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Uranus 第六特命巡視捜査隊  作者: サロ
第2章白きシロモノ
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22/22

Tokyo Brick Warehouse/幕間



(えーっ、バ先に行けないじゃん!

遅刻確定だよ!)


警察が張ったであろう黄色い規制線の外側。

4列目ぐらいで人に飲まれながら、私はそう思った。


大学から直行で来たのに。


「お巡りさんいないかな……いた!」


人を掻き分けながら、青い制服を探す。


無線から口を離した、そのタイミングで「すみません!」と話しかけた。


「どうされました?」


「あの、私、この先の飲食店で働いてて……通れませんか!?」


警察官は一瞬、困った顔をした。


「すみません。現在、この先は立入規制中でして」


「ですよね!?

でも、20時からシフトなんです。店長にも連絡したんですけど、全然既読つかなくて」


「店舗名は?」


LANIKAI(ラニカイ) COFFEE(コーヒー)です。コンテナの奥の、赤い看板の」


珈琲とパンケーキが売りで。


「……ああ」


その「ああ」が、嫌な感じだった。


知っている「ああ」だ。


たぶん、私の店が規制線の内側にある。


しかも、規制の解除は21時頃かもしれないと言われて、詰みそうだった。


どうしよう。


その時、規制線の向こう側を、私服の4人組が横切った。


先を行く2人の右腕には、紅い腕章。


機捜(きそう)じゃん」


人混みの中で、誰かが言った。


こっちはつまり、警察関係者。


じゃあ、その後ろの2人は。


警察官じゃない。


けれど、ただの関係者にも見えなかった。


左腕には、蒼い腕章。


ニュースで見たことがある蒼色。


なんだっけ。


腰には黒いウエストポーチ。

片方の手首には、見慣れないスマートウォッチ。


「え、保安の特視隊(とくしたい)も来てるの?」


誰かがそう言った。


その言葉で、私の中の「遅刻確定」が、少しだけ後ろに下がった。


そっか、思い出した。


夜廻りさんだ。


「いや、後ろの2人は特視。左耳イヤモニだし、蒼腕章。ホルスターも後ろ寄り」


「え、分かるんですか?」


「見れば分かるでしょ」


分からない。


全然分からない。


でも、その人の言葉で周りがざわついた。


だけど……夜廻りさんまで来てるなら、ただのトラブルじゃなさそう。


規制線の向こうで、紅い腕章の人と蒼い腕章の人が何か話していた。


もっとピリピリしているのかと思ったけど、そういう感じでもない。


片方が端末を見せて、もう片方が頷く。


それから、ほとんど同じタイミングで別々の方向へ散っていった。


仲がいい、というより。


慣れている。


そんな感じだった。


その時、規制線の奥から声が飛んだ。


「道開けて!」

「通りまーすっ!!」


人垣が、ざわりと揺れる。


さっきまでスマホを掲げていた人たちが、慌てて腕を下げた。


黄色い規制線の向こうから、ストレッチャーが出てくる。


一瞬だけ見えた男の人の顔は、血と腫れでよく分からなかった。


「……うそ」


喉の奥から、勝手に声が漏れた。


遅刻とか。

既読とか。

店長とか。


そういうものが、今度こそ全部、頭の後ろへ下がった。


「――ねぇ……この搬送者、夕方の煽り運転のヤツじゃない??」


え?


その声は、若かった。


淡いピンク色の髪をした、背の高い女の子。


左腕には、蒼い腕章。


もう一人は、黒髪を束ねた小柄な子に見えた。


けれど人混みに遮られて、顔まではよく見えない。


「お疲れ様です。……え?」


黒髪の子がそう言って、小さく会釈した。


それから、蒼い腕章をつけた2人は規制線の内側へ消えていく。


人混みのどこかで、誰かが言った。


「特視、増えたな……ジェミニ絡みかぁ」


「いや、まだ分かんないでしょ。アンドロイドかも」


「日本で? ないない」


「でも最近、海外だと多いってニュースでやってたじゃん」


「ここ台場だぞ。海外じゃないし」


人混みの中で、知らない人たちの推理だけが勝手に増えていく。


誰も何も知らないのに。


それでも、保安が来たというだけで、黄色い規制線の外側は少しずつ怖い方へ傾いていく。


もう、バイトがどうとかいう空気でもなくなってしまった。


規制線の向こうに、LANIKAI COFFEEの赤い看板が見える。


いつもなら、あそこまで走ればタイムカードを切れる。


でも今は、その数十メートルが、知らない街みたいに遠かった。


その時、手の中のスマホが震えた。


店長からだった。


『無事?』

『今日は来なくていい』

『店の中にいたスタッフは全員確認取れてる』

『あとで連絡する』


その4行を読んで、膝から力が抜けそうになった。


よかった。


そう思ったあとで、遅刻の心配をしていた自分が、少しだけ恥ずかしくなった。

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