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プロローグーユーリィー

悲劇を知らない人たちが言う「平和」は単なる建前でしかない。また、悲劇を経験したからといって誰もが必ずしも「平和」を求めるとも限らない。戦いの中でしか存在意義を見出せなかった人にとって、ある意味で「平和」こそ悲劇ともいえるだろう。だが、彼らは哀れなどではない。生命を懸けなければ何も生まれない。完全なる調和によって得られた平和には刺激も生命を懸けた思考も何もかも存在しない。ただ「平和」がそこに在るだけである。人として思考を止めることなく進化し続けるために、我々は未来永劫「戦争」し続ける。人は神にはなれないのだから。


これが我が国 ヴァレンタイン帝国初代皇帝ヴラド=K=ヴァレンタインの鉛よりも重い金言だ。400年前からずっとこの言葉を忠実に護り続けている子孫たちは、現在も侵略戦争を続けている。しかし戦争をしているからこそ、命がけでありとあらゆる技術を発達させてきた。兵器はもちろん、移動手段や建築、あるいは前線での息抜きのための娯楽等、この国は、地上で最も弱者を切り捨てたともいえるが、地上で最も人類社会に恩恵をもたらしているともいえる。俺はいつ戦死するともわからぬヴァレンタイン軍人だが、戦争主義を正々堂々と掲げて振り回している、前時代の、いや、この国以外の倫理観から見れば大悪党であるヴァレンタインを、実は結構気に入っている。

そんなことを思いながら、ぼーっと夕焼けを眺める。はたから見た今の俺を想像してみると、どことなくジジくさい。もう俺も歳だろうか。


「たそがれてらっしゃるところ悪いんですが仕事ですよ、班長」

ぼーっとしすぎていつのまにかウトウトし始めていた俺は、部下の言葉で現実に戻ってきた。

「あぁ、今日はなんだっけ?」

「先日の軍基地爆破事件の主犯とされるテロリスト集団の拠点制圧です。」

確か“恒久の平和”という、帝国の主義に真っ向から反するスローガンを掲げて最近力をつけてきたという集団だ。スローガンの割にはなかなかの武装をしていて、各地の駐屯部隊はかなり手こずっているとは聞いたことがある。

「でも遠目から見た感じ、駐屯兵で対処できそうじゃない?」

「今日の目標拠点は組織の末端らしいですよ。だから、できるだけ生かして捕らえろというのが命令です」

「そのあとで拷問すると。相変わらず上層は惨い惨い」

まぁここでそんなことを言っていても仕方がない。また、平和を望むくせに、それをテロリズムで訴える集団に同情する気もさらさらない。そういうことは政治闘争で勝ってから言うべきだろう。

「思ってもないことを言っても無駄どころか損害を被りますよ。我々は特務班として仕事をするのみです」

副班長のカレルが俺の心中を読んで言う。勘がいいやつは仕事人としては優秀だが人としては少し癪だ。

「一割くらいは思ってたよ多分。じゃあカレルの言うとおり、俺たちもそろそろ仕事しよう」

「了解しました」

カレルは敬礼してから、班員たちにキビキビと指示を出す。こういうときはカレルが優秀で良かったと思う。いつのまにか夕陽は沈みきっていて、段々と星が出てきていた。




機装が完了した我が特務班が拠点とされる建物の正面に集合する。この地域の駐屯部隊に拠点包囲を命令してあるので俺たちは正面から突入して制圧するだけである。

「駐屯部隊の包囲が完了したようです」

「了解。五分後に突入する。取りこぼしがないようにカレルは5人選抜して駐屯部隊の包囲網に配置してくれ。指揮も任せる」

「了解しました。…中の愚民どもにしっかり“皇帝の餓狼”の悪名の意味を教えてやってくださいね、ユーリィ班長」

さりげなく毒づいてカレルは仕事に向かった。作戦直前に皮肉るとはなかなか嫌味なやつだ。まぁ、愚かな暴力集団を懲らしめてやる必要があるのは確かだ。とにかく、今日も元気に悪名を轟かせにいこうか。皇帝直属特務班 通称“フェンリル” 班長として。




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