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誰も残らない --ノーワン・バット --  作者: なつ
第一章 西崎順也の場合
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  4

 ダイニングは、南側にある大きな窓のおかげで充分に明るい。テーブルには、先ほどの通りプレートが置かれている。西崎の名前は誕生日席にあったので、彼はまっすぐそこに座った。

 テーブルには前菜系のサラダが置かれている。主食となる肉はテーブルの中央に、丸々と置かれている。あれをどう処理しろというのだろうか。それに、いつからここに置かれてあったのかしらないが、温かみのある雰囲気はない。

「あの、わたし、温めてきましょうか?」

 広田が手を上げていった。

「キッチンもあるのでしょ? ライスも冷たそうだし、すこし熱を通せばすぐに準備ができると思うから」

「あたいも手伝うよ」

 はぐれが応じた。少し予定外だ。南側の席に順に座っているアデルバード翼と、紺野健二。翼はすでに前菜に手を出している。まったく、どうしようもない男だ。待つという礼儀をしらない。

「西崎さん、先ほどの話なのですが」

 紺野はまだ手を出しておらず、俯き加減で彼に話しかけてきた。

「どうでもいいね。それよりも、ちょっとはっきりさせておきたいことがあるんだが」

「何でしょう?」

「二階の件もあるし、俺ははぐれを狙いたいんだが、異存はないかな?」

「ふ、ふざけるな、はぐれちゃんは、僕のなんだな!」

「ああ? なんだ、くそやろうが、てめえ何様だ」

「名前で分かるだろ、はぐれちゃんと僕の相性は抜群、なんだな」

「めでたい奴だ。俺相手に勝てる気があるならな。けど、俺の心配は紺野さんの方なんだよ」

「わたしはそんなつもりはないが」

「俺の見たところ、広田さんは、紺野さんに気があると思うね」

「まだ会ったところだ」

「一目惚れかもよ。紺野さんを見つめる瞳がマジに思えた」

「どうでもいいよ。だけど、あちらが拒んだら、やめるんだぞ」

「紳士的なことで。じゃあ、俺と翼のサシで勝負だな。負ける要素は何一つないが」

「ほ、ほえて、やがれ」

「はいはい」

 彼は肩を一度軽くあげた。


 無論彼がここに来たのは、すべてがそれのためではない。仕事で大きな失敗をしてしまい、悩んでいたところにこの招待状が来たところに主な理由がある。まるでタイミングを計っていたかのようで、彼は疑っていた。そのため、彼は招待の日時以前に、一度この島を訪れていた。それから、この島のこと、屋敷のことを調べた。簡単に述べると、どこかの大富豪が島を買い取り、この屋敷を建てたとのことだ。その大富豪は、確かに招待状のところに署名がある庵野氏である。

 庵野氏について調べようとしたが、そこから先はまるで分からなかった。他に庵野という名前が使われている様子は全くない。彼は仕事柄、大富豪との接触はそれなりにある。にもかかわらず、その方向で調べても全くヒットしない。そもそも存在しないのではないか、と考えたところで、招待の日付に近づいた。そこに招待された人間を調べれば、もしかしたら、この大富豪についてもう少し詳しく分かるかもしれない。そうすれば、同僚とは比べ物にならないほどの成功を収めることができるかもしれない。そう思ったから、彼はこの招待を受けることにしたのだ。

 紺野氏の動揺は芝居かもしれない。紺野氏は庵野氏と知り合いなのかもしれない。存在するはずがないと彼が言うと、ひどくあわてた様子だった。もしかしたら本人かもしれない。メンバーを見比べると、確かに一番それらしい。興味のなさそうな振りをしているが、それこそが余興なのかもしれない。

 だが目的がさっぱり分からない。


 考えていると、広田とはぐれが戻ってきた。湯気のたった料理を皿に載せ、順番にテーブルに並べていく。

「ありがとう」

「いいえ、気になさらないでください」

 広田は、顔を傾けて紺野に笑いかけた。

「はぐれちゃん、ありがとう、なんだな」

「温めるくらいなら、あたいでもできるわ」

「それは、頼もしいん、だな」

「そうだな、後で俺も温めてもらいたいもんだ」

 彼の言葉に、はぐれは鋭い睨みを返した。失敗だったか。



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