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Uranus 第六特命巡視捜査隊  作者: サロ
第2章白きシロモノ
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第22話 一致しない

「駐車場、私有地、地下……車を隠せる場所なら何でも」


言ってから、久世さんが小さく息を吐いた。


(久世さん、それって要は)


「……つまり、候補が多すぎるってことじゃないですか」


「そういうことです」


運転しながら、久世さんが平然と言った。


「最悪じゃないっすか」


「朝から縁起でもないこと言わないでくださいよ」


「先に言ったの久世さんでしょ」


信号を抜けた604号車が、そのまま山手通りへ向かう。


警務通信受信機の向こうでは、Hekatē(ヘカテ)がまだ追跡を続けている。


けど。


車体特徴まで拾っていた車が、突然消えた。


なら。


久世さんがセンターディスプレイへ目を落とす。


「榊。最終確認地点の周辺、駐車場と地下施設、全部出してください」


「全部?」


「全部です」


「……帰る気あります?」


俺の言葉に、久世さんが一瞬だけ助手席へ目を向けた。


「あるから急いでるんですよ」


――


「お疲れ様でぇ〜す、先輩方。庄司先輩に言われて手伝いに来たぞ!」


駆け寄ってくる黒髪のポニーテール。


「お、橘(たちばな)」


604号車を降りて間もなく、久世さんが声の方へ振り返った。


その後ろから、茶髪の平子(ひらこ)がトボトボとついてくる。


「橘先輩早いですって……待ってぇ」


「平子、駆け足!」


「無理。あ、お疲れ様です」


俺達に会釈すると、平子は久世さんが広げた地図へ視線を移した。


(……本気でやる気なんだ、絞り込み……)


俺はそう思ったものの、口には出さなかった。


ここに来る前。


「あるから急いでるんですよ」


そう言った久世さんは、そのまま左手でマイクを取った。


「604から601。最終確認地点周辺、絞り込みます」


この時点で、俺はマジかと思った。


……本当に定時に上がれるんだろうか。


いや。


久世さんなら、やりかねない。


早く帰りたい。


だからこそ、潰せる芽は片っ端から潰して、速攻で終わらせて帰る。


久世さんたち、ひとつ上の先輩世代はこういうことをする。


平然とする。


止めても無理。


そう思い出して、俺はため息を吐いた。


腹を括るしかない。


「じゃ、二手に分かれましょうか」


「「は〜い」」


久世さんが地図を指差しながら、橘と平子に言った。


(始まった……)


――


「どこかなぁ〜……あ! 橘せんぱーい、ありましたよぉ。立体駐車場」


「お〜……んじゃ、1台ずつ潰すか」


橘の一言に、平子が固まった。


「えぇ〜!! 監視カメラ見せてもらいましょうよ!」


橘が隣に並び、眉をひそめる。


「今、朝の6時近くだぞ? 管理人不在だよ」


そう言って、近くの看板へ顎をしゃくった。


看板には、


『監視カメラ作動中。※夜間(02:00〜07:00)は管理人不在』


と、小さく書かれている。


「……7時まで待ちません?」


「待つわけないだろ。ほらッ、行くぞ! 上から」


「どうして上からなんですかぁ……速いって!」


――


立体駐車場の最上階。


響く2つの足音と、1つのため息。


「白、白、白、白……これ違う。次」


「これちょっと似てません? ……あっ、違う。橘先輩、何台目です?」


「数えてない」


「でしょうねぇ……」


1階あたり100台。


これは、骨が折れそうだった。


でも、こっちだって9時の退勤が迫ってる。


急がないと。


――


「……久世さん、ここの月極駐車場も見るんですか?」


「当たり前」


どうしよう。


5件目にして、とんでもない規模を引いた気がする。


そして、もう久世さんは確認し始めてる。


(定時いけるの……これ。ん? 朝倉(あさくら)??)


左腕のスマートウォッチが揺れた。


画面に触れると、メッセージが開く。


《お疲れ様です。

岡本班長から「そっち手伝ったって」って。何します?》


(マジで!? やった! ありがとう主任!!)


どう返信しようか。


《助かる。黒瀬(くろせ)さんも一緒?》


《いるよ》


(よっしゃ!)


これでだいぶ楽になる。


どうしよ……多分、まだ車だよなぁ。


「あ!」


思わず声が出た。


「どうしました?」


地図から顔を上げた久世さんがこっちを見る。


「朝倉たち、まだ車です。だったら別の候補、そのまま回ってもらえばよくないっすか?」


久世さんが一瞬だけ止まる。


それから、眼鏡の奥の目が細くなった。


「……いいですね」


俺はすぐにスマートウォッチへ指を滑らせる。


《今、こっちで月極見てる。まだ車なら、別の候補回ってもらえる? 場所送る》


数秒。


《了(りょ)。送って》


(助かるぅ……!

これなら朝の休憩までに半分潰せる!!)


「榊ー、こっち行きますよぉ」


振り返ったら、もう久世さんが右4分の1を確認し終えたみたいで。


(……先輩方ってホント、集中力が時々バグってるよな……)


「はーい」


――


(崇(たかし)君のくれた場所をどんどん当たって来たわけだけど……このビルって……)


繁華街。


ボクは、目の前の5階建ての鉄筋コンクリート製ビルを見上げた。


パッと見はフツー。


だけど。


(ここ、元締めがヤバいんじゃなかったっけ)


数字3つのとこが貸し出してるって噂。


「黒瀬さ」


言い切る前に、黒瀬さんの褐色肌の手がボクの黒髪をポンと叩いた。


「行ってくる」


それだけ言って、階段を上がって行ってしまった。


185センチの大柄な背中が、薄暗い階段の向こうへ消えていく。


「……ただ、『どうしますか?』って相談したかったんだけどな……」


(大丈夫かな。黒瀬さん…………じゃなくて、ビルの人。

腰抜かしてたりしないといいな)


数分後。


茶色の瞳が駐車区画の方向を見てる。


「駐車場、見せてもいいって。翔馬(しょうま)」


この名前呼びは『行くぞ』って意味だ。


ボクは半歩遅れてついて行く。


……え、待て。


「もう話つけたんですか!?」


黒瀬さんがコクンと頷いた。


おかげで銀色の短髪が揺れる。


「大人しかったよ」


(……なんか絶対やったな、この人)


ボクは、ちょっとビルの方を見る。


ちゃんと立ててるといいけど。


裏手へ回る。


そこそこ広い駐車区画に、何台か車が並んでいた。


(さて、と)


まずは端から見ていくか。


「うーん。形は似てるのに……白色がないなぁ」


もう4分の3くらい見たっていうのに。


ハズレかなぁ。


「――翔馬」


車体を挟んだ向こう側で、黒瀬さんがボクを呼ぶ。


今度のこれは、『来い』だ。


「はいはい。何かありました?」


近づく。


黒瀬さんは何も言わず、足元を指した。


「……タイヤ?」


薄く残った跡。


この地区では、1時間ほど前ににわか雨が降っていた。


乾きかけた地面に、タイヤが水を引いた跡だけがまだ残っている。


新しい。


駐車区画から伸びたそれは、道路側へ向かっていなかった。


建物の奥。


閉じたシャッターの前で途切れている。


「……黒瀬さん」


「うん」


ボクは、地下へ下る入口を塞いだシャッターを見た。


(これ、地下……?)


「……このシャッター、ビルの人に聞いてきます?」


ボクは隣を見上げた。


黒瀬さんの眉間が、ほんの少し寄った。


(もしかしてボクが行くの嫌だった……?)


「俺が聞いてくる。待ってろ」


黒いスニーカーが踵を返す。


「いや、今度はボクも行きます!」


そう言って左に並んだら、不安そうな顔をした。


気持ちは分かるけど。


「……一応ボクも保安官です」


「知ってる」


「だから一緒に行きます」


黒瀬さんが目を伏せた。


考えてる顔。


「……そば、離れるな」


「了」


そのビルは日が入りにくいのか、ひんやりとしていた。


最上階。


ブー、と鳴る呼び鈴。


開く引き戸。


ビルの人、もとい元締めは、見るからにヤンチャな風貌だった。


引き戸の隙間から覗く室内も含めて、どうやら噂通りらしい。


「……あ」


その一言でボクは確信した。


(やっぱ何かしてる……)


黒瀬さんは何も言わなかった。


ボクは保安章の付いた手帳を見せた。


「朝早くにすみません。度々で申し訳ないのですが……裏のシャッターについて、少しお聞きしたいんです」


「あぁ"? 裏のシャッター?」


元締めが一瞬、眉を寄せた。


「……あそこは、俺らは使ってねぇよ」


一拍。


「今は貸してるだけだ。ほら、他にも同じのがいくつか並んでたろ。使いたい奴に金で貸してる」


初手からこんなに素直なのは、きっと黒瀬さんのおかげだろうな。


「ちなみに、あの一番奥って……今、誰に貸してます?」


「……左奥か? さぁな。こっちは毎月、忘れず金さえ払ってくれりゃあ、それでいい」


そっか。


こう納得しかけたボクの頭上で、声がした。


「んなわけあるか」


「え?」


「金は確実に取りたいアンタらが、身元不明な輩にホイホイと貸すわけがないだろう……貸すにあたって、身分証以外も要求するような界隈なんだから」


一拍。


「何も間違ってないだろ?」


「……あ"?」


元締めが唸った。


……やめて。


黒瀬さん、ダメですよ。


ここで昔を出さないでください。


(その顔、知ってるんですよ。ボク)


昔の黒瀬さんが出てくる時の顔。


「黒瀬さん」


呼んだら、茶色の瞳がこっちを向いた。


鋭い。


「まぁまぁ。話、聞きましょ」


数秒。


「……分かった」


(ふぅ……なんとか収まったか)


瞳から鋭さは少し抜けた。


でも、元締めを睨むのはやめていない。


それで十分だったらしい。


「チッ! ……分かったよ、入んな」


中へ入ってみると、さっき隙間から覗いた時より、ずっと“それっぽい”。


(……本当にダルマ飾ってるんだ)


ボクとは対照的に、黒瀬さんは微動だにせず平然としていた。


ソファに通される。


元締めが手にしていたのは、使い込まれた雑な台帳だった。


ページを乱暴にめくっていく。


「左奥だろ……あー、これだ」


手が止まった。


台帳がくるっと、こっちへ向けられる。


名前にはフリガナが振ってあった。


そのまま読む。


「タンノ ヒロフミ」


聞いたことのない名前。


ボクはもう一度、台帳へ目を落とした。


「これ、本人確認に使った身分証って残ってます?」


「コピーならな」


「見せてもらえます?」


元締めが面倒そうに舌打ちする。


その横で、黒瀬さんは何も言わない。


「……分かったよ」


(黒瀬さん、今日すごい便利だな)


……いや。


相棒を便利扱いする気はない。


全然ないんだけど。


なんというか。


話がものすごく早い。


「これだったと思うけど……ほらよ」


隣の部屋から戻ってきた元締めが、1枚の用紙を差し出した。


銀行のキャッシュカード。


国民ナンバーカード。


どちらも、同じ名義だった。


「……丹野宏文」


ボクが呟いた隣で、黒瀬さんが腕組みをやめた。


「翔馬。これ、一致しない」


「え?」

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