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色なし魔法士は今日もご機嫌  作者: 橘中の楽
色なし魔法士は飛び級したい
33/103

2の十二 意味不明なのは人間じゃない

「わたしは側近はつくらない。他を当たりなさい。」


ジョシュアの声は低音で不思議とよく響く。

ライラはそんな彼の声が大好きだった。

しかし、この時ばかりは、その声が無慈悲な死刑宣告のように聞こえた。


ーーーもし、ライラがジョシュアと親交があれば、彼の瞳に浮かぶ葛藤にも気がつけたかもしれない。

しかし、彼らはお互いを理解するには時間が足りていなさすぎた。


ジョシュアは親切で言ったつもりだったのだ。

パーシヴァルが気に入っているライラは、自分の元にくるべきではないだろうと。言葉を続けて、パーシヴァルを支えてくれと、伝えるつもりだったのだ。

しかし、ライラには、ジョシュアから拒否された、という事実だけが突きつけられた。


文字通り、絶望によって真っ黒に染まった瞳。

ーーーしかし、その色は一瞬で消え去り、ライラは諦めたような顔で笑った。

ジョシュアはその表情を見て、自分たちの間に何か大きな勘違いが生まれたということを悟る。

しかし、ジョシュアが言葉を探している間にも、ライラの方には今すぐにこの空間から逃げ出したいという気持ちが高まっていた。


「恐れ多いことを申し上げました。ーーーどうかお忘れくださいませ。」


立ち上がった際に、ふらりとかしいだ細い身体を、フェルが魔法で受け止めた。

ライラを見て固まっているジョシュアには、フェルの怒りの波動がぶつけられる。


「ーーー黒の子じゃなかったら殺してる。」


ゾッとするような声だった。

弱い魔法使いなら、フェルの放った威圧に耐えきれず、気絶していたかもしれない。


そんなフェルを一瞥しただけで、ジョシュアは顔色ひとつ変えなかった。

しかし、なぜこんなことになったのかわからないのだろう。

突然自分に向け放たれた殺気に眉を潜めている。


ようやくジョシュアが声あげたときには、すでにフェルがライラを扉から出してしまった後だった。

「待ちなさいっ、」というジョシュアの声は、フェルによって意図的に無視された。バタンっという音だけが、残されたジョシュアの耳に届いたのだった。



ライラたちの表情を見て、何となく中で起こったことを察したのだろう。

オズワルドが間に入ろうかと提案してきたが、ライラはそれを笑顔で断った。


ーーーこれ以上、ご迷惑をお掛けできません。


そう言って笑うライラに、オズワルドは口にしかけていた言葉を飲み込んだ。


フェルが威圧感を放ったまま、窓の方へと近づいていく。

オズワルドは、慌てたように、ガラスの嵌められた窓を押し開いた。

冷たい風が吹き込んだ次の瞬間、フェルとライラは部屋から消えていた。


「窓から帰ったのか、相変わらずフェルさまは、なんて非常識なーーー。」


オズワルドは呆れたように呟き、首を振っていたがーーーいまだに部屋から出てこない主人の元へと、用意していた寝酒を運んでいくのだった。



ライラは空を飛びながらーーー堪えきれなくなった涙が、こぼれ落ちそうになっていた。

しかし、ライラの涙はすぐに引っ込むことになる。

原因は、ライラの横で凄まじい存在感を放つフェルだ。

見たこともないほどに、魔力が荒れている。

ライラはものすごい速度で、フェルによって何処かへと運ばれていた。


ーーーあ、これ、泣いてる場合じゃないわ。自分のペットさまが、暴走寸前だわ。


今にも怒りで魔力弾を飛ばしそうになっているフェルを何とか宥める。

夜空を飛んでいた魔鳥がフェルの魔力の残渣によって、何匹か黒焦げになったのは、ご愛嬌だろう。


ライラは、フェルを宥めすかし、ギャンギャンと叫ぶ声に耳を塞ぎそうになりながら、カバンに常備している魔石を口に百個ほど詰め込んだあたりでーーーようやくフェルの飛行速度が、移動プレートくらいになった。


どっと疲れたライラは、フェルによって、レイモンドの住んでいるらしいマンションへと連れて行かれた。

王宮が所有するそのマンションは、築百年ほど経っているらしい。

どこもかしこも魔石の光でキラキラとしていて、どこか生活感のない王宮内とは異なり、温かみのある建物だった。


ライラはエントランスホールでレイモンドに連絡する。

そして五分ほど待たされた後ーーーなぜか、片手にパーシヴァルを抱いた状態でレイモンドが現れた。


いつもの調子でライラちゃんお疲れー、と笑うレイモンド。

パーシヴァルは寝ているらしい。

いつでもどこでも寝れるのはパーシヴァルの特技と言っていいだろう。

ライラはなぜパーシヴァルがいるのか気になって仕方なかったのだが、「いつもなぜかきちゃうんだよね」と笑われただけだった。


「いつもパーシヴァルさまがいるということか?なんて羨ましい生活ーーー!」


ライラはレイモンドを睨みつけーーー視界に入ったパーシヴァルの寝顔によって、険しい顔はすぐに笑みへと変わっていた。


頬を染め、ほうっと息をつくライラの百面相に見慣れてきているレイモンド。

その表情は苦笑いだ。


不機嫌そうな表情をしていることが多いパーシヴァルだが、眠っている姿は一瞬どこのフィメルの姫君かと勘違いするほどに、あどけない。

わずかに開かれた唇からは、スースーという寝息が聞こえてくる。

先ほどから結構揺れているはずなのだが、起きる気配がない。熟睡しているようだ。


「パーシヴァル様こうしてみると、整いすぎて人形みたいですね。」


三階にあるというレイモンドの家に移動しつつ、ライラたちはひそひそと会話する。

パーシヴァルを起こさないためだろう。

ライラは、長身のレイモンドによって危なげなく運ばれているパーシヴァルを、これでもかというほどにガン見している。


「それにしても、何で連れ出したんです?お部屋で寝かせて差し上げればよかったのでは?」


ライラの当然の疑問に、レイモンドは疲れたような顔になった。


「この人さ、すぐ寝るんだけど、そのまま放っておくとベットの上に時空魔法使って移動するんだよ。無意識でやってるらしいから、ほんとありえないよねーーーライラちゃんと話すって言ってたから、こうやって捕まえてる。離宮に戻られたらどうにもならないし。」


ライラはレイモンドの説明に数回瞬きした後ーーーグフっという音を立ててその場にしゃがみこんだ。

すぐに、金色に発光したフェルの浮遊魔法によって持ち上げられていたが。


「え?捕まえないと何処かへ行っちゃうって可愛すぎでは?何それ、わたしを萌え殺そうとしてます?」


は?と突然キレ出したライラを見て、レイモンドは疲れたようにため息を吐きーーー遠い目をした。


王宮から、ライラが突然飛び出していったと連絡が来て、パーシヴァルとともに心配して待っていたのだが、レイモンドの想像以上にライラは元気そうだった。


ーーーパーシヴァルさまも待つの飽きた、とか言って寝ちゃうし。ライラちゃんはライラちゃんでいつも通りすぎるし…俺だけなんか振り回されてる。


マイペースな面々に囲まれている苦労人レイモンドは、家に入ると、パーシヴァルを抱えたまま、ライラにソファを勧め、お茶を注ぎ、自分は床に座った。

そして、自分の膝の上で眠りこけているパーシヴァルをゆり起こしたところで、ようやく一息つく。


フェルが何やら哀れみを込めた目でレイモンドを見ていたのだが、幸か不幸か忙しくしていたレイモンドは、その視線に気がつくことがなかった。


起こされたパーシヴァルは、まだ眠いのかうーんと伸びをした後、レイモンドの上から降りて空いていた一番大きなソファに寝そべった。

そして、頬杖をついた状態で、ライラへと向き直る。


「ーーーで?ジョシュアはなんて言ってた?」


パーシヴァルの視線を受けーーーライラの表情に影がさした。

すぐに取り繕ったような笑顔になったライラ。

しかし、口を開く前にーーーなぜか、いつの間にかパーシヴァルが取り出していた1メートル大の杖によってライラは頭を叩かれていた。

ガンっという鈍い音がして、何故か叩かれていないレイモンドまでもが顔をしかめている。


痛いですっというライラの抗議にもパーシヴァルは知らん顔だ。

不満そうにいつもより低めのテノールが発せられる。


「俺、そういう顔するやつ嫌いなの。ーーー嫌なことあったけど、我慢してますって顔。ジョシュアもよくしてるけど…。ほら、泣いてもいいから、何があったのか話せ。」


そう言ったパーシヴァルの表情はライラが思ったよりも、ずっと優しいものでーーーライラは、ふと、兄がいたらこんな感じだったのかな、と思った。


泣け、と言われたライラは、反対にふふふ、と笑い出した。

パーシヴァルがその表情を見て苦虫を噛み潰したような顔になっていたが、今度は叩くようなことはなかった。


しばらくして、落ち着いたライラがやっと説明を始める。

ーーーとはいえ、一瞬で伝えられるようなことなのだが。


「ジョシュアさまに、側近にするつもりはないって言われました。ーーーいえ、正確には作るつもりはないっておっしゃったかな?ともかく、断られたので、わたしがショックで呆けていたら…フェルがその、わたしを連れたまま怒って窓から飛び出しちゃって。今までずっと、フェルの怒りを鎮めるために空を飛び回ってました。」


ライラの説明にーーーなぜか、パーシヴァルの眉間のシワが濃くなった。

ライラはどこかわからない点があったのかと首を傾げる。

しかし、パーシヴァルの発した言葉はライラの予想の斜め上のものだった。


「オズワルドからも似たような説明があったんだけどーーー肝心のジョシュアから、なぜか俺のところにこんなものが送られてきて、意味わかんねーから直接話を聞きにきたんだよ。」


ほれっと言って、パーシヴァルからライラへと、何かが投げて寄こされた。

黒く光ったそれは、放物線を描いてライラの手のひらへと収まった。


ライラはありがとうございますと言いかけーーー完全に固まった。

ライラの手の中にあるのは、大粒のシャーマナイトがふんだんにあしらわれたチョーカーだった。

黒地にブルーのラインが入っている。

シャラリ、という涼しげな音を立てるそれは、魔力灯の光を受けて、キラキラと輝きを放っている。


チョーカーに釘付けになっているライラの代わりに言葉を発したのはフェルだ。


「何で、シャーマナイトがここに?ーーージョシュア、ライラのこと断ったんじゃないの?」


人間、意味不明すぎる、というフェルの言葉を、パーシヴァルが、違うと言って否定した。


「意味不明なのは人間じゃなくてジョシュアだ。ーーーそして、こういうことはよくある。あいつ結構ポンコツなんだ。何考えてんのかわかんないところがあって、すげえ俺をイラつかせる。」


何かを思い出したのか、ちっと舌打ちしたパーシヴァルに、ウンウンとレイモンドが同意している。彼も、ジョシュアの言動に振り回された経験があるらしい。


「ーーー執務の時は完璧なのに、自室に入った途端スイッチが切り替わるっていうか、噛み合わなくなるんですよね。ライラちゃん、ジョシュア様の言葉最後まで聞いた?あの人、独特の間でしゃべるから、辛抱強く結論まで聞かないとダメだよ?」


レイモンドに声をかけられたライラは、ハッとして顔をあげた。

そして、自分の行動を反芻してみたのだろう。


「ーーー一応会話は終わったと思いますけど…すぐにフェルがわたしを連れ出したので、自信はないです。そういえばジョシュア様のお顔はあまり見ていないですね。」


うーんと首を傾げたライラに、フェルはぼそっとつぶやく。


「ーーージョシュア、去り際に何か言ってたよ。むかつきすぎて出てきちゃったけど。」


フェルはそう言った後、怒られると思ったのだろうか、ライラの反応を伺うように顔の前へと近づいていった。

ライラはそんなフェルに向かって微笑み、お腹に手を伸ばしてさらりと撫でた。


「そっか、暴れちゃダメだから我慢してくれたんだねーーー優しいフェルらしい気遣い、ちゃんとわかってるから大丈夫。」


えへへ、と笑ったフェルにライラが癒されているとーーーパーシヴァルから再び杖の攻撃がきた。

フェルがとっさに浮遊魔法でガードしていたが。


ライラは突然のことにびっくりしたのだろう。

ギョッとした顔で、抗議のために口を開けた。


しかし、パーシヴァルの表情を見て、賢く口をつぐんだ。

パーシヴァルがイライラしていたからだ。

杖がぶんぶん振り回されている。


「パーシヴァルさま、杖で人を殴っちゃダメですよ?」


そう言って近づいていったレイモンドにもパーシヴァルは杖を振り上げたが、リーチの長いレイモンドに素早く奪い取られていた。

没収、ということらしい。


言語で話してください、年上でしょう?と諭され、パーシヴァルはブスッとした顔でライラへと向き直る。

ライラはだんだんとレイモンドが母親のように見えてきていた。口に出すことはないが。


「ーーージョシュアから送られてきたメッセージは、『これをライラックに。』これだけ。その後、宙からあいつの手だけ出てきて、これが置かれていった。ーーーいや、意味がわかんねーよ。今さっき本人に会ったのに、何で俺に渡すんだよ!?」


「パーシヴァルさまが珍しく癇癪(かんしゃく)を起こしてる…。」


ライラは珍しいこともあるもんだと驚き、またパーシヴァルに睨まれていた。杖があったら確実に飛んできていただろう。


このままだと埓があかないと思ったのだろう。

フェルが王宮へと戻って確認してくることになった。

彼ひとりなら転移魔法が使えるので速い。

さっきの怒りを思い出したのか、若干魔力が荒れていたが、それでもライラのためにと、フェルは王宮へと飛んだ。


そこで、後は勝手にやれと、パーシヴァルも消えた。

彼も亜空間を経由して寮へと帰ったらしい。


ーーー空間を渡れる人たちって便利だね?


先ほどまで賑やかだった室内にはライラとレイモンドだけが残された。

レイモンドは立ち上がってライラの横へと移動してきた。

ライラが首を傾げると、手を差し出される。

どうやらチョーカーが見たいらしい。

ライラはすぐに握りしめていたそれを手渡した。


レイモンドは光にかざすようにして、チョーカーを見聞し始めた。

意味がよくわかっていないライラのためにか、ポツポツと説明のようなものもしてくれる。


「ライラちゃんはさ、ネームジュエリーのついたチョーカーの意味は知ってる?」


レイモンドの問いに、ライラは黙って首を振る。


「ーーーピアスはね、つけた王族しか外せないこともあって、側近にしか与えられない。」


これとかさ、と言ってレイモンドは自分の耳につけられた、大粒の黒い宝石を指差した。

パーシヴァルが出会ってすぐに勝手につけたそうだ。拒否権は与えられなかったらしい。


「俺とパーシヴァル様は側近の契約してなかったから、喧嘩になったりしたけどーーーとにかく、ピアスは特別って言われてる。他の装飾品はいつでも外せるから、少し格は落ちるんだけどーーーチョーカーはちょっと例外なんだ。」


「例外、ですか?」


首を傾げたライラを、レイモンドの青い瞳が覗き込んだ。

突然近づいた距離に、ライラは驚いたように固まった。

レイモンドはそんなライラの反応を見て、ニヤッといたずらっぽい表情になる。


「こいつの首は俺のものーーー命は自分に捧げられています、って周りに示す意味があるんだって。側近じゃないけど、所有物、みたいな?聞いた時は、悪趣味、って思ったけど…こうやって喜ぶ子がいるから存在するんだろうね。」



レイモンドの指摘した通りーーーライラの顔は、真っ赤に染まっていた。

今にも沸騰しそうである。


ギクシャクとした動きでレイモンドを再び見たライラ。


「ーーーそ、そんな恐れ多いものをつけて、いいのでしょうか?」


「いいんじゃない?というか、俺たち平民に拒否権なんてないよ。優しい俺がつけてあげよう、ほら、後ろ向いて。」


固まったままのライラを、レイモンドは軽々と持ち上げて後ろを向かせている。

さすが、いつもパーシヴァルを運んでいるだけのことはあり、動きがスムーズだ。


カチリと音を立てて、ライラの首にチョーカーがつけられた。

魔石と金属が使われたそれは、ライラの動きに合わせてシャラリという音を立てる。

ライラは不思議と重みは感じなかった。

レイモンドいわく、不失と不浄の魔法がかけられているので外す必要はないらしい。

ライラは腕につけられているパーシヴァルの腕輪と合わせ、二人の王族から装飾品を贈られたグレイトブリテン史上初の色なしになったのだが、そんなことは今のライラの頭にはなかった。


その辺りで帰ってきたフェルが、ライラの首にはめられたチョーカーを見て、意外と似合うと満足そうに頷いていた。


「首につけるとそこまで目立たないね。シャーマナイトはぶらぶらして、キラキラしてるから、一目でわかるけど。」


真っ赤になっていたライラだったが、フェルの登場によって我にかえったらしい。

普段褒められることなどないせいか、レイモンドたちからの視線を受け、照れるというよりは、どこか気まずそうにしている。


「わたしが着飾ってもなあ。いや、チョーカー自体は天にも登りそうなほど嬉しいんだけどね?ーーーそれで、フェル、何かわかった?」


ライラは気になって仕方なかったのだろう。フェルをじっと見つめる。


「わかったようなわからないようなーーーとにかく、OZがジョシュアにチョーカーを渡すように助言してくれたみたいだね。」


これを聞いたライラは、真剣にオズワルドのいる方ーーーつまり、王宮の方角に向かって祈りを捧げていた。

感謝という言葉では足りない、と真顔で言っている。



ジョシュアの唯一の側近であるオズワルドは、ライラの「残り時間」についてもフェルから知らされていた。

だから、ライラたちがいなくなった後、自室で魔煙を(ふか)していたジョシュアにそれとなく進言したのだ。主人がどこか後悔しているように見えたせいもあるだろう。

他の者と同じように、「成人してから考える」のでは間に合わないこともありますよ、と。


ジョシュアも薬の件でそれとなくライラが病気であることは知っていた。

ジョシュアは馬鹿ではない、むしろ大変聡明な分類に入る。

これらの情報をつなぎ合わせ、ライラに余命が宣告されていることを察するのに時間はかからなかった。

そして、自分が対面して感じた違和感。


側近にしないと言った。

その言葉に偽りはないものの、ライラの存在は、ジョシュアを落ち着かなくさせた。自分の目の届くところにおいておこうかと思わせたのだ。


ピアスはつけられない。

しかし、腕輪では少し弱い。


「ーーーチョーカーはいかがですか?」


オズワルドが取り出した品を手にとったジョシュア。

そして、自嘲するように微笑んだ。


「ーーー俺は、絶対にこれを、人に贈るようなことはないと思っていたのだが。」


いまだに迷いを見せる主人にーーーオズワルドはとどめの一言を放った。


「ライラックさまは、ジョシュアさまの魔力と、大変、本質が似ていますよね?だから、気に入ったのではないのですか?」


フェルと会うたびに、ジョシュアは少し柔らかい表情をしていた。

長年ジョシュアに仕え続けたオズワルドだからこそ気づいた、そのわずかな変化。フェルと魔力が同質になっているライラも当然例外ではない。


魔力でしか他人を読み取れないジョシュアが見せた、大変珍しい反応をオズワルドが見逃すはずがないのだ。


「ジョシュア様の魔力に威圧されずに側に仕えられるものはほんのわずかです。ーーー王宮で一番、と言われるわたしでさえ、ライラック様ほどはリラックスできていませんよ?」


ほら、ちょっぴり震えています、と笑って右手をオズワルドはかざした。

彼の言葉の通り、指先は振動している。


ーーージョシュアの魔力は強大すぎた。

いつもは魔封じの鎖を身につけている彼だが、魔封じの鎖は息を止めているよな感覚がする快適とは言い難い代物だ。

自室では外している。

そして、そんな素のジョシュアに仕えられるものは、魔力の波長が合う、ほんの一握りのみ。

これが、ジョシュアが側近をつけたがらない理由の一つだ。


オズワルドをじっと見つめた後ーーージョシュアは魔力通話を取り出していた。

ぽちぽちと画面を操作し始めた主人を見て、オズワルドは自分の役目は済んだと察したらしい。

静かに退室しーーーシャーマナイトが新たに贈られたことによって、この後、王宮で起こるであろう騒ぎへと策を巡らせ始めたのだった。

ジョシュアはパーシヴァルに魔力通話を送ったあとで時空転移をしました。パーシヴァルならなんとかしてくれると思い、ブツだけ置いていったようです。

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