3の十四 最強位決定戦
ダイヤ柄の金属格子から火の光が差し込んでくる。
少し薄暗い選手控え室にはいつもよりも少し緊張を含んだ、選手たちの話し声。その声はどれもどこか落ち着きなく上ずっている。
最強位決定戦の開始前。
三十五名の参加選手全員がこの選手控え室に集まっていた。
デニスはライラの前ではなんとか格好をつけたもののーーー試合が近づいてくるにつれ、初めて味わう緊張感で体がカチコチになっていた。
部屋に入った瞬間、上級生たちの放つ気迫ともいえる空気に飲まれたとも言っていい。
この最強位決定戦は騎士団入りを目指す生徒にとっては最初の登竜門と言ってもいい。
のちに活躍するようになる騎士はこの中等部の最強位決定戦で必ず最終戦まで勝ち上がっているのだ。
いつもはふざけあっている生徒たちも、誰もが目をぎらつかせている。
デニスだけでなく一年生の参加者は皆緊張感で顔をこわばらせていた。
デニスは端っこで同級生の魔法剣術部の部員と黙って座っていたがーーー背後から肩を叩かれびくっと飛び上がった。
そんなデニスの反応を見てーーー声をかけた生徒、ダスティンは忍び笑いを漏らした。
「さっき盛大に暴れてたって噂だったのにーーー意外にビビってんだな?」
後ろに立たれて全く気がついてないなんてお前らしくもないとダスティンに言われーーーデニスはしょんぼりとしてしまった。
ダスティンはそんならしくないデニスを見て片眉をあげた。
壁にかけられた時計を確認しーーー「ジュース買ってやるからちょっとついてこい」とデニスを引っ張り上げた。
デニスは普段よりも体が重いのを感じながらーーーとぼとぼとダスティンの後をついていく。
出ていこうとする二人を見て、四年生からは「やめろ!ダスティンさん、デニスを元気付けるな!」「そーだ、ちょっと緊張してるくらいのハンデがないときつい!」などというヤジが飛ぶがダスティンは「知るか」と流していた。
人気がない通路の端までデニスを連れて移動したダスティン。
走り寄ってきた生徒にーーーたぶんダスティンの取り巻きだーーー「ちょっとジュース買ってこい」とコインを投げて渡していた。
ずっと俯きがちなデニスに、ダスティンは買って来させたジュースを渡した。
お礼を言うために顔をあげたデニスを見てーーー愉快そうな顔になる。
「お前でも緊張なんてするんだな。」
上級生にでも構わず噛み付いていくくせに、とダスティンが笑うとーーーデニスが拗ねたような顔になった。
「ダスティンさんは緊張しないんっすか?」
デニスの言葉にーーーダスティンは笑った。
「すんに決まってんだろ、でも、緊張を試合での力に変えられるようになった。」
ダスティンの答えが意外だったのか、デニスが目を大きく見開いた。
全く緊張の様子など見えない、普段通りに悠々と腕を組んで壁にもたれかかるダスティンを見てデニスは「そんなこと言っても普段通りにしか見えないしーーーやっぱりダスティンさんはすごいっす。」と呟く。
しかし、そんなデニスの言葉をダスティンは笑い飛ばした。
「何もすごくねえよ。腹だってすぐ壊すし。」
「あ、これミシェーラちゃんには秘密な」と急に真顔になったダスティンを見てーーーようやくデニスが笑顔になった。
クスクスと笑い出した後輩を見て、ダスティンも目尻を下げる。
優しい目でほぼ同じ目線の高さにあるデニスを見つめたまま口を開く。
「緊張して、腹壊してーーー今もお前にこんなこと言ってるけど心拍数上がってるし。でも、不思議と試合本番では吹っ切れるんだよ。」
え?とデニスが首を傾げる。
こんな幼い仕草を見ると、見た目はいくら大人びていてもデニスはやはり年下だとダスティンは思うのだが。
俺の個人的な話になるけどとダスティンは前置きしデニスに語り始めた。
自分が本番で力を発揮できるようになった話。
「陰口をたくさん叩かれたよ。黒の魔法が使えない王族ーーー」
デニスがひくっと顔を引きつらせたが、気にせずダスティンは話し続ける。
黒の魔法が使えない王族。
凡人。
いいやつだけどパッとしない。
「母親は優しかったよ。ーーーでも、それが逆に普通すぎて嫌だったな。パーシヴァルやジョシュア様の特別感が羨ましかった。…いや、今でも羨ましいな。主人公みたいに生まれたかったって思う。」
デニスは騎士家系として王族内の複雑な事情もある程度知っている。
だからダスティンのいう意味もわかった。
「ーーー黒に愛されると母体は耐えられないって話っすよね?」
デニスがおずおずと聴き返すとダスティンはそうだ、と苦笑いした。
「出産の際に子供に魔力器官の一部を壊されるって話だな。出産後十年前後で死亡する。後には骨も残らない。黒の魔石だけが残されるって話だ。ーーーとんでもなく不謹慎な言い方になるけどな。母親が亡くなった二人は…黒に愛されてるって証明されたわけだよ。」
デニスは何と反応していいのかわからなかったのだろう。難しい顔になった後、黙って頷いた。
確かにジョシュアやパーシヴァルと比べてしまうとダスティンは「普通」だった。黒の魔法も全く使えないのだ。王族としては出来損ないと言われても仕方がない。
「でもダスティンさんは…!」
デニスがフォローの声を上げようとするも、ダスティンは苦笑いで首を振った。
「事実だからいいんだよ。ーーーでも凡人なりに俺にも人生はあるわけで、しかもやり直しは聞かないわけで後悔したくない。だからさ、いろいろ目標を決めてるんだ。」
ダスティンは最強位決定戦での優勝、いいフィメルを手に入れることーーーそう言いながら一つ目、二つ目と指を立てて見せる。
「全部口に出し始めてから結構変わった。自分の良いとこにも気がつけたし。…俺結構顔もいいし、家柄もいいだろ?」
悪戯っぽく笑ったダスティンにデニスが「そうっすね!」と真面目に頷いた。
ダスティンが面くらって「照れるからやめろよ!」というも、「俺はダスティン先輩が一番かっこいいって思ってるんで。」と真顔で返され…目線を彷徨わせている。
ごほんと咳払いしてーーーダスティンはデニスの肩をポンポンと叩いた。
「緊張してる時ってどうしても後ろ向きになるだろ?ーーーないものが気になってしょうがなくなる。あの時ああしてれば、あいつはあれがあるからーーーそういうの全部飲み込んで、今持ってるもので勝負するしかねえって腹括るんだよ。」
そうやって緊張と付き合ってれば、だんだん平気になってくるからお前もやってみろ。
そう言って笑ったダスティンにデニスもすっかりいつも通りの顔になって笑っている。
選手控え室に戻りながらデニスがふと不思議そうな顔になった。
「ダスティン先輩はなんで俺に目をかけてくれるんっすか?」
デニスの疑問にダスティンはふざけた調子で「ミシェーラちゃんの幼なじみだからに決まってんだろ」と応えた。
「ポイント稼ぎっすか!でもあざっす!」
大声でお礼を言ったデニスを見てダスティンが呆れ顔になった。
「冗談に決まってんだろーーーお前が毎日真面目に練習してんの知ってるからだよ。才能にあぐらをかかないで努力する奴は嫌いじゃない。」
ダスティンの言葉にぱあっとデニスが顔を輝かせた。
憧れの先輩に才能があると言ってもらえて嬉しかったようだ。
スキップせんばかりの勢いで戻ってきたデニスを見てーーー選手たちからはブーイングが起こったとか。
「緊張しとけよ!」
「ダスティンふざけんな!」
ワイワイと絡んでくる友人たちをうざったそうに追い払いながらダスティンは呆れ顔だ。
「先輩なら後輩は励ますもんだろ。ーーー騎士になりてえんなら正々堂々剣で語れよ。」
青の流し目を向けられーーー文句を言っていた部員たちが悔しそうに膝をたたき始めた。
「くそ!このカッコよしおが!」
「文字通り一番実力のあるダスティンさんに言われると反論できねえ!」
◯
競技場にずらりと整列した三十五名の選手たち。
アルフの選手紹介に合わせて一人一人が得意魔法を披露していく。
ミシェーラが終始満面の笑みだ。
生徒の部。一回戦目は「肉弾戦」。
剣や鎧といった装備がなくミシェーラに言わせるとーーー
「肉体美が惜しげもなくさらされていて最高だわ。ーーーはあ、いつもこの格好で戦ってくれないかしら。」
この発言には、流石のライラもジョシュアを眺めるのをやめて突っ込んでいた。
「ミシェーラ、その顔で変態発言するのやめてもらっていい?イメージ崩れるから。」
ライラに向かってミシェーラは不満げに口を尖らせる。
「変態はひどいわ。好きなものは好きって言って何が悪いのよ。ーーーというかライラだけには言われたくないわ。シャーマナイト様しか見てないくせに。」
ライラはミシェーラの言葉にグッと黙り込みーーー再びジョシュアへと向き直った。
「ジョシュア様は誰を応援しますか?」
ライラの質問にジョシュアは間髪入れずに応える。
「ダスティンとジョーハンナだな。ーーーというか他の生徒はわからん。」
なるほど、とライラは頷いたがオズワルドは頭を抱えていた。
文字通り「区別がつかない」のだとわかっているからだ。軽率な発言はやめてくれと主人に思っている。
ライラはジョシュアに言われたことでようやくもう一人の王族の存在を思い出したらしい。
整列している選手たちに顔を向け、キョロキョロと首を動かしーーーすぐに目的の人物を見つけた。
ニュートも当然多くいるのだがーーージョーハンナはひときわ目立っていたからだ。
「すっごく綺麗な方ですね。」
ライラが目を輝かせるとーーー筋肉チェックなるものをしていたミシェーラも話に加わってきた。
「戦闘衣装までオシャレでーーー強くて美しいってああいう人のこと言うんでしょうね。本当に憧れるわあ。」
ミシェーラの声に合わせたかのようにジョーハンナの名前が呼ばれた。
会場の大画面いっぱいにジョーハンナの端正な顔立ちが映し出される。
真っ青な瞳はカメラを見ることなく真っ直ぐと前だけを見つめている。
つんとあげられた顎は誰にも媚びてたまるかと言わんばかりで、とてもジョーハンナらしい。
他の生徒が黒を基調とした動きやすい服を着ている中でーーー真っ青なジャケット、ズボンを履きこなしている。
スラット長く伸びる足、十四歳とは思えないほどにきゅっとくびれたウエスト。
そして何より目を引くのはーーー右手の薬指に輝く特大のサファイヤ。
フランク王国から嫁いできたジョーハンナの祖母が持ってきたと噂のその巨大なサファイヤは今では孫へと引き継がれて、ジョーハンナのシンボルとなっていた。
ジョーハンナの横には白い豊かな毛並みに真っ青な翼を持った使役獣、ワードライオンが横たわっているのだが存在感がある使役獣でさえもジョーハンナの前では、主人を輝かせるための引き立て役でしかない。
ジョーハンナは大変有名人で、たいして関わりがなイライラでも容易に情報を手に入れることができた。
中でも有名な逸話が、黒魔法が苦手なことを揶揄してきた地方貴族へと言い放った一言だ。
王宮のとあるパーティーでジョーハンナは自分よりも二回り以上年上の魔法使いを一切臆することなく睨みつけた後でーーー綺麗な微笑みを浮かべた。
大輪のバラが咲いたような美しい笑みに見惚れた魔法使いに向かってジョーハンナは言った。
「黒が苦手だから何?青が至高…あなたたちの価値観を私に押し付けないでもらっていいかしら?」
黒の王族が聞いている場で何の躊躇いもなく青が至高と言って見せたジョーハンナ。
パーシヴァルはこの時大爆笑していたらしい。
ライラにこの話を教えてくれた際にも、「あいつ本当にサイコー」と思い出し笑いしていた。
ちなみにジョーハンナはパーシヴァルのことが大嫌いなのだそうだ。うまくいかないものである。
そんなジョーハンナだから、選手たちからはいろいろな意味で恐れられているのだとか。傷つけたらえらいことになりそうだとみんな当たりたくないと思っているのだとか。ジョーハンナ自身の怒りもそうだがーーー何よりジョーハンナの側近や親衛隊には過激派が多いらしい。
「まあ、ジョーハンナさん強いからそうそう傷つけられないんだけどな!」
ーーーとデニスが笑って言っていた。
ジョーハンナの親衛隊は学園一なのだそうだ。ミシェーラがさすがだわ、と頷いていた。
ライラは親衛隊などとは無縁な人生を送っているので、人気者同士通じるものがあるのかな、と首を捻った。
順調に選手紹介は行われていき、ジョーハンナだけでなくダスティンの紹介の際にも会場が揺れるほどの歓声が上がっていた。
他にもアツムやジェイクなど黒薔薇団のメンバーも人気があるようで大盛り上がり。
デニスも一年生とは思えない人気で、大歓声に少し照れた表情を見せたデニスを見てミシェーラとライラはニヤニヤとしていた。
選手紹介の後は休憩を挟むこともなく一回戦が開始された。
選手は部活動発表会でも使われていた黒い風船を持って戦っている。
割られたものから脱落していき、半分程度の人数ーーー十五人まで減ったら一回戦は終了なのだそうだ。
ドーン!というアルフの太鼓に合わせーーー瞬時に十名程度が脱落した。
観客たちがどよめく中で、アルフの解説が響き渡る。
「一年生のデニス一人に大人気なく挑みに行った十人が返り討ちにあったー!」
この解説に会場からはドッと笑い声が上がった。
ライラは表情を引きつらせているがーーージョシュアは「毎年こんなものだ」と頷いている。
「優秀そうな下級生は早めに潰しておくのが定石なんだ。ーーーデニス以外の一年生はやられたな。」
将来がかかってるとあってみんな必死である。
一年生で出場しているのは大抵魔法剣術部所属の有望な生徒だ。
初めから警戒されているらしい。
他にも風船を割りに行くか逃げに徹するかでも作戦は別れるのだとか。
風船を割れば特典もあるが、リスクは当然上がる。
デニスはやむ負えず割っていたが、大抵の生徒は警戒しながら睨み合っている。背後を取られるわけにはいかないからだろう。
開始一分で二十名まで人数が減った。
あと五名ーーージョーハンナはワードライオンにまたがって少し上空から高みの見物を決め込んでいる。たまにジョーハンナを攻撃しそうな生徒がいると使役獣がガルルルルと唸ってジョーハンナに知らせていた。
「あれ反則なんじゃ…?」
と言う戸惑いの声が上がっているがーーージョーハンナだけ特別に、アルフが黙認しているらしい。
噂ではジョーハンナが「肉弾戦など汗臭くて汚らわしい」とアルフに向けて言ったとか言わないとか。
ちょっとあり得そうだなとライラは思った。真実は本人たちしか知らない。
そんな中で、ダスティンが初めて動いた。
彼に向かっていく生徒はいなかったため、取り残される形になっていたのだ。
ダスティンがポーンと跳躍し、手足を振り切った後で近くにいた三人の生徒の風船が割られた。
ミシェーラが「きゃー!」と歓声を上げる。
ほぼ同時にアツムとジェイクも近くにいた生徒の風船を割ったようだ。
ドンドーン!と太鼓が鳴らされ、残っていた選手たちが睨み合うのをやめ…ほっとした様子で笑い合っている。
予定よりも二人少ない十三名の生徒が二回戦へと進出した。
「一回戦終了!ーーー結果、風船を割った順でデニス=ブライヤーズ、ダスティン、ジェイク=フックス、アツム=サクライ…この四名は二回戦の指名権がある。」
アルフの解説にーーーライラが首を傾げた。
指名権って?とミシェーラに説明を求め、呆れられている。
はじめに説明されたでしょ、と言われたがライラはジョシュアを見つめるのに必死で聞いていなかったのだ。
はあ、とため息をつきながらもミシェーラはきちんと説明してくれる。
「二回戦は教師との対戦…一回戦と同じく教師の風船を規定時間内に割れば決勝出場よ。それで、昨日の見てわかったと思うけど教師陣の中でも実力差があるでしょ?基本はくじ引きで決めるのだけどーーー風船を割った生徒は『指名権』が与えられるのよ。相性の良い対戦相手を選べるの。」
なるほど、と頷いたライラ。
「指名された教師は毎年ものすごく不服そうな魔力の動きをする。」
とジョシュアが呟いたために思わず吹き出してしまった。
指名は休憩の後で行われるらしい。
選手が一度はけていった後でーーーライラはふとジョシュアの方を向いた。
ーーーなんだかんだ言ってシャーマナイト様に臆することなく話しかけるライラって大物よね。
ミシェーラはこっそりジョシュアから距離をとっているのだが、ピタリと横に座った上でのほほんと笑っているライラを見て密かに感心する。
ミシェーラの視線に気づくことなくライラが「あの、ジョシュア様」と言った。
ジョシュア首を動かして、ライラを見つめる。
目があったことで嬉しそうな表情になった後でライラは口を開いた。
「ジョシュア様の学生時代の最強位決定戦ってどうでしたか?」
ライラの質問にジョシュアは「どうってことなかったぞ」と応えーーー後ろに黙って立っていたパーシに「いやいやいや」と突っ込まれていた。
突然声を上げたパーシに皆が驚きの視線を向けた。
パーシは気まずそうに「すみません」と肩を竦ませたがーーーそれでもこれだけは言わせてください、と口を開く。
「ジョシュア様の在学期間は中高合わせて二年間ですが、一回だけ出てらした最強位決定戦の噂は高等部にまで伝わってきてましたよ。」
パーシーのいうとおり、ジョシュアは中等部を一年、高等部を一年で卒業している。その後、三年間プロイセンの魔法学校へと留学したのだがーーー短い間でも数々の伝説を残していた。
当の本人は「何かしたか?」と首を傾げているのだが。
パーシーに「説明してくださいよ」といった意味合いの視線を投げかけられたオズワルドが苦笑いしながら当時のことを語ってくれる。
王族の側近しかいないこの場だから話せる話ですが、と前置きして。
「ジョシュア様が覚えていらっしゃらないのも無理ありません。最強位決定戦は一瞬で決着し、その後の反王族派魔法使いの討伐に向かわれましたから。…あの時期は物騒でしたからね。国内情勢が落ち着いてきたのはここ数年になってからです。」
あんぐりと口を開けたライラ。
ミシェーラは何か考え込むような顔になっている。
フェルはライラの口を浮遊魔法で閉じていた。ゴミとか入りそうですごく気になるんだよ、といつも言っている。
ことの顛末はこうだ。
ジョシュアが十三歳の冬。
グレイトブリテン内では黒の魔力の弱かったヘマタイト王に反発する魔法使いが集まり、王政革命なる動きがあった。
「他国との戦争が落ち着くと国内で内乱が起きるのですからやり切れませんね」とオズワルドは憂鬱そうな顔になっている。
あわや国王暗殺か?となった王宮内。
反乱軍と騎士団が剣と魔法を合わせて戦う中で、ジョシュアの魔力通信にも「内乱発生」の文字が届けられた。
選手控え室でジョシュアは考えた。
今抜けたら内乱のことが観客全員に知られてしまうと。
今後、隠蔽するかもしれないためこの場でこれだけの人数に知られるのはまずい。
機密を守りつつ、すぐさま王宮へと向かう方法。
一回戦で開始と同時にジョシュアが動いた。
パンパンパンという小気味いい音が響き、全員の風船が割られる。
シンと静まり返った会場でーーージョシュアは言った。
「決着だな。」
オズワルドに「一時間だけ間を持たせろ」とだけ伝言を残し、王宮へ飛んだジョシュア。
オズワルドは頭を抱えながらーーー後始末に奔走したのだとか。
「最強はジョシュア様だから準優勝を決めてはどうかなどという不可思議な提案…今思うとわたしも混乱していたのでしょう。でももっと混乱していた運営によってわたしの提案は受け入れられ、まるで何もなかったかのようにもう一度大会が行われました。」
その後、宣言通り一時間で帰ってきたジョシュアが行われている二回戦を見て「わたしもイアハートと戦いたい」などと言い出し、また騒ぎとなったらしいのだが…
ジョシュアはようやく思い出したらしい。
「そんなこともあったな」と頷いている。
「今のメンバーだったら、肉弾戦ではあの速度では決着はつかないだろうな。」
ーーーなどと分析している。
「体術もできるジョシュア様さすがです!」とライラを喜ばせていた。
パーシは口を抑えて肩を震わせている。どこまでもマイペースな二人のやりとりがツボにハマったらしい。
ミシェーラは頬を引きつらせている。
あわや国家転覆の危機である。「大変だったね」で片付けられる話ではないのだ。
それでもーーー
「ジョシュア様がいれば全てなんとかなるーーーあながち間違ってもいませんものね。」
ふふふと笑ったミシェーラ。ライラがブンブンと首を振ってミシェーラの意見を肯定した。
他のエピソードも聞きたいとライラが口を開きかけたところでーーー再び会場に放送がかかった。
高めのテノールの声ーーー放送席がアルフではなくなったらしい。
彼も出場しなければいけないので生徒へと変わったようだ。
緊張をにじませながらも二回戦の説明が行われる。
「二回戦はーーー教師VS生徒…昨日見事な戦いを見せてくれた先生方に今日は生徒が挑戦します!」




