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色なし魔法士は今日もご機嫌  作者: 橘中の楽
色なし魔法士は主席魔法士のお世話役
70/103

4の八 推しについて語り合うと仲良くなれる

青空のもとで三、四年生合同、実践魔法学の授業が行われていた。

実技場に集まった四十名ほどの生徒が、魔法陣の上に浮かぶホワイトボードの前に座っている。

そんな生徒の集団の端の方で、デニスが苛立たしげに赤の魔力を迸らせ、ミシェーラに呆れられていた。


「最近、板についてきたかっこいいデニスくんは、どこいちゃったのよ。というか、わたしとペアなんだから、ちょっとは嬉しそうな顔したらどうなの?」


ダスティンの卒業パーティーでのパートナーを務めたことで、ミシェーラは誰しもが認める学園のマドンナになっていた。

そんなミシェーラの横に当然のように座っているデニスへと向けられた、マスキラの生徒たちの羨望と嫉妬の混じった眼差しも、デニスには届かない。

というのもーーー


「いくら、シャーマナイト殿下の命令だからって、留学生とあんなに仲良くなる必要ある?最近、留学生とエゲートさまたちとばっかりいて、ライラ全然俺らの方こないじゃん。」


棘のある声でデニスが呟く。

チッと大きく舌打ちし…彼の怒りを表すかのように足元のタイルが若干焦げた。


ミシェーラは自分の言葉とは関連性がない答えに、「無視はどうなのよ」と苦笑いしながらもーーーまあ、そうね、と同意した。


「ちょっと寂しいわよね。」


ミシェーラはそう言ってライラとシリルの方へと視線を向けーーーあちゃあ、という顔になった。

ミシェーラが恐る恐る横を見るとーーーデニスの足元のタイルが少し溶けている。


ーーーライラとシリルは、アルフの説明中にも関わらず、顔を寄せ合って何事かささやきあい、二人揃って肩を震わせていたのだ。

そのやりとりをアルフに見咎められ、ライラだけが叱責を受けた。

しょんぼりとしたライラを、シリルがニヤニヤと見つめーーーライラに叩かれている。


ーーーもうやめなさい、ライラ。あと一枚で、わたしの下のタイルまで溶かされちゃうの。なんだったら、さっきから、春なのに真夏並みにデニスがいる右側が暑いのよ。


そこでようやくアルフの説明が終わりーーーミシェーラは未だに魔力を揺らしているデニスからささっと距離を取ったのだった。



実践魔法学の授業おわり。

パートナーであるシリルのおかげで、A評価をもらったライラはご機嫌だった。

パーシヴァルの元へ行こうとしたライラの袖を掴み、自分たちと同じテーブルにつかせたーーー仏頂面で正面に座るデニスが視界に入っているだろうに、ふんふんと鼻歌など歌いながら昼食を頬張っている。


本日行われた実践魔法学の初回授業。

三年生だけでペアを組んでいた生徒の多くが、初歩のシールドでさえ発動できずに追加課題を受けていた。

ライラは、魔力の細かい調整は大の苦手だ。

繊細な魔力量の調整が求められる防御魔法が中心の高学年の実技授業は、ライラにとっての鬼門だった。

しかも違う悩みの種もあった。

今まで通り魔法陣を描きたいのだがーーー祖母からもらっている仕送りでは、防衛魔法に使えるような高品質の紙は月に数枚しか購入できない。食事を今以上に減らして対応しようかと悩んでいたところで現れたのがシリルだった。


「高品質の紙がない?ーーー魔素浸透率何%が欲しいの?俺、結構持ってるよ。」


ライラが求めているのは、五%程度のものだった。一、二年の授業では三%程度でよかった。

シリルが何気なく取り出した魔素透過率が三十%を超える紙は、魔法士団の月給ほどの値段がするのだ。

ライラは当然固辞しようとしたのだが、俺が監視役をいじめていたなんて話が出たら、上司に後からどやされると言われて、受け取らざるを得なかったのだ。

しかも、シリル、お金は払っていないらしい。


「少し調べれば、魔道具とか、魔法関係の道具はだいたい自分で作れちゃうんだ、俺。ーーー異世界チートってやつ?」


にこりともせずこんなことをのたまうシリル。

ライラは天を仰いだ。才能は平等じゃないーーーと絶望したように呟き、フェルに慰められている。

ちなみに、そんなフェルも、シリルに買収されている。


いつもお腹を空かせているフェルにーーーシリルが大量の屑魔石を提供したのだ。


フェルは、今まで相当我慢していたらしい。

嬉しそうに点滅しながらバリバリと魔石を頬張っている。


ライラはどこでこんなにたくさん手に入れたの?と尋ねたがーーーシリルいわく、向こうの学生は、魔獣を狩ってお金稼ぎをするものらしい。


「何かに使えるかもと思って魔石って捨てられないんだけどーーー俺、空間魔法使えるから、収納制限とかないし。…溜まってく一方なんだよね。フェルが欲しいならいくらでも出すよ。」


こういったやりとりがデニスの苛立ちをさらに増大させているのだがーーーデニスが魔石を提供しようとしても、ライラは受け取らないのだ。

そもそも、余るほどの魔石をデニスは持っていないのだが。


「なんで俺が魔石とか、授業の道具とか渡そうとすると断るのに、シリルからは受け取るわけ?」


185リュウになったデニスが、眉間にシワを寄せ、ライラを見下ろして言った。

なかなかの威圧感なのだがーーーライラはのほほんとしている。


「だって、デニスは親御さんのお金でしょ?魔石だって、自分で使いそうじゃん。シリルは、魔法士として独立してるし?わたしの仕事に対するプロイセンからの報酬だと思えっていってくれてるし。」


ミシェーラが「わあ、正論パンチ!」と真顔でいって、シリルを吹き出させていた。

デニスとシリルはものすごく仲が悪いが、ミシェーラとシリルはそうでもないのだ。

いまだにミシェーラに話しかけられるとシリルは若干どもるが。


「筋肉あるマスキラは全員ウェルカムだわ。」


ーーーと、シリルに言い放ち、呆然とさせたのが新学期初日だ。

シリルは公務でのミシェーラしか見たことがなかったため、ギャップがものすごかったらしい。


「なんか、イメージと違った…。」


と呟いてデニスに同情のこもった目で見られていた。

この時ばかりは、デニスも噛みつくことなく「みんなが通る道だ」と慰めていたりした。


新学期時点では、ライラとシリルは事務的な関係だった。

お互い、最低限の会話しかしていなかったし、授業の時にライラが困っていたも、シリルは最低限にしか手を貸していなかった。

魔法が苦手なライラのことは見下しているようだったし、パーシヴァルやデニス、ミシェーラとは一緒に行動したくないようなそぶりを見せていた。


「この集団顔が良すぎる…眩しい。」などと呟いていたのだが、生憎誰も彼の呟きを聞いてはいなかった。


そんな彼の態度を一変させる出来事が起きたのはーーーシリルが来て一週間ほど経ったときのことだった。

ミシェーラは欠席しており、デニスはちょうど部活の先輩に呼び出されたとかで席を外していた。


ライラとパーシヴァル、レイモンド、シリルの四人が一緒になって歩いていると、一番端を歩いていたシリルを囲むように、大柄の四年生が現れた。その数四人。


ライラとレイモンドはこの時、さっとアイコンタクトを交わし、パーシヴァルを避難させた。

レイモンドとライラの過保護ともいえる反応に、パーシヴァルは「俺、あんなのに負けねえよ?」と呆れ顔で言っているがーーー黙ってレイモンドに連れ去られて行った。


二人になったライラたちを見てーーー上級生たちは気が大きくなったらしい。

しかもこの時、調子が悪いと言ってフェルはライラのポケットの中で寝ていた。

わざと手のひらに赤の魔力をチラつかせながら、一人のマスキラが言った。


「お前、黒のペガサス、親戚から借りてきたんだって?ーーー主席魔法士の権力で留学してきたってわけか?お坊ちゃんは羨ましいねえ。」


ゲラゲラと笑う四人の声が、廊下に響き渡る。

授業のために廊下を歩いていた生徒たちも、なんだなんだと集まってきていた。

あっという間に野次馬に囲まれたライラたち。


二人はなんとなく視線を合わせーーー打ち合わせでもしたように、同時にため息をついた。


ーーー親戚というか本人だし…その噂流したの誰だよ。


二人は、マスキラたちのあまりに的外れな言葉に呆れかえっていたのだがーーー自分たちがバカにされたと感じたのだろうか。先ほどとは違うマスキラが、顔を真っ赤にさせ、シリルの前に出てきた。


「俺はそもそも、プロイセンが魔法大国だなんていう評判も怪しいと思ってるね。だって、あそこの女王、赤魔法しか使えないんだろう?めちゃくちゃダサいじゃん。俺でも、プロイセンの王なれるんじゃねえ?」


紫の髪をした生徒はある程度魔力量が多いのだろう。

自信ありげに言い放ちーーーシリルの顔を見て固まった。


こちらにきて以来、ほぼずっとライラの後ろに黙ってついて行っていたシリル。

ライラからすると不自然なまでに、魔力を乱さない彼がーーー怒りで髪を逆立たせていた。


「Du gehst mir langsam richtig auf den Keks.《いい加減にしやがれ、そろそろ本気でしばき倒すぞ》」


目に見えるほどに立ち上った、ものすごい濃度の魔力。

ライラは肌がチリチリとする魔素の感覚を感じながら、頭の隅で、パーシヴァルを避難させてよかったと思っていた。


ーーー何言ってるのか全くわからないけど、ブチギレ寸前なのは間違いないね!


そして、マスキラに向かって一歩踏み出したシリルの袖をそっと引いた。

瞳孔を開いてマスキラを見ていたシリルが、鬱陶しそうにライラの方を見た。

邪魔をするなとでも言いたげなシリルにーーーライラが困ったように眉を寄せた。


「シリルさんが魔法攻撃したら、あんな生徒再起不能になっちゃいますよ。今の自分の状態自覚してますよね?…ここは、わたしに任せてくれませんか。」


ライラはそういうと、全く納得していない顔のシリルを無理やり下がらせ、シリルの威圧で顔面蒼白になっているマスキラの前に立った。


ライラは一見無表情だがーーーその瞳には、赤黒い魔素が漂っていた。

フェルは、ポケットから顔を半分だけだしーーーライラの方を見上げ、「わあ、こんなに怒ってるの初めて見た」などとのんきに呟いている。


ライラが一歩進んだ後、不自然なほどに静寂に包まれた空間。

外野が固唾を飲んで見守る中、ライラのアルトの声が響く。


「ーーー他人の好きなもの、尊敬するもの、愛してやまないものを侮辱する奴っていうのは、想像力が欠如しているんだと思うんです。」


ライラの言葉に、マスキラは我に返ったのだろう。何事か言い返そうとしーーーフェルから放たれた威圧によって固まった。

ライラは、フェルをチラリと見た後ーーー何かを懐かしむような顔になった。


「その人の生きがいになるような大事なものは、人それぞれです。他人にはどれくらい大事なのかわからないし、想像するしかない。ーーーでも、わからないからって、馬鹿にしていい訳がない。」


ライラがそこまで言ったところでーーーマスキラの一人が、もういいだろ!?と叫んだ。外野の視線がだんだんと冷たくなっていくのを感じ、耐えきれなくなったらしい。


「俺らだって、ちょっと言ってみただけなんだ。反省してるからーーー」


言い募ろうとしたマスキラにーーーライラは叫んだ。


「黙れ!ーーーそういう、軽薄な態度が、想像力のなさの表れだって言ってるんだ!お前らが、軽々しく踏みつけていくものが、相手にとって、生きていく意味になるくらい大切なものかもしれないってことが、本当にわかってるのか?」


ライラはそこまで叫びーーー感情が昂りすぎたせいだろうか。ポロリと涙を流した。


ライラの話を聞きながらーーー落ち着いてきたのだろう。シリルがもういいから、と言ってその場を収めようとした。

しかし、普段のふわふわとした様子からは想像がつかない頑固さで、ライラはシリルに向かって首を振った。


一度、マスキラたちから視線を外し、少し下にあるシリルと視線を合わせたライラ。

その目は先ほどとはうって変わり、悲しみの青に染まっている。


「だってーーーあいつらの言葉を聞いた、シリルさんの顔は傷ついてた。…勝手な想像だけど、シリルさんにとって、とても、とても大切なものが汚されたんでしょう?わたしも、わかるんです。経験があるから。自分だと我慢しちゃうけどーーー同じように傷つく人がいるんだって思ったら我慢できなくて。」


そう言ったライラの目からはもう一筋の涙がこぼれた。


シリルはそんなライラの頭に手を置き、ポスポスと叩いた。

そして、ライラにそっと耳を寄せる。


「あとは任せて。ライラのおかげで落ち着いた。俺もあいつらに言ってやらなきゃ気が済まないから。」


そう言ってマスキラたちに向き直ったライラはなぜか抱き寄せられたため、シリルの表情は見えない。


うぐっという呻き声をあげたライラをフェルが笑った。

そして、押しつけられた布地から、何やらいい匂いがすることにライラは気がついた。

ーーーシリルさんの服、ムスク?異国の匂いがする。


ライラがそんなことを思っているとーーーマスキラたちの方から、ヒイイという悲鳴が上がった。

一体どんな顔をしていたら、言葉も魔力も出さずにあれだけ相手を威圧できるんだと思ったライラは、シリルの拘束から抜け出そうとしたがーーーシリルはライラに見せる気がないのだろう。細身のシリルからは想像がつかない程に力強く腕は回されており、ライラはシリルの表情を確認するのを断念せざるを得なかった。


抵抗を諦め、黙って聞いているとーーーシリルは今の見た目からは想像できないような、ドスのきいた声で話し始めた。


「陛下を侮辱する奴は全員残らずぶっ殺してやろうと思ってるんだけどーーーお前らはまだ学生だから一度だけ見逃してやるよ。次はねえ。二度と俺らの前に現れるな。…顔は覚えた。のこのこやってきたら切り刻むからな。」


ーーーライラがそっと解放された時、マスキラたちは米粒ほどの大きさになっていた。

これから授業だろうに、どこかへ走って逃げたらしい。


マスキラたちを見送り、なんとなく顔を見合わせた二人はーーーブハっと吹き出したのだった。



放課後になり、ライラはシリルによって連行された。

一瞬で、寮のシリルの部屋へ転移したため、ライラはめまいがしたのかふらついていた。

後を追ってきたフェルによって支えられていたが。


「ライラ大丈夫!?ーーーおい、シリル!勝手に転移すんな、せめて範囲を教えてから行け!」


ごめんと謝ったシリルの部屋を見回しーーーライラはあんぐりと口を開けた。


「ーーーひっろ!なにこの部屋?」


シリルの部屋には、元の寮の部屋の面影はなかった。

ライラはジョシュアに頼まれ、彼の部屋を手配したので、三日前まではライラと全く変わらない作りの部屋だったのは知っている。

それがーーー


「王族でも招けそうなくらい、キラキラしてるね。」


フェルの言葉に、ライラはコクコクと頷いた。


「実際に、陛下お転婆だからきちゃうんだよね。俺がいなくて寂しいんだって。」


ーーーあの人魔力量あまり多くないから、転移魔法苦手なのに、魔法薬飲んでさ。


そう言って笑ったシリルは、ライラが初めて見るような表情をしていた。

恋人のことを語るように、甘い甘い、イチゴジャムみたいな色になった瞳は、彼の陛下への愛の大きさをよく物語っていた。


ライラはこの時のシリルの様子を見て彼の新しい一面を見たように感じていた。

シリルがこのように他人への親愛を語る人物だと思っていなかったのだ。

この時まで、シリルはずっと小さな声でボソボソと喋るようなタイプだったし、周囲の認識に違わず、シリルが感情豊かになる場合など非常に限られている。


ーーー好きなものの話題になると饒舌になるタイプか。


わかるわかる、とライラは内心で共感した。

王族が関わると人格が変わるとまで言われているライラだ。

同じようなタイプだと判明したシリルへの好感度がグンと上昇していた。


ライラがジョシュアやパーシヴァルへの親愛の大きさを語り、対抗するようにシリルがプロイセン女王の素晴らしさを語る、というふうに、今までのぎこちなさが嘘のように二人はお互いの主人について自慢しあった。

中でもーーー


「俺、こんなこと言ってるけど女王が目の前に来ると『ハイ、イイエ』しかほぼ喋れなくなるんだよね…。いっつもあの方が楽しそうに喋るのをただ眺めてる。」


とシリルが言ったため、ライラは完全にシリルの評価を書き換えていた。

最年少で主席魔法士になったエリートからーーー


「シリルってあれだね。輝いてる陰キャだね。」


と真顔で呟き、クワっと目を見開いたシリルに反論されていた。


「お前にだけは言われたくねえ。お前の友達こそピッカピカだろうが。あれに囲まれてればお前もピッカピカに見えるんだよこっちは!」


ライラは「わたしは地味だから」と笑っているが、シリルはその言葉を信用していないのだろう。半目でライラを見ている。


でもさ、とライラが首を傾げて見せる。


「そんなにシャイなのに、さっきめちゃめちゃイケメン感あふれてたよ?ほら、わたしのこと抱きしめちゃったりしてさ。」


しかし、シリルは何言ってんだとーーー若干バカにしたような顔になった。


「ライラみたいな平凡なニュートに緊張するわけないだろ。美男美女限定だよ。」


「はっ倒すよ?」



そんなやりとりをしながら、やがて二人の話題は生い立ちへと及んだ。

ライラの両親のことを聞いたシリルは…何かを思い出したかのように黙り込んだ。

ライラがどうしたのだろうと思い、首を傾げる。


彼の告白は、両親にはもう二度と会えないのだ、という話から始まった。

彼の両親は健在だったらしいがーーーそれを確認する術はもうないのだという。


二度と会えないから、もっと親孝行しておくんだったと笑う彼の横顔があまりにも寂しげでーーーライラは話題を無理やり変えた。


「ーーーシリルは陛下の直属の部下なの?」


ライラの遠回しな質問にーーーシリルは、照れ臭そうに笑って答えた。


「まあそうだね。…でも、部下よりはもうちょっと親しめかも?ーーーあの方、俺のこと大好きだし。俺も、あの方のためなら、命いくつでも差し出せるよ。」


ライラは予想以上の返答にわーお、と言わんばかりの顔をしていたがーーーその後続いたシリルの言葉に息を飲んだ。


「ーーー俺はあの国の貴族からしたら、異邦人だから、正式に結ばれることはないんだけどね。好きな人には幸せになってもらいたいし、俺じゃ陛下に後ろ盾はあげられないから。ねえ、ライラ。」


ーーー俺が異世界から来たって言ったら、君は信じる?


突然の問いに、ライラは固まった。

そして、頷こうとして迷った。

シリルは「監視対象」なのだ。

ジョシュアにさえ言っていないような異世界に関する話を、シリルに打ち明けていいのかーーーー


しかし、ライラは忘れていたのだ。

ライラの感情はそのままの色に表れてしまうということを。

ライラの瞳はすぐに、信頼の色を写した。そしてそのあとで迷いの魔素が混じり合う。


そんなライラを見てーーーシリルの表情が一瞬悲しみに染まった。

自分の考えをまとめるのに精一杯だったライラが、見逃してしまったくらいには短い間だったが。


ーーーああ、陛下、ものすごく怪しげな生徒を早速見つけてしまいました…せっかく気が合いそうなのに。


結局、明確な返答を避けることにしたライラが、異世界っていうのは、どんなところなの?と尋ねた。


シリルはぎこちない笑みを浮かべーーーいろいろ違うところはあるけど、魔法と戦争のない国だったと答えた。


「俺、ずっと囲碁(IGO)やっててさ。プロも目指してたんだ。ーーーまあ、こっち来てそんな呑気にボードゲームしてる場合じゃなくなっちゃったんだけど。」


ハハハと笑うシリルの表情は強張っていた。

しかし、ライラはそのぎこちなさを「異世界について語っているせい」と捉えたようだ。

「苦労したんだね」とうなずいている。


「IGOって知ってる?この国はホーインボーシューサックの影響か、ボードゲームが盛んなんだよ。今度部活見学に行ってみよう、わたしが先輩に紹介するから。」


浮かない顔だったシリルも、ライラのIGOの話にはひどく食いついていた。


「やっぱりIGOの部活とかあるんだ!この留学の話が出た時から楽しみにしてたんだよ!」


シリルはライラとボードゲーム部の話題で盛り上がりながらーーー数日前に目にした機密文書の内容をありありと思い出していた。


====================================

<特別指令>


シリル=オゾン国家主席魔法士 殿


新たな任務を与える。

グレイトブリテン王国に潜入し、黒竜の儀・役職持ちを一人抹殺せよ。


<時期> 2658年4月から1年間


<ターゲット>黒竜の儀の関係者

      注)外交関係を考慮し、王族や有力者の家系を避けるのが望ましい

        同理由から、証拠は残らない方法が望ましい


<任務地>アメリアイアハート魔法学園中等部


<追記>

1000年前の記録より、異世界に関係した人物が儀式に関わっている可能性が高い。未だに、存在が公表されていないため、潜伏している可能性あり。

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