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〔2〕

事件に関わる人間が未成年と知った途端、神崎の気持ちは暗くなる。

 だが個人の感情など必要ない。捜査をし、証拠を固め、犯人を追及する。それが仕事だ。

 使命感が、あったはずだ。正義感があったはずだった。

 しかし正義とは、何だ? 

 この社会で、自分の居場所がわからなくなる。やりきれなさに、胸が痛む。

 自分の仕事は何かの、誰かの役に立つのだろうか……。

「被害者は平井和美、十六歳。県立T高校の二年生。直接の死因は頭部を鈍器で殴られたための脳挫傷、他骨折十六カ所、内臓破裂……」

 寒々しい会議室で淀みなく、機械的に書類を読み上げる声。ボードに貼られた凄惨な写真の数々は、何度となく目にしてきたはずだった。吐き気を催したことも、あったかも知れない。遠い昔に……。

 背に当たるパイプ椅子が、やけに冷たく感じられる。ざわつく嫌悪感が椅子の為ではなく、血腥い写真のせいでもないことを、神崎は知っていた。

 それは紛れもなく犯人に向けられたものであり、自分の原動力そのものなのだと信じたかった。

「今回は容疑者を絞りやすそうだぞ、神崎。付き合いのあった暴走族グループが、既に割れているそうだ。一人ずつ引っ張って、事情徴収すれば直ぐに終わるだろうな」

 こともなげに言う濱田に、神崎は黙って頷いた。

 直ぐに終わる? 何が終わるのだろう? 終わりのある仕事なのか?

「そうだ、これから交通課に寄ってグループのたまり場を聞いてくるんだが、ついでに例の話をしといてやるよ」

「えっ?」

「合コンだよ」

 たった今聞かされた事件の経緯と、合コンを同列に出来る濱田の神経に、神崎は無性に腹が立った。

 しかし、大人げない行動をとるほど自分を抑えられないわけではない。

 長い付き合いだ。努めて平静を装っても濱田には、神崎の私情など見通されている。解っていながら、わざと掻き回してくるのだ。

「凶行に走る犯罪者の現実と、自分の現実を混同するな。気持ちを切り替えるんだ」

 また、言われてしまった。今回は、隠し通せると思っていたのに。

 悔しさに神崎は、唇を噛んだ。

 聞き込みに行くため、一旦自分のデスクに戻ろうとした神崎の後を早川が急ぎ足で追いかけてきた。

「今回、自分とチームです。濱田さんはオブザーバーに回るそうですから」

 早川の報告に、神崎は肩をすくめた。濱田は最近、外回りを若い者に任せてデスクで仕事をすることが多い。確かに、まとめ役がいた方が仕事に無駄がないのだが。

「少年課から、リストをもらってきました。頭から当たりますか?」

「ああ、そうしよう。車は俺が運転するよ」

 交通課の資料は別のチームに割り当てられたようだ。車のキーを取りに行こうとした早川を呼び止め、神崎は席を立った。

「いえ、慣例ですから」

 しかし生真面目な早川は取り合わない。車の運転は格下の仕事と決まっているからだ。

 女性の運転で助手席に座るのが厭なわけではないが、気を紛らわせることが出来る機会を失って、神崎はさらに気が重くなった。


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