第59話 一足飛び
「え、ええと……。ラインシュ領に帰ったら、まずラインシュ侯爵にお許しをいただいて、婚約(仮)を結び、独立して、私が、魔法伯の位を受けるなり、功績を立てるなりで……、その後、正式に婚約を……という流れではありませんでしたっけ?」
突然結婚式と言い出したわたしに、ナイジェル様は戸惑い顔。
ナイジェル様のお父様とお母様に至っては、ポッカーンと口を開けたまま、固まっております。
「そうですけど! まどろっこしいでしょう! サクッと結婚してサクッと新婚旅行に出かけましょう!」
そう! 新婚旅行なら! 侯爵令嬢が大手ふって他国を回る理由ができる! 多分!
なんだったらフォルカーお兄様かギュンターお兄様にも同行してもらって、ブラウンシュヴァイク=リューネブルク王国から、我がラインシュ侯爵家が独立して、新生ラインシュ王国を築きますから、そうしたら、国交を結びましょうって、デヴォーン王国や、その他東の諸国と手を結んでいくための、隠れ蓑としても、新婚旅行はいいんじゃないかな!
それで、他国との交渉はお兄様たちにお任せして、わたしとナイジェルさまは東の多くの国の穀物とか農作物とかを調査すればいいんじゃないかな⁉
東へ東へと向かい、極東国までたどり着いたら……、お米様、見つからないかな⁉
大手振って、東の他国を巡るための名目としての新婚旅行!
新婚旅行をしたいから、さくっと結婚式あげちゃうの!
「どうですか⁉」
すごい勢いで、わたしがナイジェル様に迫ったら。
ナイジェル様は苦笑していた。
「と、とりあえず、私は承諾しますけど」
「けど?」
「ラインシュ侯爵方が、イエスというかどうかは……」
「あ……。わたし、先走り過ぎました?」
ナマズ魚醤ができるまであと半年あるから、それまで暇だし、サクッとやっちゃおうか! って思ったんだけど……。
「少なくともラインシュ侯爵夫人……、ラインシュ家の女性の皆様は、トリクシー嬢のウエディングドレスだのなんだの、作るための妥協はしないと思いますよ」
「あ……」
こちらの世界はドレスは既製品なんてないし、手作りの一点もの。
それに……貴族のは母親は、貴族の娘のために、豪華なドレスを作るわよねえ……。
く……っ!
新婚旅行は、先の先か……!
がっくりと肩を落としたわたし。
そんなわたしに、微笑みながら、ナイジェル様が近寄って来て……。
「それに、新婚旅行とあれば、私もごく普通の男ですから。こういうことをいたしますよ?」
「へ?」
こういうことって何だろうと思って顔を上げたら。
ナイジェル様のお顔が近くって。
あれ? って思う間もなく、その顔が近寄って来て……。
わたしの、頬に……、柔らかな感触が……、触れた。




