交わした、一人の青年との約束。


 「セリア、俺は、この国の民を、出来る限り笑顔にしたい。夢物語だろ?笑ってくれてもいい。時間が経って、いつか俺の子孫の頃に大国になったとしても、俺の夢は叶わないと思う。幸せなものがいれば、きっとその影で見えない民が苦しんでしまう。それは変えられない」

 「じゃあ、あなたはどうするの?」

 「どうもしないさ。俺にはどうしようもない事だ。俺は神様じゃないからな。そこまではとてもじゃないが手は差し伸べられない。全てを救えるほど俺の手の平は大きくない。でも、俺の手は大きくできなくても、俺の手をより広く、有効に使うことは出来る。お前がいてくれるなら、全ては無理でも、差し伸べられる手が増える。お前が手を貸してくれるなら、その分俺は民にその手を集中させられる」

 「……私が手伝うと?」

 「お前はそう言う人間だろ?それがお前だ。困ってる人は見捨てられない。常に誰かのために動いてしまう。それがお前の良いところであり、また悪いところでもある」

 「悪い?」

 「まあ、悪い、というよりか……人が良すぎるだけか」


 青年は私をそうやってからかって来る。

 いつも良く分からない事を言って来る。

 でも、その言葉は確かにその通りで、彼は誰より私をよくわかっていた。

 

 「なあ、セリア、俺はお前と違って普通の人間だ。あと数十年しか生きられないし、とてもじゃないが、この国の発展は見届けられない」

 「それは、うん。そうだね」

 「だから、俺には無理だから、お前に見届けて欲しいんだ。この国が、人々がどうなるのか。どんな風に発展していくか、それは俺の理想通りのものなのかを」

 「見届けるだけで良いの?」

 「ああ。ただ、少し手に負えないようなものがあった時に助けに入ってくれればいい。そうじゃないと、お前はいつまでも無理しちまうだろ?」

 「……」


 私はその彼の言葉にムッとする。

 無理をして何が悪いのだ、と。私が無理をしようが、それは別に私の自由だ。


 「だから、約束だ。俺からの最初で最後の約束。お前を此処に縛り付ける事なんてしたくないからな。お前には散々助けられた。だからこそ、この約束は守って欲しい」

 「内容次第」

 「ま、約束っつってもお願いなんだけど」

 「……少しなら聞いてあげる」

 「んじゃ……自分のために生きて欲しい。お前は、お前自身のために。この国の為、なんてことはしないで良い。というかしないでくれ。お前にここまで頑張ってもらって、俺はこれ以上お前に返せるものが無い。だから、絶対に、誰かの為だけに生きる事だけはしないでくれ。お前はいつもそうだから」

 「それは……勇者だから」

 「勇者でも、自分の意思くらいあるだろ?だから、それを少し自分に向けるだけで良い。自分を見つめるだけで良い。俺は十分助けられた。お前に十分救われた。勇者にはもう、これ以上ないほど救われたんだ。だから、セリアは、セリアの為に生きてくれ。勇者じゃなくて、セリアとして、やりたいように、自分のために生きて欲しい」


 それは、ただのお願いだった。

 勇者の私でなくて、セリアという一人の少女へのお願いだった。


 「勇者で居続けるなんて、そんなつまんないことするな。お前は勇者の前に一人の普通の女の子なんだから。自分のために生きて、自分のやりたいようにやれ。誰かの為には、別に片手間でだってできるんだから。誰かに強制されるな。他人の、正義のための奴隷になるな。その腕も、足も、全部お前の為のものなんだから」

 

 「だから、約束だ。お前は、お前のために、セリアという一人の少女として生きろ。破ったら、いつかお前が俺と同じ場所に来たら、そうだな……毎日花畑でずっと花を眺めさせる。絶対に、誰かのためになんて生きられないように」

 「ルインの為に、生きるのは?」

 「!!……は、ははっ!俺の為には、もう戦ってくれただろ?だから、良いんだ。というか、俺の為っていうなら、約束守ってくれ」

 「その約束は……」

 「いつか、ここじゃない場所で、俺じゃない俺と出会ったときに、その時に俺と一緒に生きてくれれば十分だ」

 「……それって!?」

 「今は、無理だからな。立場が、な。だから、約束だ。お前は今のうちに自分のために生きてくれ。だって、次はセリアが自分の為になんて生きられないくらい、セリアの全てを俺が貰うんだから」

 

 それは言ってしまえばただのプロポーズ。

 そういうところは全然昔から変わらない。

 

 「そんなの、ほとんど私の為じゃん……」

 「ん?確かにそうだな。結局、セリアの為になるのが俺にとっての……」


 全く、婚約者が既にいるのに、他の女を本気で口説くのだから始末に負えない。

 そんなふしだらな男を好きになってしまう自分も自分だが。


 「結局、約束、一度も守れなかったなー。これじゃあ、ルインとずっとお花畑ね」


 そこでふふっと笑いを浮かべる。

 一度も約束を守れなかったのだから本当に笑ってしまう。


 「あ、でも、最後はそうでもなかったかも……まあ、それでも結局変わらないけど」


 そうして、だんだんとセリアの意識は薄れていく。

 

 呪いによって崩れかけていたその魂は、寸前でユフェリスによって形を保っていた。

 やがて侵食していた呪いは消え去り、魂は一回り小さくなる。

 その魂は魔素へと還元され、新たな一人の少女として何もかもが一から始まることになる。


 が、それはまた別の話。

 

 ただ、一つだけ言うならば、少女はやがて一人の青年と出会い、そして今度は何不自由なく幸せな人生を送ったのだとか……。

これ書かないと評価は要らないと思われるらしいので。

面白い、続きが気になる、などなど色々思われた方はページ下の☆☆☆☆☆を★★★★★にして貰えるとありがたいです。

皆さんのその評価が執筆意欲に繋がりますのでどうかよろしくお願いします!

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