第75話 十年後 【最終回】
極東国から帰って来て約十年。
未だに稲と麦は配合できていない。
だけど。
ラインシュ王国の温室では、細々と稲の栽培を続けている。
そう、稲の栽培が出来ているの。
田んぼとはちょっと違う。
屋根をガラス張りにして、日光が稲に当たるようにした温室栽培的田んぼ。
温度管理と土壌管理、そして、水質管理。
川の水をそのまま使っているのではなくて、浄化した後に、温室内に水を流し込み、それをまた川に戻す……って、メチャメチャすごいコストかかっているのよ! 王家の財力万歳!
ナイジェル様が、あの後何度も極東国に通って、極東国の土と水をもらって帰り、研究をして。そして、十年かかって、こういう形でなんとか米を栽培することができるようになったのだ!
でも収穫できるのは、毎年わずかに一キロ程度。
たったそれだけの白米を、わたしとナイジェル様は作り続けている。
結婚後の夫婦の共同作業よ! へっへっへ! あ、結婚しましたよ!
いつか稲とか麦とかの配合種を作れるように、魔法使いチームに顕微鏡も作ってもらった。
他にも、梅干し的アンズー作りもカイエン男爵領で続けているし、ナマズ魚醤も順調だ。
シャケに似たマス的魚も釣れるようになったし。
麦ご飯を炊いて、お茶漬けを食べて。
温室栽培米を、収穫できたときだけ、家族と使用人たちみんなで新米を食べて、それでまた来年作りましょう!
温室栽培米は……そうね。極東国のあの極上品のお米様の味と比べると、割とランクダウン。
極東国のお米様が、ササニシキとかコシヒカリとかの今年の新米レベルであれば。
わたしとナイジェル様が作っている温室栽培米は……古古古米レベル。
炊き立てのご飯をおかずにして、ご飯を食べられる……という域ではない。
それでも。
代用品でも。
お米様の高みに到達しなくても。
わたしは、わたしが作れる代用品でしかないかもしれないお米を作り続け、お茶漬けを食べるのだ。
どうしても、あのうまいご飯が食べたーい! と思っちゃうときは、やっぱり極東国まで出掛けちゃうけど。ペガサスで。
食べるたびに思う。
この高みに到達できるように、わたしは研究を続けよう。
食べたい。
お茶漬けが。
湧き上がる渇望。
どうしても! 今! ここで! すぐに! お茶漬けが食べたああああああああいっ!
……なんて、日本人だったわたし、転生前のわたしを思い出すほどの渇望は、まだまだある。
そう! 日常的に、毎日でも、やっぱりお茶漬けが食べたいのだ!
そして、一人でサササとお茶漬けをかっ込むのもいいけれど。
やっぱりナイジェル様と家族とみんなと、一緒に食卓を囲んで、一緒に「美味しいね」って言いたいのだ。
極東国に行けば、おいしい炊き立てご飯が食べられる。
だけど、どうしてか、元日本人の転生者じゃないと、あのカラオケマイク的転生装置は使えないみたいなのだ。
発音が、違うのかなーって思っているんだけど。
日本の歌をいくつかエリンに教えて。歌ってもらっても、カラオケマイク的転生装置は発動しない。
お茶漬けをオーチャヅケと言ってしまう発音状況だから、やっぱり駄目なのかもね。
んー。うちの子……わたしとナイジェル様の子ども……は、どうなのかな?
まだ、あうあう言っているだけの赤ん坊だから、日本人転生者の魂を背負っているのかどうか分からないし。
違ったとしても、元日本人転生者のわたしとナイジェル様の子だからねえ……。
お茶漬け魂、お米様魂で、発音の壁を克服するかもしれないけど。
ま、それは、この子が大きくなって、ムキムキペガサスで旅ができるようになってから!
それ以前に、離乳食だなあ。
おかゆというか、重湯から初めてお米に慣れさせないとね!
だから、やっぱり。
わたしは、この国で、ラインシュ王国で、もっともっとおいしいお米の栽培を完成させなければ!
今作れるのは毎年わずか一キロ程度のお米。
その栽培のために、巨額を投入しても。
やっぱりわたしはおいしいお茶漬けがみんなで食べたい!
もはや執念……かもしれない。
でもねえ、日本人転生者の執念が、あの極東国を作ったのなら。
わたしも、おいしいお茶漬けが食べたいって執念で、このラインシュ王国で、おいしいお米を作ってみせる!
このわたしの人生をかけて!
ふおおおおおおおお……! と、燃えていたら。
ナイジェル様がわたしを呼びに来た。
「トリクシー! ご飯が炊けました!」
「ナイジェル様! 今日は何のお茶漬けですか⁉」
一昨日は梅茶漬けだったし、昨日は鮭茶漬けだった。
なら、今日は……天茶漬けとかかな?
聞いてみたら、ナイジェル様がにやりと笑った。
「ふふふふふ……、聞いて驚いてください。このナイジェル! 日本人なら誰でも知っているあの! 赤色、黄色、黒、緑色の横線の入った、あの! 市販品のお茶漬けのモトを! 開発、完成させました!」
「うそおおおおおおお! アレですよね、アレ!」
「ええ! 企業名は口には出せませんが! どこのスーパーでも売っている、あのお茶漬けのモトを! 完成させました!」
「きゃああああああああ! ナイジェル様愛してる!」
わたしは飛び上がって、ナイジェル様に抱き着いた。
快晴。澄み切った秋の空。空高く馬肥ゆる秋。
横断歩道ではなく、温室から部屋までを、ナイジェル様と一緒に歩く。
そして、食堂にたどり着く。
テーブルの上にはホカホカの炊き立てご飯。それからお茶漬けのモト。
「さ、トリクシー」
「はい、ナイジェル様!」
「「いざ、実食! いただきまーっす!」」
しあわせの、味を、二人で、みんなで、堪能し続けよう!
終わり
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思い付きのまま書きなぐった短編版から長編版となり……まさかのすんごい長編(笑)となりました! 書籍二冊分のボリューム……。
読者の皆様の良き飯テロ話になっていればさいわいです!
いただいたコメントは、随所にちりばめられるように……と思いましたが。
入らなかった部分もあります。ごめん!
さーお茶漬け食べてこよー!では、また。




