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48 変革期

毎日少しずつ読んでくれている方が増えています。本当にありがとうございます!

 ルアが進化で意識を失っている中、ユフェリスはルアに頼まれた通りフェルナンド王国の対応について国王のアルベールと話をしていた。

 話と言ってもほとんどアルベールはビビッて話にもなっていないのだが……


 「本当に……人間はつくづく度し難い」

  

 エルフの村に侵攻し、森を汚す算段を立て、そして何よりもルア自身の手を煩わせた。

 ユフェリスたち精霊からすればルアはまごうことなき世界樹の再臨。

 

 「ルア様の手を煩わせるだけでは飽き足らず、何よりお前たちの国に仕えてきたセリアに対しても対応は劣悪」


 ユフェリスの体からは無意識のうちに霊気――いわばオーラが漏れ出している。

 それは人間であるアルベールにとっては恐怖でしかなく、アルベールは内心で人生最大の後悔を感じているのであった。

 

 「も、申し訳ございませんでした!!わ、私の浅はかな考えで、あなた様方の森に、エルフの村に危害を加えてしまい、」

 「這いつくばるその姿すら汚らわしい。良き人間がいるように悪しき人間もいる。またそれは精霊にも言える事。魔に落ちたのであれば妖精と化し、我々にも牙を剥く。ですが、お前のような人間はやはり、どこまで言っても下劣なまま」


 侮蔑の視線でアルベールを睥睨するユフェリス。

 隣に並ぶテティでさえもその目は今までで見たことが無いほどアルベールを蔑んでいる。


 「これだから人間には渡したくは無かったのだ。たとえ個が善であり、それが私たちに通ずるものであったとしても、結局はそんな者までもお前たちは利用しようとする」

 「な、なにを?」

 「お前はセリアの苦しみを理解できないだろう。あの少女がどんな思いなのか、知る由もあるまい。自らの欲を満たすことだけを考えた猿が、勇者を利用するなど……私が浅はかだったのか?」


 ユフェリスはそこで考える。

 それは今からおよそ数千年前。森に現れた一人の男。

 その男を信じ、ユフェリスたち精霊は加護を授けた。


 精霊はエインの言いつけによって森から出ることは叶わない。そうなれば魔物や魔族が力を付け、害悪となることも容易に想像できた。

 だから、世界の調和の為にも自分たちの代行者が必要だと考えた。人々の希望が必要だと考えた。人間はあまり好きではなかったユフェリスも、エインが人間を目にかけていたことは知っていたから。

 だからこそ、そこで一人の“異世界人”に加護を与えたのだ。

 

 だが、それが間違いだった。

 どんなに優れ、善性に溢れた人間でも、周りまでは変えられない。

 

 「今になって思う。もう少し人間の悪性を信じるべきだった。エイン様が目をかけていたから、そうやって考えもしなかった。少し足りなかった。人間が如何に個の力を持とうと、その本質は変わらないと、私はもう少し深く考えるべきだった」

 

 それは後悔。もっとニンゲンを信じていれば、こんなことにはならなかったのだから。

 彼らに優しさを求めたから、だから今、こうして森も、村も、セリアも苦しめられているのだ。


 「さて、ルア様から頼まれたのは今後の事ですが、そんな事は脳の無い猿のお前たちでも分かるだことでしょう?」

 「そ、それは……」 

 「私たち、森の精霊たちにたてつくのなら、それ相応の覚悟をした方が良い。魔王なんかと一緒にするべきではない。今ここでこれ以上の敵対を望むのならば、私は容赦なくお前たちの国を、滅ぼします」

 「ど、どうかご慈悲を!わ、私たちはこれ以上この森には干渉いたしません!他国にも啓蒙いたします!ですからどうか、どうかご慈悲を賜りたく!!」

 

 もはや王族の威厳の欠片もなく、地に這いつくばり地面の頭を擦り付けるアルベール。

 自分の今の状況がよくわかっているらしい。


 「そうですか。それは結構。この先私たちにたてつかぬというのなら、存在自体が罪な人間とて私は滅ぼすつもりはないですよ。もちろん、お前たちの国にも興味はないのです」

 「あぁ、ありがたき、」

 「ですが、あと一度でも森に危害を加えるのなら、お前たちの国が地図から消えると思うといい」

 「……は、い」

 「そうですか、ならこれ以上私から言う事は無い。どこへなりとも行きなさい」

 

 ルアが眠りに就いているからかスキルの効果はすでになく、周りの兵士たちも解放されている。

 そこでユフェリスは辺りを見渡してから範囲回復魔法をかける。


 「逃げるにしても、動けなければ逃げられない。これはせめてもの慈悲、ルア様の寛大さに感謝し、そしてすぐにこの場から立ち去るといい」


 重傷を負ってその場に倒れ伏して悲鳴をあげていた者、そもそも意識すら回復していなかった者も、皆起き上がり自分の今の状況に驚愕する。


 「王よ、もう一度、我らはまだ、」

 

 近衛総指揮ゲイルは、今までの惨状を見ても尚、まだ戦えるとアルベールに指示を仰ぐ。

 だが、アルベールもそこまで状況が見えていないわけではない。


 「撤退だ」

 「お待ちください!我らならばまだ戦えます!今までは精霊を見くびっておりましたが、それでももう油断は致しません!」

 「ではなんだ!?貴様が一人であの精霊を倒せると?無理に決まっておろう!!今の魔法を見なかったのか!?魔法師が、数百人集まってもあの規模の高位回復魔法など使えぬのだ!それをあの精霊はたった一人で、ほとんど時間も掛けずにやってのけたのだ!そんなものを相手に貴様は勝てるとでも!?」

 「そ、それは……私一人では無理でも、他の兵士たちも」

 「ほう、では試しますか?お前たち人間が仮にも精霊である私を倒せるなどと……」


 ゲイルの横に突然現れるユフェリス。

 

 「の、望むところだ!!」

 

 ゲイルはそのまま振り向きざまに剣を抜き、磨き抜かれた剣技でユフェリスの胴に一閃。

 斬れた。ゲイルはそう確かな確信があった。

 

 「んな!?そんな馬鹿な!?」

 

 まさに達人の技。その剣はほとんどブレは無く、吸い込まれるようにユフェリスの胴へと伸びていき、そしてその瞬間剣は音もなく粉々に砕かれる。


 「その程度の腕で、速さで、剣で、私を斬れると?……現実を見ろ、ニンゲン」

 「ひ、ひぃぃー!!」


 剣はユフェリスの体に食い込むこともなく、それどころか動いてすらいないのに粉々に砕けている。

 ゲイルはその光景にようやく恐怖を覚える。

 長年磨き続け、もはや自分に勝てるものなどいないと自負していた。勇者であろうと勝てると、そう自信を持っていたのだ。

 それが、目の前の存在にはまず触れる事すら出来ない。剣はその体に届く寸前で、まるで何かに阻まれたかのように少しの抵抗と共に細かく砕かれる。


 「少し痛めつけるのが足りなかったようですね」

 

 グチャッという音と共にゲイルの右腕が肩口から引きちぎられる。

 だが、ユフェリスは動いていない。


 「う、うぐぎゃあああー!!」

 「五月蠅い。これだからニンゲンは」

 

 うるさくその場で喚き散らすゲイルを底冷えするような眼で見下し、そしてまた魔法で腕をくっつける。


 「これならまだ鬱陶しく飛び回る蠅の方が幾分マシですね。どうします?まだ戦いますか?」

 「い、いえ。もはや私たちに戦闘の意思はありません。そこのゲイルの命はあなた様に」

 「ニンゲンの命など、私が欲しているとでも?」

 

 そうしてもはやあまりの恐怖で狂ったのか、ゲイルは虚ろな目をして何も言わなくなっている。

 そんな人間たちに、ユフェリスは最後の警告をする。


 「降伏し、すぐさま逃げ帰るか、それともまだ愚かにも歯向かって国ごと滅びるか最後に選ばせて差し上げましょう」


 その精霊というよりかは悪魔のような選択肢に、誰もが顔を青褪める。

 

 「全軍、撤退だ。ゲイル、兵を戻せ」

 「……」

 「ゲイル!!」

 「……は、はい」


 そうして、フェルナンド王国からの侵略軍は、勇者と精霊によって大敗して国へと帰ることになる。

 

 フェルナンドの侵略。

 それは他国にも伝わり、そして、フェルナンドの状況を聞いた各国はその報告に青ざめることになる。大国であるフェルナンドが為す術もなく大敗した。

 そんな報告はフェルナンドに続いて森への侵攻を計画していた各国を恐怖させる。

  

 魔王にすら匹敵する。フェルナンドの軍事力はそれ程までに脅威的だった。

 だが、その兵数も何もかもが意味を為さず、誰もが目を虚ろにして帰還する。


 100年前の冒険者の言葉を誰もが思い出す。

 そして、各国は森に対して対応を慎重にならざる負えなくなった。

 それと同時に、今まで半ば空想上の存在であった精霊がはっきりと世界に存在していることが認められたのだった。

 

 その情報は、森への対応に難色を示す人間だけでなく亜人や、はたまた魔族、そして各地に君臨する魔王の元までも響いていく。


 ゆっくりと、ゆっくりと世界は少しずつ、森を巻き込んで大きく動き始める……。

これ書かないと評価は要らないと思われるらしいので。

面白い、続きが気になる、などなど色々思われた方はページ下の☆☆☆☆☆を★★★★★にして貰えるとありがたいです。

皆さんのその評価が執筆意欲に繋がりますのでどうかよろしくお願いします!

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