愚かさが恐ろしい
女王も自分の言動が一致しないことにようやく気付いたのか、憎々しげにただ小さく「生意気な……」と言うだけしかできなかった。
それがより一層醜態を晒していることに繋がるのだが、実の娘に憎しみと恨みをぶつけるのに忙しい女王は気付かない。
そしてそんな女王を見る度に、ニュクスは情けなくて笑いが出そうだし泣きそうだしで情緒が大変忙しい。
勿論それらの感情を表には出さないけれども。
「アンネローゼはまだ幼いのですもの、失敗は致し方ないことですわ。陛下も派閥の夫人方ならば寛容であると思ったからこそこの茶会を開かれたのでしょう?」
「……ニュクス、そなた」
「私もアンネローゼもまだ夫人たちからすれば年端もいかない子供ですもの、当然ですわね。王女としてみなさまに望まれるほど高みに立つにはまだまだ遠く及びませんけれど、良い機会を得られたと姉妹揃って感謝しております」
ニュクスがそう笑って夫人たちに小首を傾げてみせれば「まあ」「さすがはニュクス様」とさやさやと声が少しずつ上がる。
なんとも滑稽な光景ではあるが、派閥の人間が女王から離れ味方につくきっかけの一つにでもなってくれるなら儲けものだとニュクスは思っていた。
そんな中、一通り飲み食いをして満足したのだろう、アンネローゼが椅子から降りる。
「つまんないからお部屋に戻るぅ」
「ア、アンネローゼ!?」
これに驚いたのは他ならぬ女王だ。
この茶会の席で心を尽くして可愛いアンネローゼのことを夫人たちに聞かせ、これから頑張る娘の後見を頼もうと思っていたのに当の本人が他の令嬢と交流しようともせず、部屋に帰ろうとしているのだから当然だ。
せめて他の令嬢たちと遊びたいとでも言ってくれればまだマシであったろうにとニュクスでさえも同情したくなる有様である。
「アンネローゼ、せめて皆様に退出のご挨拶をしなくては」
「ええ、めんどくさぁい」
「アンネローゼ」
「……はぁい、お姉様がウルサいからご挨拶してあげますぅ……」
ニュクスに強めに名前を呼ばれ、渋々といった様子で『お菓子はアンネローゼが選んであげたので感謝して食べてね』というとんでもない挨拶を残してさっさと――しかも走って去ったのである。
ニュクスは唖然とした。
四度目の人生で色々と変わっている部分が生じているのは百も承知だが、妹の教育具合が過去最低だ、と。
(ここまでできない子じゃなかったはずなのに……!)
愚かではあったけれども。
まるでそれはニュクスが良い方向に進んだ分だけ、アンネローゼが悪い方向に進んだようにも思えて恐ろしい。
呆然と走り去ったアンネローゼの背を見つめるニュクスだが、その後ろでは女王が慌てたように場を取り繕っていたのであった。
そしてニュクスにも『そなたも令嬢たちをもてなすように』と言われて、ハッとして彼女も動き出す。
「……すみません、妹は多感な時期ですから」
「そ、そうなのですね」
「クッキーは駄目でも他のお菓子は召し上がれるかしら。こちらのケーキなどはナッツ類を使っていないので安心ですよ。南方のケーキでさっぱりしたもので……」
女王とニュクスがあれこれと動き回り、ようやく茶会として機能した時間はとてもくたびれるものであったが、少なくともニュクスが望んだ程度の収穫はあった。
帰りがけ、女王は疲れたからと言って客の見送りをニュクスに押しつけ退出してしまった。
本来ならば許される行為ではないが、穏やかに微笑みながら今日の参加に感謝して見送りしてくれる十才の少女を前に派閥の夫人たちも、令嬢も、文句を言うわけにもいかない。
ただその分だけ、健気な第一王女の株が上がった。
しかしニュクスにとっては、今回の茶会での女王とアンネローゼの愚かさが――心に影を落としたのであった。




