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色なし魔法士は今日もご機嫌  作者: 橘中の楽
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2の九 成功報酬

無事、青竜を見つけ、使役の補助を手伝ったライラにはーーー帰還の許可が出た。

長期休みは残り十日あまり。

少なくなった休日を実家で過ごせるようにという配慮だった。


しかし、パーシヴァルの予想とは裏腹に、帰還許可を出したときのライラは一瞬こわばった顔をした。

すぐに胸で十字を切り、首を垂れたため、その変化に気付くのは普通であったなら難しかっただろう。

しかし、王族として他人の感情を読むことに慣れていたパーシヴァルは気がついた。


そして、少し思案した後ーーー


「ーーー別に無理に帰れとは言わない。ジョシュアも来る予定だし、残ってもいい。俺とレイモンドはギリギリまで残る。」


もちろんライラはこの提案に喜んで乗った。

あの親戚の元に喜んで帰りたいはずがなかった。

そして、ジョシュアという単語に喜びたかったのだがーーー残念ながら、ライラの身体がついていかなかった。


「ーーー体調もすぐれないしなあ。本当にパーシヴァル様には感謝だ。あの家じゃ休めないし。」


ライラは自室でベットに寝かされていた。

解熱剤を毎日飲んでいたのだが、今日は予定がないからとフェルが取り上げたのだ。


「毎日、人間にしては熱めだもんね。ーーー今日くらいは大人しくしてなよ。」


フェルはそう言いながら、火照ったライラの額に濡れたタオルを乗せている。

ライラは気持ちが良いのだろう、とろんと目を細めて笑みを浮かべた。


「課題やらなきゃなあ。後十日で終われば良いんだけど。」


学園の宿題のことを思い出し、顔をしかめたライラ。

今にも起き出しそうなライラをフェルが怒ったように止める。


「今日は何もさせないから。ーーーいい加減、自分の体調が悪いこと自覚しなきゃ。薬ってやつは、一時的に良くなるだけで完治させるわけじゃないって、レイモンドも言ってたよ。」


「ふふ、フェル親みたいなこと言うね?」


クスクスと笑うライラ。

フェルは、ライラの「親」発言に嬉しそうだ。


「親ってことはライラの大切な人間って意味だよね?ボクもライラのこと大好きだから両思いだね。」


少し違うーーーとライラは思ったが、またライラの意識は夢の世界に旅立とうとしていた。


ーーーめちゃくちゃ眠くなるな。これ、目覚めた日から全く回復してないかも。


ライラは風邪にしてはおかしいなと思ったが、元来能天気な性格だ。

寝れば治るだろうと、再び眠りに落ちた。



ライラの期待に反し、翌日になってもライラの熱が引くことはなかった。

嫌がるフェルから解熱剤を強奪し、飲んだことでライラは、見た目的には元気になった。


「ーーーライラ、もう三日分くらい寝てたら?」


「いや、何となくだけどこの体調不良、寝てて治る(たぐい)のものじゃないと思う。幸い、パーシヴァル様は薬を融通してくださるってことだし。何よりーーー課題が、課題をそろそろこなさないと本気でまずい。」


フェルは渋っていたが、残念ながらライラの頭の中は大量の課題でいっぱいだった。

青竜を探している間はすっかり忘れていたのだが。


普通の生徒が一月かけてやる課題を、十日でやらなければいけないのだ。

幸い普段から図書館で勉強ばかりしていたため、わからないところはそれほどないのだがーーー何しろ量がすごい。

しかも、やり始めてから未習分の内容がかなり入っていることに気づき、ライラは一人で焦っていた。


「ーーーあああ、終わる気がしない!!」


グアーっと言って叫んだライラ。

ベシャリと机に突っ伏した。

その拍子にペンが転がり落ちたが、フェルがしっかり回収して手の中に戻している。


「誰かに手伝ってもらったら?」


「いや、だってこの屋敷に残ってるのパーシヴァル様とお世話役のレイモンドさんだけーーーって、あれ?気配増えてる?」


「ああ、さっきジョシュアが来たみたいだね。氷竜の子供を見に来たんじゃない?」


フェルのまさかの発言に、ライラが石のように固まった。


ジョシュアの気配にライラは全く気がついていなかったのだ。

ライラは他人の魔力には敏感なのだが、何分、この拠点には複雑に魔法がかけられていて、他の場所の魔力が探りにくくなっていた。


しかし、一度気がついてしまうと気になってしょうがなくなる。

ソワソワとして、先ほどよりもだいぶ課題を進めるペースが遅くなったライラを見て、フェルがあっと叫んだ。


「ーーー前に、ジョシュアに『なんか対価くれ』って言ったけど、これでいいじゃん!ボクが呼んできてあげるよ!」


「!!???ちょ、フェル?待ってーーー」


ライラが慌てて呼び止めたものの、フェルはすでに部屋から立ち消えた後だった。


ーーーえ?ちょっと待って?本当にジョシュア様呼んできたらどうしよう?


ライラは混乱していた。

世界で一番推している人に、勉強を教わる機会があったら普通だったら喜ぶだろう。

しかし、ライラには不安があった。


ーーージョシュア様と同じ部屋にいるなんて私の心臓は大丈夫か?というか、ファンとかに殺されないか?


赤くなったり、青くなったりと一人で百面相している間にーーーライラの部屋に気配が二つ近づいてきた。


ライラは慌てて、部屋を飛び出す。

そして、見慣れた金色の蛇が飛んでくるのを見て叫んだ。


「ーーーフェル!まさか、わたしの部屋なんかにジョシュア様をーーーー」


ライラはそれ以上話せなくなった。

フェルの後ろで扉が開きーージョシュアが出てきたからだ。


フェルがライラの頭上についてからも、ライラは固まったままだった。


ジョシュアが前に立つと、足をもつれさせながらも(ひざまず)いていたが。


ーーー足なっが!私服でいつもよりもラフな服装。素敵すぎてもうどうにかなりそう!!


いつも通り、興奮のあまり乱れまくっているライラの魔素の流れを見てフェルが呆れている。


「ーーーライラ、ジョシュアが勉強みてくれるってよ?」


「フェ、フェル、本当に頼んだの!?」


跪いたまま小声でやりとりする2人をジョシュアが不思議そうに眺めている。


そんな様子のジョシュアを見て、ライラは我に返った。

王族を放って話し込むなど失礼極まりない。


「これは失礼しました。ライラック・ガブモンドと申します、この度は再度ご尊顔を拝見できーーー」


ジョシュアへのあいさつを述べ始めたライラをジョシュアが止めた。


「挨拶はいい。ここは私的な場所だ。それほどかしこまる必要もない。ライラック、お前は今回よくやってくれた。ーーー報酬は勉強を教えればいいとフェルが言っていたが、本当にそんなことでいいのか?」


固まるライラのかわりに、ジョシュアに返答したのはフェルだった。


「いーよいーよ。ライラに聞いても畏れおおい以外言わないだろうから。ーーーそれで、場所がどこにする?ライラの私室はダメってさっき言ってたけど。」


「それなら私が借りている部屋にしよう。使用人もいるから世話もしてくれるし、大きな机もある。」


ライラが固まっている間に、話がまとまった。

ライラは夢でも見ているのかと思い、頬を摘んで、フェルにおかしくなったかと心配されていた。



ライラが使っているのとは比べ物にならないような大きさの部屋に通され、ソファに座ったライラはようやく我に返った。


「ーーーフェル、愛してる。」


「ふふふ、もっと褒めてくれてもいいよ?」


ライラは自分を落ち着かせるために深呼吸した後ーーー改めて正面に座るジョシュアに向き直った。

彼は準備ができるまでにーーーと使用人たちが用意した紅茶を飲んでいた。


ーーー足組んで、ティーカップを持っているだけで絵になるなあ。


ライラが目をキラキラとさせながらジョシュアを見ていたため、使用人たちが微笑ましそうにライラを見ていたのだが、ライラはジョシュアを見るのに夢中で気がついていなかった。


視線を受けているジョシュアは、ライラの視線を特に気にした様子もなく、手に持った書類のようなものを眺めている。


フェルはそんな状況の中、ライラがジョシュアを見つめ続けられるようになっただけ成長したなと思っていた。

何しろ、この前までは会っただけで号泣していたのだから、同じ部屋で落ち着いて向かい合っているだけ大進歩である。


出された紅茶や茶菓子に手をつける気配はなかったが。

飲食物が今、喉を通る気がしないというのがライラの意見だ。


使用人たちが机やワゴンを動かす音が響いていたがーーージョシュアがそこで口を開いた。


「ーーーパーシヴァルのことだから詳しい説明をしていないと思うが…ライラックは正式に黒竜の儀のメンバーとして認定された。フェルの契約者として、護衛役でついて行ってもらう。先読みの占い師とパーシヴァルーーーつまり、契約の魔術師、二人の推薦があったのが大きい。関係者としてこれからは扱われるからそのつもりでいろ。」


ライラはジョシュアの発言に突際に反応できなかった。

というのも、ジョシュアから契約の魔術師の話はされていたがーーーまさか、自分までも黒竜の儀に行くことになるとは思っていなかったのだ。


ーーーそういえば、ミシェーラからは言われてたっけ?巻き込まれることになるって。それにしても、こんなにはっきり王族の方から言われることになるなんて。そんなのーーー


「最高ですね!」


「は?」


ーーーしまった!喜びのあまり、心の声が口から飛び出してしまった!


にやけそうになった顔を慌てて引き締めるライラ。

普段ならうへへへへと笑い出していそうなところだが、流石にジョシュアの前では思いとどまったようだ。


「な、なんでもございません。ーーーお役に立てることがあれば、どこへでもお供いたします。」


間違いなく黒竜の救済に一歩また近づいた。ライラは知らず知らずのうちに胸のサークルペンダントを握りしめていた。

この仕草は心が震えるほどに嬉しいことや悲しいことがあったときのライラの癖だ。


ライラとサークルペンダントを無言で見つめていたジョシュア。

二人の間に不自然な沈黙が落ちる。


「ーーーー?まあ、いい。私としても、ライラックが関係者だという二人の意見は間違っていないと思う。」


ライラはジョシュアの発言に首を傾げたが、それ以上ジョシュアが言葉を発することはなかった。

ライラはジョシュアの特殊能力的なもので、黒竜の関係者がわかるのだろうと、適当に納得した。


ーーージョシュア様なんでもアリ、って感じがするし、黒竜の儀?にも詳しいんだろうな。


とにかく、黒竜救済に関われる上に王族といられる時間までもが増えそうな話に、ライラが内心踊り出さんばかりに喜んでいるとーーージョシュアがさらに追い討ちをかけるように言った。


「ーーーというわけだから、ライラックとミシェーラは来年で中等部を卒業する必要がある。飛び級できるように勉学に励め。」


「ーーーえ?ジョシュア様…すみません、もう少し詳しく説明していただけますか?」


「ーーー先読みから聞いていないのか?黒竜の儀はパーシヴァルの中等部卒業に合わせて決行されることが決まった。本来は今年だがーーーさすがに、準備が間に合わないので、再来年以降に出発になる。お前たちを待つ時間はないので、頑張ってもらうしかないんだ。」


ーーーミシェーラ!?そんな話、全く聞いていません!


ジョシュアの言葉に内心でライラは叫んでいた。

いつ決まったのか知らないが、毎日やりとりする中でミシェーラは一言もそんな話はしていなかった。


ライラが黙り込んだところでーーー使用人から声がかかった。

準備ができたらしい。


ライラがソファから立ち上がったところでーーー素早い身のこなしですでに歩き始めていたジョシュアが突然振り返った。

そして、ライラに近づくとーーー左手を差し出した。


ライラが、突然の出来事に固まっていると、ジョシュアが不思議そうにいった。


「ーーーほら、支えてやるから自力で歩け。浮遊魔法に頼ってばかりでは体力が落ちるぞ。」


ジョシュアの言葉に、ライラとフェルがビクッとした。

フェルは魔法発動のために金色に発光していたがーーーその光を弱めていた。

ライラの移動を手伝う気満々だったようだ。


ーーーまさかの、私の体調不良気づかれてる感じ?…パーシヴァル様も気付いてたっていうし、そういうのに王室の方は敏感なのかな?


もちろん全ての王族関係者が他人の顔色に敏感なわけではない。

だが、ライラは他の王族を知らないためにそう解釈した。


ライラはこのとき、初めて熱が出て心から良かったと思った。

ジョシュアにエスコートしてもらえるなら、片足くらいもげてもいいとライラは本気で思っている。


ライラは気合を入れて歩いた。

それでも若干ふらついたため、ジョシュアが背中にそっと手を添えていた。


ジョシュアの、他人をエスコートし慣れた様子に、ライラは感動を覚える。


ーーーそうだよね!ジョシュア様は他国に賓客として招かれることも多いっていうし、当然フィメルのエスコートをする機会も多いんだろうな。


その後、カチンコチンになりながらライラはジョシュアと向かい合って課題に取り組んだ。

終始夢心地だったライラは、自室に帰って、半分ほど埋められていた課題に首を傾げることになる。


「ーーー緊張しすぎて全然進まなかった気がしたんだけど、かなり進んだ?ーーーというか、この教科私やってたっけ?」


「ああ、ライラがふわふわしてる間に、ライラの文字をジョシュアが見ながら、課題進めてたよ。ちゃんとライラが理解してそうな復習分しかやってないって。」


ーーーフェル、ライラックはどの教科が得意なんだ?

ーーー座学はかなり成績良かったって聞いたから、どれでも大丈夫なんじゃない?

ーーーそうか。じゃあ。この辺は手伝っても問題ないな。


ライラが浮つく思考を必死に押さえながら、問題集と睨めっこしている間に二人はこんな会話をしていたのだ。

ライラが遠慮してほとんど質問しなかったため、ジョシュアはこれで対価になっているのか不安に思ったらしい。


「えええええ!?じゃあ、この辺ジョシュア様が書いたの?嘘でしょ!」


ライラは王族に宿題をやらせた初のニュートになった。

その後、課題を保存するべきか提出してしまうか本気で悩み、周囲を呆れさせることになる。


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