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色なし魔法士は今日もご機嫌  作者: 橘中の楽
色なし魔法士は飛び級したい
55/103

3の十五 お前は運を語るんじゃねぇ

大歓声に揺れる竜宮城。

会場に入ってきた選手たち。

先頭を切っているのは先ほど最も風船を多く割ったデニスだ。


「デニスー!」という彼の名前を呼ぶ声にはにかみながら手を振り返している。


アルフに「デニスの指名は誰だ!」と聞かれ、間髪入れずに「フィン先生で!」と応えていた。

指名を受けたフィンは受け持った五第欲求の一つーーー「悲嘆」に相応しく悲しそうな顔をして、会場の笑いを誘っていた。


その後でダスティンやジェイクがフィンを指名していた。

そこでフィンは定員に達したため、アツムは「じゃあフレイザー先生で」と言った。

しょんぼりと肩を落とすフィンを見てライラはちょっと気の毒になった。

フレイザーはものすごく嫌そうな顔だ。


ーーーフレイザー先生のあの顔はフィン先生とは違う意味な気がするのは気のせいかな。


ライラは首を傾げつつ、ジョシュアに聞いてみる。

ジョシュアも同じ意見らしい。


「二番人気はフレイザーだな。本気で戦わないからある程度の肉弾戦ができれば高確率で勝てる。一番人気なのは見ての通りだな。」


魔獣学を受け持つフィンは、召喚術を得意とする魔法使いだ。

つまり接近戦には弱い。

今回のように風船を守らなければいけない戦いでは実力を発揮しづらいのだ。


ジョシュアによるとーーー


「毎年フィンが指名されている。ーーー生徒側にも風船がついていればまだいい勝負になるだろうが、正直フィンは身体強化がそこまで上手くないからな。最初からビハインドを負わされているこの戦いでは分が悪いだろう。」


この指名の後でーーー残った九名がフレイザー、アルフ、シャロン、イアハートの四人へと割り振られる。

ジョシュアのような例外はいるがーーー自分で希望しない限りイアハートと戦う必要はないらしい。


そこで、なぜか選手たちが揉め始めた。

観客たちが首を傾げるが…在校生らしき生徒たちはまたやってるよと苦笑いだ。

なんだなんだとライラとミシェーラが顔を見合わせるとーーー観客の疑問に応えるかのように解説が入った。


「今もめているのはジョーハンナ樣のくじ引きの順番についてです。えー、ご存知ではない方も多いと思いますので、経緯を説明しますと、ジョーハンナ様は去年くじ引きでひと枠しか残っていなかったフレーザー先生を引き当てました。ーーー」


解説によってなされた説明にーーーライラとミシェーラは呆れ顔になった。

というのも、ジョーハンナが一番にくじを引いて「フレイザー」を引き当てたため、不正だと騒いだ生徒がいたらしい。

そこでもう一度、二度…なんと三回くじを引き直したのだが、何度やってもジョーハンナは「フレイザー」になったのだそうだ。


「ーーーええ、そういうわけでしてジョーハンナ様がくじを引くのを最後にしろと主張している選手がいるわけですね。」


観客の目が一気に冷たくなるもーーー選手たちは本気の目だ。

というのも、アルフとシャロンからは過去誰一人として風船を破れていないらしい。いわばくじ引きで決勝に行けるかが決まってしまうのだ。


「順番を変えても結果は変わらないと思うがな。」


ーーーとジョシュアが呟き、ライラが首を傾げる。


「どういうことですか?」


ライラが首を傾げるとジョシュアが説明してくれる。


「ジョーハンナの運の良さは一種の才能なんだ。ーーー王族内の遊びでジャンケンをしても、こういった場でくじ引きを引いても、試験で割り振られる課題にしてもーーー全てがジョーハンナの希望通りになる。」


このジョシュアの言葉にライラはぽかんと口を開けた。

ミシェーラは思い当たる節があったらしい。笑いながら頷いている。


「王宮に同年代の子供が集められて交流会とかあるのよ。そこでおやつの時間にジャンケンとかするのね。人気のアイスフレーバーとか取り合いになるのだけど…ジョーハンナさんは絶対に負けないのよね。みんなもそれをわかってるからもはやジャンケンしなくていいぞって言われてたわ。」


小さなパーシヴァルやミシェーラがアイスを取り合っている姿を想像し、ライラはとても幸せな気持ちになったがーーーそこで会場内にソプラノが響き渡った。


「いい加減にしなさい。ーーーわたくしは最後でも真ん中でもよくってよ。速くくじを引きなさい!」


ジョーハンナにビシッと言われーーー騒いでいた生徒だけでなくアルフまでもが背筋を伸ばしていた。

これには会場から笑いが起こる。


次々と対戦相手が発表されーーージョシュアが少しだけ唇をあげた。

なぜならーーー


「最後に残ったジョーハンナさんは自動的にフレイザー先生です!!」


「すごい」「え、また?」などという驚きの声が上がる中、ジョーハンナは大して驚いた様子もなく控え室へと帰っていった。


フレイザーを引き当てた一人のマスキラが喜びの声を上げ、他の部員たちはくじ引きの紙を持って頭を抱えていた。


「誰だろうとやってみなきゃわかんないだろーが。」


ーーーとダスティンが呆れ顔で言い、シャロンと対戦することになった生徒に揺さぶられていた。


「じゃあお前変われよお!」


「え、嫌に決まってんだろ。あの人無理だろ。」


「言ってることめちゃくちゃじゃねーか!」





二回戦はある意味予想通りの結果になった。

シャロンは反魔法と身体強化を見事に使いこなし、アルフは得意の身体強化で全く危なげなく風船を守り切りーーー逆にフィンとフレイザーは速攻で風船を破られていた。

フィンは必死で召喚獣を呼ぶのだが、ダスティンやアルフらが開始と同時に風船を割ってしまうので対応のしようがないようだった。教師陣は攻撃禁止なので仕方がないだろう。


フレイザーはやる気なく突っ立っているだけでまさに「怠惰」にふさわしい態度だった。

会場からは笑いとブーイングが同時に起きていた。放送席に戻っていたアルフも苦笑いしただけで文句は内容だった。

フレイザーは、昨日保健室送りになっていたので、無理したくないと言われてしまえば責められないのかもしれない。


三回戦の決勝トーナメントは翌日に行われるため、これにて二日目は終了だ。

デニスは最後が試合だったため選手控え室に戻るとーーーすでに残っている生徒はまばらだった。


デニスが入ってきたのをチラリと見た三年生の二人組はーーーわざとらしく声を張り上げた。

デニスは室内に残っていたダスティンの元へと近寄っていっていた。

聞こえてきた声に「勝ちましたよ」と笑っていたデニスの顔が固まる。



「俺ら運が悪かったよなあ。」


「育ちがいい奴らはいいよな。環境が違うってやつ?」


デニスがうんざりとした顔になりーーーダスティンの顔を見て少し驚いた表情になった。すぐにニヤリと笑みを浮かべたが。


ダスティンは背を向けて話している二人に近づいていくとーーー「喧嘩なら買うぞ?」挑発的に笑った。


意地悪く笑った二人組がダスティンに向き直って立ち上がった。

デニスもニヤニヤと笑いながらダスティンの横に並ぶ。


他にも残っていた生徒たちがなんだなんだと不穏な空気を漂わせる四人へと視線を向ける。


睨み合った後でーーー真顔になったダスティンはポツリと言った。


「運を語っていいのはあらゆる準備をしてきたやつだけだ。」


ダスティンの言葉にグッと二人組は怯んだ。

しかし黙ったままは悔しかったのか、「でもジョーハンナ様は運で勝ち上がっただろ!」と青い髪の生徒が叫ぶ。


これにはダスティンは呆れた顔になった。

というのもーーー


「お前らは知らないのかもしれないが、ジョーハンナは先生方全員分の得意魔法や弱点属性、戦い方の癖まで全て調べ上げてるぞ?ーーー取り巻きたちが『ジョーハンナ様には必要ないのでは?』って言おうが『1%でもあるたる確率があるのならば調べるのでは当然でしょう』って。ジョーハンナはお前らよりもずっと優秀な魔法使いだ。それでも『運任せ』にはしなかった。」


黙り込んでしまった二人組。

そこでデニスがダスティンに問いかける。


「ダスティン先輩はどうなんですか?」


ダスティンはニヤリと笑った。


「俺は負けないからそもそも必要ない情報だ。ーーー三番以内に入れば指名権は手に入る。それに合わせて動いただけ。」


さすがっすとデニスが笑うとーーーオレンジの髪をした方のマスキラが悔しげに顔を歪めた。


「ど、どーせエゲート様がいたらそっちが優勝だ!」


この発言で室内の空気が凍りついた。

「あいつ禁句言いやがった…」と呆れ顔になっている生徒も数名。


ダスティンは一気に険しい顔になっている。

デニスが肩を怒らせて前へ踏み出そうとしてダスティンに止められている。


ダスティンは険しい顔のままオレンジ髪の生徒を睨みつける。

そして吐き捨てるように言った。


「ムカつくことにその通りだよ。でもな、あいつは少なくとも俺と同じだけ魔法の練習をしている。俺よりずっと才能はあるのに…だ。」


黙って話を聞いていたデニスも何か考えるように腕を組んだ。


「才能のある奴ほど努力しますよね。」


デニスがダスティンに同意を示す。


「ジョシュア様も努力の人だ。ーーーああいう人たちにがんばられると俺みたいなのでは到底追いつけなくなる。」


はあ、と肩を落としたダスティン。

目の前で固まっている二人組にシッシと手をふった。「お前らはもう帰れ、悔しかったんだろ。水に流すから。」ーーーこのように器の違いまで見せつけられ、逃げるように退室した言った二人。

デニスは呆れ顔で走り去っていく背中を見送った。


帰り支度を始めようとしたダスティンにそっと近づいていったデニス。

ニヤニヤしながら小声で言った。


「さっきのダスティン先輩の言葉ーーー一個違いますよ。エゲート様は毎日の反復詠唱1000回、素振り1000回、どっちもやってないんじゃないですか?」


ダスティンはムッと口をへの字に曲げた。


「ーーー言うな。こっそりやってんだよ。」


ばれたら恥ずかしいだろ!と小声で叫び、スタスタと出ていったダスティンの後をデニスが笑いながら追いかけていった。



翌朝。最強位決定戦最終日。

ミーティアウィークを終えたばかりの十一月のグレイトブリテンの空は魔素の薄さからか、晴れた日が多くなる。

例に漏れず快晴の空のもと、さんさんと太陽の光が降り注ぐ。


ライラ、デニス、ミシェーラの三人は揃ってプレートで移動していた。


「ライラを放っておくとまた絡まれそうね」というミシェーラの懸念にデニスが全面的に同意したためだ。


冬の朝の澄んだ空気にライラがブルリと体を震わせると、デニスが慣れた様子で毛布を取り出してかけている。

彼の表情は快晴とは正反対の仏頂面だったが。


デニスが黙り込んでいるとミシェーラが慰めるように彼の肩を叩いた。

発言の内容は酷いものだったが。


「そんな顔しないで。一年生で決勝まで行ったのなんてすごいじゃない。ダスティン様の糧になるのよ。」


華々しく負けなさい!と叫んだミシェーラ。

デニスはひでえ!と叫び返している。

ライラは二人のやりとりを見てクスクスと笑っていた。


「勝てるビジョンが浮かばねえ」とぼやきながら、デニスは会場でライラたちと別れた。しっかりとライラに毛布を渡しているあたり冷静さはあるようだ。緊張しているわけではないらしい。


水色の幻想的な光が差し込むこの美しい競技場にライラは三日目にしてようやく慣れてきた。

魚のライトに付与された術式を見て「イアハート校長の頭の中ってどうなっているのだろう」と首を捻っている。


今日の試合についてライラとミシェーラが話しているとーーーライラたちのいる個室…貝殻のドームに突如裂け目が現れた。

ミシェーラが驚きで固まる中、ライラは歓声をあげる。


「ジョシュア様!今日は入り口から来られなかったんですね!」


おはようございます!とテンション高く挨拶するライラに、ジョシュアが裂け目から飛び降りた後で「ああ」と応えた。


「シャ、シャーマナイト様、側近の方々は…?」


ミシェーラが若干引きつった顔で聞くと、ジョシュアは「後から来る」と端的に回答した。


ミシェーラが微妙な顔になっている。護衛の人かわいそうだなと彼女は思っていた。

ジョシュアはそんなミシェーラを見てーーーふと何か思い出したような顔になった。

そしてミシェーラを手招きしてそばに来させると、ジョシュアの魔力に若干気圧されている彼女に顔を寄せたジョシュアが小声で耳打ちする。


「私の勘だとおそらく今日だーーー危険かもしれないから寮に帰るか?」


ミシェーラはハッとした顔になった。

みるみるうちに青ざめていくミシェーラ。

「護衛を増やさなきゃ」と呟いたミシェーラの頭にーーーぽんと手が乗せられた。

ジョシュアの手が優しくミシェーラを叩く。


真っ黒な瞳には絶対的な自信が浮かんでいる。

ミシェーラがボーッと見つめていると、ジョシュアが当たり前のことのように言った。


「何百人の護衛よりも私のそばに居なさい。もちろん怖いなら帰ってもいいがーーー世界で一番ここが安全だと約束する。君は学生らしくこの行事を楽しみなさい。」


このやりとりを見ていたライラが「美男美女」と叫びかけ、フェルに口を閉じられていた。

「空気読めよ!」とフェルに怒られるも、ライラはモゴモゴとまだ何かいいたそうだ。


「私の周りってば顔がいい。目の保養すぎる。」


フェルに向かってライラが力説しているとーーー会場にお馴染みのファンファーレが鳴り響いた。

最終戦まで勝ち残った選手六名が入ってきた。


順々に名前を呼ばれ、手を振る選手たち。

大画面に映し出されたトーナメント表を見てーーーライラが吹き出した。


「アツムさんシードだ。」


フレイザーの行っている賭けで人気ナンバーワンツーの二人が同じ山になっていた。アツムは逆の山な上にシードだ。きっと涙を流して喜んでいるに違いないとライラは思った。


観客にとってもお馴染みの六人だ。

選手紹介は簡潔に行われーーーすぐに一回戦、ダスティン対デニスの試合になった。

試合開始の後ーーーしばらく相手の動きを伺うように睨み合っている二人を見ていたジョシュアが、ポツリと言った。


「デニスは相性が一番悪い相手に当たったな。ーーー確かあの二人は仲がいいだろう?」


ライラはジョシュアの発言の意図がわからず首を傾げる。

ミシェーラが横から捕捉してくれた。


「赤魔法っていうのは怒りで増幅して親愛で減弱するって言われてるの。ーーー青魔法との相性も悪いし、デニスにとってダスティン様は鬼門ね。」


ミシェーラはずっとダスティンの動きを追っている。

今日が楽しみだと昨日から何度も言っていた。

言葉の通り全力で応援をしているようだ。


試合の均衡を破ったのはデニスだった。

赤魔法で火の竜を作りつつーーー自身は真上へと跳躍する。


「あいつ一年生で大規模魔法使えるのか!」

「しかもこんな短時間…詠唱もなかったよな!?」


ざわめく観客。解説のアルフは真剣に二人の勝負の行方を見守っている。

ーーーどうやら観戦に回ってしまったようだ。なかなかに自由な教師である。


ゴゴゴゴゴゴ!とうねりを上げ近づいてくる竜を見て…ダスティンはなぜか苦笑いしている。

焦った様子はなくーーーすぐに詠唱をした。


「反魔法。」


デニスがはっきり「げ」と言っているのが画面越しでもわかった。

自分の方に跳ね返ってきた炎の竜を必死で避けるデニス。

背後が甘くなったその瞬間を見逃すダスティンではなかった。


すぐさま踏み込み、全力でデニスへと魔法剣を振り下ろす。

ライラが思わず顔を覆った。

デニスが切られると思ったのだ。


しかし、ジョシュアがチラリとライラを見て「心配するな」と言った。


その言葉通り、カキーンという金属音が響き渡った。

空中の不安定な体制にもかかわらずダスティンの剣をデニスが受けたのだ。

観客からは「おおお!」という歓声が上がる。

器用に中で身を捻らせ、距離をとって舞い降りたデニス。

しかし、そこでダスティンがニヤリと笑った。


「COME!」


短い詠唱。

しかし効果は絶大だった。

デニスの立っている地面がえぐれ、突然木の根っこのようなものが大量に出現したのだ。


「うわあ!?」


デニスが叫び声を上げ中に放り出される。

すかさずもう一本の木の根がデニスを横から打ち付けた。


「ああ、痛そう…。」


吹っ飛ばされたデニスを見てライラが顔を曇らせる。

しかしダスティンは攻撃の手を緩めなかった。

息つく間もなく身体強化を使ってデニスへと距離を詰める。


試合開始以降、最大出力の魔力をのせた剣を振り抜いたのだ。

流石のデニスもこの攻撃は受け切れなかったらしい。

なんとか剣を出し、直撃は免れていたが勢いは殺しきれずに壁へと打ち付けられていた。

ぐったりとしたデニスを見てーーーダスティンが剣を宙に掲げた。


[勝者、ダスティン!]


アルフの短い終了の合図に観客からは「わあああ!」という歓声が上がった。

ぐったりと壁にもたれて動かないデニスの元へはオレンジ色の髪をした救護班の生徒がわらわらと駆け寄っていった。

担架に乗せられてすぐにデニスが運び出されていく。


大丈夫かな?とライラとミシェーラが不安そうに顔を見合わせるもーーージョシュアは「受け身も取れていたし問題ないだろう」とあっさりとした様子だ。


それを聞いてミシェーラはほっとした顔になった。

彼女はダスティンを応援していたはずなのだが、さすがにデニスの様子が心配になったらしい。素直に喜べないわと複雑な顔だ。


「見事な反魔法でしたね。」


ライラがジョシュアの方を向くとーーージョシュアが「あれはデニスの攻撃を事前に予想していたな」と言った。


どういうことかとライラが首を傾げる。


ジョシュアが言うにはーーーダスティンは反魔法がかなり苦手らしい。


「あいつは細かい魔法の操作が得意ではない。実戦レベルではないと言えばいいか。一番相性のいい赤属性で…おそらくデニスの魔法も何度も見たことがあったんじゃないか?予想していたとしか思えない早さで詠唱していた。」


ジョシュアが言うにはシャロンとダスティンの反魔法はレベルが全然違うらしい。

ライラから見ると同じでも、シャロンは完全に実戦で反魔法を使いこなしているがダスティンは山を張っていた、ということらしい。


「拮抗した魔法使いの戦いでは『反魔法』を受けたらまず負ける。魔力がまるまる無駄になるどころか跳ね返ってくるからな。ーーーだから皆が反魔法を極めようとするんだ。」


ーーー魔力の節約が大事ってことかな?


ライラが首を捻っていると、フェルが確かにねと頷いた。


「戦場でも魔力をいかに抑えられるかが生死を分けるしね。反魔法は必須だよね。」


まるで戦場を見てきたかのような言い分だな?とジョシュアがフェルを見るとフェルはなんでもないことのように「いっぱい見たことあるよ」と頷いている。


ライラが出たよフェルの意味深発言ーーーと苦笑いしていると…フェルがライラの方にくるっと振り向いた。



「だからライラも反魔法をしっかり使えるように練習しなよ!」


ビシッと尻尾を突きつけるフェル。

目の先にきた尻尾を片手で退けつつーーーライラは「無理無理」と笑った。


「反魔法なんてデリケート系の最上位課題でしょ?わたしにできるわけないじゃん。」


「ちょっとライラ!諦めるの早すぎだよ!?」


この会話を聞いていたミシェーラもーーーライラに同意している。


「ウサギさえ作れないライラじゃちょっと厳しいかもね。ーーーわたしはデリケート系得意だし、練習してみようかな。」


ミシェーラの発言を聞いてなぜかライラが誇らしげな顔になった。

フェルが呆れたような声を上げている。



その後はジョーハンナが一切動かずに使役獣を使って相手を倒して審議になったり、ダスティン対ジェイクでは先ほどと打って変わってダスティンが肉弾戦を仕掛けたりと様々な戦い方で観客を楽しませた。


中でもジョシュアが一番楽しそうにしていたのはーーージョーハンナ対アツムの準決勝だ。


まず試合開始早々に「バインド」という魔法の鎖を使ってアツムがジョーハンナの使役獣を拘束した。


無詠唱で行われたこの魔法の手際の良さにジョシュアは「なかなかやるな」と満足そうに頷いていた。


ジョーハンナも負けていなかった。

ワードライオンが戦闘不能になったのを見てすぐさま水竜を作り出していたのだ。


アツムはその竜を見てうげっと顔をしかめていた。

しばらくは「ヒイイ」と言う悲鳴を上げるアツムと水竜の追いかけっこが続いたのだがーーー先に魔力切れを起こしたのはジョーハンナの方だった。


「竜系の魔法は威力もすごいけど維持が大変なんだよなあ。」


しみじみとした顔でライラの頭に顎を乗せているデニスが呟いた。

一回意識を失ったデニスだったが、すぐにこっそりとシャロンが治療してくれたらしい。しっかりとした足取りで貝殻の個室までやってきて、自然な動作でライラを抱え込んでいた。


お疲れとライラが声をかけると、「特別待遇よ?」とシャロンからウインクをかまされたとデニスがげんなりしていた。


「なんかライラとミシェーラちゃんの警護をしろっていう圧を感じた。」


デニスは苦笑いだ。人使い粗いわと文句を言いつつも、普段着には着替えず剣も腰に下げたまま。


突然横に座ったデニスにジョシュアは気がついているだろうに、特に何も言うことはなかった。

試合の合間に「反魔法を覚えればああいう負け方はしない」と言ってデニスを落ち込ませていたが。


水竜の動きがはっきりと遅くなったところでーーーまだまだ余裕がありそうなアツムがスッと観客の視界から消えた。

次に現れたのはジョーハンナの前。

ジョーハンナが慌てて剣を構えるも、アツムに一閃され、剣だけ吹っ飛ばされていた。


アツムは自分で飛ばした剣をキャッチしーーー二本の剣を持って気まずげに笑った。


「えっとーーーさすがにジョーハンナ様を攻撃する勇気はないな。」


アツムの姿を見てーーージョーハンナが諦めたように笑った。

スッと視線を上げてアルフのいる方に腕を振る。


[紳士的な方法で決着がついたようだな!勝者、アツム=サクライ!]


ワッと上がった歓声にアツムがひらひらと手を振っている。

ジョシュアが「アツム=サクライ…覚えておこう。」と少し嬉しそうに言っていた。


「優秀な生徒が多いな。ーーーこれからのこの国が楽しみだ。」


二十歳とは思えない発言だが、ジョシュアがすると自然と違和感がない。

ライラも知っている先輩が褒められて嬉しいのかニコニコとしている。


「わたし、アツム先輩の補助で卒業試験出るんです。」


ーーーと胸を張ったライラを見てジョシュアは「そうか」と頷いた。


「あの子の魔力の流し方をよく見て学びなさい。ーーー体格に恵まれている方でもなく、運動神経もそこまでなのだろうが上手に関節に魔力を分配している。センスがかなりいい。」


ジョシュアのこの発言にはデニスが食いついていた。


「アツム先輩の動きって緩急が独特で戦いづらいんっすよ。ーーーそういうカラクリなのか。」


ライラから視線を動かし、デニスを見たジョシュアは「デニスは必要ない」と言った。


へ?と首を傾げたデニスにーーージョシュアは真っ直ぐな視線を向けた。


「デニスは元々の運動センスが抜群だ。小細工なしでも十分なレベルにいる。ーーーもう一段階上を目指せ、反魔法、防御魔法まずはこの二つを学べ。」


デニスはびっくりしたように目を見開いていたが、すぐに破顔して「はい!」と返事していた。

最強の魔法使いであるジョシュアに褒められて嬉しくない者などいないのだ。


この出来事をデニスがダスティンに話し、「羨ましすぎるわ死ね!」と逆恨みで絞め技をかけられるのだがーーーこの時のデニスはそんなことも知らずにただニコニコと笑っていたのだった。


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